毎回、1人のアーティストの“音楽遍歴”を紐解くことで、音楽を探求することの面白さや、アーティストの新たな魅力を浮き彫りにする本企画。第2回目は今年でデビュー30周年を迎える真心ブラザーズのYO-KINGに話を聞いた。
なけなしの小遣いで買ったドーナツ盤
実家の工場で父がラジオを流しながら仕事をしてたり、2人の姉が家でよくレコードをかけてたりしたので、自然と流行歌は耳に入ってきました。なけなしの小遣いで初めて買ったのがピンク・レディーの「UFO」のドーナツ盤。音楽的に好みだったとかじゃなくて、とにかく「レコードを買ってみたい」というのが先にあった気がします。
アコースティックギターを手にする
小学生の頃、年上の従兄弟が「いらないからやるよ」ってアコギを俺にくれたんですよ。音楽を自覚的に好きになる前にまず楽器を手にした感じ。初心者向けの教則本を買ってきて、弦の巻き方とチューニングと簡単なコードを覚えてジャカジャカ……って、カラオケみたいな感覚でそれに合わせて歌ってました。アリスとか、南こうせつさんとか、松山千春さんの曲をコピーしました。
吉田拓郎との衝撃的出会い
吉田拓郎さんが、1979年に愛知県の篠島で「アイランド・コンサート In 篠島」っていうオールナイトライブを開催して、そのときの映像が週末の特番として当時テレビで流れたんです(2003年に「'79篠島アイランドコンサート」の題でDVD発売された)。それを見てすごい衝撃を受けたんです。なんてカッコいいんだろう、と。観客がトランス状態になって泣いちゃって。ライブの熱狂ってこういうことなんだって初めて知りましたね。
初めて買ったLPはThe Beatlesの「Let It Be」
なぜ「Let It Be」かっていうと、角川映画の「悪霊島」(監督:篠田正浩、1981年公開)で挿入歌に「Let It Be」が使われてて、当時テレビCMでもバンバンかかってたんです。最初にアルバムを聴いたときは、「なんか地味じゃない?」って(笑)。今から思えば、まあそういう時期のアルバムだからってことなんだけど、当時はわかりませんからね。でも、「Across The Universe」とか「The Long And Winding Road」とか名曲もちゃんと入っていて、素直にメロディが素晴らしいなって思いました。そこから徐々に遡って聴いていって、ビートルズが好きになっていきました。
フォークを掘る
拓郎さんをきっかけにフォークに興味を持って、そこから遡って聴いていきましたね。篠島ライブでは鈴木茂さんがエレキを弾いていたり、ホーンセクションが入っていたり、バンドと一緒にやっていたから(瀬尾一三をバンマスとする大編成バンドがバックを務めていた)、はじめはそういうのがフォークだと思い込んでたんだけど、そのうちにギター弾き語りのスタイルが一般的なんだなってのもだんだんわかってきて。
ボブ・ディランもそういう流れで聴いたんだと思います。でも、王道のアルバムから聴いたわけじゃなくて、「武道館」(1978年のボブ・ディラン初来日ツアー日本武道館公演を収めたライブアルバム。自身の名曲群を大胆にリアレンジして演奏した)が初めてのディラン体験。その後ベスト盤を聴いてみたら「俺の知ってるディランと全然違う!」って(笑)。でも「武道館」をひさびさに聴いてみるとすごくいいんですよね。後追いの場合はもちろんリリースの時系列通りに聴くわけじゃないから、リスナーの数だけアーティストのヒストリーがあるし、同じアーティストでも聴く順番によっていろんな印象がある。それってすごく面白いですよね。
初めて聴いたときは、ピンとこず……
クラスの音楽好きの中で、RCサクセションとYellow Magic Orchestraがとにかく流行って。実は初めてRCを聴いたときはあまりピンとこなかった。地味なフォーク少年にあのメイクバリバリの世界はよくわからなかったんだと思います。RCを本格的に好きになったのは大学に入って自分でもバンドを始めてから。歌詞も演奏も本当にスゴいと思いました。YMO自体には本格的にはハマらなかったんだけど、はっぴいえんど含めた細野晴臣さんのそれ以前の作品や大滝詠一さんの作品は大好きで、ここ20年くらいよく聴いています。
パンクを聴くもやはり最初は……
パンクも最初はピンとこず(笑)。友達に「パンクって知ってるか? Sex Pistolsってバンドがいるんだぜ」って教えてもらって。多感な時期だし「すげーバンド名だな!」って。俺は当時反抗期もなくて親とも先生とも仲良かったし、普通のことのようにめっちゃ人気者でしたからね(笑)。そこまでパンク的に反抗する何かがなかったからピンとこなかったのかな。
もちろん今ではパンク大好きですよ。ちゃんと聴き始めたのは大学に入ってから。GEC(Guitar Enjoy Club)ってサークルに入ったんだけど、そこの人たちがパンク大好きで、ジョニー・サンダースの「Chinese Rocks」がみんなのテーマ曲みたいになっていたんです。だから俺も自然とニューヨークパンクにハマっていった。特にリチャード・ヘルが大好きで。ディランのカバーとかやっていて、めちゃ尖っているんだけど知性的な感じがして。新宿LOFTの来日公演にも行ったなー、ガラガラだったけど。今では信じられないですよね。
同時代のシーンに刺激を受けながら
その頃は、自分より上の世代だとTHE ROOSTERSやTH eROCKERS、THE STREET SLIDERSとか日本のバンドも聴いてました。「イカ天」(1989年~1990年にTBS系列で放送された「平成名物TV いかすバンド天国」)のバンドブームもその頃。電気グルーヴやフリッパーズ・ギター、スチャダラパーもみんな同世代だし刺激を受けました。当時はとにかくみんなヒネくれてたなーって思う(笑)。それまで主流だったいわゆるシティポップ的な音楽へNOを突き付けるっていう意識はみんなあったと思いますね。「都会のアスファルトだの、バックミラーがどうしたって?」って(笑)。 今になればそういう音楽の魅力はもちろんわかるんだけど。
スティーブン・スティルスのギターに戦慄
その後もいろいろ音楽を聴いてきたけど、やっぱりルーツはフォーク、それとロックンロールだなって思いますね。The Rolling Stonesの「Love You Live」(1977年発売)に入っているEl Mocam bo Clubでの演奏とか、「これぞロックンロールの真髄だ」って感じで、めちゃくちゃ聴きましたね。
ここ数年だと、Crosby, Stills, & Nashの来日公演でのスティーブン・スティルスの演奏に衝撃を受けました。なんだろう、あのギタープレイの危険でスリリングな感じ。スティルスって日本だとニール・ヤングに比べると人気は落ちる感じだけど、実際に演奏を見てみると、「あー、これはニールがライバル視するのもわかるな」って。商業化する前のロックの剥き出しの緊張感が漂っているというか。マンガの「ONE PIECE」で描かれている鍛錬を積んだ人物だけが体得する“覇気”みたいに、演奏から漂う力と圧がとにかくスゴい。あれにはミュージシャンとしてすごく刺激を受けましたね。
YO-KING
東京出身。1989年大学在学中、音楽サークルの後輩である桜井秀俊と真心ブラザーズを結成。バラエティ番組内の歌合戦にて10週連続を勝ち抜き、同年9月にメジャーデビュー。「どか~ん」「サマーヌード」「拝啓、ジョン・レノン」など数々のヒット曲を世に送り出す。2014年に自身のレーベルDo Thing Recordingsを設立。今年デビュー30周年を迎え、記念ライブツアーやイベントの開催、初のセルフカバーアルバムのリリースなど勢力的な活動を展開している。
取材・文 / 柴崎祐二