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店長たちに聞くライブハウスの魅力 第15回 沖縄・桜坂セントラル

沖縄・桜坂セントラル
5年以上前2019年08月20日 9:02

全国のライブハウスの店長の話を通して、それぞれの店の特徴や“ライブハウスへ行くこと”の魅力を伝える本連載。第15回は沖縄・桜坂セントラルで勤める鈴木博之氏に登場してもらった。店長ではなく、正確には“ほぼ店長”だという彼に、日本の最南端・沖縄にあるライブハウスならではの魅力や設立の経緯、思い入れのあるアーティストについて聞いた。

インフラ整備

「この企画、店長が語るという趣旨の連載ですよね。実は……うちの店は約10年間店長不在なんです。前任の店長が辞めてからは、社員は僕1人しかいないので“ほぼ店長”なんですけどね(笑)。僕は仙台でイベンターをやって、東京でアーティストマネージャーをやったのちに、ここで働くようになりました。そもそも僕がなぜライブハウスに携わろうかと思ったかというと、沖縄の若い子たちにとって“観たいアーティストが観れる環境”が当たり前になってほしいと思ったからです。うちができるまでは、沖縄に来るのはものすごく売れているアーティストばかりだったんですよ。本島から沖縄に来るには、それなりに移動費や宿泊代がかかるから。最初は事務所や制作の人にそれを理由に断られることもあったけど、『逆に考えたら、沖縄の学生たちはチケットを買って、飛行機に乗って、ホテルに泊まらないとあんたらのライブ観れないんだよ。その子たちのためにも来てくれない?』と説得して来てもらってたな。ライブハウスの運営は、インフラ整備みたいなものだと思いますね」

大谷秀政氏と出会って

「桜坂セントラルは2007年4月にオープンしました。 この店のベースを作り上げたのは株式会社エル・ディー・アンド・ケイの大谷秀政というビッグボスです。ちょうど大谷社長がセントラルを立ち上げるタイミングで知り合えて、自分もそのまま携わる流れになりました。社長と出会う時期がずれていたら、自分はここにはいなかったかもしれないですね。ただオープン当初、自分はかりゆし58のライブ制作のほうがメインの仕事で。当時は僕とは別に店長がいたので、セントラルの業務としてはお金周りを手伝っているくらいでした。その店長が2010年頃に体調を崩して辞めてしまって、それで自分が全部をやることになったんです」

社交街のキャバレー

「桜坂という街は、もともと社交街だったんです。この建物は街で一番大きいキャバレーでした。今でこそすぐ近くにハイアットリージェンシーができたりして栄えてきたけど、この辺りはスロット屋やゲイバーが多かったんですよ。オープンしたばかりの頃は近隣の方々から音の問題でクレームを受けることもありました。でも組合の会長が『この街に人を集めることをしてくれてるんだから、ガタガタ文句言うな!』と一蹴してその場を収めてくれて。本当にありがたかったですね。ちなみにフロアの上にあるシャンデリアはキャバレーの名残ではなく、エル・ディー・アンド・ケイが運営するライブハウスのトレードマークみたいなものです。だから東京のCHELSEA HOTEL、渋谷Star Lounge、大阪のShangri-Laとは、シャンデリアとベルベットの赤いカーテンの感じが共通してますね」

約10年続く怒髪天のトーク&ライブ

「こけら落としはかりゆし58とガガガSPのツーマンでした。でも、いざやってみたら吸音とかが全然だめで。そこから音響はけっこう作り直しましたね。社長はそのライブを観て、『実際音出さないとわかんないからね。直せばいいんじゃん』と笑って帰っていきました。全部任せてもらえるのは、すごくありがたいですね。あとうちは怒髪天にすごくお世話になっています。ここ10年くらい毎年、ツアーのファイナルをうちでやってくれていて、翌日にツアーを振り返るトーク&ライブもやるんです。特にこのトークが爆発的に面白いんですよ。トーク&ライブのチケットがファイナル公演より先に即完するくらいです」

ワンオクとサカナクションはファン

「ONE OK ROCKは大好きなバンドですね。最初にうちでやったのは2008年9月で、地元のバンドとの対バンライブでした。うちは約350人キャパなんですが、チケットは売り切れませんでしたね。メンバーが覚えてるかわからないけど、そのライブを観たあとに楽屋に謝りにいったことをよく覚えてます。当日までライブを観たことがなかったし、少しマイナスな印象もあって『どうせこんなもんだろ』と思っていた部分があって。だからライブ後に、『ごめん。ライブ観るまではこう思ってたけど、お前らまじでカッコいいよ。ファンになった』と伝えました。この業界にいると、なかなかアーティストのファンになることが少ないのですが、ワンオクはファンですね。同じくサカナクションもファンです。札幌に変なバンドがいるって、前の店長が呼んで出演してくれて。そのときはスタッフもほとんどいないし、やろうとしていることが表現しきれていない印象を受けました。でも山口一郎(Vo, G)くんの中ではもっとすげえ音が鳴ってるんじゃないかなとも思って。その後、常に新しいことをやっているのを見て、ずっと追いかけたくなりましたね。あと、自分が生きているうちに細野晴臣さんに出会えると思わなかったので、サインをいただけたときはさすがにテンションが上がりました。最近誰と会っても緊張しないんですけど、細野さんとお会いしたときはめちゃめちゃ緊張しましたね」

“当たり前”がうれしい反面

「思い返せばいろいろなアーティストが来てるな。MAN WITH A MISSIONも10-FEETもSiMもcoldrainも。アーティストの方々にもセントラルが定着したということですかね。同時に沖縄の子たちにとって、観たいアーティストを観れることが当たり前になったのかもしれない。そうしたかったからうれしいんだけど、ライブハウス側からすると、当たり前に慣れたお客さんがライブを選んで行くようになるという悩みも出てくる(笑)。あと県外から来た方に『セントラルに来てみたかった』と言ってもらえるのはうれしいですね。そういう意味でのブランディング価値はものすごく高まったと思います。昔の那覇市には、ローカルの音楽文化はあっただろうけどロックバンドとかはあんまりいなかっただろうし、もともと沖縄のロックシーンの中心にあったのはコザ市や、宜野湾市にある宜野湾HUMAN STAGEだったので」

Outputができてから

「ブッキングのやり方は昔とずいぶん変わりました。8年前にうちのPAの浜里(圭)が辞めて、那覇市にOutputという、150人規模の箱を作ったんですよ。Outputの店長が元下北沢SHELTER店長の上江洲(修)くんで、実は浜里も元株式会社ロフトプロジェクト(下北沢SHELTERを含む5店舗のライブハウスを運営する会社)の人間なんです。この2人がものすごくがんばっていて、沖縄に初めてツアーで来るアーティストはみんなOutputでやるようになった。そしてセントラルは、Outputをソールドアウトさせたあとにやる、言わばステップアップの箱になったんです。だから今のブッキングは受け仕事、待ち仕事が多いかな。面白いなと思うアーティストに声をかけてみても『いやーセントラルはまだまだですよ』って言われちゃって。だから最近は、しばらく沖縄に来ていないアーティストに『最近来てなくね?』と声をかけている感じですね。その甲斐あって直近だとSUPER BEAVERが来てくれることになりました。ブッキングや企画の面で言うと、アルバイトの子たちが地元イベントを一生懸命企画してくれています。学生シーンは3、4年前くらい前が一番盛り上がってたかもしれないですね。奢る舞けん茜やヤングオオハラの前身バンドが高校生くらいのとき。地元の子たちだけで200~300人お客さんを集めてましたから」

特別な空気感

「僕が思うにライブのすごさって、仮に同じバンド、同じツアー、同じセットリストだったとしても、同じものは二度と観れないところ。特にうちでのライブは、沖縄という温かな土地のせいか、いい意味で普段と違う雰囲気になっているんじゃないかと思います。あとツアーファイナルで来てくれるアーティストも多くて、ファイナルのときってアーティストのテンション感も違うし、いろいろな奇跡が起きることが多いんです。そういう光景が観れることが多いセントラルは、“贅沢な箱”だと思いますね。ちょっと特別な空気感を味わいに、ぜひ足を運んでもらえたらうれしいです」

店舗情報

住所:〒900-0013 沖縄県那覇市牧志3丁目9-26
アクセス:沖縄都市モノレール線牧志駅から徒歩5分
営業時間:公演により異なる
定休日:なし
ロッカー:あり
駐車場:なし
再入場:公演により異なる
キャパシティ:350人
ドリンク代:500円
フリーWi-Fi:なし
貸切:あり

※情報は8月20日時点のもの。

取材・文 / 酒匂里奈(音楽ナタリー編集部) 撮影 / 宮市“PORCO”雅彦

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