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ネット発の新ムーブメント・Vtuberの音楽シーンを探る 第1回 Vtuber音楽の発端、2018年に何が起こったのか?

2年以上前2022年02月10日 11:04

2016年にキズナアイが「バーチャルYouTuber」として活動をし始めてから6年。わずか数年の間にVtuberの数は爆発的に増え、バーチャルの世界に身を置くVtuberたちはテレビ番組やCMへの出演などインターネット上に留まらない多方面な活動を繰り広げている。そんな中、新たなムーブメントとして“Vtuberによる音楽シーン”がインターネット上を中心に頭角を現していく。もとはニッチな分野だったVtuberによる音楽シーンはライバーの数が増えるにつれてその規模を拡大。現在ではリアルなアーティストとの共演、バーチャルならではの見せ方で観客を魅了するライブイベントなどが勃興し、音楽シーンのメインストリームに迫る存在感を放つようになった。

Vtuberの音楽シーンはどのように生まれ、何をきっかけに注目されるようになったのか。音楽ナタリーでは新たな音楽シーンの形成と発展を時系列ごとに追うコラムを前編と後編に分けて展開する。前編となる本稿ではシーンが生まれるタイミングであり、Vtuberの音楽が同時多発的に投稿された2018年にインターネット上で何が起こったのかを紐解いていく。

文 / 森山ド・ロ

2018年に突如発生した新たな音楽シーン

「バーチャルYouTuber」という言葉を初めて定義したキズナアイの登場から約6年が経過した。企業による運営がメインだった黎明期と比べて昨今では参入ハードルが格段と下がり、2021年にはVtuberの数は1万6000を超え、さまざまな分野の作品が入り乱れる動画カテゴリの中でもVtuberは一大勢力になるほどの進化を遂げた。これらの変化はVtuberたちが発表する「音楽」にも影響を与え、同様に進化を遂げてきた。選ばれし人気Vtuberだけの特権のようなものだったVtuberの音楽も、今では参入ハードルの低下と比例して誰しもが音源を発表できる時代へと移り変わった。“企業勢”がメインであったカルチャーに、音楽を主体とした“個人勢”も入り乱れるVtuberの音楽シーンを、黎明期から振り返ってみよう。

まずVtuberというカルチャーを振り返ると、必ずキズナアイの功績が道しるべとして存在する。よって、Vtuberの音楽シーンを語るうえで、キズナアイがKizuna AI名義でアーティストデビューを飾った楽曲「Hello, Morning」から話を始めるのがスマートなのだが、ここはあえて自分が最初に触れた音楽について語ろうと思う。

私が初めてVtuberの音楽に触れたのはミソシタがきっかけだった。冒頭でVtuberの音楽活動は企業勢が主体だったと言及したが、ミソシタは個人勢として2018年3月にVtuberとして活動を始め、いち早くメジャーデビューを決めた。ポエムコアという固有のジャンルを打ち立てた彼は、2018年初頭に個人勢として音楽の道を切り開いている。

しかし、ここから個人勢が多方面で音楽を生業にする時代はもう少しあとのこと。ほかにも、トップVtuberたちのオリジナル曲リリースラッシュがあった2018年には、響木アオがすでに観客を入れてのリアルライブを行っており、音楽シーンの先駆けは必ずしもトップVtuberだけではなかった。

企業勢や個人勢による楽曲発表やライブ開催が活性化したことからも、今につながるVtuberの音楽シーンが形成されたのはおそらく2018年だろう。この時点でVtuberの数は5000を超え、チャンネルの総登録者数は1500万人以上。雑談配信やゲーム実況など、数多くの動画が生み出される中でVtuberの音楽シーンが活発になる。スタートを切ったとかそんな生ぬるいものではなく、同時多発的に数々のVtuberが自身の楽曲を発表し、突如としてVtuberの音楽シーンが形成された。大きなニュースという意味では2018年4月に開催された「ニコニコ超会議2018」での小林幸子とキズナアイによる「千本桜」のコラボがインパクトとしては強く、キズナアイはその後同年7月にデビューシングル「Hello,Morning」を発表。10月発売の「future base」を皮切りに9週連続リリースをするなどアーティストとしての活動を一気に本格化させていく。

時を同じくして同年7月に天神子兎音「フーアーユーなんて言わないで」、8月に輝夜月「Beyond the Moon」、10月にYuNi「透明声彩」、11月にアズマリム「人類みなセンパイ!」がリリースされるなど、現在では“Vtuber界のクラシック”的な位置付けとなっている楽曲が怒涛のようにリリースされた。また10月に「はじまりの音」でデビューを果たした富士葵が早々にユニバーサルミュージックジャパンよりメジャーデビューを発表。さらに4人組VRアイドルグループ・えのぐが毎月1曲ずつオリジナル曲を発表するなど、単発の音源発表に留まらないシーンの活性化も加速度的に進んでいく。

この時期は、まだオリジナル楽曲よりもコラボカバー曲が盛り上がっていた。例えば、ときのそらと富士葵がそれぞれのチャンネルでカバー曲を披露した際は、かなりの盛り上がりを見せていた。ここまで注目されていた要因として、事務所を越えたデュエットコラボのハードルがこの時期はまだ非常に高かったことが挙げられる。今となってはほかの事務所やグループとのコラボは当たり前のように行われているが、当時は、権利問題をクリアする難しさや音周りのクリエイターが少なかったという現実的なハードルに加え、各Vtuberに定められていたイメージが今よりも各運営ごとにかっちり決められており、コラボに対してかなり慎重になっていたという印象がある。

バーチャルとリアルをクロスしたVtuberのライブイベント

またVtuberの音楽シーンが確立された2018年の時点で、すでにライブイベントが行われていたというのもこのカルチャーのすさまじいところだろう。今やVtuberの伝説的なライブの1つとして語られる輝夜月のVRライブ「輝夜月 LIVE@Zepp VR」が開催されたのは2018年の8月のこと。

当時の傾向としては、リアルライブよりもVR映像を駆使したライブ配信をメインに行う流れがあり、リアルライブを果敢に行うVtuberはまだ少なかった。しかし、少なかったのはテクニカルなハードルの高さが要因にあるだけで「Vtuber=VRライブ」がイメージとして定着することはなく、リアルライブにこだわりを持つVtuberが存在していたことから、数が少ないながらもリアルライブは継続的に行われていく。また2018年12月に開催されたm-flo主催イベント「m-flo presents “OTAQUEST LIVE”」にKMNZが出演するなど、リアルなアーティストのイベントにVtuberが出演するといったクロスオーバーも2018年のうちに行われていた。

ひと言に「ライブ」と言ってもオリジナル曲を豊富に持つわけではないVtuberたちはオリジナル曲を2、3曲、あとはカバーを披露するという形で、バースデーイベントや何かしらの単独イベントに付随したコンテンツとしてライブが行われることが多かった。音楽をメインに、オリジナル曲でライブのセットリストが埋まるというライブスタイルは2022年現在でも少ない。それは、Vtuberが行うライブのハードルの高さ、つまりコストパフォーマンスの悪さがいまだに完全に解消されていないからだと推測できる。これはもちろん3Dライブに限ったことではあるが、ライブの集客をメインに収益を出していくというスタイルよりも、配信をメインに楽曲をリリースし、グッズ販売に力を入れるほうがコストパフォーマンスの面で採算が取りやすかったからだろう。

キズナアイの連続リリースに始まるシーンの勃興

2018年には、今のVtuberの音楽シーンを形成した大きな要因が3つある。その1つが、先に述べたキズナアイの9週連続リリース。Teddyloid、☆Taku Takahashi、DÉ DÉ MOUSE、Pa’s Lam Systemなどといった豪華プロデューサー陣が楽曲を彩るこの連続リリースは当時大きな話題となった。この発表は世間的にも大々的に取り上げられ、普段Vtuberを見ない人や存在すらも知らなかった層が音楽をきっかけに知ることになり、Vtuberとクラブミュージックの組み合わせが一般的に形成されるきっかけになったと感じている。2019年頃から始まるVtuberのクラブイベントの盛り上がりは、このキズナアイのリリースラッシュが1つの要因になった。

もう1つの大きな要因は、花譜の誕生だ。今現在、シーンを牽引するKAMITSUBAKI STUDIOの先駆者の登場は、賑わいを見せるVtuberのカルチャーに衝撃を与えた。100歳といった突拍子もない年齢をプロフィールにするなどファンタジー的な設定のVtuberが乱立する中で、花譜はつたない話し方からも見て取れるような設定的ではない14歳というリアリティをまとっており、当時Vtuberと呼んでもいいものか躊躇する雰囲気と存在感を醸し出していた。音楽をメインとしたVtuberはほかにも存在していたものの、それらとは明らかに一線を画していた印象があった。デビュー当時に投稿されていたショートムービーからその片鱗は表れており、楽曲以前にアーティストとしての見せ方が圧倒的だった。

花譜の登場は、ニコニコ動画やアニメカルチャーが流動的に音楽性に取り込まれることが多かったVtuberの音楽シーンに、ジャンルの垣根を越えてフィジカルで戦えるようなアーティストが生まれたという衝撃を与えることになる。さまざまなサウンドプロデューサーとの楽曲コラボを発表したキズナアイに対して、コンポーザー・カンザキイオリとの二人三脚という対比も面白かった。

もう1つの要因は2018年の年末にあった。「NHKバーチャルのど自慢」や年越しVR歌合戦イベント「Count0(カウントゼロ)」、VR音楽番組「バーチャルステーション」といったVtuberをフィーチャーした番組が数多く配信される中、初の“Vtuber特化型”のクラブイベント「VIRTUAFREAK」の第1回がこのタイミングで開催された。カルチャー全体のオーバーグラウンドへの意識が強い中、アンダーグラウンド的な「VIRTUAFREAK」というイベントは、2018年から2021年までVtuberカルチャーの音楽にもっとも寄り添うイベントであり続けたと個人的には感じている。「Vtuber界のウッドストックフェスティバル」と言うと大げさかもしれないが、Vtuberという一種のカウンターカルチャーの集大成的なイベントだっただろう。メジャーレーベルとの契約や地上波のテレビ番組への出演など、政治的なキャスティングやプロジェクトが数字を集めていく傾向のVtuberシーンの中で、地に足を着けた音楽イベントの代表格の誕生は個人的には大きなポイントの1つだと考えている。

ここに例を挙げた以外にも、とにかく2018年はお祭りかのようにさまざまなVtuber関連ニュースが毎週飛び込んできた。ホロライブを運営するカバー株式会社から音楽特化のVtuberであるAZKiが誕生し、にじさんじでは樋口楓が2019年にZepp Osaka Baysideで初の音楽ライブを開催することを発表。ジョー・力一は平沢進オンリーのカバー配信を行った。オーバーグラウンドを目指すムーブメントとニッチな音楽性を自身の活動スタイルから発信する動きがシーン内で行われるのはVtuberシーン特有のものとも言えるだろう。

<後編へ続く>

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