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デビュー25周年の椎名林檎、“諸行無常”描いた5年ぶりソロ名義ツアー

椎名林檎(撮影:太田好治)
10か月前2023年05月16日 8:02

椎名林檎が5月10日に東京・東京国際フォーラム ホールAで全国ツアー「椎名林檎と彼奴等と知る諸行無常」ファイナル公演を開催した。

今年デビュー25周年、生誕45年を迎える椎名。彼女はソロ名義では約5年ぶりとなるツアーを林正樹(Piano, Key)、鳥越啓介(B)、石若駿(Dr)、名越由貴夫(G)、佐藤芳明(Accordion)とともに回り、全国11カ所で22公演を行った。

暗闇に染まったステージに浮かび上がったのは、大きな十字架。白いスモークが漂い、舞台奥から光があふれている。その光景に目を奪われていると、低くすごみのある椎名の歌声がどこからともなく降り注ぎ、「あの世の門」の一節一節が紡がれていった。一瞬で日常から切り離された荘厳な世界で、観客は息を呑んでその言葉を浴びるように受け止める。楽曲の最後のフレーズが響き渡ると、林原めぐみへの提供曲「我れは梔子」の始まりを告げる美しいピアノの音色とともにゆっくりと幕が上がり、椎名とバンドメンバーの姿があらわになった。法衣のようなカーキ色のモッズコートと、薄いヴェールに覆われたドレッドヘアが印象的な椎名の姿は神秘的な輝きを放つ。会場は決然とした歌声とバンドメンバーが奏でる芳醇なアンサンブルに満たされた。

歪んだギターサウンドと弾むようなリズムに突き動かされるようにオーディエンスがひらひらと手旗を振ったのは「どん底まで」。椎名は熱っぽい剥き出しの歌声を響かせ、激しいドラミングで「カリソメ乙女」の演奏が始まると「いらっしゃいませ。有楽町、諸行無常へようこそ」と穏やかに挨拶した。ここで椎名はモッズコートを脱ぎ捨て、大きな網目のモヘアセーター姿に変貌。舞台には、躍動感のある演奏と感情的な歌声が波打つように広がった。「走れゎナンバー」では心地のいいグルーヴに観客が身を委ねて体を揺らす。スクリーンに映し出された「ゎ04-17」ナンバーのピンクの車はハイウェイを疾走。そのまま迷いなく樹海へと突き進むと、映像はその上を飛ぶ飛行機へと切り替わり、「JL005便で」へとつながった。砂原良徳によるリミックスバージョンを元にした浮遊感のあるアレンジでこの曲を紡いだあと、ウッドベースの音色に乗せて椎名が歌い始めたのは高畑充希への提供曲「青春の続き」。椎名はヴェールを握りしめながら切実な歌声を響かせ、最後にそっとそれを手放した。

「酒と下戸」では右手を突き上げる椎名の姿に呼応するように観客が力強く手旗を振る。大沢伸一によるダンサブルなアレンジを元にした「意識」でその高揚感がさらに高まったところ、中盤のラップパートからアウトロにかけてスクリーンに現れたのはDaokoの姿。Daokoは射抜くような鋭い眼差しをねっとりとこちらへ向け、楽曲に強いインパクトを添えた。「神様、仏様」では椎名の動きに合わせてオーディエンスが身振り手振りをする。ステージに座り込んだ椎名が、一筋のスポットライトを浴びながら歌い始めたのは「T O K Y O」。情感あふれるピアノサウンドと感情的な歌声が連動するように切迫感を帯びていった。そして椎名は白と黒の百徳着物を身にまとい、次々と落下する煙の軌跡を背景に「天国へようこそ」を歌唱。最後には客席に背を向けて歩き出し、激しいスモークの中へと消えてしまった。まるで天へと召されてしまったかのような壮絶なシーンを経て、場内に「鶏と蛇と豚」の般若心経が流れる。スクリーンに映し出されたのは卵子が受精して新たな生命が誕生するさま。バンドメンバーの5人は「鶏と蛇と豚」のミュージックビデオをバックにバンドアレンジで迫力のある演奏を繰り広げた。

ここでメンバーが一度ステージを去り、金髪ボブスタイルへとチェンジした椎名がたった1人でピアノにつく。彼女はそっと鍵盤を鳴らし、「同じ夜」を弾き語る。どこか温かみを感じさせる音色と心に染み渡るような歌声に、オーディエンスは心地よさそうにじっくりと浸った。そしてバンドメンバーがステージに再び登場し、軽やかに奏でたのは「人生は夢だらけ」。チャンピオンの入場シーンをイメージしたマントをまとった椎名は「これが人生 私の人生」と力強く宣言する。さらに椎名が「奪われるものか 私は自由」とグローブをはめた拳を高らかに突き上げると、共鳴するように客席から大きな歓声が沸き起こった。タンゴ調のしなやかなアレンジが施された「仏だけ徒歩」を経て、続いて披露されたのは5月24日リリースのデビュー25周年記念シングル曲「私は猫の目」。ダンサーBambiの映像をバックに、椎名はタンバリンをシャンシャンと鳴らしながら無邪気に歌を届けた。

体を揺らしながら「公然の秘密」を熱情的に歌い上げたあと、扉と窓がステージに設置され、舞台はとある部屋の様相となった。その扉の向こうからベビーブルーのパジャマ姿の椎名がこちらをのぞき込んだ。椎名は扉を開いて部屋へと入り、ロマンチックなピアノの音色に乗せて、枕を抱き抱えながら「女の子は誰でも」を可憐に歌唱。部屋を舞台に繰り広げられるミュージカルのような椎名の1つひとつの動きとチャーミングな表情から、オーディエンスは一瞬たりとも目が離せない。そして椎名はそのまま物語を続けるようにThe Banglesのカバーで「胸いっぱいの愛」を歌い上げ、最後に紙飛行機をひらりと客席へ飛ばした。

華やかな熊手を頭に被したスタイルにチェンジし、椎名がタンバリンを交えて歌い上げたのは「いろはにほへと」。続く林原めぐみへの提供曲「命の息吹き」では、みずみずしい歌声と心高鳴るような朗らかなアンサンブルが響き渡った。「いとをかし」で春夏秋冬をたおやかに表現したあとは「長く短い祭」へ。華やかな打ち上げ花火を背景に、椎名はひらひらと旗を振る。客席でもにぎやかに旗が揺れ、趣きある夏のお祭りのような空気が会場に広がった。ライブ終盤を迎え、椎名がオーディエンスに贈ったのは「緑酒」。開放感のあるサウンドと力強くも優しいメッセージが、現代社会で懸命に生きる人々の心をまっすぐ照らした。満開の美しい桜の景色に彩られながら、椎名はギターを携えてそのままラストナンバー「NIPPON」へ突入して生命力あふれる歌声を放つ。青空と日の丸を背景に、風に吹かれながらギターを豪快にかき鳴らす椎名の姿は、オーディエンスの心を強く震わせた。

アンコールを求める拍手に応えて、椎名はジャージのトップスと、同素材のタイトスカートを合わせたスタイルで再びステージに登場。ここまでほとんど言葉を挟まずにパフォーマンスを続けてきた椎名は「呑まなきゃやっていられない、もっと言うと呑んでもやっていられない日々を想像して、それに見合う演目をと思ったのですが、冗長になってしまいました。江戸前と自負しているものですから曲は3分、アルバムは40分、ライブは90分でいきたいのですよ、本当は。次はそういうものを本拠地の東京でご一緒したいなと思っております」と朗らかに話し、「もっともっと我々も賢くしたたかに健やかに参りましょう。何はなくともこのあとおいしいものにありついて、健康第一でいらしてください。またすぐにお目にかかりましょう。今日は本当にありがとう」とほほえんだ。ホイッスルを吹きながら「母国情緒」を軽快に披露したあと、椎名は「ありがとう」と客席に向かって一礼。そして「ありあまる富」をじっくりと歌い上げ、明日からそれぞれの日常生活を生きていく観客に勇気と優しさを最後まで贈り届けた。椎名とバンドメンバーがステージを去ったあと、スクリーンにはファミコンゲーム風のエンドロールが流れる。そこには「かくして われわれは しいなりんご と きゃつら と ともに しょぎょうむじょう をしった」という言葉が記されていた。

椎名林檎「椎名林檎と彼奴等と知る諸行無常」2023年5月10日 東京国際フォーラム ホールA セットリスト

01. あの世の門
02. 我れは梔子
03. どん底まで
04. カリソメ乙女
05. 走れゎナンバー
06.JL005便で
07. 青春の続き
08. 酒と下戸
09. 意識
10. 神様、仏様
11. T O K Y O
12. 天国へようこそ
13. 鶏と蛇と豚
14. 同じ夜
15. 人生は夢だらけ
16. 仏だけ徒歩
17. 私は猫の目
18. 公然の秘密
19. 女の子は誰でも
20. 胸いっぱいの愛
21. いろはにほへと
22. 命の息吹き
23. いとをかし
24. 長く短い祭
25. 緑酒
26. NIPPON
<アンコール>
27. 母国情緒
28. ありあまる富

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