各界の著名人に愛してやまないアーティストについて話を聞く本連載。第32回となる今回は俳優・高嶋政宏に、ラッパー・ちゃんみなについて語ってもらった。
2021年に公開された「美人」のミュージックビデオでちゃんみなと共演し、今年5月にはフジテレビ系「まつもtoなかい」に“ちゃんみなの大ファン”として登場した高嶋。海外のロックやプログレを愛し、生粋の洋楽好きとして知られる彼が、なぜちゃんみなに夢中になったのか。ちゃんみなとの出会いから、高嶋が感じる彼女の魅力まで、たっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 西澤裕郎 撮影 / 臼杵成晃 ヘアメイク / TOYO(bello)
「こんなアーティストが日本にいたのか!」
2018年頃、仕事から家に帰ってテレビをつけたら、ちゃんみなが19歳のときのライブがたまたまWOWOWでやっていたんです。「ああ、また新しいアーティストが出てきたんだな」と思って観ていたんですけど、「BEST BOY FRIEND」という曲で男性ダンサーとソファで絡んでいるのがエロくてセクシーでかわいくて。まだ未成年だったからちょっと背伸びしてやってる感じも多少あったんですけど、そこも含めて「こんなアーティストが日本にいたのか!」と衝撃だったんです。僕はカラーコンタクトを入れたりしてメイクアップしてる人がすごく好きなので、見た目も含めてもう釘付けでした。自分はKISSで洋楽に憧れてから海外の音楽ばかり聴いてきたんですけど、そんな洋楽好きの自分がどうしてちゃんみなにそこまで惹かれたのかわからなくて。でもとにかくすごく惹かれたので、その日の夜中に知り合いのプロデューサーに電話して「ちゃんみなのコンサートのチケットって取れたりしますか?」とお願いして。それで、Zepp DiverCityの「THE PRINCESS PROJECT 2」(2018年10月14日)を観に行き、楽屋で初めてちゃんみなに会いました。
Zepp DiverCityでのライブのときは、ちゃんみなが10代のカリスマみたいな感じだったので、自分には理解できないような内容のMCもあったんですよ。学校の先生の話とか、好きな男の子との失恋話とかをしていて。「まだまだこれからもっと大変なことがあるよ」ってちょっと醒めた感じで聞いていた部分もあったんですけど、「今の女の子ってこういうことを考えてるんだ」と徐々に興味深く感じ始めて。自分には些細だと思えるようなことでも、これぐらいの年頃の女の子たちにはむちゃくちゃ重大なことなんだっていうのを改めて知ったんです。
憤りを曲として爆発させるプロセス
ちゃんみなは日本と韓国のハーフという部分で大変な思いもしていて。うちの奥さんもスイスジャパニーズなので、ハーフやクォーターの人たちにとって、ほのかな差別による苦労が多々あることは知っていたんです。人間には見た目から攻撃を始める習性があるというか、自分と違うものに対する恐怖から攻撃してしまう部分があると思うんですけど、そういったこともちゃんみなは歌詞にしている。あと、幻聴みたいな音が聞こえることをお医者さんに相談したら「先生言わないからさ。ドラッグ一緒にやめようよ」って言われた話を歌詞にした曲(「想像力」)なんかもあって。その場では言えない憤りを歌詞に込めて曲として爆発させるプロセスに感動したんですよね。
海外のアーティストでも、例えばテイラー・スウィフトが女の子の気持ちを代弁したり、自分の身に起こったことを全部吐き出したりするじゃないですか。内容は違うけど、それと通じるような底知れないアーティスト性を感じて、そこにめちゃくちゃ惹かれたんです。演歌の世界で言うところの「うらみつらみ」じゃないですけど、そういう感情を自分の楽曲にすることって難しいと思うんですよ。どんなに自分がつらい目にあったり、ひどい扱いを受けたりしても、それを歌詞にして音楽に乗せるには才能がいるはずで。お医者さんとの会話をそのままラップに乗せたりするのも心の底から素晴らしいなと思いましたね。
「美人」MVでの共演
僕は彼女の代表曲「美人」のMVに出演しているんですけど、「どうしても出てほしい」と連絡があったときはびっくりしました。昔からずっとコンプレックスがあった容姿をテーマにした、彼女にとって特別な曲ですから。送られてきた音源を聴いたときは鳥肌モノでしたよ。むちゃくちゃカッコよくて。「楽曲のこの部分でこうやって出ていって、ああでこうで……」と考えてたら、ディレクターから「MVなんで、もしかしたら高嶋さんの思い描いているようにはならないかもしれませんけど」と言われたんです。そのときに興奮しすぎたなと思ったんですけど、僕がSM好きであることを知ってたディレクターが「高嶋さん、自由に使ってください」と急に緊縛用の赤い縄を渡してくれて。当時僕はまだ緊縛初級コースを習い始めたばかりだったので、どうしたらいいんだろうと焦った思い出があります(笑)。あと僕がメインで出演しているドラマ部分は、当日急に台本を渡されて、その場で覚えて臨んだんです。
MVへの出演を通して、ちゃんみなはダンサーのキャスティングや世界観などを含めて「この曲はこういうMVでこういうシチュエーションにする」というすべてが頭の中にイメージできているんだと感じました。実際、彼女の中では、何カ月先、何年先、何十年先までの構想が全部できてるらしくて。レコード会社、マネージャー、プロデューサーが1人の女の子をスターとして作り上げるんじゃなく、ちゃんみなが自分で世界観を描き上げている。自分をどう見せるか、ビジュアルはどうするかとか、キャストのLGBTQ的なことに関しても含め、こだわっているのが身をもってわかった撮影でした。
ちゃんみなが別の次元に立った瞬間
今年3月の横浜アリーナ公演を観に行ったときに、「もしかしたらメイクを全部取るんじゃないかな」って直感で思ったんですよね。そしたら「美人」の曲中に、本当にクレンジングシートで顔を拭き始めて。そのとき、「ちゃんみな、カッコいい!」という声が客席の女の子たちから上がっていたんですけど、僕はそれは違うと思った。ちゃんみながちゃんみなとして、あるがままの自分でいればいいんだっていう宣言なんだから、「かわいい」とか「カッコいい」とか、そういう黄色い声を上げるのは違うんじゃないかと。今この瞬間、ちゃんみなは完全に別の次元に立ったんだからって。それを、ちゃんみなと一緒に出演させていただいたバラエティ番組で言ったら、「あの場にいた者です。私もそう思いました」ってDMが来ました。そこで期せずして同志が生まれたっていうか(笑)。あれは別の次元に移ったなっていう、まさにそんな瞬間でしたね。横アリ公演ではMCもこれまでと違ったんですよ。女の子たちをアジテートしたり女の子の気持ちを代弁したりするだけじゃなく、もっと力強いメッセージを語るようになった。
最近は歌詞ももう1段上がって、“本当の表現者”としての内容になったと思います。「Miso Soup」という曲では、「何語でもいいじゃん。ミソスープでも味噌汁でもどっちでもいいじゃん」ということを歌ったりしていて。「美人」で吐き出したことが、「ありのままの自分でいいんだ」ということを描いた最新アルバム「Naked」につながったんだと思うんです。それと、サウンドがU2のジ・エッジみたいなギターサウンドに変わった。これも共演したときに本人に言ったら、「なんでわかったんですか?」と言われて。実際「Naked」からギターのサウンドを変えたらしいんです。車の中で聴くと、サウンドの重厚感がすごいんですよ。僕も昔は音楽スタジオに出入りしていたからわかるんですけど、当時の日本で録音した音楽はどうしても音がこもってるっていうか、クリアに抜けていかない感じがあったんですよね。近年では日本の作品もどんどん進化していってるけど、ちゃんみなの音源はそれ以上に重厚な海外仕様になってきている。そういった意味でも、ついに世界進出が始まったなと感じました。
ライブに関しては、宙乗りしたり、電話ボックスとかの舞台装置が登場したりするのがエンタテインメント的でいいですよね。昔のピーター・ガブリエルじゃないですけど、そういうシアトリカルな演出はもっとやってほしい。ライブのときは、本番前にキックボクシングの軽いトレーニングをしてからステージに出るらしいんです。トレーナーもちゃんと同行させて。できることなら、僕ら観客が呼吸困難になるぐらい、登場からエンディングまでノンストップのショーをやってほしいです。
「ハレンチ」に感じる、カーディ・Bの影響
好きな曲はたくさんありますね。最初に衝撃を受けた「BEST BOY FRIEND」や、MVに出させていただいた「美人」は当然大好きです。あと、ちゃんみなから「ファン代表みたいな感じで出てくれるとうれしいんですけど」って連絡が来てチラっとMVに出演させてもらっている「TOKYO 4AM」も好きです。そのうえで、特に好きなのが「君からの贈り物」。日本武道館公演で、フィンガー5みたいなサングラスと、男物のスーツを身に着けてこの曲を披露していたんですけど、そのときの振りがすごくよかった。「『ロンリー・チャップリン』(鈴木聖美 with Rats&Star)以来のカラオケデュエット大ヒット曲になるじゃん!」と思ったくらい最高でした。
アルバムで言うと、一番好きな作品は「ハレンチ」かな。発売から2年が経ちますけど、いまだに何度も聴いちゃいますね。僕はあの作品を聴いて、ちゃんみなはカーディ・Bに心酔してるのかなと思ったんですよ。フレーズがちょっと似てるんですよね。カーディ・Bは自分がトップレスダンサーだったりしたことで男からされてきた仕打ちに対する復讐みたいなことを歌詞で描いているんです。ちゃんみなも、いろんな人から攻撃されたことやバッシングされたことへの復讐のようなことを歌っていて。そういう歌詞だったりサウンドのフレーズだったりも似ているので、カーディ・Bを重ね合わせて聴いているときもあります。
全人類のカリスマへ
これからちゃんみなには、めちゃくちゃハードなロックのアルバムを作ってほしいですね。聴いてる人が扇動されるようなハードなアルバムを作ってほしい。女の子たちのカリスマから全人類のカリスマへ、じゃないですけど。人によってはちゃんみなっていうアーティスト名だけでチャラいみたいに思ってる人が多いんで、そこを覆すぐらいハードで硬質なアルバムを作ってほしいです。あと、ちゃんみなは自主レーベル「NO LABEL MUSIC」を立ち上げましたけど、それ以前から、もうすでに彼女はプロデューサーみたいなことをやってきていると思うんですよね。例えば、僕はちゃんみなをきっかけにAwichを知りました。本人は「美人」でのコラボについて「憧れの先輩アーティストと一緒にやりたかったから」という感じで言っていますが、結果的には彼女がプロデューサーとして、僕たちファンに向けてAwichを送り出す形にもなっている。だから以前からすでに始まっていたんですよね、「NO LABEL MUSIC」の根本的な思想みたいなものは。そういうところにも期待してます。
あと、ちゃんみなにお願いしたいことは、一緒に出ておいてなんですけど、もうバラエティ番組には出なくていいんじゃないかってこと。バラエティでいじられたりするような、そういうアーティストじゃないんだっていうのを、ちゃんみな本人、ちゃんみなスタッフ、チーム全体に声を大にして言いたいです。素でしゃべるのは音楽のインタビューかMCだけでいい。あとは「どんなアーティストなんだろう?」と思わせるぐらいでいいじゃないですか。これからは神格化されるようなアーティストとしてやっていってほしいですね。彼女はそういう存在だと思います。そして今後は、日本語と韓国語と英語を使いこなせることが最大の武器になっていくんじゃないかと思っています。ダンス、歌、演奏、これまでの人生の屈折などを乗り越えてきた表情とか、オンリーワンの存在として、これからもちゃんみなの活動に期待しています。
高嶋政宏(タカシママサヒロ)
1965年10月29日生まれ、東京都出身の俳優。1987年に映画「トットチャンネル」で俳優デビューし、同作および映画「BU・SU」で、第11回日本アカデミー賞新人俳優賞、第30回ブルーリボン賞新人賞、第61回キネマ旬報新人男優賞などを受賞した。現在放送中のTBS系ドラマ「18/40~ふたりなら夢も恋も~」や7月28日公開の映画「キングダム 運命の炎」に出演しているほか、8月13日放送スタートのWOWOW「連続ドラマW 事件」への出演が決定している。
※高嶋政宏の「高」は、はしごだかが正式表記。