ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.2(後編) 「ルール」や「システム」を模索してきた漢 a.k.a. GAMI
ラッパーのKEN THE 390がホストとなり、MCバトルに縁の深いラッパーやアーティストと対談する本連載。EPISODE.2の前編では、ゲストの漢 a.k.a. GAMIとともに初期のバトルシーンを振り返ってもらった。
後編では、漢が中心となって立ち上げた大会「ULTIMATE MC BATTLE」(UMB)、「KING OF KINGS」(KOK)についてや、現在のMCバトルに対する思い、さらに今後のバトルシーンを掘り下げて語り合う。
取材・文 / 高木“JET”晋一郎 撮影 / 斎藤大嗣 ヘアメイク(KEN THE 390) / 佐藤和哉(amis)
現在のMCバトルの基礎となったUMB
──2004年に、漢さんやスタッフのMUSSOくんなどのMSCのメンバーが立ち上げたMCバトルイベント「お黙り!ラップ道場」がスタートし、それが2005年に「Ultimate MC Battle」(UMB)へと発展します。その経緯などは漢さんの著書「ヒップホップ・ドリーム」に詳しいのでそちらを参照いただきたいのですが、バトルの制度設計として「持ち時間制」から「規定小節を交互にラップするターン制」を取り入れたことで、「コンテスト」から「コミュニケーションやセッション」の要素が強くなりました。
KEN THE 390 それは、今の世の中がイメージするMCバトルの基礎になっていると思うんですが、その発想はどこから生まれたんですか?
漢 a.k.a. GAMI クラブとか仲間内でやってるサイファーとかフリースタイルの中で起きる“一番ヤバいとき”を、俺はプレイヤーだから知ってるわけ。ゾーンに入ってどんどんすごいフレーズが次から次に生まれてくる、観てる側も「このラップはヤバすぎるでしょ」と驚くような神懸かってる瞬間。でも、持ち時間制のシステムだと、それがなかなか起きづらいということを「B-BOY PARK」(BBP)に参加する中で感じてたんだ。
KEN それでよりセッション性を高めたルールに変更したということですね。1分間のフリースタイルだと自発的なテーマが求められるけど、8小節のターン制だと相手の言ったことが材料にもなるし、それによってコミュニケーション性も高まりますよね。
漢 そう。サイファーにはラップだけじゃない、タイミングや間みたいないろんな要素や技術も必要だし、それをちゃんとルールと構成を決めてステージに自然な形で落とし込むことができれば、そこに“神”が降りて来やすいんじゃないか、というのが目論見だった。そういう「8小節ずつにしよう」「ノンストップでいかないと意味ないよ」みたいな構成の部分は、プレイヤー側じゃないと気付きにくいことでもあると思うし。
KEN 2005年のUMBは「12小節2ターン」だけど、2006年は「8小節3ターン」になってるんですよね。それはブラッシュアップの中でそうなったと思うんですが。
漢 当時は本当にブラッシュアップの連続だったし、「KING OF KINGS」(KOK)は今もそれを続けてると思う。俺がKEN THEを面白いと思うのは、嫌な意味じゃなく普通に頭がいいがゆえに、どんなスタイルの大会であっても、試合が組み立てられると思うんだよね。
──受け身が取れるというか。
漢 バトルの内容もそうだし、例えば30分後や1時間後のバトルに気持ちを合わせることもできると思う。でも、俺らみたいなタイプはテンションとかマインドに、バトルへのモチベーションが左右されがちな不器用さがあるから、ポンポンとバトルが進めば一気にいけるのに、待ちの時間があったりすると、そこで集中力が切れちゃったりするんだ。さすがのKEN THE 390でもバトルの間が3時間空いたらダルいでしょ。
KEN テンションを保つのは難しいかもしれませんね。
漢 だからライブショーケースを入れるとしたらバトルの前後にして、バトル自体はぶっ続けでテンションを落とさないように凝縮するとか、バトルに出る側のことだけを考えて、いろんな構成を練ってる。
KEN そして出る側がやりやすいようにした結果、バトルのクオリティが上がって、2006年のHIDADDY対FORKのようなエポックな試合が生まれたと思うんですね。
──R-指定をはじめ、今の30代ぐらいのラッパーは、あの試合に影響を受けたという人がかなり多いし、見直してもお互いに神懸かってると思います。
漢 求めたのはそれ。そうやって神が降りてくる試合を作りやすくするために意識したことが、そこで実現したんだと思う。
──漢さんは、著書「ヒップホップ・ドリーム」の中で、「危なっかしくてガチンコなストリート系ラップ・バトルの雰囲気を残しつつ、ケンカができないヤツでもフリースタイルで自信を持って戦える新しいヒップホップ・ルールを共有したMCバトルがいまだったらやれる」と、UMBのイズムについて話しています。この「ストリート性」と「ケンカのできない」という部分を併存させた意義は、非常に大きいと思います。
漢 腕っぷしも含めてストリートの流儀やストリートのイズムは持っていないけど、それでもラップ技術の高さを認めざるを得ないやつ、単純に面白いやつがいるんだから、それは同じ土俵に乗せたほうが面白くなるし、参加者も増えれば盛り上がるでしょ、ということだよね。それに結局、腕っぷしの話でBBPの2003年は事故ってるわけじゃん。
──判定への不服によって起きたイザコザや、ステージ上の仕切りの不徹底によって、2003年大会は混乱をきたしました。
漢 同じようなトラブルが起きない、起こさないために、ちゃんとシステムやルールを整備する必要を感じてたし、BBPがMCバトルをやらないんだったら、よりリアルな大会をやろうと思ったんだよね。
KEN 漢さんがオーガナイザーであり、同時にプレイヤーだったのも大きかったと思うんですよね。プレイヤーだからこそ感じる出る側のメリットを、オーガナイザーとして提供できたんじゃないかなって。
漢 俺はBBPのバトルで優勝したことで一気にフィールドや認知度が広がったし、それが自主でのリリースにもつながった。つまり、それまで多かった「名のある人とつながって、レーベルに入って、プロになって」というルートとはまったく違う、新しい道を開拓したと思ってる。だから俺と同じようにUMBで一発優勝すれば、CDリリースの声ぐらいはどこかからかかるだろうから、そのデビューまでの切符を2000円で買わない?という感じだったよね。KOKはそれをもっと進めて9SARI GROUPからデビューできるシステムを作っているし、「最短でプロとして成功するための大会」という意識はずっと持ってる。
──「切符」とおっしゃられた2000円はエントリー費ですが、その“エントリー費”という概念も、それ以降のMCバトルでは多く取り入れられるようになりました。
漢 一応ボランティア的な心情もあるけど、それでもイベント開いて赤字を食うのはダルい。だったら出るMCからはエントリー費を取って、それでハコ代ぐらいはペイできるシステムにすれば、少なくともイベントとして継続はできるという考えだよね。
KEN 身銭を切ることになると、続けるモチベーションに影響しますよね。
漢 赤字にならなければ俺だって楽しい気分でバトルができるし(笑)、2000円だったら出る側もそこまで懐は痛まないでしょ。入場料だと思えばさ。
KEN その部分も出る側のやりやすさを肌で感じてるからですよね。
漢 うん。そしてビジネスとしても成立させるためだよね。
──UMBはその模様を収録したDVDがリリースされたことで、よりビジネスとしても成功したと思うし、同時に現場以外にも魅力や裾野が広がったと思います。漢くんとKENくんの2005年のUMBでのバトル(「ULTIMATE MC BATTLE GRAND CHAMPION SHIP TOUR GUIDE 2005」)も映像として残っています。
KEN ちょっと自分では観られないですけどね(笑)。
漢 相当恥ずかしいよ(笑)。でも自分たちの理想だったり、やりたいことを形にするためには、ビジネスとしてちゃんと走らせないといけないという意識はあったね。
「ラッパーがバトルに出る意味」を追求するKOK
──そして、漢さんは9SARI GROUPの主催イベントとしてKOKを2015年に立ち上げられました。KOKは全国予選に加えて、韻踏合組合主催の「SPOTLIGHT」やサイプレス上野主催の「ENTA DA STAGE」など、ほかのMCバトルイベントと協力し、優勝者などを招聘して開催されています。
KEN UMBがほぼ唯一の全国大会だった00年代は、“今年の日本一”がわかりやすかったと思うんですよね。でも今は大会が多いし、それぞれの大会に特徴があるんだけど、ボクシングで言えばベルトが乱立してる状態だと思うんですよ。
漢 そう。だからKOKの本戦は「その年度の本当の一番は誰かを知りたいでしょ?」ということだよね。
KEN それによってドラマが始まる部分もあると思うし、そういうわかりやすい指標を常に提示してますね。
漢 そこで勝てば優勝者も自信がつくだろうし。その意味ではKOKはラッパーがバトルに出る意味を追求してると思ってる。
──漢さんは「戦極MCBATTLE 第18章」での優勝など、ほかのバトルイベントにも、頻度は多くはないですが登場されていますね。
漢 KOKという大会をやってるから、取引じゃないけど、自分も別の大会に出ることで「貸しを作ってる」「借りを返してる」感じだよね。そして、俺も出るから、ほかのバトルからも優勝したやつを代表として送り込んでくれれば、お互いに気持ちよくできるでしょ?という。
KEN 漢さんの考える「KOKのオリジナリティ」とはなんでしょうか?
漢 今の状況で言えば、大きなMCバトルは“お客様の大会”になっている場合がほとんどだよね。客が呼べるMCをギャラを払って呼んで、客が観たい試合を組んで、流行りのビートや逆に超クラシックとか、客が喜びそうなビートで戦います、という。それは興行としては正解かもしれないけど、でも「ヒップホップってそうなのか?」と感じる部分はある。だからKOKは全国予選や協力大会から、まったくノーマークのラッパーが登場してほしいと思ってるし、優勝賞金を渡すだけじゃなくて、デビュー前だったら9SARI GROUPとしてリリースまでバックアップしますよ、というシステムを取ってるんだよね。
──バトルで使われたビートを勝者が手にできる「Beat Get System」も含め、バックアップへの意識がKOKは強いですね。
漢 ただ「優勝したらほかのバトルには最低3カ月は出るなよ」という制限もしてる。制作に集中してほしいし、ほかのバトルですぐ負けたらKOKの箔が落ちるから。やっぱり優勝すれば話題のラッパーとしてオファーがかかるし、若いと「チャンピオンは逃げられねえ」みたいな気持ちで出ちゃったりするから、その部分は主催者として縛りをつけていいのかなって。
──KOKは観客の声援判定(1ポイント)と、4人の審査員による判定(4ポイント)の計5ポイントで勝敗が決められます。また、審査員はKENくんも含め、プロのラッパーやバトル経験者が選ばれていますね。
漢 UMBのときもこのシステムを取り入れようとしてたんだよね。UMBの初期は陪審員(審査員)を観客から選んでたんだけど、それは観客判定と一緒だから意味ないでしょ、というのは思っていたことで。
KEN その部分もブラッシュアップのうえでということですよね。そして今は経験者が審査できるようになったのが大きいと思う。BBPのときの審査員はバトルの経験者ではなかったから。
漢 観客判定に関して言えば、ラッパーの持つドラマやバックグラウンドによって「こいつを勝たせたい」という集団心理が働くことがあるんだよね。
KEN “会場の空気”は確実にありますね。
漢 それは声援判定にも当然だけど影響する。だからプロだったり、技術を持ってる人間が勝敗や優劣を細かく判断して、そういう人が見たときに、何が評価ポイントだったのか、明確にしようと思ってる。
──「集団心理がある」というのはステージに立ったり、運営してないとわかりづらい部分ですね。
漢 お客さんは10:0でAを支持したのに、審査員は全員Bに旗を上げて、お客さんがどよめくみたいなことも起きるでしょ。
KEN ありますね。自分でも判定してて驚くことがあります。
漢 でも俺の中ではそれが起きるとうれしいんだよね。「だからプロが見るとそうなるんだって」という価値判断が伝えられるから。
「フリースタイルダンジョン」初代モンスターが感じたシーンの変化
──漢さんは2000年代後半からほぼバトルには出ていませんでしたが、2015年の放送開始から「フリースタイルダンジョン」に初代モンスターとして登場しました。
KEN モンスターとして参加されたときはどう感じましたか?
漢 「あれ、逆上がりってできなくなるの?」という感じだった。プレイヤーとしてバトルに出るのはひさびさだったけど、頭の中では「全然いけるでしょ」と思ってたのに、実際はできねえんだなって、最初はちょっと苦戦したよね。対戦相手に関しても、俺がプレイヤーとしてステージに立ってたUMBの初期みたいに、出てくるラッパーのほとんどを知ってる時代とは違って、対戦相手のことをほとんど知らなくなってる。しかもそんな無名の小僧に、「このデブ! くそじじい!」みたいに言われたときは、本当にびっくりしたし、もうルールが全然違うんだな、スポーツなんだなと感じたよね、それはよくも悪くも。
KEN バトルに対する意識が以前と変わったことで、ラップの内容も変わっていってるのは、すごく感じますね。だから、漢さんの試合で全コンプラになって結局放送されなかった試合とかありましたもんね。あれは相手方が踏み越えちゃってたんだけど。
漢 相手が無茶苦茶言うから、こっちもそれに乗って言い返したら全カット(笑)。
KEN コンプラが多すぎて文脈がまったく把握できないという(笑)。
漢 そういう部分も含めて「すごいこと言うね、君」と感じることが多いけど、だからってそこに怒りや反発するような感情は、なかなか湧かないんだよね。だからこそ「何をラップするべきか、返すべきか」ということに本当に困った。「リアルに特化して、それを厳しく考えてたはずの自分は、この状況でどういう言葉を出すべきなのか」ということに答えが出なかったし、踏ん切りがなかなかつかなくて。それはラップやライフスタイルにストイックに向き合ってる、ラスボスの般若でもそうだと思う。
──「何を言うか」「どう返すか」は、キャリアを重ねたラッパーほど難しくなるかもしれないですね。
漢 輪入道や晋平太のような対戦相手とのバトルだと言うことは生まれるんだけど、基本的にはパワープレイが増えていくし、あんまり勝っても気持ちよくはなかった。「よっしゃ! 勝った!」じゃなくて「うん、負けなかったな」くらいなんだよね。だから映像も最近は全然観直してないし、映像を観直すのはホントに罰ゲームみたいな気持ちだよ(笑)。特に「ダンジョン」以降は「今日はちゃんと着陸できたから、ちょっと観てみようかな」ぐらいで、積極的には観ないね。
KEN 漢さんがモンスターにいるかどうかで、「ダンジョン」自体の説得力、シーンからの視線が変わったと思うんですよね。漢さんの参加が「これはガチなんだな」という担保につながったというか。
漢 それによってチャレンジャーとして出てくれた人も少なくなかったと聞いてる。俺がモンスターにいることが、なにがしかの理由になればなと思っていたし、BBPに対するUMBがそうだったように、少しでも「本物」──という言い方は難しいけど──のやつが出られればなという目論見が叶ったならうれしいよね。
「高校生RAP選手権」がシーンに与えた影響
KEN テレビでバトルが放送されるということで、状況は大きく変わったと思うんですけど、それは漢さんにはどう見えてましたか?
漢 メディアが与えた影響力は、「ダンジョン」よりも「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」のほうが大きかったんじゃないかな。「高校生RAP選手権」は「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」の「ダンス甲子園」と同じ現象だったと思うんだ。
KEN そこで裾野が広がったし、リスナーやプレイヤーの年齢も下がりましたよね。言うても「高校生RAP選手権」までは、全体的な年齢が上がってたと思うんですけど、あそこでグッと下がった。
漢 そうだね。今や俺らと同世代の父親がもともとラップをしてて、その息子もラップやってるなんて珍しくないし、その意味でも“文化”になったんだと思う。しかも音楽は「売り物にする」というマネタイズの意味でも、ダンスよりもビジネスになりやすいから、USとは桁が違うとはいえ、俺らがガキの頃に思ってた「ラップで若いラッパーが食えるようになる」という状況が、「高校生RAP選手権」が流行った以降で生まれたと思うんだ。
KEN 確かに、若い子がラップで金を稼ぐのは普通になりましたね。
漢 それによって把握できないくらいラッパーも増えたし、技術の向上スピードもとにかく上がっている。一方そこで個性をどう出すかということが難しくなってる気がするね。「始めて半年でこんなラップができるのか」というやつもザラにいるし、オートチューンやDTMの発達も含めて、技術や音楽性の平均値が上がったぶん、人間力とかその人の個性で勝負する必要が以前よりも強くなって、なかなか目立てなくなってる気がするんだよね。
──リスナーとしても個性を聞き分けることが難しくなっていると思います。その中で個性はどのように出せると思いますか?
漢 その部分が目立ちやすかったのがストリートだったと思うんだよね。学力とかじゃなくて、ストリートでどんな体験をして、そこで悟ったものや見えたもの、人間力がラップに染み出て、それが個性や表現につながっていったと思う。それは世界的な傾向として。ただ一方で、日本の場合はストリート一色ではないし、むしろストリートに関係ない人でもヒップホップを好きになったり、表現してるわけで。
KEN そうですね。
漢 KEN THEはそういうタイプだと思うし、そういう人だって生きてきた中でさまざまな経験をしたり、そこで悟ることがあるはずで。だから「表現の角度が違うだけだな」と、俺は10年ぐらい前から思うようになって。例えばPUNPEEも、俺の世代だと東京中に名前が聞こえるぐらい有名な板橋の不良中学出身だけど、その中でPUNPEEはあのキャラだったわけで、そういうやつだからこそ生まれた個性はあると思うんだよね。
KEN それぞれの個性はちゃんと掘れば出てきますからね。
漢 その意味でKOKはバトルにおいて、もっと個性や個人が見える、オリジナリティが出せる場にしたいと思ってるね。俺はKOKを通してバトルを正しい方向に導きたいという気持ちがある。実際、チャンプたちも結果を残してくれているのも大きいし、これからKOK自体もいろいろ変化していくだろうから、それがいい結果につながればなって。
完全な正解がないからこそ模索する
KEN 今の話のように、漢さんは「ルール」や「システム」を作っていく人だと思うし、そういうチャレンジをしてると思うんですね。そういう人が今のバトルシーンをどう見ているのか、興味があります。
漢 自分の会社(9SARI GROUP)も新体制になって、人を増やしたりアイデア出しの機会も増えてるんだけど、そういった中で変わっていくものだと思っている。やっぱり時代は流れていく以上、同じことをやり続けていったら人を惹きつけるのは絶対無理だと思うから。とはいえ、何かを急激に変えるというよりは、時代に合わせて細かい部分を変えていくことになると思うね。
KEN ブラッシュアップは続くということですね。
漢 後攻が有利という部分があるなら、それをどう平等にするかみたいなルールのところはもちろんある。アプローチとしても、YouTubeのショート動画とかTikTokみたいに、どんどん映像が短くなってるなら、例えばすごく短いバトルをするとか、そういう構成も考えてたり。
KEN 余談ですけど、METEORが20年くらい前に「ひと言MCバトル」というのをやっていましたよね。お互いにひと言しか発しちゃいけないというルールで戦うという。
──ラップである必要がない(笑)。
漢 いや、30年くらい前、俺たちが高校生だった頃にPrimalもそのシステムを考えてた。「とりあえずひと言で面白いことを言うフリースタイルをやろうぜ」って(笑)。
──先見の明がありすぎましたね(笑)。
漢 それは置いといても、UMBが基礎になった小節×ターン制のバトルが定番化したことで、例えば「Red Bull 韻 Da House」のような持ち時間制のバトルは逆に新鮮に感じるし、構成次第では見応えのあるものになるんだなと思った。究極「ラップの技術」という観点だけでジャッジするなら、「5分ずつラップしてください! どうぞ!」でやったほうが、フリースタイルや即興のヤバさが出ると思うんだよね。アメリカとかだとそうでしょ。
KEN むしろアメリカではそっちがスタンダードですよね。
漢 その意味でも本当にいろんな方法論があって、完全な正解がないからこそ、みんなで「どれが正解だろう」と模索してるのがMCバトルだよね。いろんな正解があったほうが健康的だし、同時に「これがカッコいいだろ」というアティチュードの部分は、しっかりそれぞれが形にすればいいんだと思うね。
漢 a.k.a. GAMI(カンエーケーエーガミ)
2000年、新宿発のヒップホップクルー・MS CRU(現MSC)のリーダーとして活動を開始する。2002年に1st EP「帝都崩壊」でデビュー後、多数のアルバムをリリース。ソロラッパーとしても多岐にわたる活動を展開している。2002年、「B-BOY PARK」のフリースタイルバトルで優勝を飾り、2005年にMCバトル大会「ULTIMATE MC BATTLE」を設立。2015年には、自伝にして日本のヒップホップシーンのリアルを描いた著書「ヒップホップ・ドリーム」を刊行したほか、同年、真の日本一を決めるMCバトル大会「KING OF KINGS」を立ち上げた。テレビ朝日で放送されたMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」には初代モンスターとしてレギュラー出演。現在YouTubeで配信中の料理番組「漢 Kitchen」ではMCを務めている。
KEN THE 390(ケンザサンキューマル)
ラッパー、音楽レーベル・DREAM BOY主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年、アルバム「プロローグ」にてデビュー。これまでに11枚のオリジナルアルバムを発表している。全国でのライブツアーから、タイ、ベトナム、ペルーなど、海外でのライブも精力的に行う。テレビ朝日で放送されたMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に審査員として出演。その的確な審査コメントが話題を呼んだ。近年は、テレビ番組やCMなどのへ出演、さまざまなアーティストへの楽曲提供、舞台の音楽監督、映像作品でのラップ監修、ボーイズグループのプロデュースなど、活動の幅を広げている。10月28日にはヒップホップフェスティバル「CITY GARDEN 2023」を東京・豊洲PITで開催。