MUCCが2022年6月から行っていた結成25周年ツアーが、12月28日に東京・東京国際フォーラム ホールAにて終幕した。
屈強なパフォーマンスで夢烏を圧倒
1997年に地元茨城で産声を上げ、昨年25周年の節目を迎えたMUCC。彼らはアニバーサリー企画の一環で、2022年10月より歴代のアルバムを再現するツアーシリーズ「Timeless」を計4本開催すると同時に、ツアーに合わせてシングルを発表し、合間にはライブイベントや対バン公演を行うなど怒涛の日々を送ってきた。そんな周年のラストを飾る公演のタイトルは「MUCC 25th Anniversary TOUR Grand Final Bring the End to『Timeless』&『WORLD』」。再現ツアーのタイトルと、コロナ禍に誕生した新たなライブアンセム「WORLD」の名の両方が冠された。
客電が落ちると同時に、紗幕で覆われたステージの上で回転警告灯が回り出し、赤いレーザーがサーチライトのように客席を行き来する。じわじわと空気が張り詰めていく中、サポートメンバーであるAllen(Dr)の刻む四つ打ちのビートをきっかけに「サイレン」が始まった。紗幕にはマイクを手に踊る逹瑯(Vo)、ギターを抱えるミヤ(G)、ベースを奏でるYUKKE(B)のシルエットが。たっぷりと時間をかけながらイントロを奏で夢烏(MUCCファンの呼称)を焦らした3人は、紗幕が上がると同時にステージの前方に歩み出る。そして、1年以上かけて鍛え上げてきた屈強なパフォーマンスで冒頭から会場を圧倒した。
殺傷力の高いギターリフで空間を切り裂くミヤ、グルーヴィなベースラインでホールを揺らすYUKKE、そして変幻自在の歌声で夢烏を翻弄する逹瑯。三位一体のアンサンブルにAllenのタイトで強靭なリズムと、吉田トオル(Key)が弾く多彩な鍵盤の音色が加わり、ムック時代から現在に至るまでのキャリアの中で世に放たれてきたライブチューンが再現されていく。ミヤがギターをスライドさせて始まりを告げた「ファズ」では、ダンサブルなサウンドを引き立てるように極彩色のレーザーが飛び交う。YUKKEが舞うようにアップライトベースを弾く中、逹瑯は長い手足をなめらかに動かしながら躍動。それに呼応するように夢烏たちも高くジャンプを繰り返し、一体感を作り出した。
「ついにここまで来たねえ。大変でしたね。みんなも大変だったでしょ? お疲れ様でした(笑)」とアニバーサリーイヤーをともに駆け抜けてきた夢烏を労った逹瑯。「今日は精一杯、思い切り、何も残さず楽しんでください」と呼びかけ、「路地裏 僕と君へ」を絶唱した。このブロックは、MUCCのダークかつ妖艶、哀愁を帯びたサウンドが特徴のナンバーを中心に展開。「アンジャベル」が始まると夢烏は光る扇子「パイ扇」を取り出して慣れた手つきでそれを振り、艶やかなムードを演出した。また「雨のオーケストラ」では5月の東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)公演と同様にストリングス隊がステージへ。12名のストリングス隊が紡ぐ豊潤な重奏に、胸に迫るような逹瑯の切実な歌声がホールを満たす。
Sakura、Kenとの豪華セッション
会場にいる誰もが深い余韻に浸っているとき、ストリングス隊と入れ替わるようにゲストのSakura(gibkiy gibkiy gibkiy、Rayflower、THE MADCAP LAUGHS、ZIGZO)のシルエットがステージ上方に浮かぶ。ミヤとYUKKEが不穏な音色を奏で、逹瑯が地を這うような唸り声を上げる後ろで、Sakuraが軽やかにコンガを叩き出すと、それまでのノスタルジックな空気は雲散。サイケデリアをはらんだ「25時の憂鬱」のサウンドがホールをひたひたと侵食していき、夢烏を禍々しく艶やかな世界へと引きずり込む。誰一人として言葉を発することができない緊迫感の中、なだれ込むように「志恩」へ。ファイヤーボールが上がる中、オリエンタルなムードを醸すSakuraのコンガの音を受けて、逹瑯、ミヤ、YUKKEはすさまじい熱量のパフォーマンスを繰り広げる。そしてミヤがアウトロのフレーズを弾き終えた瞬間、堰を切ったように歓声と拍手がホール内に響いた。
逹瑯はSakuraを送り出しつつ、「頭おかしくなりそうになってない? 俺はおかしくなりそう」と笑い、「こういうテンションはMUCCというバンドをやってなかったら一生味わうことができなかった」と長く濃い25年の軌跡を振り返る。続けて「来年から30周年まで突っ走っていこうと思いますのでよろしくお願いします。こっから思い切り心も体もわかりやすく楽しめるやついこうか?」と呼びかけ、「G.G.」で後半戦の狼煙を上げた。張り詰めていた空気が和らいだ頃、夢烏の耳に飛び込んできたのは「アゲハ」のイントロを飾る流麗なギターの旋律。その音に導かれるようにスーツに身を包んだKen(L'Arc-en-Ciel)が現れると、ホール内の空気が爆ぜるように上昇した。自分たちのターニングポイントを作ってきた恩人との共演に、メンバーも気合いをみなぎらせる。レーザーで描かれたアゲハ蝶が羽ばたく下で、Kenとミヤは背中合わせになり15年前に共作した楽曲をプレイ。成長した後輩の姿を讃えるように、Kenがミヤの頭を軽く撫でると夢烏の黄色い歓声が沸いた。
「俺たちのKenさんが来てくれました」。興奮を隠しきれない表情でそう口にした逹瑯は「思う存分ラルクのツアーのステージのリハビリして行ってください」と、2月からL'Arc-en-Cielのツアーを控えるKenに呼びかける。そのままKenがプロデュースに携わった「気化熱」へとつなげるが、全員の出だしがそろわず仕切り直しに。「フォーラムでもこれがMUCCだな」とミヤはキメきれないバンドの性格を笑うも、2回目では全員が見事なパフォーマンスで失敗を挽回。ミヤは再びKenとともに息の合ったセッションを広げ喝采を浴びた。
25周年を経て新たな旅へ
終盤のブロックはファンのシンガロングが必須の楽曲が中心に。「フライト」の間奏では逹瑯がミヤとYUKKEの肩に手を乗せ、少年のような笑顔で何度もジャンプを繰り返す。それにつられるようにホール内にも笑顔の輪が広がり、朗らかなムードに。かと思えば逹瑯は「ニルヴァーナ」で「ゆこう 未だ見ぬ世界へと」のフレーズに力を込め、バンドがまだ先へと進んでいくことをフロントマンとして示唆していた。その後、再びストリングス隊を迎えて披露された「リブラ」で晴れやかなカタルシスがもたらされ、ライブ本編はクライマックスを迎えた。
アンコールでは、メンバーが口々に1年強におよんだツアーを終えた充実感を口に。さらにミヤとYUKKEがそれぞれのプライベートで起きた家での珍事を紹介し、会場に爆笑の渦を起こす。挙げ句にはスタイリッシュな照明演出の中で各々が変なポーズを決めてから「蘭鋳」を演奏し始め夢烏を戸惑わせる場面も。しかし一度演奏が始まれば、そこは百戦錬磨のライブバンド。この時点でライブは開演から2時間半を経過していたが、序盤を凌駕するエネルギッシュなパフォーマンスを繰り広げていく。なお、これまでの「Timeless」シリーズでは「WORLD」が最後に披露されていたが、この日MUCCは最新曲「Timeless」をラストナンバーにセレクト。声出しが解禁になり、夢烏たちとともに歌い、暴れられる日が再び訪れたことを喜びつつ、25周年を経て新たな旅へと向かうことを宣言するように、逹瑯、ミヤ、YUKKEはストリングスの柔らかな調べを浴びながら高らかに歌い上げた。
「長い時間かけてここまで来たと思ってます。それでもまだ旅の途中。これからも長い時間をかけてともに旅をしようじゃないか……行けるところまで行こう」。そう本編のMCで夢烏に語りかけた逹瑯。貪欲なまでに新しい音楽を追求するMUCCの旅はまだ続く。「MUCC 25th Anniversary TOUR Grand Final Bring the End to『Timeless』&『WORLD』」はそんなことを予感させる一夜となった。
セットリスト
MUCC「MUCC 25th Anniversary TOUR Grand Final Bring the End to『Timeless』&『WORLD』」2023年12月28日 東京国際フォーラム ホールA
01. サイレン
02. 咆哮
03. 99
04. 謡声
05. ファズ
06. 最終列車
07. 路地裏 僕と君へ
08. ガーベラ
09. アンジャベル
10. 想 -so-
11. 雨のオーケストラ with Sakura
12. 25時の憂鬱 with Sakura
13. 志恩
14. G.G.
15. アゲハ with Ken
16. 気化熱 with Ken
17. 耀 -yo-
18. フライト
19. ニルヴァーナ
20. 名も無き夢
21. リブラ
<アンコール>
22. 蘭鋳
23. 娼婦
24. WORLD
25. Timeless