楽曲のリズムやノリを作り出すうえでの屋台骨として非常に重要なドラムだけど、ひと叩きで楽曲の世界観に引き込むイントロや、サビ前にアクセントを付けるフィルインも聴きどころの1つ。そこで、この連載ではドラマーとして活躍するミュージシャンに、「この部分のドラムをぜひ聴いてほしい!」と思う曲を教えてもらいます。第14回はグッドラックヘイワやサンフジンズのメンバー・伊藤大地さんが登場。細野晴臣、星野源、EGO-WRAPPIN’といった錚々たるミュージシャンのライブサポートも務める伊藤さんが選んだ楽曲は?
構成 / 丸澤嘉明
ドラムフレーズが好きな曲とその理由
細野晴臣「蝶々-San」(ドラム:林立夫)
「おっちゃんのリズム」(※)に憧れ続けて30年近く。いつの間にか、自分が44歳のおっちゃんになってしまってますが……。
林立夫さんがこのイントロを叩いているのは20代のとき。今も変わらず日本を代表するドラムイントロだと思います。
ハネとスクエアをコントロールしながらも最高に音楽的な“空間”を作り出す、世界に誇れる林立夫さんの最高のタイム感。細野さんの音楽。
「絶妙」と簡単に言ってしまうんですが、いやあ、本当にめちゃくちゃ絶妙なリズム感なんです!
あまりに有名なドラミングですが、この企画をきっかけに知る人もいることを願って。
※「おっちゃんのリズムでスイスイ」という歌い出しで始まる細野晴臣「Pom Pom蒸気」に代表される、シャッフルビートとイーブンが混ざったようなリズム。
ロイ・ヘインズ「JAMES」
1925年生まれ、もうすぐ99歳の“最後のジャズレジェンド”と言っても過言ではないロイ・ヘインズ。
1940年代から活躍していたジャズドラマーが近年も音を聴かせてくれるというのは、本当にすごいことです。
高校生の頃から何度も何度も聴いた「Te Vou!」という1994年のアルバムから「JAMES」のドラムイントロをぜひ聴いてください。
なんてメロディあふれるドラミング! 彼の歌い方、とても憧れます。オンリーワンです。
デヴィッド・キコスキー(Piano)、クリスチャン・マクブライド(B)、パット・メセニー(G)、ドナルド・ハリソン(A.Sax)という豪華メンバーでのこの「JAMES」が一番好き(高校生のときこの曲のメンバーそれぞれのソロを口笛でコピーしたりもしました)。
ロイのドラミングは83歳、90歳の来日時に自分も生で体感しています。
毎回必ず演奏してくれるこの曲をロイ・ヘインズも愛しているのでしょう。
YouTubeでは2019年、94歳のドラミングも観ることができるので、人生とパッションの詰まった最高のドラムを動画でもぜひ。
※「Te Vou!」は未配信のため、掲載しているのはコンピレーションアルバム「A Life in Time: The Roy Haynes Story」収録の音源。
ビル・フリゼール「Egg Radio」
ジム・ケルトナーの音色、グルーヴで曲が唯一無二のキャラクターを得ている。
参加するすべての曲でそれを実現していると言っても過言ではないアーティスト、ジム・ケルトナー。
スネア2つとリムショットだけで表現される世界観。
ここにしか存在しない音色、タイム感、フレーズ、歌い方。訛り方。
本当に憧れの存在です。
「Egg Radio」が収録されているアルバム「Gone, Just like a train」はケルトナー節がすべての曲で炸裂しているのでオススメです。
録音も明瞭かつ芳醇なサウンドに仕上がっています。
フィオナ・アップル「Limp」
マット・チェンバレンとブッチ・ヴィグのツインドラムによるドラムソロブレイクを紹介しないわけにはいかないでしょう! プロデュースのジョン・ブライオンの功績も大きいですが、ドラマー2人の相性は最強のツインドラム。
初めて聴いたときの脳内の興奮度は人生の中でも1、2を争いますw
2:07~ですが、曲頭からぜひ聴いてください。
ジェフ・バックリィ「Dream Brother(from Live in Chicago)」
世界で一番好きなロックバンド、ジェフ・バックリィ・バンドの4人。
ドラマーのマット・ジョンソンのダイナミクス! そして5:30~から始まるジェフのシャウトとバンドのラストスパートは最強のアンサンブルです。
曲の前半から心の中はめちゃくちゃ熱く、しかしフレーズはクールに刻み続けるドラミング。でも太いサウンドとリズム。
無骨にも見えて実はめちゃくちゃ緻密に、繊細に、超テクニックという両端を表現しているマット・ジョンソン。大好きです。
自分のライブの前によくこのバンドの動画を観て、パワーをもらってます。
普段自分は色違いのドラムセットを好んでセットしますが、マット・ジョンソンの影響でもあります。
グッドラックヘイワ「黒ダイヤ定食」
自分のバンドで気に入っているフィルインはこの曲の2:37~フィルインかな。
こども用のドラムのタムをドラムセットに組み込んで出てきたフレーズ。
野村卓史の作った難しい構成の曲ですが、ドラムとピアノがうまく合わさっていい出来になったのを覚えています。
自身でドラムフレーズをプレイする際に意識していること
一番大事にしているのは音色と自分の中のパッションのつながり具合です。
そこのコントロールがうまくいって、自分が演奏させてもらっている曲たちの存在感と個性に少しでもプラスがあれば最高に幸せです。
自身のプレイスタイルに影響を与えたドラマーや最近気になるドラマー
ジャズピアニスト、エメット・コーエン・トリオのドラマーを務めるカイル・プールです。
古い時代のジャズの音がするけど、めちゃくちゃ現代的な感性を盛り込んでスウィングしているように聴こえてとても魅力的です。エメット・コーエンのYouTube配信ライブでの演奏バランスがめちゃくちゃ音楽的で本当に素敵なドラマーです。
去年の来日時に観に行きましたが、素晴らしかった!
伊藤大地
1980年3月8日生まれ。東京都保谷市出身。高校入学と同時にドラムを始め、2000年に星野源や野村卓史らとともにSAKEROCKを結成する。その後、Killing FloorやGood Dog Happy Menなどでの活動を経て、現在はグッドラックヘイワやハシケントリオ、奥田民生と岸田繁との3ピースバンド・サンフジンズのメンバーとして活躍中。細野晴臣、真心ブラザーズ、星野源、レキシ、EGO-WRAPPIN’、フジファブリック、LOVE PSYCHEDELICO、安藤裕子ら多数のアーティストのライブサポートも行っている。
伊藤大地 - TONE
伊藤大地 (@trimtrab88) / X