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ドラゴンボールラップ名曲ガイド……ラッパーたちに愛されたDBネタの曲を一挙紹介

T-Pablow「Super Saiyan1 The EP」ジャケット
約1か月前2024年03月19日 11:02

「Dr.スランプ」や「ドラゴンボール」シリーズなどで知られるマンガ家の鳥山明氏が先日、惜しくもこの世を去った。その訃報には国内外から多くの悲しみの声が上がり、彼の功績が改めて称えられた。

代表作「ドラゴンボール」シリーズは、ラッパーやビートメイカーなどのヒップホップアーティストにも根強く愛されている作品だ。近年アニメ好きを公言してリリックに入れるラッパーは非常に多いが、ドラゴンボールネタはアニメの中でも使われる機会が突出している。その中でも特に「ドラゴンボールZ」の人気が高く、ゲーム系ブログ「Kotaku」の指摘によると、アフリカ系アメリカ人の男性は同作でのルーツをたどるエピソードや、「落ちこぼれ」が努力して成長するストーリーに共感を覚えるのだという。そしてそれがアフリカ系アメリカ人中心のカルチャーであるヒップホップに反映されているのである。

そこで今回はドラゴンボール関係のラインがリリックに登場するヒップホップの曲を紹介する。これらはすべて、鳥山明氏がいなかったら生まれなかったものである。

文 / アボかど ヘッダ画像 / T-Pablow「Super Saiyan1 The EP」ジャケット

やはり引用機会が多い主人公

主人公である孫悟空は、やはりリリックにも引用される機会が多い。強くなるためにひたすら修行を続ける悟空の姿は、大量の曲を制作し続けるアメリカのラッパーたちの姿と重なる部分もあり、姿勢の部分でも影響を与えているのかもしれない。そんな悟空ネタのリリックをいくつか紹介する。

RZA「Must Be Bobby」

Wu-Tang ClanのRZAは、2009年に刊行した著書「The Tao of Wu」でドラゴンボールZのストーリーとアメリカの黒人男性の経験の共通点を指摘している。そんなRZAはリリックにドラゴンボールネタを入れるのも比較的早かった。2001年のアルバム「Digital Bullet」に収録されたこの曲では、「Sit in the sun six hours then I charge up like Goku(太陽の下に6時間座り、ドラゴンボールZの悟空のように力をチャージする)とラップしている。カンフー好きのRZAらしい、ドラゴンボールの「修行」と「成長」の側面に着目したラインだ。

Soulja Boy「Goku」

トレンドセッター、ソウルジャ・ボーイはやはりドラゴンボールネタを入れるのも早かった。タイトルに悟空を冠したこの曲が発表されたのは2010年。「Bitch I look like Goku(ビッチ、俺はまるで悟空みたいだろ)」「Super Saiyan swagger(スーパーサイヤ人スワッガー)」など多くのラインが飛び出す、まるでドラゴンボールネタのバーゲンセールのような曲となっている。なお、この2010年前後はドラゴンボールに限らずアニメ関連のサンプリングやリリックが増えていた時期だ。ドラゴンボールネタもやはりこの頃から増加している。

mgk「Wild Boy(feat. Waka Flocka Flame)」

マシン・ガン・ケリーことmgkが2010年に放った名曲。シングル「Hard in da Paint」のヒットで当時勢いに乗っていた、ワカ・フロッカ・フレイムとそのプロデューサーのレックス・ルーガーのコンビを迎えて制作されたパワフルな曲だ。この曲ではワカ・フロッカ・フレイムが「Suck my dragon balls, bitch, call me Goku(俺のドラゴンボールをしゃぶれ、ビッチ、俺を悟空と呼べ)」といくらなんでもワイルドボーイすぎるリリックを披露している。絶対に筋斗雲には乗れない。

Dreamville, Bas & JID「Costa Rica(feat. Mez, Buddy, Jace, Reese LAFLARE, Ski Mask the Slump God, Smokepurpp & Guapdad 4000)」

J・コール率いるレーベル、ドリームヴィルが2019年にリリースしたアルバム「Revenge Of The Dreamers III」」に収録。外部からの客演も多く迎えてセルフボーストを繰り広げるマイクリレー系の曲で、客演のスキー・マスク・ザ・スランプ・ゴッドが「I feel like Goku, bitch, I need your energy(まるで悟空みたいな気分だ、ビッチ、お前のエネルギーが必要だ)」とラップしている。ライブの熱狂を元気玉の気集めに見立てた名ラインだ。

定番トピックとなった超サイヤ人

超サイヤ人はラップにおける定番のトピックの1つだ。先述した通りヒップホップにおけるドラゴンボール人気の理由は、自分のルーツを知らずに育った悟空がそれを知って覚醒するというストーリーにある。超人化したラッパーたちの名パンチラインを紹介する。

Earl Sweatshirt「Kill」

現行ブーンバップシーンをリードするラッパーの1人、アール・スウェットシャツのデビューミックステープ「Earl」より。オッド・フューチャーの正式名称がオッド・フューチャー・ウルフ・ギャング・キル・ゼム・オールだったことを再確認できるようなダークで攻撃的な1曲で、アールは自身を「Super Saiyan with ruthless slayings(無慈悲な殺戮を行う超サイヤ人)」に見立てたバトルライムを聴かせる。サイヤ人の凶暴さから生まれたラインだ。

Childish Gambino「My Shine」

俳優としての活動やオルタナティブな音楽性で知られるチャイルディッシュ・ガンビーノだが、ラッパーとしてのキャリア初期はダブルミーニングを巧みに用いたパンチライン職人として高い評価を集めた。この曲では「Everything I'm sayin', I'm super sayin' like Goku(俺が言うことは全部、悟空みたいに超言っている)」とラップしている。「Saiyan」の発音が「sayin(言う)」と近いことから紡いだスーパーなパンチラインだ。

Big Sean「Paradise」

チャイルディッシュ・ガンビーノと同時期に登場し、やはりパンチライン職人として人気を集めたビッグ・ショーン。2015年のアルバム「Dark Sky Paradise」に収録されたこの曲では、「I hit the booth and I just went Super Saiyan(ブースに行って超サイヤ人に変身)」というラインがすさまじい切れ味で飛び出す。ここで聴かせる超人的ラップスキルはまさに超サイヤ人だ。

あの地球人のように

悟空とともに修業した親友であるクリリンは、やはりラッパーのリリックにもよく登場する。悟空とは違い超人化せず、努力のみで地球人最強となった男はどんな文脈でメタファーとして使われているのか見ていこう。

Chance the Rapper「Blessings(feat. Jamila Woods)」

BLMや娘の誕生に言及したチャンス・ザ・ラッパーの名曲。ここでは「Dying laughing with Krillin saying something ‘bout blonde hair. Jesus' black life ain't matter, I know, I talked to his daddy(クリリンとともに金髪がどうのと言いながら笑って死んでいく。黒人のジーザスの命は重要じゃない、わかっている。彼の父と話した)」とラップしている。作中で何回も命を落としているクリリンをBLM運動と接続するようなラインだ。

Offset「Made Man」

Mike WiLL Made-It「Hasselhoff(feat. Lil Yachty)」

この2曲は同じ文脈でクリリンの名前が登場する。オフセットは「Laser, beam on your head like Krillin(レーザー、ビームがクリリンみたいにお前の頭を狙っている)」、リル・ヨッティは「Put red dots on his head like his name was Krillin'(ヤツの名前がクリリンだったみたいに、赤い点をヤツの頭を合わせる)」とラップしており、クリリンの頭にある赤い点を狙撃のレーザーサイトに見立てている。

悟空の仲間たちと血縁者

シリーズ1作目から関わるヤムチャや亀仙人、サイヤ人のベジータなど、悟空にはクリリン以外にも多くの仲間がいる。また、悟飯や悟天といった血縁者たちも悟空譲りの戦士として実力を発揮。彼らはラッパーたちのリリックでも活躍してきた。

Joey Bada$$「Christ Conscious」

ジョーイ・バダスが2015年にリリースしたアルバム「B4.DA.$$」に収録。セルフボースト系のこの曲では、「Got dragon balls like my name was Vegeta(俺の名前がベジータだったみたいにドラゴンボールを持っている)」とラップしている。ここでのドラゴンボールは恐らくワカ・フロッカ・フレイムが言うそれと同じ文脈だ。なお、このラインは過去のフリースタイルからのセルフ引用となる。余程気に入っているラインなのだろう。

Kodak Black「Why You Always Gotta Be」

コダック・ブラックはこの曲で、「I'm runnin' with my Z like my name Gohan(俺の名前が悟飯みたいにZを仕切っている)」というラインを披露している。「Z」とはコダック・ブラックの地元であるフロリダを拠点に置くハイチ系ギャング「Zoe Pound」の頭文字で、「その中心にいるのが俺だ」とボス感をアピールしているのだ。「ドラゴンボール“Z”」の部分に着目し、第二の主人公である悟飯に自身を重ねた名パンチライン。

JPEGMAFIA, Danny Brown「Steppa Pig」

曲者2人の個性が見事なフュージョンを聴かせるアルバム「SCARING THE HOES」より。ジェイペグマフィアはここで「Bet if I let off these shots, no games, you finna just dance like Gotenks(俺がここで撃つか賭けてみろよ、ゲームなしだぜ、お前は最終的にまるでゴテンクスのように踊るようになる)」とラップしている。物騒でありながらユーモラスな味のある巧みなラインだ。

個性豊かなヴィランたちが生んだユニークな表現

フリーザや魔人ブウ、セルといった悪役たちも主人公サイドに劣らず魅力的で濃いキャラクターがそろっている。個性派ヴィランたちはメタファーとしてもおいしい存在であり、多くのユニークな表現を生んできた。その一部を紹介していく。

Danny Brown「Handstand」

ダニー・ブラウンの2013年作「Old」より。「Smoking on that Frieza, nigga, got a nigga amnesia, nigga(フリーザを吸って記憶喪失)」と、ハイになりすぎて記憶を失う様子を惑星ベジータを消滅させたフリーザに例えている。なお、ダニー・ブラウンは2010年に発表した曲「Shootin' Moves」では「Smoking on some Goku, buds like Dragon Balls(悟空を吸う、ドラゴンボールみたいなバッズ)」とラップしており、ドラゴンボールキャラクターを吸うのが好きなようだ。

IDK「MORAL(feat. Maxo Kream)」

IDKが2018年にリリースしたEP「IDK & FRIENDS :)」に収録。ここではIDKが「Pretty pussy pink and it's fat, it look like Majin Buu(ピンク色でファットなかわいいプッシー、まるで魔人ブウみたい)」と衝撃的なリリックを披露している。なお、魔人ブウの「ピンク色」に着目したラインはほかにもフランク・オーシャンやドレイコ・ザ・ルーラーなどの曲で登場する。魔人ブウはピンク色の代表なのかもしれない。

Denzel Curry「ZUU」

魔人ブウネタをもう1つ。この曲のフックではシンガーのトゥエルヴ・レンが「M's all on my belt, I'm feelin' like I'm Majin Buu(ベルトに付いているものは7桁の金額のものでいっぱい、まるで魔人ブウになったみたいな気分)」と歌い上げている。「Million(100万)」を「M」と略すことで、「M」と書かれたベルトを着用している魔人ブウとつなげるユニークなラインだ。初めて聴いたときに思わず魔人ブウの画像を検索し直したリスナーも多いだろう。

Trippie Redd「Super Cell」

曲名にもなっているセルに関するラインはフックの「she sucked them Dragon Balls (Z), bitch, I feel like Cell (彼女はドラゴンボールをしゃぶる、ビッチ、セルみたいな気分)」の部分。「cell(独房)」とかけたラインもいくつか残している。しかし、この曲もドラゴンボールネタのバーゲンセール状態で、セル以外にも悟空やクリリン、フリーザなどの固有名詞が大量に聞こえてくる。作品への愛あふれる1曲だ。

キャラクター名だけではなく技名やアイテム名もたびたび引用

キャラクター名だけではなく、かめはめ波や元気玉といった技名、仙豆のようなアイテム名が登場するリリックもたびたび確認できる。なんとなくの知識で引用するのではなく、本当にドラゴンボールに親しんできたラッパーが多くいるということだろう。ラッパーたちが使いこなす「ドラゴンボールネタ」という技の威力を味わってみよう。

Domo Genesis「SS4」

タイトルの「SS4」は「Super Saiyan 4」の略。ドラゴンボールネタ満載のこの曲では、「Popping Senzu beans till I go unconscious(意識を失うまで仙豆を食う)」、「Too powered up for the scouter shit to read us(スカウターで俺らを測るにはパワーアップしすぎた)」などのラインが次々と飛び出す。ドラゴンボールとセルフボーストの相性のよさが感じられる1曲だ。

Tee Grizzley「Beef(feat. Meek Mill)」

ティー・グリズリーとミーク・ミルというハードなラッパー2人によるコラボ曲。この曲ではティー・グリズリーが「Blue beam on that choppa Kamehameh. I throw them dragon balls at you like I'm Kakarot(このショットガンかめはめ波の青いビーム。カカロットみたいにお前にドラゴンボールをお見舞いしてやる)」と、ショットガンをかめはめ波に、銃弾をドラゴンボールに見立ててビーフ相手を追い込んでいる。

BAD HOP「I Feel Like Goku(feat. T-Pablow, Vingo & G-k.i.d)」

最後に国内での例を。T-Pablowの「Super Saiyan1 The EP」というタイトルそのままなEPが初出で、のちにBAD HOPのアルバム「Mobb Life」にも収録されたこの曲では、悟空をはじめとするドラゴンボールネタ満載のリリックが楽しめる。中でも特筆すべきはフックでの「俺らはGoku 筋斗雲呼ぶ必要ねぇだって俺らビートに乗る」。サイヤ人編以降は出番が少なくなった筋斗雲の名前を出すことで、巧みに自分たちを超サイヤ人と重ね合わせている。

ACE COOL「EYDAY」

そのほかにも悟空を名乗るGOODMOODGOKUのようなラッパーの活躍、Elle Teresa「Bulma」SEEDA「Sai Bai Man」などさまざまな曲でドラゴンボールと国内ヒップホップの関係を見ることができる。ACE COOLのこの曲では、「奴ら寝てる間にやってる。時計の針も超越すくらい。精神と時の部屋みたい」とのラインが登場。ストイックな姿勢を圧倒的なスキルで迫力たっぷりにラップする様には、まさに精神と時の部屋での修業を終えたような凄味が宿っている。

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1984年に連載を開始したドラゴンボールは、その後アニメ化されて1995年にアメリカでも放送。そこからそのストーリーがアフリカ系アメリカ人の心を捉え、ヒップホップ史も彩ってきた。ここまで引用機会が多い作品は、ほかには映画「スカーフェイス」くらいだろう。鳥山明氏は惜しくもこの世を去ったが、彼が残した作品はこれからも多くのラッパーをインスパイアし、また新たな名曲を生み出していくに違いない。そう思うと、オラ、ワクワクすっぞ。

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