YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週刊連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで3月22日から3月28日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、18位にILLITのデビューミニアルバム「SUPER REAL ME」の収録曲「Magnetic」がランクインした。LE SSERAFIM、NewJeansに続くHYBE所属の3組目のガールズグループということで世界的に注目されているILLIT。今回の集計ではこの順位だが、MV公開から10日が経った4月5日時点で2460万回再生を突破する勢いを見せており、次週はさらに順位を上げるだろう。
31位には日向坂46の「君はハニーデュー」が登場した。11枚目シングルにして初めて選抜制度が導入されて、四期生の正源司陽子がセンターを務めたこの曲。作曲を担当したのは日向坂46の「キュン」「ドレミソラシド」でもお馴染みの野村陽一郎だ。振付で「キュン」「アザトカワイイ」「君しか勝たん」「ってか」「One choice」「Am I ready?」「君は0から1になれ」など過去曲の特徴的なダンスを踏襲しているのもポイント。フォーメーション、振付を含めて日向坂46の新章を感じる楽曲となっている。
35位は現在公開中の映画「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」で主演声優を務めた2人がタッグを組んだ、ano feat. 幾田りらの「絶絶絶絶対聖域」がランクインした。作詞はあの、作曲はTK from 凛として時雨が担当しており、終末感あふれるオルタナティブな楽曲となっている。「デデデデストラクション」「デデデデシクレイション」とそれぞれがシャウトをする場面は、聴いているこちらに迫ってくるような迫力があってカッコよかった。また、語りかけるように柔らかく歌唱するユニゾンのパートでは、2人の歌声が見事に調和していて、今回のコラボだからこそ見れるanoと幾田のボーカリストとしての魅力を堪能できる。
36位にランクインしたMAZZELの「ICE feat. REIKO」は、彼らにとって初めてゲストボーカルを迎えた楽曲だ。とにかく1曲通して大人な色気のある歌声を堪能できる。要所要所で入るジャジーなピアノが、より楽曲の大人っぽい雰囲気を深めている。
47位にはMARETUの「ビノミ」が初登場した。MARETU が2月18日にX(Twitter)で「次回作は明るい曲になりそうです」とポストした通り、1曲を通してオペラのようなコーラスとエレポップ風のサウンドによって力強さと明るさが感じられるのだが、一方でその歌詞は「血管蕎麦大盛り爪散らし」「骨端線固ゆで味噌炒め」「肉眼串潮焼き涙漬け」と非常に猟奇的。強烈フレーズをポップな高音で歌うところに恐怖を覚える、一癖も二癖もある楽曲だ。
人気アーティストが共演を果たした楽曲が目立った今週は、下記の3曲をピックアップ。
ME:I「Click」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場3位
JO1、INIを輩出したサバイバルオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN」の初となる女性版「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」から誕生した、11人ガールズグループ・ME:I。4月17日にリリースされる彼女たちのデビューシングル「MIRAI」のリード曲が、初登場3位にランクインした。Creepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」および同曲のTHE FIRST TAKE出演映像に次ぐ順位だ。
明るく透明感のあるウワモノと細かく刻んだリズムで始まり、重たいビートのラップパート、ダンスのみのパートなど、1曲でさまざまな表情を覗かせる構成のこの曲。K-POPのような洗練されたサウンドでありつつ、一方でどこか日本的なセンスも見られ、非常に独特なバランスを持った楽曲となっている。MVではピンクや白を基調にした、かわいらしくも近未来的な雰囲気の世界で、各メンバーがハイレベルなパフォーマンスを見せている。
なお、「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」に練習生として出演したが惜しくもME:Iとしてのデビューを逃した会田凛、釼持菜乃、 田中優希、坂口梨乃も、ME:Iと同じLAPONE GIRLSに所属されることが発表された。ME:Iと同様に、この4人の今後の動向にも注目したい。
星街すいせい「ビビデバ」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場5位
「フォニイ」などを手がけたボカロP / シンガーソングライターのツミキが作詞・作曲・編曲を手がけた「ビビデバ」は、グリム童話「シンデレラ」の世界観を彷彿とさせる歌詞と合わせて、星街すいせいの伸びやかな歌声とリズミカルな節回しを堪能できる中毒性の高いダンスナンバーだ。
楽曲の魅力もさることながら大きな話題を呼んでいるのが、二次元と三次元それぞれの登場人物がワンカット撮影された映像内でやり取りをするという、斬新な映像表現のMVだ。映像のディレクションを担当したのは、TOOBOEの「錠剤」、ずっと真夜中でいいのに。の「猫リセット」など数多くの人気アーティストのMVを手がけ、最近はYouTubeチャンネル「META TAXI」でも知られている映像制作ユニット・擬態するメタ。
個人的には、監督と星街すいせいが台本とガラスの靴を投げ合うやり取りがコミカルでかわいいと感じたし、ラストにアニメのドレスから実写の衣装に着替えての、顔だけ二次元という状態での思わず真似をしたくなるダンスに心をつかまれた。それと二次元キャラクターたちが実写映像の中で生き生きと動いている様子を観て、バッグス・バニーとプロバスケットボール選手のマイケル・ジョーダンが夢の共演を果たした映画「スペース・ジャム」(1997年公開)を思い出して、どこか懐かしい気持ちになった。
宝鐘マリン「愛 罠 be ジャンキー」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場55位
FAKE TYPE.のDYES IWASAKIがX(Twitter)で「愛 罠 be ジャンキーは僕のオリジナル曲で、宝鐘マリンさんをイメージして好き勝手に作った楽曲とMVになります…! 僕が宝鐘マリンさんのオリ曲を作ったらこうなるんじゃないか…?なんて妄想しながら作ってました!」とポストした通り、この曲は以前から宝鐘マリンのファンだったDYSEが彼女をイメージして作った楽曲だ。そのイメージを徹底するためにDYSEは、作詞を担当したbizやMVのイラストを手がけた中山敦支にも「宝鐘マリンさんに歌ってほしい楽曲なんです」と説明。そこから楽曲とMVが形になった状態でDYSE自らが彼女の所属するホロライブプロダクションに問い合わせたところ、宝鐘マリンが歌唱することになった。このエピソードはDYESのYouTubeチャンネルで公開されている動画「DYES IWASAKI Live Stream ~ボカロ3作目投稿したお!雑談放送~」で聞くことができる。
トラックは、エレクトロスウィングとケルト音楽を融合させた個性的なサウンド。北欧の笛の奏者であるぱとりが一部作曲を担当し、5弦フィドル、ティンホイッスル、ローホイッスルを演奏している。ボーカルは「ほら 愛してみなさいよ guys」や「最上級のあたし ほら見せてあげる」といった強気な魔性の言葉を“かわいさ”と“凛々しさ”を内包した声色で歌い上げており、それが楽曲の世界観や宝鐘マリンのキャラクターと抜群にハマっている。