折坂悠太のワンマンツアー「折坂悠太 ツアー2024 あいず」の最終公演が4月26日に東京・Spotify O-EASTにて行われた
重奏編成や弾き語りを経てのバンド編成ツアー
ここ数年の折坂は「折坂悠太単独公演2021<<<うつつ>>>」、2021年のホールツアー「心理ツアー」、2022年のツアー「オープン・バーン」と、カレー作りや影絵を取り入れたコンセプチュアルなライブを重奏編成で展開。翻って昨年秋には“独奏”ツアー「折坂悠太 らいど 2023」を行い、ギター1本で“歌”にすべてを託すかのようなシンプルな形のライブを繰り広げた。それらの公演を経て、今回折坂はsenoo ricky(Dr)、宮田あずみ(Cb)、山内弘太(G)とともにバンド編成でのツアーを開催。この季節に合う春らしい楽曲群に新曲を織り混ぜながら、バンドの作り出すアンサンブルに揺らぎのある歌声を乗せていった。
「厳選してお送りしようかなと」
マーヴィン・ゲイやサム・クックといったソウルミュージシャンの名曲が流れる中、開演時刻を迎えると客電が消灯。暗くなったステージのスクリーンに映像が映し出される。ろうそくが灯った部屋にぼんやりと浮かび上がるシルエット。遠くからは波の音が聴こえる。波の音にはやがて人々の喧騒やノイズが混じり、徐々に混沌とした世界が広がっていく。そのまま映像が流れ続け、しばらく経ったところで折坂とバンドメンバーが舞台に登場。「道」でライブの幕を開け、バンド編成ならではの無骨な音を響かせる。民謡のテイストを取り入れた「犬ふぐり」では、橙色の照明に染まったステージから、しなやかな歌声が届けられた。
折坂は「春はいろいろ生活も変わって、仕事を始めたり仕事を辞めたり、出会いがあったり別れがあったり、特に何もないということ自体にざわざわしていたりとか、何かしら春の嵐に乱されるものですけども。何も解決しないけど、なるべく楽しく健やかにやり過ごしてやろうという気持ちで、数ある曲の中から厳選してお送りしようかなと」と語り、「人人」を披露。洗練されたサウンドでオーディエンスの体を優しく揺らし、「あけぼの」では独特の艶を持った歌声を会場全体に染み入らせるようにじっくりと聴かせた。「私が書く歌は『知ってるよ』っていうことしかないんですよね。『知ってる、知ってる』っていう。新しい曲を作って、それも『知ってるよ』っていう歌だと思います」という言葉に続けて披露されたのは、新曲「スペル」。曲が進むにつれてサウンドはどんどん熱を帯びていき、アウトロでは山内がギターを歪ませたのを合図に演奏がいっそう激しくなる。曲が終わるとともに、客席からは感嘆の声と拍手があふれ出た。
生まれ変わった「春」
「夜香木」「凪」の演奏後、折坂はステージ中央に座り込む。そんな中3人はギターとコントラバス、パーカッションで異国情緒あふれる空気を作り出した。その後も、フロアにハンドクラップが巻き起こった「針の穴」、折坂がマンドリンを演奏した「さびしさ」など、多彩なパフォーマンスを展開する4人。ライブ終盤では折坂が「あー、楽しかったです」と率直な感想をこぼしつつ「全員残らずまたすぐ会える気がします。なんとかやり過ごしましょう」と語り、「鶫」を伸びやかに歌唱した。ラストの「飛んでゆく 次の春へ」というフレーズとリンクするかのように、本編最後に披露されたのは「春」。原曲から大幅に生まれ変わった、バンド編成ならではの軽やかなサウンドが届けられ、儚くもさわやかな空気の中で本編が締めくくられた。
アンコールの拍手を受けて再登場した折坂は、6月26日に4thアルバム「呪文」をリリースすること、9月から10月にかけてホールツアー「呪文ツアー」を開催することを発表した。そして最後にアルバムから新曲「ハチス」をパフォーマンス。開場BGMとも通じるようなニューソウル色の濃い甘くメロウなサウンドに「きみのいる世界を『好き』って ぼくは思っているよ 昔とちがう風の中で」という言葉を乗せていく。そして中盤に突如挟み込まれるポエトリーリーディングでは「何か望むなら 全ての子供を守ること 全ての 全ての子供を守ること」といった言葉が紡がれた。演奏後、折坂は観客からの拍手喝采を浴びながら「よい春を」とひと言告げて舞台を去って行った。
セットリスト
「折坂悠太 ツアー2024 あいず」2024年4月26日 Spotify O-EAST
01. 道
02. 犬ふぐり
03. 人人
04. あけぼの
05. トーチ
06. スペル
07. 夜香木
08. 凪
09. 抱擁
10. 針の穴
11. 努努
12. さびしさ
13. 正気
14. 鶫
15. 春
<アンコール>
16. ハチス