YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週刊連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで5月31日から6月6日にかけて集計されたミュージックビデオランキング、および急上昇ランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、9位にSixTONESの「GONG」がランクイン。この曲はメンバーの田中樹が出演する日本テレビ系日曜ドラマ「ACMA:GAME アクマゲーム」の挿入歌で、MV公開から10日間で500万回再生を突破した。
12位には1995年にリリースされたWANDSの名曲「世界が終るまでは…」を、3代目ボーカリストの上原大史とオリジナルメンバーのギタリスト柴崎浩が一発撮りでパフォーマンスした「THE FIRST TAKE」の映像が登場。原曲のニュアンスを踏襲しつつ、上原の迫力あるしゃがれたワイルドな声によって、今の第5期WANDSの楽曲として見事に昇華している。
14位はSTARTO ENTERTAINMENTに所属するNEWS、SUPER EIGHT、KAT-TUN、Hey! Say! JUMP、Kis-My-Ft2、timelesz、A.B.C-Z、WEST.、King & Prince、SixTONES、Snow Man、なにわ男子、Travis Japan、Aぇ! groupの14組75名が参加したプロジェクト、STARTO for youによる能登半島地震被災者へのチャリティソング「WE ARE」。YouTubeのコメント欄には、今もなお被災している人々の「この曲を作ってくれて素直にうれしいし、すごく元気をもらえます」「前を向く力になります」という書き込みや、「被災者とタレントの皆様には元気で笑顔でいてほしい」という、楽曲を通して被災者が幸せになることを願う声が多かった。
25位は櫻坂46の「自業自得」がランクイン。センターを務めた山下瞳月をはじめ、各メンバーの多彩な表情や、ダンススキルが堪能できる映像になっている。
27位にはコムドットのメジャーデビュー曲「拝啓、俺たちへ」が登場した。楽曲だけでなく映像からも5人の絆や青春が伝わってくる。視聴者の間で「このMVの3分49秒の中にコムドットのすべてが詰まっている」と話題だ。
28位にはAdoの「MIRROR」が登場。なとりが楽曲提供した落ち着いた雰囲気のジャジーなナンバーで、冒頭からベースの心地よさに魅了される。力を入れすぎず、かといって軽やかに歌いすぎないAdoのボーカルが絶妙だ。
豪華メンバーによるチャリティソング、歴史のあるバンドの名曲や人気YouTuberのデビュー曲など、幅広い楽曲が並んだ今週は下記3曲をピックアップ。
DJ SHACHO「Waiting for You in Bali island」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場26位
Repezen FoxxのリーダーであるDJ社長は、2023年12月23日に開催されたグループのファンイベントと、4日後の27日に行われた単独イベント「絶対に親・恋人と行けるバチぼこ綺麗なライブ in ぴあアリーナ」を欠席し、そのまま失踪して消息がわからなくなっていた。Repezen Foxxからはその後、 3月31日にDJ銀太、5月19日にDJまるが脱退を発表。メンバーがグループを抜けるたびに、DJ社長は自身のYouTube公式チャンネルを更新し、彼らへのディスソングを公開した。
今回ウィークリランキング26位になった「Waiting for You in Bali island」はDJまるへのディスソング。4月に公開されたDJ銀太へのディス曲「And I'm waiting for you too」は曲調もリリックもシリアスな雰囲気だったのに対して、今回は底抜けに明るくテンションの高さが際立っている。
「Waiting for You in Bali island」でDJ社長は、DJまるがRepezen Foxxを辞めた経緯について、流れるようなフロウの高速ラップで告発。あくまでDJ社長の見解であり片方の言い分だけを鵜呑みにするべきではないが、楽曲としてのクオリティが妙に高いことから、歌っていることが事実か否かは差し置いて「純粋に曲として好き」という反応が多く、また耳に残るキャッチーさがあるため、元メンバーをボロクソに叩く曲でありながら「聴いていると元気になる」という声も上がっている。
サビでは勢い余ってDJ社長が、バツ3で最近4回目の結婚をしており、来月5人目の子供が生まれるという自身のプライベートも暴露。ちなみにこの件について彼は6月6日に公開した「お久しぶりです、DJ SHACHOです。」という動画で真実だと語り、「4回目の結婚は本当に好きな人とした。自分のことを一夫多妻と勘違いしていたけど、ただそれまで本気で人を好きになったことがなかったんだなと気付けた。5回目の結婚はたぶんない」と説明している。
なおDJ社長は、6月6日にインドネシアのEDMフェス「ULTRA Beach Bali 2024」にDJとしてソロで出演し復帰。6月8日に福岡・みずほPayPayドーム福岡で行われた音楽フェス「MUSIC CIRCUS FUKUOKA」にてRepezen Foxxの3人体制での初ライブを行い、ひさびさに日本のファンの前に現れたDJ社長は、床に頭を付けて土下座で観客に謝罪した。
DJ銀太は脱退と同時にGINTAに改名し、ソロでの音楽活動をスタートさせている。Repezen Foxxと脱退した2人がこれからどんな活動を展開していくのか、今後も気になるところだ。
HiHi Jets「Mrs.Flamingo」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場49位
3月にHiHi Jets がぴあアリーナMMで開催したライブ「HiHi Jets Arena Tour 2024 BINGO」で初披露された、橋本涼、高橋優斗、作間龍斗のユニットによるフラメンコ曲「Mrs.Flamingo」のライブ映像が49位に登場した。同公演からは「TODAY」の映像も先に公開されており、こちらは今週71位にランクインしている。
「TODAY」は5人がクールな表情のまま激しいダンスを繰り広げるという、全体的にカッコよさが際立っているパフォーマンスなのだが、「Mrs.Flamingo」は対照的な雰囲気だ。全身フラミンゴの衣装に身を包んだ3人が歌い踊るそのビジュアルは、とにかくファンシーな印象が強い。ポイントは、首を高く上げたまま翼を広げて前後に動かす「敬礼」や、そろって同じ方向に進む「後進」など、実際のフラミンゴの動きを取り入れているところ。高橋が作間に哺乳瓶でいちごオレを飲ませるラストシーンは、フラミンゴがヒナに口移しで与える赤い母乳「フラミンゴミルク」とフラメンコの掛け声「オレ」をかけたものだろう。こういう小ネタについて調べることで、フラミンゴの生態に詳しくなるファンが続出している。
アイドルソング、特にSTARTO所属アーティストの曲の中には、本人たちはいたって真剣に歌っているが歌詞などが意味不明なため、愛を込めて“トンチキソング”と呼ばれているものがある。「Mrs.Flamingo」に関してはファンの間で「心から真剣に歌う感じがまさに正統なトンチキソング」「近年稀に見るトンチキ」「トンチキソングの新たな歴史が刻まれた」と歓迎されている一方で、「見た目のインパクトは強いが、変なフレーズもなく、曲だけ聴けばストレートにいい曲なのでトンチキソングではない」という意見も出ており、そんな批評性の高さもこの曲の魅力になっているのだろう。
マサラダ「(ム)責任集合体」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場99位
1年前の2023年6月にボカロPとしての活動を開始したマサラダは、初めて投稿したボカロ曲「ライアーダンサー」のMVがYouTubeにて現時点で600万再生を超える大ヒット。ボカロリスナーの間で「楽曲に込められた意味を深く知りたい考察班も、単純に腕を振って踊りたい人も楽しめる快作」と1作目にして高い評価を得た。
その後に発表した「ちっちゃな私」と「ウルトラトレーラー」も含め、すべてのMVがニコニコ動画でミリオンを突破。今、破竹の勢いを見せているマサラダが、新たに発表した楽曲が「(ム)責任集合体」だ。
この曲はおそらく、SNSで誹謗中傷する人たちを歌っているのだろう。「おれは しらない / なにも しらない」や「わたしたち ぜったいにみてません!! / いってません! きいてません!」などのフレーズは、誹謗中傷が大きな問題に発展すると急に「自分は関与していない」と無責任になる様を見事な筆致で描いているように見える。そんなネット社会の風刺を感じさせる歌詞を、軽快なトラックに乗せて何度も聴きたくなる中毒性の高い曲に仕上げるマサラダ。そのソングライターとしての才能を堪能できる1曲だ。
※高橋優斗の「高」ははしご高が正式表記。