Orangestarのワンマンライブツアー「Orangestar ONEMAN LIVE "And So Henceforth," Tour」が7月19日に東京・東京ガーデンシアターで最終日を迎えた。東名阪で行われた公演のうち、この記事ではファイナル公演の模様をレポートする。
会場に満ちるノスタルジックな夏のムード
開演前の場内には、客入れBGMとして風鈴や鳥のさえずり、虫の音といったオーガニックなサウンドエフェクトが穏やかに響いていた。これまでのOrangestarのワンマンライブと同様の演出ではあるが、ちょうど学校が夏休みに入るシーズンということもあり、会場には気だるくもノスタルジックな夏のムードがゆるやかに充満していく。一般的なライブ興行においてよく使われる既存曲BGMとはひと味違った“隙間”の多い音像によって、開演を待ち侘びるオーディエンスの期待感に満ちたざわめきもより存在感が強調され、あたかも1学期最後のホームルームを控えた教室を想起させる空気感が、東京ガーデンシアターの広大な客席を包み込んでいた。
開演時刻を少し過ぎた頃、ふいに照明が暗転し、薄暗いステージにバンドメンバーを含む演者陣がスタンバイ。客席から盛大な歓迎の拍手が巻き起こると、清涼感のある雨音のSEに導かれるようにエレキギターのアルペジオが鳴り響き、それに追従してディレイがたっぷりとかかった甘いディストーションギターのリードフレーズが重なる。そこにベース、ドラムも加わってシューゲイズライクな轟音のギターサウンドが会場を飲み込んでいくと、やがてシームレスに「快晴」のイントロへ。オーディエンスの大歓声とハイボルテージな「オイ! オイ!」コールを呼び込んだ。
会場を揺るがすようなオーディエンスの大合唱
この日のステージメンバーはOrangestar(Vo, G)と夏背(Vo)に加え、pino(B)、遼遼(Vo, G)、もやし(G)、きこり(G)、初穂(Dr)、ナサガシ(Key)の総勢8人。Orangestar本人のアコギも含めるとギター4人体制というなかなかに珍しい布陣だ。“ウォールオブサウンド”的なギターポップに強いこだわりを持つOrangestarならではの座組と言っていいだろう。彼らはオープニングナンバーの「快晴」に続いて「白南風」「Surges」と、最新アルバム「And So Henceforth,」の収録曲を中心に次々と畳みかけていき、夏背の常人離れした高音域ボーカル、Orangestarと夏背によるハイトーンオクターブユニゾンなどのユニークスキルを惜しみなく披露して序盤から聴衆を圧倒。会場に駆けつけた約8000人の心を瞬時に鷲づかみにした。
MCでは、「2年ぶりですね。ここ東京ガーデンシアターでまたライブができてとてもうれしいです。皆さん集まってくださって本当にありがとうございます」と持ち前の控えめな口調で呼びかけたOrangestar。前回の東京ガーデンシアター公演ではコロナ禍の影響で観客の声出しが規制されていたことに触れ、「皆さんの声が聞けてうれしいです。やりやすいです」と喜んだ彼は「せっかく声出しができるので、次の曲ではコール&レスポンスみたいなことをやろうと思ってます」とこのあとのライブのプランを明かす。「最後のサビで『あぁ!夏を今もう一回』という歌詞があって……」と言いかけた瞬間に客席からは大きな歓声が上がり、その言葉通りに「Henceforth」が披露されると、間奏明けのブレイクで会場を揺るがすようなオーディエンスの大合唱がステージに届けられた。
巨大な紗幕を使った演出や新曲の披露
ライブはその後「心象蜃気楼」「Nadir」のような過去曲も交えつつ、息をもつかせぬ展開で進行。アグレッシブなギターリフで幕を開ける「Aloud」ではハイテンションなスラップベースソロやタッピングをフィーチャーしたギターソロも飛び出し、バンド陣のテクニカルな演奏に客席が大いに沸く。そしてライブ中盤では突如として巨大な紗幕がステージ全体を覆いつくし、ノスタルジックなイラストが代わる代わる大写しになる中でボーカロイド音声のボーカルと打ち込みトラックとともに「Pier」が届けられた。続く「Alice in 冷凍庫」はバンドの生演奏とボーカロイド音声を組み合わせるスタイルで披露され、メンバーの演奏する姿をシルエットで浮かび上がらせるクールな演出でのメンバー紹介も。紗幕が落とされて再びステージ上の様子があらわになると、8人は「Uz」を投下して存分にフロアを踊り狂わせる。「ノクティルーカ」ではOrangestar、夏背、遼遼による調和のとれた3声ハーモニーが披露された。
「あー楽しい!」との言葉が思わず口をついた夏背は、pinoとともにレコーディング合宿の思い出を語り始める。静岡・伊豆のスタジオで「ノクティルーカ」の録音を行ったエピソードを明かし、その音源が本公演のグッズとして販売されているCDに収録されていることを説明。そしてOrangestarの口からそのCDに収められている新曲「Postscript」が披露されることが告げられると、「アルバム『And So Henceforth,』の13曲目というイメージで作った」という鋭利で爽快なギターポップナンバーからライブはラストスパートへと突入した。
Orangestarの楽曲には比較的珍しいマイナーチューン「残灯花火」「濫觴生命」や、大量のシャボン玉演出とともにピアノとアコースティックギターによるミニマルな編成で届けられた童謡テイストの「回る空うさぎ」を経て、本編ラストに披露されたのは「アスノヨゾラ哨戒班」。同曲の演奏前には、Orangestarが「次の曲で終わっちゃうんですけど、そのあともまだ何曲か用意しているので……」と口走り、暗黙の了解であるはずのアンコールの準備があることを明言するひと幕も。彼は「よかったら最後まで残って楽しんでいってください」と呼びかけ、聴衆の爆笑を誘った。
その言葉通り、Orangestarはアンコールで「空奏列車」「シンクロナイザー」「八十八鍵の宇宙」「DAYBREAK FRONTLINE」という4曲をたっぷりと披露。客席からひときわ大きなコールや合唱が届けられ、ステージ上の8人も晴れ晴れとした表情で音を紡いでいく。ラストにはこの幸福なひとときが終わってしまう寂しさから遼が涙を見せるシーンもあり、アットホームなムードに満ち満ちた中で約2時間のステージはその幕を下ろした。
なお、Orangestarはライブ翌日の7月20日に会場限定販売のCDと同内容の「Postscript - EP」を配信リリースした。本作には既発曲「Aloud」「白南風」「ノクティルーカ」に新曲「Postscript」を加えた計4曲を収録。「Postscript」はボーカロイドバージョン、既発の3曲はOrangestar、夏背、遼遼による歌唱バージョンが収められている。
セットリスト
「Orangestar ONEMAN LIVE "And So Henceforth," Tour」2024年7月19日 東京ガーデンシアター
01. Intro ~ 快晴
02. 滑走
03. 白南風
04. Surges
05. Henceforth
06. 霽れを待つ
07. 心象蜃気楼
08. Nadir
09. MOON-VINE
10. Aloud
11. Pier
12. Alice in 冷凍庫
13. Uz
14. ノクティルーカ
15. Postscript
16. 夏色アンサー
17. 残灯花火
18. 濫觴生命
19. 回る空うさぎ
20. アスノヨゾラ哨戒班
<アンコール>
21. 空奏列車
22. シンクロナイザー
23. 八十八鍵の宇宙
24. DAYBREAK FRONTLINE