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渡辺淳之介、WACKやめるってよ

渡辺淳之介
3か月前2024年07月31日 15:03

音楽事務所WACKの代表を務める渡辺淳之介が、X(Twitter)に何やら含みのあるポストをした。

「多分近々個人的に直接みんなに話したいことがあるんだけど

まったく面白くない話だし俺のことだからどうしようかなって悩んでますん」

音楽ナタリー編集部では、この投稿が何を予告しているのか判然としない中、その真意を確かめるべく、即座に渡辺に取材をオファー。すると数分で「マジですか?笑 もしお話させていただけるなら是非!」と返信があった。数日後、WACKに出向くと、渡辺はコーヒー片手に会議室へとやってきて早々、堰を切ったように胸の内を赤裸々に語ってくれた。

このコラムでは渡辺による独白を全3回にわたって掲載。第1話ではXの投稿の真相を中心とした内容を、第2話、第3話では、“失われた10年”への思い、日本のアイドルシーンにおける大いなる問題などについて語ってもらった。

構成・撮影 / 田中和宏

渡辺淳之介、WACKやめるってよ

今回僕が皆さんに話したいことというのは、単刀直入に言うと、7月末をもって会社のすべての役職を退任したということです。

僕はこれまで、JMSと立ち上げた「JACK」、著作権回りの権利を預かっている「SHiT」、西澤(裕郎 / 編集者)がやってるメディア「SW」、そして一番規模の大きい「WACK」の4社で取締役を務めてきました。なぜ退任するかというと、イギリスの大学院に留学するからです。なぜ退任しなきゃいけないか。僕はこれからStudent Visa(学生ビザ)で渡英することになるんですけど、そのビザは経営者には発給されないんです。

イギリスでいうところのSelf Employed(自営業)に該当するとダメみたいで。いろいろ調べたんですけど、全部ダメだったから、いい機会だし「全部辞めちまうか!」と。一番心配なのは役員報酬がなくなって、今後貯金が減っていく一方だということ(笑)。これは、まあ仕方ないですけどね。

僕は2023年11月にイギリスに引っ越して、初めは現地で新たに会社を立ち上げようと思っていたんです。でもそれ以前にイギリスの市場とか雰囲気すらわからなかったので、とりあえず語学学校に通ってみたんです。同じ学校に通っている生徒には申し訳ないんですけど、僕にとって語学学校自体は、ほぼ意味がなかったかな(笑)。あくまで個人的な意見ですが、学校に通うから、勉強しているつもりにはなれましたけど、短期的見地からいくと実用的な英語をしゃべれるようにはなるプログラムではないかなと思いました。

現地ではイギリス人のWACKが好きな子たちとも仲よくなって、そのうちの1人が大学の寮まで連れて行ってくれたことがあるんです。ロンドンの大英博物館の目の前にある、すごくロケーションのいいアパートメントで。そこの寮なら安く酒が飲めるなんて話で、ビールを買っていって、寮のオープンキッチンで学生みたいな飲み会をして、ほかの学生も交えていろいろと話しました。そのときに思ったんです。仕事をしているだけだと僕と同じくらいの年代の方たちとしか基本的に出会えないけど、「学生だったらもしかしてもっともっと若い子たちとも意見交換できるんじゃないか?」って。

秋からロンドン大学の院生に

僕が今、日本にいて危機感を感じるのは「若い子たちの感性がまったくわからない」ということ。ロンドンの寮での飲み会をきっかけに、大学院に進むのもいい選択肢だなと思うようになりました。それが去年の12月だから、けっこう急展開ですね。まず大学院のエージェントに相談してみたら、「間に合うんじゃないですか?」という返事が来て。イギリスの大学院って、大学時代の成績さえよければ入るのは簡単だと言われているんですが、僕は大学時代の成績がマジで悪かったんです。でも仕事のキャリアもあるし、一応音楽系というかクリエイティブな学科に応募するのであれば、WACKでの経営者としての経験や実績が評価されるんじゃないかと。履歴書などのほかに推薦状が必要で、普通その推薦状はゼミの先生とかが書くんですけど、僕はavexの社長に頼みました(笑)。「日本で一番有名なレコード会社の社長からの推薦です」というレターを用意できたし、合格できそうだなという感覚はつかめたので、あとはIELTS(海外留学時の英語力証明テスト)のスコアさえクリアできれば大学院に入れる状況でした。

12月にアプライ(申し込み)をして3月に合格通知をもらったので想像していた以上にスムーズに進みました。僕が行くのは、ロンドンにあるロンドン大学のゴールドスミスカレッジというところなんですが、そこは僕が昔から憧れていた学校で、Blurの大半のメンバーが卒業生だったり、マルコム・マクラーレン(Sex Pistolsのマネージャー)が通っていたり、最近だとジェイムス・ブレイクもそう。昔からイギリスのミュージシャンとかの伝記を読んでいて、ゴールドスミスは認知していて。わかりやすくいえば、アート寄りの学校なのかな。入学試験では、もちろん面接もありました。皆さんご存知の通り、僕、そういうの得意なんですよ(笑)。自己紹介して、事前に準備したことを話して、想定していた質問にも答えて、そのあと「めっちゃ入りたいんだけど、参考図書はあるか」って聞いたら、向こうがずっと話し続けてくれたから、後半は「Ah hah?」って相槌を打ってたらなんとかなった。印象がよかったのか、面接した次の日には合格通知をもらえました。

学科は「Creative & Cultural Entrepreneurship」です。起業がメインになるその学科で起業家精神をクリエイティブとかカルチャーの観点で研究するプログラムを受けることになります。僕は大学では政治経済学部にいたんですけど、まともに勉強したことがなかったんで、果たして自分にできるのかなという思いももちろんあります。大学時代の経済学入門を引っ張り出してきて、「利潤最大化」とかの言葉をひさびさに目にした感じで、第2外国語はフランス語をとってましたが、フランス語の「ハロー」すらもわからない。あ、「ボンジュール」か(笑)。

留学するにあたって、一番ヤバいなと思ってるのが「まったく英語ができない」ということ。イギリスで暮らしているしそんなことないと思うじゃないですか。でも実際ヤバいんです(笑)。もちろんIELTSはリスニングもスピーキングもあるので、全体的に必要な要素ではあるんですけど、必要とされているスコアに到達したところで決してしゃべれるようになるわけじゃない。しかもちょくちょく日本に帰ってくるたびに英語を忘れるから、帰ってきちゃダメですね(笑)。

アメリカや日本は2年で修士課程が終わりますけど、イギリスの大学院は1年間なんです。1年にカリキュラムを超詰め込むから課題がとても大変みたい。イギリスの大学生や大学院生は本当にちゃんと勉強するらしいので、その点、日本の大学は勉強しなくても僕を筆頭になんとかなっちゃうところがあって、ひどいなと思います(笑)。課題が大変すぎて逃げ帰る可能性もなきにしもあらずですが、本腰を入れて学校に通うのは初めてのことで40歳にして本気で勉強したいという気持ちが出てきたことにはびっくりしてます。ゴールドスミス側も「早稲田大学は知ってるよ」みたいな感じでしたし。でも、ゴールドスミスは僕のことを買いかぶっているかもしれません。「お前、経済学部を出ているもんな!」みたいなことを言われたので。実際は経済のことを全然わかってないんですけど(笑)。

かすむ地下 / サブカルアイドルシーン

音楽シーンは今、本当に目まぐるしく変わっていっています。アイドルシーンでいうと、僕たちがやってきたような、いわゆるインディーズ事務所のサブカル系アイドルが非常に敬遠されているように感じます。僕たちが生き残るにはどういうことをすればいいのかを考えると、やっぱり海外も視野に入れていかないと、もう無理なんじゃないかと思います。ロンドンで定期的にWACKの所属アーティストが出演するイベント「WACK in the U.K.」をやっているのは、そういう理由でもあるんです。

まず、このあたりがWACKのことを知っている人たちに今お伝えしたかったことです。今回、音楽ナタリーに取材していただけるということで、連絡をいただいてからこの10年を振り返ってみたんです。せっかくの機会をいただいたので、初期BiSが解散した2014年からここまでの総括をしてみたいと思います。音楽ナタリーの「2014年の渡辺淳之介」というコラムで取材していただいたのは2021年。あのタイミングでWACKを立ち上げた7年前のことを振り返っていたわけです。あのコラムはでんぱ組.incの話から始まってるので、ここでもまずでんぱ組の話をしたいと思います。

でんぱ組は活動終了を“エンディング”と言ってましたけど、「まあ、そうだよね」と思いました。15年間走り続けてきたアイドルグループであり、結成メンバーの古川未鈴ちゃんはお子さんが生まれるとかいろいろあったと思うんですけど完走されていて。「2014年の渡辺淳之介」を読み返して、10年前のでんぱ組のことにも触れていますが、今になって改めて感じたのは、「僕はなんて甘やかされてビジネスをしてきてしまったんだろう」ということですね。

なんと言っていいのかわからないけど……この10年間、実は僕らWACKは何も変わってないんですよ(笑)。目指していたものが例えば「ミュージックステーション」であり、「NHK紅白歌合戦」であり、日本武道館であり。地下アイドル、サブカルアイドルはそれらを免罪符にして「どんどん売れたい」と言ってファンに応援してもらうシステムでした。それが今崩れてきているのは、K-POPもそうだし、あとはSKY-HIがプロデュースしているBE:FIRSTやXGとか、いわゆる“超技巧派”的な、しっかりパフォーマンスできる人たちが台頭してきたからだと思うんですね。そのおかげで、今の僕たちは非常にかすんで見えるようになってしまった。

BiSH解散後の1年間は「一番苦しい時期」

BiSH解散以降の1年は会社を立ち上げてから一番苦しい時期でした。ファンの母数が徐々に削られているというか。近しいアイドルシーンの最右翼的なところで言うと、例えばiLiFE!とか、僕が理解できない範疇のグループが台頭してきてますしね。FRUITS ZIPPERもそうだし、ときめき♡宣伝部もそう。彼女たちのようなキラキラしたアイドルとは違う、いわゆる “サブカルアイドル”みたいな存在が非常に受け入れられ難いところに今、来ている。もちろんシーンの移り変わりはあるし、終わりは必ず来るものなんですけどね。

話は変わりますけど、先日ひさしぶりにPendulumを聴きたいなと思って、2000年代ロックのプレイリストをApple Musicで聴いたんです。そしたら「あれ?めちゃくちゃダセーな! このシンセの音、大丈夫か?」とか思っちゃって(笑)。もちろんダサいと思ったPendulumも10年後に聴いたら1周回ってまたカッコいいと思うかもしれない。ヒップホップのシーンでもそうですけど、80年代かと思うような薄っぺらいドラムとギターが入っていたり、ミクスチャーロックがリバイバルして取り入れられていたり。時代は繰り返すと言いますけど、あながち間違ってないなという。

時代がどんどん変わっていくという話だと、恐れず言うのであれば2023年6月29日にBiSHが解散したことで、何もできないやつらが下剋上しようとしてきた時代に僕らは終止符を打ってしまったんじゃないかと思うんです。お客さんに甘えたビジネスをして、何も変わらずになんとなくやってきてしまった。それができたのは、変わらずに応援してくれるお客さんたちがたくさんいてそれに甘えてきたからだと。そのツケを払う時期がいよいよやってきたな、と最近すごく実感しています。

次回「初期BiS解散からこれまでは“失われた10年”だった」

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