「2024年もっともパンチラインだったリリックは何か?」をテーマに、二木信、渡辺志保、YYK、MINORIという4人の有識者たちが日本語ラップについて語り合う企画「パンチライン・オブ・ザ・イヤー2024」。3回に分けて公開してきたこの記事のラストは、NENE、7、MIKADO、LANA、T2K、Charlu、Creepy Nutsなどのリリックに話が及んだ。
そしていよいよ2024年の一番のパンチラインが決定。どのリリックが選ばれたのか、最後までお見逃しなく。
取材・文 / 宮崎敬太 題字 / SITE(Ghetto Hollywood)
「え、今なんて言いました?」
──ちょっと流れが変わりますが、MINORIさんがNENEさんの「アツい」の「Hey Siri『誰が一番いいお尻?』 / Yeah 私一位 あんたビリ」をピックアップした理由を知りたいです。
MINORI え、ここでですか!? お尻の話ですよ? 私、今のIsaacさんのお話にかなり感動してたのでなんか……。
Isaac Y. Takeu (笑)。でもこの曲、めっちゃインパクトがありましたよね。
MINORI うん。日本人からすると「Hey Siri」って言われたら、やっぱり最初に頭に浮かぶのはお尻だと思うんですよ。そのSiriに「誰が一番いいお尻?」って聞くのが最高だと思いました。03- Performanceで公開されたMVもすごかったじゃないですか。あの画を目にしたらすごくしっくりくる。「Hey Siri」と「Yeah 私一位」で踏んでるスキルもすごい。
渡辺志保 オチのワード「あんたビリ」にもかかってるし。
MINORI NENEさん、アツいなって思いました。
二木信 「アツい」の「付けないパチモン / いらないシリコン / フリルの服よりグリルを着けてる」とかうまいですし、その次に来るラインがかなりパンチ効いていますよね。
MINORI 思わず聴き直しちゃいましたね。「え、今なんて言いました?」って(笑)。
二木 2024年の末に新宿のトー横広場でやったNENEのライブイベントに行きましたけど、すごかった。完璧に都市型レイヴでした。NENEは全身をフルに使って表現しているというか、存在感が突き抜けていますよね。
渡辺 NENEちゃんに関しては私も「HEAT」の「入れてよなんか / Fuck Me Harder」というラインを選んだんですが、これもすごく過激なラインですよね。MINORIちゃんみたいに、私もこの部分を聴き直しちゃったんですよ。「ちょっと待って。“なんか”?」って(笑)。
──男性器に限定していない。
渡辺 そこがいいなと思いました。このラインを聴いて私は、タトゥーやファッションも含めて彼女が自分の肉体、そして快楽をどう捉えているのか、ということについても興味が湧いたんです。ゆるふわギャングとしてなら、当然Ryugo Ishidaくんというパートナーの存在が思い浮かぶけど、ソロだとより解放された印象がある。実際インタビューでも「自分のペースで作れてやりやすい」と話されてましたし。性的な表現も増えて、こうした明示的な部分に女性も共感するのかなって思いました。
二木 NENEを見てると男性の僕も解放感を得られますよ。彼女からは自由を感じるから。
渡辺 私だってNENEちゃんみたいにタトゥー入れてみたいし、ああいう格好してみたいけどやっぱりできない。
MINORI そうそう。自分の願望をNENEちゃんに投影してしまう部分は確実にあると思います。
ミームが日本のラップから生まれたことが今っぽい
MINORI 私は7さんも大好きで、今年はLizaさんとやった「PARALLEL」のリリックも選びました。この曲はTikTokでめっちゃ流行ったんですよ。「英語わからない 六で無しな7 / りんご持ってるけど 男いらんバナナ」ってラインが大好きで。「英語わからない」がパンチラインすぎる。
──このリリックは面白いですね。
MINORI 数え歌っぽくなってるんです。「英語(5)」「ろく(6)でなし」「7」って。りんごというのはiPhoneのことかな?
渡辺 りんごは7ちゃんのトレードマークでもあるよね。いろんな意味がかかってそう。
MINORI いらないバナナもダブルミーニングですよね。ここからギアが入って「ゆーてるまにババアやさけ急がんと」から「どーやってビザは取んねん name 傷あってよ」という、さっきも話題になった方言混じりのラップになる。超気持ちいい。
渡辺 7ちゃんってワードセンスがすごいよね。「ラップスタア」に出てたときにラップしてた「サッカーやめたけど今もgameでゆらすネット」ってラインで、インターネットを騒がせるって意味と、自分が昔サッカーをやってたことをかけていて、本当に頭がいい人だなって思った。
渡辺 7ちゃん絡みだと、私、MIKADOくんの「言った!!」も入れるかどうかかなり迷いました。
Isaac リミックスもいっぱい出ましたもんね。超流行りました。
渡辺 「言った!!」が若者の間でミーム化してたけど、大人からすると「それ何が面白いの?」「どう使うの?」って思いますよね(笑)。そういうノリもその枠に属してないとわからないんですよ。
──僕、マジでニュアンスがわからないです……。
二木 LINEのスタンプみたいなノリを感じますよね。あと、TwiGyがラップするうえで「言葉をフォント化する」ことを意識していたという話を思い出しますね。
渡辺 言ってしまえばなんてことないミームだけど、それが日本語のラップから生まれることが今っぽい。さっき我々の世代にしかわからない行動って話をしたけど、「言った‼︎」はその逆で、若者というか、その場にいる人々にしか通じない意味やノリ。それがラップから生まれてきたってことに意味があるなって思いました。
Isaac 若い子のカルチャーって感じですよね。
渡辺 ホントそう。
Isaac ヘッズだけじゃなくて、普通の人にも浸透してるのがめっちゃ2024年っぽいなと思いました。
概念としてのギャルのインフレ
──2024年と言えば、Kohjiyaと並んでLANAも代表的なアーティストだと思います。
渡辺 「20」ってアルバムは全曲パンチラインなんだけど、今回はMVにもなった「No.5」の「お金で買えるものじゃ足りない / 星より輝くものください」を選びました。「No.5」はもちろんシャネルの香水「N°5」のことだけど、彼女のInstagramを見てると、すでになんでも持ってるように見える。カルティエの時計を買ったり、モンクレールのパーティでアン・ハサウェイと写真を撮ったり。同世代の女の子はそういうキラキラした生活に憧れると思う。でもLANAは物質的なものではなくて、「星より輝くものください」って言っている。私はその表現がすごく素敵だと思いました。絶対手に入らない。でも足りない。その渇望感や虚しさがすごく伝わってくるリリックだと感じたので。インタビューで彼女に「実際、何が足りないと思ってるの?」って質問したんです。そしたら「(若い子たちには)親にギュッとしてもらうこと、あと自分への愛情が足りないと思う」と答えてくれて。
──時代の閉塞感に言及する楽曲のタイトルが「No.5」ですか……。すごすぎますね。
渡辺 そうなんです。私が20歳の頃はテレビや雑誌が情報の中心だったけど、今は自分が持ってないブランド物のバッグとかがSNSから視界にどんどん飛び込んでくる。
──そりゃ普通に欲しくなっちゃいますよね。でも若いから稼ぎが少ないし、貧富の差も極端になってる。
渡辺 そんな中で、みんな何かが足りないんです。「No.5」のリリックはLANAちゃんの個人的な話だけど、同世代の子たちが感じている空虚さや閉塞感を表していると思って、勝手にグッときてしまいました。あと「20」の1曲目「Street Princess」の「変に使わないで / フェイクギャル / アゲピース / 超痛ぇ」ってラインも痛快でしたね(笑)。
二木 ギャルのインフレっていうのはありますよね。
渡辺 確かに概念としてのギャルはインフレしてるかも。
MINORI そのインフレを実際のギャルから見たら「そんなのギャルじゃねえじゃん」っていう。
渡辺 謎にギャルを語りたがるおじさんとかいるじゃないですか。自分が20歳くらいだったら、ああいうのはめちゃくちゃうるせえって感じていると思う(笑)。
MINORI わかった気になってんじゃねえぞって感じですよ(笑)。
渡辺 やっぱギャルにはギャルにしか通じない言葉や感覚がある。そして、「20」にはそれがめっちゃ詰まってる。LANAちゃんは自分が10代の女の子を元気付けたいって使命感を持ってるし、彼女のラップを聴いていると、すごくあけすけなドキュメンタリーだなとすら思っちゃいます。社会学的に研究してほしい(笑)。
──とあるフェスの前のほうでLANAを観ていたら、ヘッズの男の子が「LANAかわいい! 結婚して」と連呼してたんですね。そしたら自分の周りにいた女の子たちの空気がサッと変わったんです。みんな言わないけど「だる。そういうことじゃないんだが」みたいな。あの雰囲気がすごく印象的でした。
渡辺 同じような光景をAwichのライブでも目撃しました。やっぱり男の子がずっとAwichに「かわいい」と言い続けてて。AwichはMCで「今、かわいいとかどうでもいいんだよ」って返してたんです。一概には言えないけど、男性と女性でそういう声援の伝わり方が違うというのは否めないですよね。私は個人的にAwich、LANAちゃん、ちゃんみなさんみたいな、女の子たちが求めてる言葉やアティチュードを表明したり、体現してくれる人がいるってことに勇気付けられますね。自分の時代にはそういう女性アーティストはあまり日本にいなかったから。
二木 志保さんのインタビューで、LANAが“プリンセス”というコンセプトについて語ってましたよね。
渡辺 そうそう。LANAちゃんは「ギャルはみんな派手だけど中身はすごいピュアで夢見てる。それが私でありプリンセス」みたいなこと言ってて。
MINORI 「Street Princess」って言葉はありそうでなかったですよね。
渡辺 おとぎ話が大好きで、常に夢を見てるピュアな女の子。自分の中で新しいプリンセス像を作ってると言ってたのには痺れましたね。
Isaac ということはやっぱり女の子向けのメッセージが多い?
渡辺 もちろん、彼女のメッセージに勇気付けられる男性もいると思う。でも大局的に見ると、男性を鼓舞する男性って、世の中にたくさんいるんですよね。歴代の総理大臣もずっと男性だし、大企業の社長で有名な人も大抵は男性ですし。社会のシステムの中に男を引っ張り上げる男はたくさんいるけど、女の子を引っ張り上げる女の子は極端に少ない。ヒップホップシーンの中で、女の子が女の子をフックアップする光景を多く見ることができるのはすごくうれしいですね。
身を挺してラップする、フォーカスされないテーマ
──志保さんは今年のパンチライン5選に、T2KさんとCharluさんも入れるか迷っていたそうで。せっかくなのでその話もお願いします。
渡辺 T2Kくんは去年「INSIDE OUT」というソロアルバムを出したんですよ。彼にとっては10年ぶりのソロアルバムになるんですけど、この「From 6 Feet Under」はイントロの次に収録された実質的な最初の曲なんです。その歌い出しが「結婚は人生の墓場 / 成仏できず必死に抗う / 徐々にイカレた心、体、/ 頭抱えてキャパシティ 限界 / なら墓石 破壊し進む我が道」っていう。「こんなラップアルバムある!?」と衝撃を受けました。
──確かにここまで直接的な言い回しはご時世的にも避けますよね。
渡辺 そうなんですよね。実際に離婚を経験されたそうなんですけど、次の「徐々にイカれた心、体 / 頭抱えてキャパシティ限界 / なら墓石 破壊し進む我が道」ってラインも、Jadakissあたりを聴いて育った世代のお手本みたいな、細かく韻を踏むラップなんです。
二木 気持ちいいですよね(笑)。
渡辺 タイトルの「6 Feet Under」っていうのはお墓に棺を埋める深さのことで、死に直結する表現としてよく使われていたスラング。私も、ラップのリリックから学んだフレーズですね。
──T2Kさんの曲は重みがすごいですよね。離婚がいかに心身ともに削られるのかが伝わってくるというか。
渡辺 こういうのって若い子じゃ絶対に歌えない。最近は婚活ビジネスとかもすごいじゃないですか。でもそんな中、そこにT2Kが身を挺してラップしてくれたなっていう。「結婚はゴールじゃねえ」って。
MINORI その解説を踏まえると「結婚は人生の墓場 / 成仏できず必死に抗う」ってすごいラインすね……。
渡辺 「結婚の理想と現実」ってよくあるテーマではあるけど、きれいにまとまってると冷める。最近シングルペアレントの若いラッパーがけっこういるし、その意味でもT2Kみたいな赤裸々なラップは価値があると思いました。このアルバムは推せます。
──Charluさんについてはいかがでしょう?
渡辺 突然だけど、みんな手の上で豆腐切ったことある?
Isaac やったことはあるかも……。
MINORI 母がやってるのを見ましたね。
渡辺 そうなのよ。手の上に豆腐を乗せて切るって別に誰からも教わらない。だいたいお母さんがやってるのを見て、それを真似する。私もそうだし。Charluちゃんの「GIRI」の「手の上で切る豆腐 / Put in 味噌Soup」は主婦目線のリリックなんですね。子供が小さいと基本的に時間がない。お味噌汁に入れる豆腐を切るのにわざわざまな板なんか使わない。手の上でパパパパパパパパパと切って、サッと味噌汁の中に入れる。Charluちゃんの切羽詰まった生活感がこの短いラインで表現されていると感じました。
──Charluさんは「GIRI」なタイム感でクリエイティブしてるってことか。
Isaac Charluさんは「ラップスタア」でもすごくがんばられてたじゃないですか。お子さんがいて時間がない中でやっていたと考えると、見え方が変わってきますね。あと、同じ境遇の人たちが共感して応援してたのかも、と思いました。
MINORI これってさっきのLANAさんやT2Kさんの話にも通じますよね。鼓舞してくれる人が極端に少ない問題というか。
いよいよ2024年の一番のパンチラインが決定!
──これで皆さんが選出したラインが出そろいました。
渡辺 取りこぼしてちゃってる話題はないかな? MINORIちゃんはMFSからも選ぶと思ってた。
MINORI 確かに「COMBO」は今年一番聴いたアルバムだけど、よさをうまく説明できないんですよね。
渡辺 MFSは面白い言語感とナチュラルさがクールだよね。
MINORI 声とラップがカッコいいんですよね。
──MFSさんを見てると、出てきた頃の5lackを思い出します。先ほど二木さんがおっしゃられたセンスの塊感といいますか。
二木 名古屋市南区のラッパー、COVANの「nayba」というアルバムをオススメしたいです。しっかり根を張った、ピュアなラップミュージックです。それこそさっき志保さんがJadakissを例に出しましたけど、彼はThe Loxに多大な影響を受けていると思います。
──メインストリームと言えばCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」はいかがですか?
渡辺 そうだ! 誰も選んでない!
二木 この曲は世界的に大ヒットしましたね。2024年5月に、グラミー賞を主催するザ・レコーディング・アカデミーのサイトで「J-POPに注目すべき」という主旨の記事「10 Neo J-Pop Artists Breaking The Mold In 2024: Fujii Kaze, Kenshi Yonezu & Others」が公開されたことが少し話題になりました。この記事の中でも、Creepy Nutsは言及されていました。
渡辺 YOASOBI「アイドル」とか新しい学校のリーダーズとか、日本のアーティストやJ-POPそのものにも注目が集まっていると言われていますよね。「Bling-Bang-Bang-Born」も「アイドル」もアニメ主題歌でしたけど、日本が誇る輸出産業であるアニメやゲームに、ラップが食い込んだのはすごいことだと思いました。2つのカルチャーが結び付くとこんなことになるんだなって。もしかしたら2025年はもっと発展していくのかもしれないですね。
二木 Creepy Nutsはロスのスタジアムでライブしました。
渡辺 ドジャー・スタジアムで。そこは大谷翔平効果もあると思う。個人的にこの企画はパンチラインを選ぶ趣旨だから、「Bling-Bang-Bang-Born」は選ばなかったんです。
MINORI 逆にそこが日本語の通じない海外でバズった要因の1つなのかもですね。リズム感がよくて一緒に歌えて、気持ちいい。
二木 皆さん、Creepy Nutsの「生業」って曲、ご存知ですか?
渡辺 幕張で行われたフェス「Starz」の会場で聴きました。
二木 「THE HOPE」の舞台で、R-指定がアカペラでラップしたあの曲のパフォーマンスには意地を感じましたし、映像でしか観ていないですけど、2024年の重要なパフォーマンスのひとつですよね。
──僕は現地で観てましたが、R-指定さんがラップでどんどん観客を掌握していく景色は圧巻でした。
Isaac Creepy Nutsって「ヒップホップが好きな日本の“陰キャ”の代弁者」みたいなところがありますよね。それはそれである意味でマイノリティとも言えるし、彼らの言葉が必要な人たちがいるんだと思う。
──では、最後に2024年のパンチラインを選んでいただきたいです。
二木 ここまで2時間以上話したけど、2024年のパンチラインはやはり千葉雄喜の「チーム友達」の「俺たち何? え? チーム友達」ですかね……。
MINORI ミーガン・ジー・スタリオンとスタジオに入って「Mamushi」を作っちゃいましたし。
Isaac さらっとね(笑)。ロンドンのライブで客演したり、「2024 MTV Video Music Awards」に出ちゃったり。日本のヒップホップのラッパーとしてグローバルなコラボレーションを実現させてたって意味でも2024年は千葉雄喜の1年だったかも。
渡辺 「チーム友達」ってコミュニティのことを歌っていると感じます。で、ケンドリック・ラマーの「Not Like Us」も「うちらとうちら以外」について歌ってる。日米で大バズした2曲がはからずもコミュニティに言及していて、やはりヒップホップの根っこにあるのはそこなんだなって思わされました。これは勝手な解釈だけど。
二木 「チーム友達」が出た頃は、ビーフとその話題でピリついた雰囲気がありましたけど、千葉雄喜の活躍とこの曲が風向きをいい方向に変えたのはあったと思う。
Isaac Jin Doggの話もしておきたいですよね。
渡辺 もともと「チーム友達」は彼らが仲間内で言ってた言葉だもんね。「POP YOURS」で初披露されたとき、まずJin Doggがライブして、Young Cocoも「チーム友達」のジュエリーを付けてパフォーマンスして、そのあとに千葉くんが出てきた。そこに「『チーム友達』は君たちが作ったものなんだよ」ってメッセージを感じた。
二木 Jin Doggは「俺が認めへんかったらチーム友達じゃないから」ってインスタライブで言ってましたね。
渡辺 ここまでミーム化してしまうとそうなるよね。だって自分たちのコミュニティの歌なんだもん。
──ヒップホップにおけるコミュニティの概念を再定義した面もありますよね。地元というミクロな土地に縛りを設けるのでなく、志の“契り”があればフレキシブルに「関西関東 / 西東 / 北南」もコミュニティのメンバーである。最初にMINORIさんがおっしゃられたように、この曲のポイントは“みんな友達”ではないということですよね。コミュニティならではの排他性と結束力も担保してる。
二木 素朴な疑問なんですけど、ちょっと前までかなり耳にした「新しい友だちはいらない」「No New Friends」的リリックが減ってきた気がするんですが、どうですかね? あくまでも印象で。
Isaac 僕はフェスが増えてきたっていうのがあると思う。特に若い世代はいろんな人に客演で出てもらって一緒に盛り上げているし。
渡辺 私は去年いろんなラッパーにインタビューしてきて特に印象に残ったのは、ANARCHYさんとAK-69さんがともに「自分ではなく、ほかのラッパーも含めたみんなのためにラップする」と話していたことなんです。自分がイケてるラップすることで、ヒップホップ全体で前に進んでいくというか。Awichの、自分1人ではなくみんなで成功したいというスタンスにも通じる。
──ISSUGIさんの「XL」にある「適当やればHipHop舐められる」というラインにも通じますよね。日本においてヒップホップがマスになった分、現場でしのぎを削ってる人たちは無意識のうちのコミュニティを守るフェーズになっているのかも。
渡辺 「No New Friends」の時期はまだ“フェイク野郎”が淘汰されてなかったのかもね。
MINORI うん。今は黙っててもいなくなる環境になってると思う。
──さまざまな先人たちの試行錯誤を経て、日本でもようやくヒップホップのコンペティションが健全に機能する環境になった1年だったと言えそうです。
Isaac ここまでの話をまとめると、やっぱり今年は千葉雄喜「チーム友達」の「俺たち何?え?チーム友達」で決まりですね。
MINORI うん。みんなで歌えて、ヒップホップの文化的な意味もあって、かつ広がりまで生んだ。
二木 さらに言葉の力も示した。
渡辺 じゃあ、今年は「チーム友達」の「俺たち何?え?チーム友達」。満場一致。千葉くん、おめでとうございます!
選者それぞれのパンチライン5選
Isaac Y. Takeuが選んだパンチライン
Hezron, VLOT「YASUKE」
雨が晴れそうだよあと少し、で / まるでSEEDA 空が曇っても晴れる日 / でも、傘で身を隠す なる有名人 / こんなオレもなれる 誰かの夢に
BAD HOP「guidance feat. YZERR」
大麻吸えないくらいで / Fuck The Policeなんて歌わねぇ / 平和な国で自分で道を選んだくせにくだらねぇ / 黒人達が貧困の中で肌の色で差別されて/ 虐げられた歴史とでは比べ物になんねぇ
ralph「Assassin」
媚びない分スキル磨いた / 925 ナイフみたいだな / 尖ってるのはエイリじゃないから
Kvi Baba「Friends, Family & God (feat. G-k.i.d & KEIJU)」
ありがとう神様 / Friends&Family
Kohjiya「Talk 2 Me」
辛いことが辛いままじゃ / ムカつくよだから / 金に換える過去の話
プロフィール
アメリカ・ロサンゼルスで3年間、フリーランスの映像クリエイターとして広告やMV、ショートフィルムなどの制作に携わり、2021年に日本に帰国。2022年よりマイノリティカルチャーの著名人をゲストに迎えるポッドキャスト「GOLDNRUSH PODCAST」でホストを務めている。
二木信が選んだパンチライン
5lack「gambling」
えー ドーピングMC焦り気味 / メディアがわからないスキルの意味
田島ハルコ「点P」
あのぼっちが今ではトップ・ビッチ / 新潟の星 令和のダ・ヴィンチ / トップ・ビッチ 表彰しな県知事
OUS BRIAN「JUMP FROM GHETTO」
職質ただの小細工そんなポリスにファッキュー / 見た目で決めてる時点で終わりだろさっべつー/ まあいいよ俺ちゃん売れちゃんだもんねサンキュー
AKLO「221(feat. ZORN)」
仲間を見りゃあのままなメンツ / 変わったと言やパトカーからベンツ
俺がウィル・スミスなら殴んのはグー / 顔面蒼白になるバースを書く / でも嫁さんもともとガングロギャル
Watson「阿波弁」
解散の事をカーしよか / 仕事を休むときはヤーしよか / おじいちゃんミスればゆうしもた / 軽トラ流れるラージオが
プロフィール
1981年生まれのライター。監修 / 編集に「ele-king presents HIP HOP 2024-25」、単著に「しくじるなよ、ルーディ」、編著書に「素人の乱」(松本哉との共編著)など。漢 a.k.a. GAMI著「ヒップホップ・ドリーム」の企画・構成を担当。
MINORIが選んだパンチライン
VaVa「再周回」
呼ばれなくなった同窓会も / 知ってるよ続いてること
Lucas Valentine, VIKN, 仙人掌「NANI_MEZASHITERUNO」
何目指してそれやってんの / 誰かフックアップ待ってんの / 何目指してそれやってんの / いつまで何と戦ってんの
NENE「アツい」
Hey Siri“誰が一番いいお尻?” / Yeah 私一位 あんたビリ
Liza「PARALLEL feat. 7」
英語わからない 六で無しな7 / りんご持ってるけど 男いらんバナナ
Benjazzy「NOTFORSALE」
誇る誰かにとってはガラクタのゴミ / でも売らない媚びと原盤権 / プライドはどれも非売品
プロフィール
1997年東京生まれ、川崎育ち。音楽ライター。主にヒップホップ関連のレビュー、イベントレポート、インタビュー記事を執筆。
渡辺志保が選んだパンチライン
千葉雄喜「チーム友達」
俺たち何?え?チーム友達
ACE COOL「愛情」
だから今日も小節を埋めてく / また一つ自分というもの知ってく / 誰にも奪えないもの達育てる /自分を愛してく
ISSUGI「XL」
Rapperの声はXXXL / 誰でも輝ける
NENE「HEAT」
入れてよなんか / Fuck Me Harder
LANA「No.5」
お金で買えるものじゃ足りない / 星より輝くものください
プロフィール
広島市出身。音楽ライター。主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳などに携わる。これまでにケンドリック・ラマー、エイサップ・ロッキー、ニッキー・ミナージュ、ジェイデン・スミスらへのインタビューも経験。共著に「ライムスター宇多丸の『ラップ史』入門」(NHK出版)などがある。
宮崎敬太
1977年神奈川生まれのインタビュアー / ライター。K-POPや日本語ラップを中心にオールジャンルで執筆している。D.Oと輪入道の自伝を構成し、「DJプレミア完全版」にレビュアーとして参加した。
