ヤバイTシャツ屋さんのベース&ボーカル・ありぼぼさんの連載「ありぼぼの音楽おしごと探検隊」。この連載は「音楽に関する仕事をしたいけど、どういう仕事があるのかわからない」という声をよく耳にするというありぼぼさんが、読者の皆さんに代わって音楽業界で働くさまざまな職種の人にインタビューし、仕事内容やその職業に向いている人をリサーチする企画です。
Vol.3となる今回はミュージックビデオ制作について教えてもらうため、大阪芸術大学映像学科出身のありぼぼさんが憧れる映像監督・関和亮さんのもとへ訪問。「関さんとの出会いがなければヤバTは結成されなかった」とまで語るありぼぼさんは関さんに大好きな作品についてマシンガントークを繰り出します。音楽へ並々ならぬ愛情がある関さんが語る、ミュージックビデオの極意とは。
取材・文 / 清本千尋 撮影 / YURIE PEPE
ヤバTにとって関さんはキーパーソンなんです
ありぼぼ 私、大阪芸術大学の映像学科出身なんですけど、関さんが監督されたPerfumeの「エレクトロ・ワールド」のミュージックビデオを観て、「今ってCGでこんなことまでできるんや!」って感動して映像学科への進学を決めたんです。そこで出会ったメンバーとヤバTを結成したので、関さんがいなかったらヤバTは今いないんですよ。それくらい私にとって……いやヤバTにとって関さんはキーパーソンなんです。
関和亮 ホントですか? じゃあヤバTの年表を作るときにはそう書いておいてくださいね(笑)。
ありぼぼ はい! だから今日やっとお会いすることができてうれしいです。関さんは「エレクトロ・ワールド」みたいなCG作品もやりながら、サカナクションの「アルクアラウンド」とかPerfumeの「不自然なガール」みたいなアナログな作風もやってはるじゃないですか。アナログな手法で撮影した作品はもちろん、CG作品からも人間の温かみを感じて、とても魅力的だなと思いました。ミュージックビデオという尺でもこんなに表現できることがあるんやって。
関 僕から影響を受けてくれたなんて、仕事をしていてこんなにうれしいことなかなかないですよ? ありがとうございます。そういえば僕、大阪芸大で講演をしたことがあります。畑の中にポツンと美術館みたいな建物があって驚きました。在学時はバンドをやりながらミュージックビデオも作っていたんですか?
ありぼぼ そうですね。授業の課題として大阪で活動しているバンドのミュージックビデオを作るお手伝いをしたり、芸大の中で組んでいるバンドのミュージックビデオを撮ったりしていました。関さんの作品みたいに最初から最後までずっと飽きずに観られるミュージックビデオを作ろうと心がけて試行錯誤していたことを覚えています。
関 今日会ったら絶対に聞こうと思ってたんですけど、ヤバTのスタイルって見た目も音楽性も一貫してるじゃないですか。あのスタイルはどうやって決めたんですか?
ありぼぼ ヤバTは、こやま(たくや)さんが「“ヤバイTシャツ屋さん”っていう名前のバンドを組みたいねん」って、私とドラムの(もり)もりもとに声をかけてくれて結成したんです。最初にできた「ネコ飼いたい」という曲からその方向性はずっと変わらずここまで来ました。こやまさんが監督・編集をして撮影クルーもいない手作り感満載のものもあります。撮影クルーがいるミュージックビデオでもこやまさんが監督をするものもあって、楽曲制作やライブ以外にも細部までヤバイTシャツ屋さんのこだわりが行き渡っていると思います。
関 音楽とビジュアルのコンセプトを最初に決めて、それをやり続けているということですよね。普通はちょっと違うことやってみようってなるのに、ずっと同じように続けられているのがヤバTの個性になっていますよね。
ミュージックビデオの根っこは音楽
ありぼぼ うれしいです。関さんがミュージックビデオを作るときに心がけていることってなんですか?
関 ミュージックビデオの根っこはやっぱり音楽だから、その音楽をどう称えるか、一番いい形で聴かせられるかを重視してますね。その音楽が伝えたいことをフォローできる存在でありたい。例えば恋愛ソングだったら、そのまま恋愛するカップルを描く手法もあるけど、僕の場合は別の対象……例えばカエル同士とか、鉛筆と消しゴムとか、人間以外のやり取りでも根っこは恋愛みたいな、そんなふうに作ってます。
ありぼぼ 音楽をフォローする存在……私、Perfumeの「Let Me Know」のミュージックビデオが大好きで、初めて観たときにめちゃくちゃ泣いちゃって。
関 おー! そのタイトルが出てくると思わなかった。
ありぼぼ 私がPerfumeにハマった理由の1つにミュージックビデオがあるんですよ。関さんの作品はもちろん、ほかの曲でも音楽に深みを与えるミュージックビデオを一貫して作っているから。
関 ファンの人にそう言ってもらえるのは本当にありがたいですね。曲を聴いたときに思い浮かぶ映像って人それぞれだと思うんですけど、僕は自分が思い描いたものにプラスアルファするというか、別視点を加えて映像化していて。ミュージックビデオをきっかけに「私だったらこうする」とか「こんなふうに感じた」とか、みんなが話すきっかけになればいいなって。
ありぼぼ 考察が捗るやつですね。
関 そうそう。だから僕の場合は「今の時代だからこうする」とかそういうのはあんまりない。カット割りが速いのがいいとか、開始何秒で動きがあったほうがいいとか、そういうものは気にしてないんです。というか、ずっと映像の仕事をしているのに流行る映像もみんなが好きな映像がどんなものなのかも正直わからないし(笑)。どういうときにバズるかって、みんなが「何これ!?」って感じるときだと思うんですよ。そういう意味では自分がいいと思えるものを続けていくしかない。ヤバTも自分たちのスタイルを貫いているから、同じですよね。
音楽ラバーな関監督の思考回路
ありぼぼ ミュージックビデオの発注を受けたらまず何をしますか?
関 最初に楽曲をいただくので、その曲をひたすら聴きます。
ありぼぼ 内容については丸投げのこともありますか?
関 たまにありますよ。曲を聴いて関さんが作りたいと思ったものを作ってくださいって。でも多くはテーマだったり、やってみたいことがあって発注されることが多いですかね。
ありぼぼ 関さん的にはどっちの方がやりやすいですか?
関 僕はお題があるほうがやりやすいかな。何年もやってわかったのは、枷がついたほうが映像って面白くなるんですよ。ヤバTはお金がないから定点で撮ろうって話がさっきあったけど、そういうアイデアはお金が潤沢にあったら生まれないじゃないですか。Perfumeの話で言えばもう、タイトルが「エレクトロ・ワールド」なら「エレクトロなワールド」を作るしかないんです。飲み屋で親父が飲んでてもそこが「エレクトロ・ワールド」だと言われればそうかもしれないけど、やっぱりそれは音楽を一番いい形で聴かせられる映像ではないかもしれない。ミュージックビデオは曲の尺という枷があるから、その時点で自分には合っていたのかもしれないですね。
ありぼぼ なるほど……。お題をもらったあとは、どうやって制作を進めていくんですか?
関 100曲あれば100通りというか、毎回違うんですよ。そのたびに曲を何度も聴いて、引っかかりを見つけます。例えばこのリズムの音が足踏みっぽく感じるから歩くシーンを入れようとか、「好き」というフレーズを「スキー」に置き換えちゃおうとか。どこがキーになるのかをじっくり探すんです。それは音だったり、言葉だったり、いろいろあって。
ありぼぼ 関さんの作品を観て、きっとリズム感のいい人なんだなと思ったんです。例えばベースの「ブーン」という音が入ったらそれにあわせて何かが動くとか、そういうシーンがすごく多い印象で。関さん、音楽がかなり好きですよね?
関 そうですね。中高生の頃からミュージックビデオをたくさん観ていて、進路を考えたときに「音楽家と一緒に作品を作るという仕事があるならやってみたいな」と映像監督を目指すことにしたので。そういう形で音楽に携われるのはすごく素敵だなと思ったんです。音楽に対してカッコいいと思う部分は人それぞれじゃないですか。僕の場合は、このフレーズにうまく映像がハマったら自分が気持ちいいなとか、そういう感じで編集をしています。「このハイハットのオープンの音カッケー! ここにこういう映像をはめよう!」みたいに。
ありぼぼ 観てる側もそれが気持ちいいんですよね。私はベーシストなので、ベースに沿って映像が展開していくと「来た来た!」ってうれしくなります。
関 音楽的にちゃんと紐解いてくれるのはうれしいですね。さすがミュージシャンだなって思います。
ありぼぼの脳裏から離れない星野源の水飲みシーン
ありぼぼ またニッチな話をしますね。星野源さんの「アイデア」のミュージックビデオに星野さんが水を飲むシーンが一瞬入るじゃないですか。あの意図って何なんですか?
関 あれは星野さんと話していて急に客観的な映像が入ったら面白いかなとなったんですよ。「アイデア」のミュージックビデオの中で唯一彼がフレームアウトしているシーンなんですけど、ダンサーにフォーカスしたシーンの裏で星野さんは何をしていたのかが入ったらどうかなと。それで休んでたら面白いとなって入れました。
ありぼぼ そうやったんですか。ずっとワクワクさせてくれるミュージックビデオなんですが、最後観終わったときにあのシーンのことが頭に残っていて。
関 確かに違和感を感じさせるシーンですよね。あとあのミュージックビデオは三浦大知くんが1カットだけ登場するのもポイントなんですけど、三浦くんはこの曲の振付を担当してくれたから、そういうポジションで出演しているんです。ずっとつながっていた時間軸が急に別の時間軸に変わったときってすごく違和感が出ますよね。星野さんって、カッコつける部分とそうじゃない部分の両方を見せてほしいタイプだと思うんです。だからああいうシーンを入れたんだと思います。
平成って深いですね
ありぼぼ 私は今ソロでも音楽活動をしていて、「令和時代の視点で、平成というカルチャーを守りたい」というテーマでミュージックビデオを撮りたいなと思ってるんです。でもなかなか難しくて……関さんだったらこういうテーマでどんなビデオを撮りますか?
関 僕も平成時代を過ごしてきたけど、平成っぽさを形にするのってすごく難しいんですよね。ミクスチャーの時代だったと思うんですよ。だから今のところそういうテーマには手を出してないんですけど(笑)。でもやるならとことんやりきりたいですよね。自分が生きてきた時代を、自分たちより上の世代や若者にわかりやすく提示するというのがいいんじゃないかな。平成対令和の構図にするんじゃなくて、とにかくいいところも悪いところも平成の全部を提示する、みたいな映像は観てみたい。そう考えると、昭和っぽいってわかりやすかったですよね。
ありぼぼ そう思います。
関 平成時代のほうが長く生きているのに昭和のほうがみんなの中に共通するわかりやすい“ぽさ”があるんですよね。一方でみんなが持ってる平成のイメージってバラバラで、例えば小沢健二さんみたいな渋谷系を指すのか、安室奈美恵さんとかSPEEDみたいなものを指すのかとか。ラジオを聴いていたら青春の曲を紹介する企画をやってたんですよ。それで僕も若い頃に聴いてた音楽を書き出していったらNirvana、Radiohead、Oasis、Underworldとジャンルもバラバラで、音楽的にもいろんなものが出てきた時代だったなと思ったんですよね。
ありぼぼ 平成の頃に表現している人たちって、みんなが同じものを観て聴いていたところからいろいろジャンルが細分化されてきて、その細分化されたものを摂取してきた世代……いわば孫的なポジションというか、ルーツがわかりにくくて、その分がちゃがちゃしてたんじゃないかなと思うんですよ。
関 あー、確かに。平成って深いですね。そうなってくると平成を1つのビデオで表現するのは難しいんじゃない? どう? 平成三部作とか(笑)。
ありぼぼ ははは(笑)。確かに。それがいいかもしれないです。
MV監督に向いているのは
ありぼぼ この連載は音楽業界を目指す人に読んでもらいたいと思っているんですが、ミュージックビデオの監督にはどんな人が向いていると思いますか?
関 自分のこだわりを持ってものづくりができる人ですかね。あと音楽が好きな人。音楽に興味ない人が作っているミュージックビデオって、音楽が好きな人にはバレちゃうと思うから。こだわりを持っている人って言ったけど、ある種の諦めも肝心で、尺も予算も限りがあるから、その中でフレキシブルにやれて、こだわれる人が正しいかも知れない。これを捨てる代わりにこっちを膨らましてみたら、元のアイデアよりすごくよくなったとか、よくあるから。
ありぼぼ ありがとうございます。ちなみに関さんは締切ギリギリまで粘るタイプですか?
関 毎回ギリギリまでやって、次からは余裕を持ってやろうって反省するタイプです(笑)。10時から打ち合わせなのに9時45分までずっとなんか考えたり書いたりして。「もう1案ないかな? 残り5分でもう1案決めたい」ってずっと考えてる。締切がないと完成しないからあるに越したことはないんだけど、最終チェックでも本当にギリギリまでよりよくなればと考えちゃいますね。音楽だってそうでしょう?
ありぼぼ 同じです(笑)。
関 音楽と違って映像に関しては“降りてくる”ようなものでもないんですよ。なのに散歩とかしちゃう。結局机に向かって考えた1時間でできるのに(笑)。昔、自分の仕事に密着取材が入ったことがあるんですけど、考えてるときって画的には何もしてないようにしか見えないんですよね。だからなんかやらなきゃなと意味もなく紙にぐるぐる丸を書いてましたよ。結局その映像は使われませんでした(笑)。
関和亮(せきかずあき)
1976年長野県生まれの映像監督。代表作にサカナクション「アルクアラウンド」やOK Go「I Won’t Let You Down」、星野源「恋」、Perfume「ワンルーム・ディスコ」、藤井風「燃えよ」などがある。1998年より株式会社トリプル・オーに所属、2017年に独立し、株式会社コエを設立。2025年5月には監督を手がけた、永野芽郁と大泉洋が出演する映画「かくかくしかじか」が公開された。
ありぼぼ
ヤバイTシャツ屋さんのベース&ボーカル。バンドとしては、2016年11月にフルアルバム「We love Tank-top」でユニバーサルミュージック内のレーベルUNIVERSAL SIGMAよりメジャーデビューし、2020年9月発売の4thフルアルバム「You need the Tank-top」で初のオリコン週間アルバムランキングで1位を獲得した。ソロではにゅうろん名義で楽曲をリリースし、道重さゆみや岸本ゆめの、CUTIE STREETらに楽曲提供も行う。また多趣味なところやトークスキルの高さから、さまざまなトークイベントにも出演。2020年12月より自身の出身地・大阪府高槻市の「たかつき観光大使」を務めている。2024年2月にはアパレルブランド・neüronを立ち上げるなど、その活動は多岐にわたる。
