YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週イチ連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで9月26日から10月2日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、21位にJO1「Handz In My Pocket」が登場した。今作は10月22日にリリースされる10thシングルのタイトル曲。「ポケット」をモチーフに、外側からは見えない内に秘めた自信やポテンシャルについて歌った楽曲となっている。
27位にはAdoの「風と私の物語」がランクインした。これは公開中の映画「沈黙の艦隊 北極海大海戦」の主題歌。作詞作曲を担当したのは宮本浩次(エレファントカシマシ)で、彼が女性アーティストへの楽曲提供をするのは今回が初めて。編曲は、まふまふが担当した。力強さと壮大さを感じる快作だ。
49位に登場したのは葛葉の「ギミモ」。1年半ぶりのオリジナルソロ楽曲で、作詞作曲を手がけたのは葛葉と親交があるnqrse。妖艶な歌声の葛葉から放たれる、女性目線の歌詞が見事にハマっている。
ダンスボーカルグループ、ソロアーティスト、Vtuberとさまざまなジャンルの新曲が並んだ今週は、下記の3曲をピックアップする。
Mrs. GREEN APPLE「GOOD DAY」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場16位
Mrs. GREEN APPLEの「GOOD DAY」は、メンバーの大森元貴(Vo, G)が出演するキリンビール「キリングッドエール」のテレビCMで使われている楽曲だ。サウンドや歌からも幸福感があふれており、壮大で晴れやかな気持ちになれる1曲となっている。
10月7日に東京・ベルサール渋谷ファーストで開催されたキリンビール「キリングッドエール」の発表会にはMrs. GREEN APPLEをはじめ、CMに出演している綾瀬はるか、浜辺美波、鈴木亮平が登壇した。大森は「GOOD DAY」の制作について聞かれると、次のように答えた。
「キリンさんから日本を丸ごと明るくしたいということを伺って、すごい規模だなと思って。でも、我々も音楽をやってる身で、ワクワクするようなエンタメを届けたいと思って活動しているのですごく共感しましたし、全力で応えたいなと思いました」
また、バンドや大森個人にとっても、思い入れの強い楽曲になったという。
「誰一人置き去りにせずに、前向きになれるように。綺麗事ではなくて、1つひとつ噛み締めながら希望を歌うことを大切に、願いを込めて書き下ろしました。自分の中でターニングポイントになった曲です。日本を丸ごと明るくするという規模の話なので、より多くの方々に届けることを意識させていただくきっかけになりました」
MVでは、ミセスのメンバーがフルCGで描かれたファンタジックな異世界を旅する様子が描かれている。その旅には、CMと同じく綾瀬、鈴木、浜辺も参加。楽曲と同様に誰もが笑顔になれるような、豪華でピースフルな1本に仕上がっている。
櫻坂46「Alter ego」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場58位
6月に発表された「死んだふり」に続いて、2作目となる四期生楽曲「Alter ego」のMVが公開された。センターを務めるのは山川宇衣。MVの監督は櫻坂46「僕は僕を好きになれない」「Nothing special」、そして12thシングル表題曲「Make or Break」の映像も手がけたG2 Yuki Tsujimotoが担当した。
このMVでは純白の衣装を身にまとい、真っ白なパズルの上で満面の笑みを浮かべて歌う四期生の姿が印象的だ。まだ何色にも染まっていない、純粋無垢な彼女たちを象徴しているように見える。
当連載で6月27日公開の記事で紹介した「死んだふり」は、これまで「いつも支持されてるばかり」で何にも抗わず、死んだふりをしていた“僕”が「何でもいい / 生き返れ / 蘇(よみがえ)ろう」と自分自身を鼓舞して起死回生のチャンスをうかがったところで幕を閉じる、という曲だった。一方、「Alter ego」はラテン語で「もう1人の自我」という意味の通り、新しい自分と出会った様子を描いた楽曲。この2曲を並べると「死んだふりから立ち上がり、自らの意志で道を切り拓いた主人公が新しい自分に出会う」という流れを感じる。それこそ、何者でもなかった彼女たちが、櫻坂46の四期生として新しい人生をスタートさせたことを示しているようでもある。これから、この9人がどんな色に染まっていくのか楽しみだ。
乃紫「1000日間」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場88位
乃紫の「1000日間」は今年4月に公開された、大塚食品のビタミン炭酸飲料「MATCH」のWeb CM「青春ボーナスタイム」のために書き下ろされた楽曲だ。3年間=約1000日間の高校生活をテーマにした、切なくてはかない、そして共感性の高い歌詞が支持を集め、TikTokなどで数多くの動画に使用された。配信リリースされたのは4月だったが、大反響を受けてMVが制作されることになり、8月に公開されたMVが徐々に再生数を伸ばして今回初めてランクインした。
面白いのは現役の中高生だけでなく、大人もこの曲の世界観に魅了されていることだ。これは歌詞の構成が大きいように思う。1番はノートの隅に大好きな“君”の名前を書いては消す“僕”という男子学生の目線の歌詞で始まり、2番では今時の歌が校内放送で流れないと会話をする“あたし”という女子学生の目線に切り替わる。そしてラストは学生時代に思いを馳せる大人目線に着地する。1曲の中で3人の主人公を描き、時間軸が変化している様子を表しているのは見事だ。それによって誰もがこの曲の歌詞に、自分を投影することができる。
また、大人と学生の対比を描いたフレーズも魅力的だ。「僕らに今必要なものは / 大人にとっては無駄なもの自転車で春の風を切る」「あたしたち、いつか街を出て / 大人になるとか笑えるね」「大人になったら気付けるよ / みんな大人のフリした子どもだと」という各パートの主人公の言葉には、説得力とリアリティが感じられる。
MVは、映画研究部の少女が生徒たちにカメラを向け、学生の日常を撮影するというドラマチックな映像になっている。ディレクターを務めたのは映画監督で写真家の枝優花。彼女はこのMVについてXで「正直、今の10代と私の学生時代は随分違うのだと思うのだけど、それでも確実にあったあの頃を引っ張り出して、大人たち皆で1000日間作ってみました」とコメントしている。
MVのほかに、乃紫が自身初のZeppツアー「乃紫 ZEPP TOUR 2025」の東京・Zepp DiverCity(TOKYO)公演で披露した「1000日間」のライブ映像も5月に公開されている。原曲とは違ったパワフルな演奏を堪能できるので、こちらも合わせてチェックしていただきたい。
