YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週イチ連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで11月21日から11月27日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、8位にStray Kidsの「Do It」がランクインした。11月21日のMV公開から10日間で4400万再生を達成し、現在も加速度的に勢いを伸ばしている。
34位にはiLiFE!「君セン!」のダンス動画が登場した。2023年に発表された楽曲を、新メンバーの恋春ねね(iON!)を加えた9人体制で披露した映像となっている。「きっとね / (やっぱね!) / 安定だね / (そうだね!) / お決まりのツーショット」というリズミカルな掛け合いパートが話題となり、TikTokの“踊ってみた”動画が急増するなど、SNSを中心に話題を広げている。
45位にはILLITの「NOT CUTE ANYMORE」がランクインした。レゲエのリズムをベースとしたこの曲は、“ただかわいいだけ”には見られたくない気持ちが表現されており、MVにも“かわいさとの決別宣言”をしたILLITの姿が盛り込まれている。
52位にはRIIZEの「Fame」が登場した。トラップを基盤としたハードなサウンドとエモーショナルなメロディによって、“本当に大事なモノ”を求める純真な歌詞が激情的に昇華されている。
55位にはMori Calliopeの「Gold Unbalance feat. 中島健人」がランクインした。同曲は千鳥がMCを務めるAmazonオリジナル番組「最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ」のテーマソング。客演を務めたのは、去年ソロデビューを果たした中島健人だ。バーチャルとリアルのアイドルが融合した、奇跡のコラボレーションが注目されている。
K-POPアーティストの新曲が目立った今週は、下記の3曲をピックアップする。
King & Prince「Theater」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場6位
「Theater」はKing & Princeが12月24日にリリースする7thアルバム「STARRING」のリードトラック。「STARRING」は収録曲を架空の映画主題歌に見立てたアルバムで、その映画のポスターや特報すべてを完全オリジナルで制作するという「聴いて・見て」楽しめるコンセプチュアルな作品になっている。
「Theater」の作詞、作曲、振付を担当したのは、15thシングルの表題曲の1つ「moooove!!」も手がけたAyumu Imazuだ。Imazuは楽曲の制作過程や仕上がりについて、次のようにコメントしている。
「アルバムのコンセプトを伺い、『どんなタイトルの曲にしよう?』と考えていたときに、さまざまなストーリーが展開される場所=“Theater”がぴったりだと感じ、そこから楽曲の世界観を広げていきました。日本の音楽シーンを盛り上げている二人が歌ってくれるからこそ、より説得力のある1曲になったと感じています」
この曲は、心も体もボロボロになりながら懸命に働く人たちに向けて、シアターの案内人を務めるメンバーの髙橋海人と永瀬廉が「Welcome to our シアター」と新たな世界へ誘う――そんな歌詞が印象的だ。シアターを直訳すると映画館 / 劇場だが、スクリーンに映るのは“誰か”が主人公のフィクションではない。この曲を聴いているリスナー自身が物語の主人公なのだ。「波瀾万丈な人生くらいがちょうどいいのさ / 君が創るショータイムを見せて 見せてちょうだい」などの歌詞からは、これまでの日常を抜け出して、会社のためでもお客さんのためでもなく「あなた自身が輝くため」に生きてほしいというエールを感じる。そんなメッセージ性の高い曲を、ファンクベースのダンサブルなグルーヴに乗せて、巧みに歌い上げるのが非常にクールだ。
キンプリがアイドルとしての魅力はそのままに、その枠組みだけに留まらない幅広い音楽的アプローチを見せてきたことは、これまでの楽曲でもすでに証明されているが、高い音楽スキルで大衆を魅了しながらも、現代社会のリアルを描きつつ希望のある世界を創出するところに、彼らにしかできない独自のエンタメを感じる。
BUMP OF CHICKEN「I」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場33位
BUMP OF CHICKENが2024年9月のアルバム「Iris」以来、約1年ぶりとなる新曲「I」を発表した。これはテレビアニメ「僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON」のエンディングテーマとして書き下ろされた楽曲だ。
エモーショナルできらびやかなイントロで幕が開けるこの曲は、ストリングス、ホーンに加えて、電子音など多彩な音色を取り入れながらも、歌が心にスッと入ってくる。一聴しただけで、歌と演奏のどちらの魅力も際立つ緻密なバランスは、BUMP OF CHICKENの職人芸とも言えるだろう。
今作の歌詞は、主人公“僕”の自問自答が1つのポイントになっているのではないかと思う。大事な瞬間が目の前に訪れたとき、自分はなんのために生きて、大事な“君”に何を伝えるべきなのかを自問自答する。そして「僕も生きる 君と生きる」という安心立命の答えを導き出す。「一人じゃないぜ」という印象的なフレーズは、僕自身と君に向けられた救いの言葉のように思える。曲が進むごとに主人公がたくましくなっていく姿は、まさにヒーローの生き様そのものを表しているようだ。
平井堅「グロテスク feat. 安室奈美恵」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場49位
平井堅がデビュー30周年を記念して11月19日に、これまで配信されていなかった自身のMVを一挙に公開した。その中から今週ランキング入りをしたのは、2014年にリリースされた36thシングルの表題曲「グロテスク feat. 安室奈美恵」だ。フィーチャリングアーティストに安室奈美恵を迎え、日本のポップスター同士が夢の共演を果たしたことで話題になったこの曲。当時の時点で20年以上のキャリアを持っていた平井が、自身のシングルで初めてコラボレーションを果たした特別な楽曲でもある。
安室の新曲がリリースされるたびに必ずチェックし、ツアーがあれば足を運んでいた平井が、手紙で熱烈なオファーをしたことで実現したこのコラボ。「グロテスク」の制作には約1年もの月日が費やされ、楽曲デモは国内外問わず100曲以上集められた。
力強くスリリングなビートの上で、嫉妬や妬み、本音や建前、素直に生きられない葛藤など、人間の奥底にある歪みや不快な感情を、タイトルの「グロテスク」が持つ異様さ、奇妙さのイメージに重ねながら、全編を通して鋭く歌にしている。YouTubeのコメント欄では「懐かしいけど今見てもぜんぜん古く感じないし お二人ともやっぱりカッコいい……」「時代先取りな曲調だよね 今聴いても古臭さがない」など、改めて同曲を評価する声が多く上がっている。


