FIELD OF VIEWの演奏をダチョウが観ている。赤井英和が「ぼくたちの失敗」を歌唱する。「最後の雨」のアウトロで「中西保志は文系」という“伝説”が画面の隅にしれっと出てくる。これらはすべて、今年6月に放送された音楽特番「テレ東音楽祭2026夏」で繰り広げられた光景だ。しかもこれは4時間以上にわたって放送された番組のほんの一部。これまでも他局の大型音楽特番とは一線を画した内容で話題に上ることの多かった「テレ東音楽祭」だが、中でも今年は奇抜な演出の数々が大きな話題となり、その“奇祭”っぷりがSNSを中心にすさまじい反響を呼んでいる。
その企画や演出はいったいどのように生まれ、実現したのか。演出を担当した大森時生に話を聞いたところ、“音楽と記憶を結び付けたい”という狙いや、「クイズ☆タレント名鑑」などの番組からの影響、ヴェイパーウェイヴにまつわる話まで、さまざまなトピックが飛び出した。
取材・文 / 秦野邦彦 撮影 / 臼杵成晃
演出担当・大森時生氏 プロフィール
大森時生(オオモリトキオ)
東京都出身のテレビプロデューサー、演出家。2019年にテレビ東京に入社し、「Aマッソのがんばれ奥様ッソ!」「このテープもってないですか?」、フェイクドキュメンタリーシリーズ「TXQ FICTION」といった番組や映画「遺愛」、展覧会「行方不明展」「恐怖心展」など話題のコンテンツを多数世に放つ。2023年には、FORBES JAPANが選ぶ「世界を変える30歳未満」に選出された。
記憶と音楽が結び付いてほしかった
今年も各テレビ局で夏の大型音楽番組が放送されたが、中でも異彩を放ったのが「テレ東音楽祭2026夏」。2014年の放送開始から16回目を迎える今回は、これまでの水曜放送から番組史上初の日曜へ枠を移し、MCも深澤辰哉(Snow Man)と松本若菜に一新。80組以上のアーティストが世代を越えて集結した4時間半の生放送は、Xでもトレンド1位に。「最高だった」「カオスすぎた」「高熱で浮かされているときに観る夢みたいだった」などさまざまな感想が並ぶ中、数々のヒット番組を生み出した放送作家・鈴木おさむ氏も「これからのテレビの未来へのヒントが、とてつもなく詰まった番組だった」と絶賛している。
赤井英和が森田童子の「ぼくたちの失敗」を熱唱し、中山エミリが本物のダチョウとともにFIELD OF VIEWを見守り、ルビー・モレノがバブルガム・ブラザーズの曲紹介をする。この懐かしく不思議な時間は、いかにして作られたのだろうか。総合演出を担った大森時生氏に話を聞くことになったが、そもそもフェイクドキュメンタリーシリーズ「TXQ FICTION」や展覧会「行方不明展」、映画「遺愛」のプロデュースなどで知られる大森氏が音楽番組を演出していたことに驚いた人も多いだろう。
「『テレ東音楽祭』は入社2年目から毎年ずっと制作進行などで関わっていて、昨年から演出として入りました。総合演出は2人体制でやっていて、歌撮りは『プレミアMelodiX!』など長年音楽番組に携わってきた先輩の宇賀神(敬行)、渡邉(麗)が演出を担当しています。僕は全体の構成や流れを作る役割です」
今年のテーマは「歌の伝説」。1980年代、90年代を象徴するアーティストも多数登場したが、1995年生まれの大森氏はどのようにアプローチしていったのだろうか。
「企画当初から、普段はなかなかテレビで歌う姿を見られない方々に、できるだけ多く出演していただきたいと考えていました。そのために社内の40代、50代の人たちに、思い出の曲や懐かしいアーティストについて聞き取りをしていったんです。すると、『アルペンのCMソングといえば広瀬香美さんだけど、その前はGO-BANG'Sが歌っていたよね』といった、ヒットチャートを眺めているだけでは出てこない個人的な記憶が集まってくる。そうした記憶を掘り下げていけば、ほかの音楽番組とは違う出演者や企画が見えてくるのではないかと思いました。『テレ東音楽祭』のように幅広い世代に楽しんでいただく音楽番組は、思い出と結び付く場だと考えています。視聴者それぞれが持っている記憶と音楽が『テレ東音楽祭』を通して結び付いてほしかったので、その思想を軸に組み立てていきました」
「伝説ドラマ超名曲メドレー」誕生のきっかけ
とにかく序盤の「伝説ドラマ超名曲メドレー」から圧倒されてしまった。テレビ東京の作品だけでなくTBS、フジテレビ、日本テレビのドラマにまつわる懐かしの歌手や俳優が続々と登場。「3年B組金八先生」「世界で一番君が好き」「HOTEL」「スクール☆ウォーズ」「あすなろ白書」「星の金貨」「東京ラブストーリー」などの主題歌が歌われていった。
「ドラマメドレー企画を思いついたきっかけは、自宅で妻と『やまとなでしこ』(2000年・フジテレビ系)を観ていたことでした。MISIAさんの『Everything』って、このドラマの曲なんだとそこで知って。もちろん『Everything』は知っていましたが、それがドラマのシーンと一緒に流れることでまったく違って聞こえたんです」
武田鉄矢による「贈る言葉」の歌唱を「3年B組金八先生」の生徒役だった鶴見辰吾と杉田かおるが優しく見守る姿に胸を熱くしていると、今度は出演俳優がドラマ主題歌を歌うターンに。髙嶋政伸の「LET THE RIVER RUN」、千堂あきほの「ラブ・ストーリーは突然に」、いしだ壱成の「サボテンの花」、赤井英和の「ぼくたちの失敗」なんて、この番組でしか観られないものだ。
「先ほど視聴者の方の記憶と音楽が結び付く話をしましたが、同じことが出演者の方にも起こってほしいと思ったんです。髙嶋政伸さんも、赤井英和さんも、自身の代表作となったドラマの主題歌は、その人にとっても大切なターニングポイントになった曲かもしれない。それを歌うという行為は自分の人生をたどり直す行為に近いのではないかと思ったんです。同様に麻倉未稀さんが『ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO』を歌うとき、『スクール☆ウォーズ』(1984~85年・TBS系)に出演していた山下真司さん、松村雄基さんに両脇で見守られることで、歌手の記憶と俳優の記憶がひとつのステージで重なり、歌にもう一段の熱が加わるのではないか。そこで生まれる感情は、当時を知っているかどうかにかかわらず、視聴者にも伝わるはずだと考えていました」
「俺はこれからお前たちを殴る!」。山下演じる熱血教師・滝沢賢治のセリフは「スクール☆ウォーズ」を夢中で観ていたあの頃へ瞬時に戻らせてくれる。熱唱する麻倉を微動だにせず見守る山下、松村の姿は番組前半の見どころの1つと言えよう。
「僕が意識していたのは、30代以下の視聴者を置き去りにしないことです。知らなくても面白いものは面白いし、いい音楽は世代を越えて届くはずだと思っていました。例えば髙嶋政伸さん主演の『HOTEL』(1990年・TBS系。以後2002年までシリーズ・スペシャル枠で放送)は僕もうっすらと知っていましたが、白鳥英美子さんの歌った主題歌『LET THE RIVER RUN』は知りませんでした。それでも髙嶋さんが『HOTEL』の曲を歌うというのは自分の肌感覚で『なんかいい』と思えたんです。単に当時流行っていたものを再現するのではなく、今の耳で聴いても魅力があり、なおかつ『今、この人が歌う姿を見たい』と思えるものを届けたかった。吉田栄作さんに関しても、トレンディドラマのイメージ、主演ドラマと主題歌の結び付きがあることで、詳しく知らなくても見どころが成立すると思いました。当時流行っていた曲を集めるのではなく、今回歌っていただいたNOA(仙道敦子×吉田栄作)の『今を抱きしめて』のように、現在の耳で聴いても魅力があり、なおかつ『今、この人が歌う姿を見たい』と思えることが重要でした。楽曲そのもののよさ、多くの人が共有する記憶、そして今その人が歌う必然性。その3つが重なる曲を探す作業には、ものすごく時間をかけましたね」
“時代の顔”による曲振り演出
80年代、90年代はドラマ、CMに絡めたテレビ発のヒット曲が多かった時代。今回その時代の楽曲が多く扱われたのは、懐古趣味というよりも、それだけ広く知られている曲が成立しやすい時代だったということだ。そうした“みんなが知っている曲”は2000年代以降に減っていき、2020年代になると細分化が進んで年に1曲あるかどうか。国民的ヒットの成立条件も大きく変わった。
「90年代のヒット曲を調べる中で興味深かったのは、当時の売上枚数と、現在の認知度が必ずしも一致しないことでした。80万枚規模のヒット曲でも、周囲に聴いてもらうとすぐには反応が返ってこないことがある。一方、中西保志さんの『最後の雨』は、当時のチャート成績だけでなく、長年カラオケで歌い継がれてきたことで、世代を越えて広く知られている。楽曲がどのように人々の中に残っていくかは、売上だけでは捉えきれないのだと気付きました。候補曲をさまざまな世代の人に聴いてもらい、その反応を一種のリトマス試験紙にしながら、どこまで共有されている曲なのかを確かめていきました。ほかにも90年代の深夜にテレビで大量に放送されていた『銀座ジュエリーマキ』のCMの話は、世代ではない自分からしてもとても興味深かったです。TRFの『masquerade』や相川七瀬さんの『恋心』といった楽曲は、爆発的な売上でないとしても“体験”として当時大学生、高校生だった人たちの記憶に刻まれている。そういう現象は音楽以外であまりないなと思ったので、この番組が再び出会い直す場になってほしいという気持ちがより強くなりました」
今回、大森氏が特にやりたかったのが、その楽曲が流行った頃の“時代の顔”だった人物に曲振りをしてもらう企画だったという。
「曲紹介を単なる進行でなく『カイヤさんがバラエティ番組にたくさん出ていた頃、この曲が流行ってたよね』という当時の記憶を呼び戻す装置にしたかったんです。視聴者の皆さんは曲単体ではなく、当時のテレビ、CM、バラエティの記憶と一緒に覚えているという考えです。出演していただいたルビー・モレノさん、カイヤさん、インリン(元インリン・オブ・ジョイトイ)さん……皆さんすごく画力があって、こちらが想像していたよりもいい演出になりました。残念ながら予算が尽きてしまってあまりお呼びできなかったんですが、本当はコーナーで予定されていた各曲に、時代を代表する人物に1人ずつ来ていただきたいと思っていました」
ダチョウが見守るFIELD OF VIEW
1995年、「ポカリスエット」のCMでダチョウに乗るため何度も挑み続ける姿が話題になった中山エミリが、スタジオに用意された本物のダチョウと並んでFIELD OF VIEWの歌唱を見守る光景もインパクトのあるものだった。
「中山さんも想像を絶する勢いでカメラに向かってポカリスエットを飲んでくださいました(笑)。FIELD OF VIEWの『突然』やZARDの『揺れる想い』が流れていた頃のポカリスエットのCMって、今の目で見ても新鮮に素晴らしいと思うんです。特にこの映像は今の10代、20代が見ても何か感じてくれるんじゃないかと。面白い、新しい、エモい……受け止め方はなんでもいいですけど、結果として音楽との出会いの場になる可能性があるなと思いました」
実際、TikTokなどSNSを通じて昔の曲が意外な形で再ブレイクするケースも最近は多い。
「SNSやサブスクが浸透したことで、音楽は必ずしも発売された年代によって聴かれるものではなくなりました。タイムラインでは、今日リリースされた曲と数十年前の曲が同じように流れてくる。新旧やジャンルの区分も、今では数あるメタデータのひとつになっている気がします。少し前のY2Kブームの中で『NewJeansを見てSPEEDを思い出す』という声もありましたよね。逆に今の若い人は1周して分け隔てなく聴いてくれるんじゃないかと思います。Xの感想を見ていると『40代、50代に全振りした番組だ』というコメントもありましたが、僕としてはすべてがフラットになった時代の歌番組はこうあるべきなのではないかと思っていました」
楽しませる工夫の1つが、歌唱中に絶妙なタイミングで現れる「伝説メモ」。歌い手にまつわる1行情報だが、いい感じの力の抜け具合で何度もクスッとさせられてしまった。
「武田鉄矢は最近リップスティックボードに乗る」
「髙嶋政伸は夜中にお腹が空くと息子のお菓子を食べる」
「麻倉未稀は山で会う人に『こんにちは』と言う」
登山のときはみんなそうするのでは?と思って調べたところ、麻倉は登山好きの父親の影響で幼少期から山に親しみ、山に登るたび前から来る人に「こんにちは、こんにちは」と言うのが楽しくて仕方がなかったというのが正解らしい。
「物事に正面から向き合うのではなく、少し斜めから眺めて面白がる感覚は、90年代のサブカルチャーにも通じるものだと思います。今回は、過去のアーティストや楽曲と出会い直す番組でもあったので、敬意は持ちながらも、少し角度を変えて見せる。その距離感が、世代を越えて楽しんでもらううえで、いい方向に作用するのではないかと考えました。振り返ってみると、ナタリーさんの記事にある、写真に添えられたクスッと笑えるキャプションからも影響を受けているのかもしれません(笑)」
「クイズ☆タレント名鑑」の“知らなくても面白い”
イントロで曲の内容や歌手の近況を紹介する前口上も今回は意図的に取り入れたという。
「仕事上、昔の『ヤンヤン歌うスタジオ』(1977~87年・東京12チャンネル / テレビ東京)の映像を観ることも多いんですが、前口上という文化はテレビ的ですごく面白いと思うんです。テレビと音楽が密接に結び付いていた時代は口上を入れられる尺のイントロが必ずあって。そこに乗せられた口上を受けて歌手の方が気持ちよく歌い始めるという独特のよさがありましたよね。最近の曲はイントロがないものが多いのでなかなか難しいですけど、だからこそまた面白がれる文化じゃないかなと思いました」
「テレ東音楽祭」の参考にしたテレビ番組として、大森氏が名前を挙げたのが「THE夜もヒッパレ」(1995~2002年・日本テレビ系)。「見たい、聴きたい、歌いタイ!」を合い言葉に、毎週ランクインした楽曲を本人以外の出演者がカラオケ形式で歌っていく音楽バラエティだ。尾崎紀世彦が歌うMr.Children「innocent world」、尾藤イサオが歌うBLANKEY JET CITY「ガソリンの揺れかた」など、歌唱力のあるベテラン歌手と最新ヒット曲といった組み合わせの妙は、歌謡曲ファンの間でも高く評価されている。
「観ていてすごく明るい気持ちになりますよね。そこに『なぜこの人がこの曲を歌うのか』という明確な文脈や理屈はないのに、歌い始めた瞬間にエンタテインメントとして成立してしまう。その大らかさや、番組全体から漂う景気のよさが面白いと思います。今やろうとするとそこに何か文脈がないと人はあまり聴いてくれないような気がしたので、意外な組み合わせの面白さは残しながら、そこに入っていくための文脈を用意したかったんです。もう1つ、藤井健太郎さんが演出していた『クイズ☆タレント名鑑』(2010~12年・TBS系)の“知らなくても面白い”構造にはすごく影響を受けています。放送当時僕は中学生で、あの番組に出てくる芸能人の名前を9割ぐらい知らなかったんですが、それでも松島トモ子さんがライオンに襲われたエピソードや、生稲晃子さんが自分の楽曲をカラオケで歌われるまで帰れないといった事象そのものが興味深いと思っていました。それは歌も一緒で、世代じゃなくても配置や文脈の見せ方で楽曲のよさや面白さがちゃんと伝わるようにしたいなと思いながら作っていました」
あの一瞬にSPEEDの人生が詰まってた
昨年、話題を集めた「一生一緒にいてくれや」100連続歌唱チャレンジに続いて、今年もDOZAN11 aka 三木道三による「一生一緒にいてくれや」大合唱チャレンジが開催された。大型バスでスタジオへ移動しながら一生一緒にいてほしい存在がある人たちを集めて、4時間半の生放送の最後にみんなで「Lifetime Respect」を大合唱するという、これもまたほかでは見ることのできない攻めた企画だ。
「最後は合唱がいいなと思ったんです。やっぱり『24時間テレビ』の最後にみんなで『サライ』を歌う姿って、無条件でいいなと思える。結果27人というリアリティがありつつ大団円感もある人数が集まって、個人的にとても満足しています。あれだけみんなが知っている曲があるのは本当にすごいことだなと改めて思いました。過酷なロケにもかかわらず快く協力していただいたDOZAN11さん、ありがとうございました」
番組終了間際、DOZAN11からのお知らせが「この番組はTVerで配信されます!」だったことも笑いを誘った。SNSの好評を受けて、TVerでの見逃し配信の再生数もグングン伸びていき、テレビ東京のバラエティ・音楽番組で歴代4位を記録したという。1~3位は高い人気を誇る「やりすぎ都市伝説」。そこに肉薄するほどの大きな反響を呼んだというのはひとつの快挙と言えるだろう。ここまで反響があると次回への期待が高まるばかりだが、番組継続の可否はあくまで視聴率次第だという。開催を望まれる方はテレビでのリアルタイム視聴もオススメしたい。ちなみに大森氏が今後「テレ東音楽祭」をどのような番組にしていきたいかを聞くと、こんな答えが返ってきた。
「今回、島袋寛子さんに登場していただきましたが、SPEEDの楽曲を披露していただくということも悲願だったんです。同じ沖縄出身という文脈があるDA PUMP、MAX、知念里奈さんと一緒に歌っていただけたことは個人的にすごくよかったなと思いました。最後の『STEADY』で、今井絵理子さんの『そうだよね』というパートの瞬間、島袋さんがマイクをカメラに向けたところも本当にいいシーンでした。あの一瞬にSPEEDの皆さんの人生が詰まっていたというか。ああいう、演出だけでは作りきれない素晴らしい瞬間が生まれることこそ、生放送の音楽番組の醍醐味だと思います。これからも、そんな場面を作っていけたらいいなと思います」
「テレ東音楽祭」はヴェイパーウェイヴ?
いろいろと話を聞いていると、大森氏が過去にインタビューで好きだと語っていた「ヴェイパーウェイヴ(Vaporwave)」という言葉が頭に浮かんできた。ヴェイパーウェイヴは2010年代初頭にネット上で発生した音楽ジャンルで、80年代、90年代のテレビCMや企業ロゴ、商業施設のBGM、映像の断片を引用しながら、現代の感覚で新しい作品へと組み替えていくムーブメントである。過去を素材に新しい景色を作っていくその発想は、今回の「テレ東音楽祭2026夏」とも重なって見える。
「ヴェイパーウェイヴは昔から好きで、学生時代からずっと聴いてます。……なるほど。意識していませんでしたが、言われてみると確かに今回の『テレ東音楽祭』に生かされてるかもしれないですね」
通常なら、地上波ゴールデンの音楽番組がニッチなヴェイパーウェイヴと接点を持つことはまずありえない。だが、1998年生まれのグラフィックデザイナー岡本太玖斗が手がけたタイトルの尖り具合を目にすると、あながちその読みも遠くないように思える。
「『テレ東音楽祭』では、番組の内容を決めるための大人数での全体会議を、基本的には行っていないんです。もちろん、ブッキングの進捗確認や、他部署との連携に必要な打ち合わせはあります。ただ、作家さんたちが集まって『このコーナーはどうしよう』『次は何をやろう』とアイデアを出し合う会議のようなものは一度もありませんでした。それがもしかしたら他局とは違う色の出やすさにつながっているのかもしれないですね。内容を決めるうえでの軸がぶれにくく、アイデアが平均化されずに残りますから」
「テレ東音楽祭2026夏」を“テレビ番組として作り上げたヴェイパーウェイヴ”として捉えると腑に落ちることは多い。ただ「懐かしい」だけで終わらせたくない。だからこそ過度なノスタルジーがない。ヒット曲のアーカイブではなく過去をもう一度“今”へ接続する番組となったのだ。「このドラマ、どこで観れる?」「あのCMの曲、いいよね」。何気ない会話が世代を越えて生まれていく。それこそ大森氏がこの番組で届けたかったことなのかもしれない。


