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元フィロのス奥津マリリはなぜ「オタクのための介護施設」を作りたいのか

奥津マリリ
6分前2026年10月19日 10:01

「アイドル戦国時代」とささやかれ始めた2010年代初頭から早15年ほどが過ぎたが、アイドルシーンは収束することなく拡大・多様化の一途をたどっている。そんな中、アイドル活動に区切りを付けてネクストステップへと進む人々の“アイドルのセカンドキャリア”もまた、多様化が進んでいる。アイドル時代に培ったダンススキルを生かして振付師となり、数多くのヒットを生み出すキーパーソンの1人となっている槙田紗子(ex. PASSPO☆)、乃木坂46卒業ののちアナウンサーとして活躍する市來玲奈や斎藤ちはる、アイドルをプロデュースする側に回って大成功を収めている指原莉乃(ex. HKT48)など、その後の“進路”もさまざまだ。

「アイドルオタクのための介護施設を作りたい」──今年6月に惜しまれつつ活動を終了したフィロソフィーのダンスのメンバー・奥津マリリは現役時代からそう話していた。フィロのス終了から4カ月近くが経った頃、奥津は株式会社SAKURAYA ENC(サクラヤアンク)の設立を発表。「アイドルオタクのための介護施設を作りたい」を有言実行へと運ぶべく、自ら会社を立ち上げた。その真意と目的、当面の活動はいかなるものか。奥津のビジョンを探るべく、会社設立と同時にアナウンスされた問い合わせメールへ取材を申し込んだ。

取材・文・撮影 / 臼杵成晃

「自分で会社作っちゃえばいいじゃん」にビビッと

「卒業ライブのときは本当にそのあとのことはまったく決めていませんでした。何をするのか決めず、何も考えずに過ごしてみよう、その期間にポッと出てきた、自分の中のやる気の芽みたいなものを信じてみようって。いかんせん感覚派なので。感覚でビビッとくるものと出会うまでは何もしないでいようと思って、とにかくポケモンをやってました(笑)。もうずっとゲームばっかり。本当に不規則な生活をして、食べたいものを食べ、起きたい時間に起き、寝れるだけ寝て、みたいな感じで自由に過ごしたら、本当に自分って何者でもない……ここまでフラットに、ただの人間になれるんだ?という驚きがあります(笑)。すべてを手放した感覚がすごくあって。逆に、私よく11年も人前に立って、キャーキャー言って、歌って踊ってきたなあと思うくらい。本当にアイドル時代とはギャップのある生活です」

フィロのス活動終了間際、「このあとどうするんですか?」と彼女に聞いたことがあった。「本当に何も考えてないんですよ。しばらく近所のスーパーでバイトしてると思います」という回答の裏にはきっと何か進行中の計画があるのだろう、と勝手に想像していたが、どうやら「今後については何も考えてない」は本当だったようだ。しかし、奥津が音楽の道を選ばなかったのは正直意外だった。もともとバンドやソロシンガーとしての経歴があり、そこからアイドルシーンへと飛び込んだ彼女は、当然ソロシンガーに戻るものだと思っていた。ボーカリスト奥津マリリの新しい音楽が聴けないのはもったいない、とも。

「なんて言うんだろうな、すべてやり切ってしまった感というか。バンドもやったし、弾き語りのシンガーソングライターもやったし、アイドルもやったし……じゃあ次は何を?と想像ができなかった。『ファンの方と一緒に大きなところを目指す』というのが私にとっての音楽活動の楽しみ、生きがいだったけど、フィロのスでそれをやり切ったと感じてしまったから、またイチから音楽でそれをやることが考えられなくて。もったいない……いや、もったいないですよ、正直(笑)。フィロのスはもっと知られるべきだと思っていたし、なんならまだ私はフィロのスがバズることをあきらめてないですから。今はひと昔前の曲が急に流行ることもあるし、私はまだその可能性を信じている最中です」

すでに名の通っている奥津であれば、小規模であれライブを開けばファンは集まるだろうし、今ならトーク配信の“投げ銭”などでも十分に生活できると思うが、彼女はそれを選べなかった。

「やっぱり『歌ってくれ』という声はたくさんもらうけど、明確な目標も向かうところもないのに人を呼び寄せることは、私の生活費のために集まってもらうようで、どうしてもしっくりこなかったんです。とはいえ、いつか婚活・妊活もしたいと思っているし、自分の人生のペースを大事にしたいと考えたりすると、これから自分がどこかの会社員になったり、芸能事務所にまたお世話になるというのも考えられなかった。何を考えてもしっくりこない中で……私、老人ホームをやりたいって10年前から言ってたらしいんですよ(笑)。『どうやったら老人ホームができるんだろう?』みたいなこともぼんやり考えながら、どれもしっくりこないんだよなあと考えていたときに『じゃあ看板掲げればよくない?』『自分で会社作っちゃえばいいじゃん』とフワッと言われて、そこで初めて“ビビッと”の芽が出たんです。『施設を作る』という大きな夢と目標があれば、ファンの人に『来て』って言える。数珠つなぎにいろんなことを連想して『これなら私にできるかも!』と一気にやる気に火がつきました。そこから会社を立ち上げるまでは1カ月くらいかな?」

「一緒に武道館を目指すぞ」から「一緒に介護施設を作るぞ!」へ

10月1日、奥津はトークイベント「新・マリリが逢いたい」を開き、株式会社SAKURAYA ENC設立をサプライズ発表。イベント終了後、自身のXにステートメントをポストした。そこでは社名の由来や「オタクの皆様の為の介護施設を作りたい」という目標、そして「メディア出演・イベント出演・MC・介護福祉関連等」の仕事依頼を受け付けていることをアナウンスしている。

「『施設を作る』は正直に言うと実現できるかどうかはわからないです。とはいえ動かないことには始まらないよね、という見切り発車なところではあるんですけど。例えばこれから30年くらい? 30年の間にはみんな生活だったり仕事だったり、いろんなことが変わるわけじゃないですか。30年後の約束を信じてただ待たせるわけにはいかない(笑)。『じゃあ30年一緒にいよう!』という感じで、その間に『どういう場所に作る?』とか『どういった施設がいい?』とか、自分の作りたい施設のビジョンをみんなで明確にしていくのがいいんじゃないかとひらめいて。夢を応援してくれる方が現れたり、もっと仲間が増えることだってありますよね。言霊というか引き寄せの法則というか、有言実行で自分からどんどん発信していかないと手に入らない大きな夢だと思うので、その発信をするための活動をしていきたいなって」

例えば「一緒に日本武道館を目指すぞ!」「チャート1位を獲るぞ!」というようなアイドルとファンの一致団結、共犯関係。「ファンの方と一緒に大きなところを目指す」が音楽活動の醍醐味だったという奥津にとって、それは「武道館」が「介護施設」にスライドしただけなのだろう。

「そうですね、まさに。皆さんが考えられている介護施設がどういったものなのかはわからないですけど、何百人と入る学校みたいな施設だけじゃなくて、いろんな施設があるんです。私のファンの方だけじゃなく、アイドル時代を生きてきた人が広く入れるようなものを作りたい、というのが今の私にとっての武道館です(笑)」

そもそも彼女は10年前、なぜ「アイドルオタクの介護施設を」と考えたのだろうか。

「アイドルになっていろんな考えが変わった、というのが大きいです。アイドルになって初めて『人生を懸けて応援される』という、時間とお金と思いといろんなものをあり得ないくらいいただく経験をしましたけど、アイドルオタクの中には自分よりずっと歳上の方もいて、『私はこの人たちの婚期を逃させているのかもしれない。この土日に同じ熱量で婚活に挑むこともできるのに、時間も予算も私たちに費やしてもらっているのはどうなんだろう』って。年を取れば足腰を悪くしたり病気になったり、ライブハウスに通うことができなくなって……人知れず命が燃え尽きていたら、と考えたらすごく悲しくなって。『死ぬまで幸せにしてやりたい』と思うんです。大勢の人から毎日『がんばってね』って応援されるなんて、なかなかない人生じゃないですか。『こんなに人生を捧げてくれるオタクのために、私は何ができるだろう?』と考えるようになったことが『オタクの老人ホームを』という考えにつながったんだと思います」

承認欲求が満たされる!認知能力が役に立つ!介護職はアイドルこそ向いている

株式会社SAKURAYA ENCの目指すところがわかったところで、社長兼所属タレントである奥津個人の当面の活動はどのようなものになるのだろうか。

「まずファンの方との交流は続けていきたいという思いがありますけど、介護面で言うと『レクリエーション介護士2級』『認知症介助士』の資格を取ったので、今は実務者研修の資格を取りに行っています。今はデイサービスで働いているんですけど、デイサービスには寝たきりの方とか、自分で歩行ができない方はあまりいらっしゃらないので、自分の経験として、レクリエーションボランティアで施設を訪問したり、派遣バイトでいろんな形態の施設で働いてみることはいろんな施設を見学するという面でもやっていこうと思っている最中です」

アイドル活動とはほど遠いと思われるデイサービスの業務。しかし奥津は「アイドルこそ介護士の仕事が向いている」と文字通り声を大にして言う。

「元アイドルのセカンドキャリアとして介護士はかなりオススメしたい。セカンドキャリアの生かし方というと『やっぱり芸能関係じゃないと』っていうなんとなくのイメージがあると思うんですけど、介護職員として働いていると『アイドルやっててよかった』と思う瞬間が何度もあるんです。オススメな理由として大きいのが1つあって。アイドルをやめたあと、承認欲求が満たされなくて帰ってきてしまうってよくあるじゃないですか(笑)。アイドルじゃないとチヤホヤもされなければ、人前でかわいいと言われることもなく、キレイでいる理由もなくしてしまったりして。介護施設は、それがすべて叶うんですよ! 介護していると皆さん『キレイねー』って言ってくださるし、レクリエーションで進行していると『おー!』と感心されたりもして、承認欲求めちゃめちゃ満たされてます(笑)。事あるごとに『ありがとうね』って言ってくれて、自分がしたことに『助かるわ』って感謝をされる場所でもあるので、すごく働き甲斐があります」

そしてもう1つ、奥津が「アイドルならではの特技が生かされる技能」を挙げたとき、なるほど!と思わず膝を打った。

「あとは認知! アイドル経験のある人は、施設にいらっしゃる方のことを、数十人程度だったらたぶん3日もあれば全員覚えられます。デイサービスを始めて2週間くらい経った頃、職場の先輩から『どう、覚えた?』って言われたんですけど『バッチリです』と。すごく驚かれましたね。アイドルは仕事柄コミュニケーション能力も高いから、初対面の方とでもすぐに話せるし。介護士を目指される方でもコミュニケーションが苦手な人や、人前でレクリエーションをするのが嫌だという人も多いそうなんですけど、率先して大好きだったりするので(笑)。それに、『なんか今日機嫌悪くない?』『今日ちょっと体調悪いかも』と察知することも、特典会で30秒で接してできるのであれば、1日かけて一緒にいるなんてもう無限の時間を与えられているような感覚(笑)。まったく剥がされない! むしろ『ありがとうね』って切り上げられちゃう(笑)。本当に密な時間を取れて、その人のことを知れて、お話ができるというのは、私にとって楽しいことでしかないんです」

まずは1年かけて会社をしっかりと黒字化していくこと

アイドルのセカンドキャリアにおける新たな可能性。もしかしたら、今アイドルとして活動している人の中にも、将来のことを考えながら「アイドル卒業と言っても、その先に何をやっていいのかわからない」と現在進行形で迷いを抱えている人もいるかもしれない。SAKURAYA ENCは現在、社長と社員(所属タレント)が1人だけ、という個人商店状態だが、先の奥津の言葉にピンときた人、自分も向いているのかも……と考える人もいるかもしれない。アイドル / 元アイドルのみならず、SAKURAYA ENCの企業理念に賛同する人が仲間に加わる未来も見える。そんな「人材発掘」もできるのではないだろうか。

「増やしたいです、アイドル介護士仲間。今後はそういった活動もしていきたいですね。もっと軽く、『なんか困ったら言ってね』っていう場所でもありたいし。いつかは人を雇えるように、とは考えています。介護士の人口が施設に対して足りてないという話も聞きますし、取るのが難しくない資格もあるので、道に迷っているアイドルちゃんが介護を始めたら双方解決するのにって思う(笑)」

一方で、会社の事業計画として「まずは資金集め」と堅実な考えを持つ奥津は言う。

「資金がないと何もできないなと思ったので、まずは地続きの活動として、ソロの奥津マリリとしてのライブなどもしっかりやっていくことと……私の中で『これをリリースしないと死ねないぞ』というソロの曲があるので(笑)、それをリリースしたい。まずは1年かけて会社をしっかりと黒字化していくこと。介護業界とも密に接していきたいので、介護のお仕事に関連するイベントのMCなどもぜひ! 介護施設を作るのが目標ではありますけど、会社を立ち上げたら無限の可能性があるなって」

夢がふくらむ奥津社長だが、すべてがポジティブなわけではないようで、やはり「正直、すごく焦っている」という。

「自分が焦っているのがわかって、自分でこう、押さえつけている最中なんですけど……会社を立ち上げると報告したポストが、過去最大にバズってるんですよ。『まだ私、何も始めていないのに、そんなにいいねとかすごいねとか言わないでよ』という焦り。資格も第2段階、第3段階と早く取りにいかないと!と焦っています。自分のできることを少しずつ、きちんと売上を立てて、少しずつ認知されて、長い目でやりたいことを実現させていけたら。……よかった、これが言えて(笑)。とにかく場数を踏みつつ、ボランティアの経験も積んで知識を増やし、介護職はいいぞって広めていけたらなと思っています」

この取材の日、「介護のこと、SNSでもっと発信したほうがいいんですかね?」と悩んでいた奥津だが、10月10日よりXで「#やっててよかった介護職」と題したイラストシリーズを投稿している。

また、11月16日には東京・LOFT HEAVENにてInstagramサブスクリプション会員限定イベント「会社設立記念パーティー! 猫の休日 vol. 1001」の開催が決定している。社長1年生の奮闘ぶりを見守りつつ、1年後の実りある“事業報告”を楽しみにしたい。介護職に興味を持ったアイドルはぜひコンタクトを。

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