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音楽ファン目線で見る、意外と奥が深い高校野球ブラバン応援の世界

4年以上前2019年07月26日 3:05

今年で101回目を迎える「全国高等学校野球選手権大会」、通称“夏の甲子園”が8月6日から16日間にわたって兵庫・阪神甲子園球場で開催される。全国の野球部の頂点を決するこの大会は、切磋琢磨してきた球児たちはもちろん、熱気あふれる応援を演出する吹奏楽部にとっても晴れの舞台だ。

本稿では甲子園におけるもう1つの主役とも言えるブラバンに焦点を当て、その音楽的な魅力について解説していく。多くの人々がイメージする定番曲とはひと味違った近年の選曲のトレンド、ブラバン視点での注目校などについてまとめ、“音楽ファン向けのブラバン応援最新事情”を紹介しよう。

野球観戦に興味がないという人も、これを読めば今年の夏は甲子園を楽しめるかも?

なぜ昭和の曲を使い続けるのか

高校野球の応援曲といえば、山本リンダの「狙いうち」や、ピンク・レディーの「サウスポー」、「ルパン三世のテーマ」など、懐メロやアニメの主題歌を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。そして、なぜ50年近く前の昭和歌謡が、平成どころか令和時代にまでも連綿と使われ続けているのか不思議に思っている人もいるかもしれない。

現在も球児たちに人気が高い歌謡曲応援は、1970年代前半に明治大学が、同校OBの阿久悠が作詞を担当した「狙いうち」を取り入れたことにさかのぼる。六大学野球の応援曲は高校野球界にもすぐに広まり、同曲以外にも、曲名も歌詞も野球がモチーフの「サウスポー」が人気となっていった。

アニメの主題歌も多数使われているが、立教大学が応援に使う「ポパイ・ザ・セーラーマン」や、東京大学の「鉄腕アトム」が高校野球でも広まるにつれ、「ルパン三世のテーマ」「すきすきソング」(「ひみつのアッコちゃん」エンディングテーマ)「GO! GO! トリトン」(「海のトリトン」エンディングテーマ)「サスケのテーマ」「宇宙戦艦ヤマト」「タッチ」など、1960~80年代のアニメ曲が花盛りとなっていく。このようにさまざまなアニメ曲が増殖していった理由としては、「ポパイをやる学校はたくさんあるから、うちは違う曲をやろう」といった具合に、野球部が自チームの独自色を出すことを希望して、バリエーションが増えていったものと考えられる。

現在の高校生は当然ながらリアルタイムでは知らないアニメばかりだが、昔の曲が今も応援に使われ続けているのは、ひとえに、それが彼らの“伝統”だからだ。「憧れの先輩がヒットを打ったあの曲で打席に立ちたい」「逆転劇を生んだ曲なので縁起がいい」といった理由で昔の曲を使い続ける。「『サスケ~』は、代々強打者しか使ってはいけない」といったルールが存在する学校もある。

現在でもアニメ曲が人気なのは変わらない。昭和の曲が受け継がれる一方で、「名探偵コナン」「ウィーアー!」(「ONE PIECE」オープニングテーマ)「残酷な天使のテーゼ」(「新世紀エヴァンゲリオン」オープニングテーマ)「紅蓮の弓矢」(「進撃の巨人」オープニングテーマ)など、平成時代のアニメ曲を支持する球児は多い。

野球部がリクエストし、吹奏楽部が応える

そもそも、応援曲はどのように決まるのか。学校にもよって異なるが、もっとも多いのが「野球部員が好きな曲を吹奏楽部にリクエストする」というパターンだ。「昔から応援に使っている曲のリストから選ぶ」という学校もあれば、「どんなリクエスト曲にも吹奏楽部が応えてくれる」という学校も存在する。学校のオリジナル曲にこだわり、いくら野球部が自分の好きな曲をリクエストしても、「うちの伝統をお前の代で終わらせるのか」と、吹奏楽部の顧問が断固拒否するというケースもある。

昭和歌謡曲が応援に使われるようになり、“リクエストに応える系”の学校も多いことから、次第にJ-POPやバンドの曲を応援に使う学校が増えていく。定番人気といえるのが、X JAPAN「紅」、BRAHMAN「SEE OFF」、大塚愛「さくらんぼ」、JITTERIN'JINN「夏祭り」、THE HIGH-LOWS「日曜日よりの使者」、真心ブラザーズ「どかーん」、一世風靡セピア「前略、道の上より」、嶋大輔「男の勲章」あたりだろう。

T-SQUAREに堀ちえみ、とんねるずまで

1985年にTHE SQUARE(現T-SQUARE)がリリースした「OMENS OF LOVE」を応援に使う学校もある。埼玉栄や花咲徳栄(ともに埼玉)などが、バケツの水を思い切りかけ合いながらこの曲に合わせて行う応援が有名で、県営大宮球場で観戦するたびに夏の到来を感じさせる名物応援の1つだ。ちなみに同曲は、小泉今日子と野村宏伸が「ウィンク・キラー」というタイトルでカバーしているが、松本隆による歌詞が、それぞれ女性目線と男性目線で書き分けられており、聴き比べてみるのもまた一興だ。

レアな曲だと、松山高校(埼玉)が堀ちえみ「CHIEMI SQUALL」を“プロミネント松高”という曲名で呼び、名物応援になっている。原曲では「C・H・I・E・M・I」と叫ぶコール部分を松山高の生徒たちは「M・A・T・S・U・K・O」と叫ぶのだが、男子校だけに、かつての親衛隊を彷彿とさせる迫力とすごみがたまらない。以前、同校の生徒になぜこの曲を応援に使うのか聞いてみたところ、「昔の先輩が堀ちえみのファンで、応援に使うことになったと聞いています」とのこと。このように、代々伝統が受け継がれていくのが高校野球応援の世界なのだ。

北海高校(南北海道)のとんねるず「ガラガラヘビがやってくる」も甲子園では珍しい応援曲だが、甲子園最多出場を誇る北海道の強豪校である北海高校が使用していることもあり、道内ではいくつかの学校が応援に使っているのを聴いたことがある。埼玉県内では、花咲徳栄が取り入れている「サスケ~」を使う学校が年々増え、今では多くの学校が演奏。これらのように、各都道府県の強豪校の応援曲が、憧れられて広まっていくというケースは非常に多い。

ジャニーズの一番人気曲は……

先日、ジャニーズ事務所代表取締役のジャニー喜多川氏が亡くなったが、SMAPや嵐など、ジャニーズの曲もよく応援に使われている。中でも群を抜いて人気なのが、光GENJIの「パラダイス銀河」だ。平成元年にリリースされた同曲は、光GENJI最大のヒット曲で、発売翌年の選抜高校野球大会の入場行進曲にも選ばれている。

同曲のように、入場行進曲は前年の大ヒット曲が翌年選ばれるというケースが多いが、歴代の行進曲の中で、現在も応援曲として多くの学校に演奏されているのはこの曲くらいで、ヒットが出たときや得点時に演奏されることが多い。サビの部分が16小節という演奏しやすい尺ということと、速度標語でいうところの“Vivace”で奏でるテンポの軽快さ、そして、サビの出だしがファンファーレのような明るく輝かしい曲調で盛り上がるという点が、非常に応援向きの曲なのではないかと感じている。

話題の曲をいち早く取り入れる大阪桐蔭

甲子園で8度の優勝を誇る強豪大阪桐蔭(大阪)は、話題の曲をいち早く応援に取り入れることでも知られている。近年の例を挙げてみよう。

  • 2013夏:大友良英「あまちゃん オープニングテーマ」
  • 2014夏:「Let It Go」(映画『アナと雪の女王』より)
  • 2015選抜:クマムシ「あったかいんだからぁ」
  • 2016選抜:「スター・ウォーズのテーマ」(映画「ローグ・ワン / スター・ウォーズ・ストーリー」の公開に合わせて)、RADIO FISH「PERFECT HUMAN」
  • 2017夏:「Another Day of Sun」(映画「ラ・ラ・ランド」より)
  • 2018選抜:「The Greatest Show」(映画「グレイテスト・ショーマン」より)
  • 2018夏:DA PUMP「U.S.A」

このように大阪桐蔭は、その年に話題になった曲や、公開された映画の曲などを取り入れており、その演奏を楽しみにしているファンも多い。毎回約180人の吹奏楽部員が全員でアルプススタンドに駆けつけ、シンフォニックな桐蔭サウンドを奏でている。ファンサービスまで考えられた同校のブラバン応援は、もはや甲子園名物の1つと言えるだろう。

サカナクションにサザンオールスターズ……OBの曲を取り入れる学校も

OBであるアーティストの曲を応援に取り入れるという学校もある。札幌第一(南北海道)は、甲子園でサカナクションの「新宝島」や「アイデンティティ」を演奏し、「サカナクションがOBだなんてうらやましい」という声があちこちから聞かれた。

桑田佳祐がOBの鎌倉学園(神奈川)は、2018年7月に横浜スタジアムで開催された南神奈川大会決勝でサザンオールスターズの「勝手にシンドバット」を披露。このとき、対戦相手の横浜高校スタンドからは「おおー…! そうきたか……!」と言わんばかりのどよめきが起こっていた。また、忌野清志郎をOBに持つ東京都立日野高校(西東京)は、RCサクセションの「雨あがりの夜空に」を演奏している。

近年の傾向は参加型

球場に通い、応援を研究していると、球児受けする曲は“明るく盛り上がる曲”と、対戦相手に威圧感を与える“勇ましい曲”の2つに大きく分けられると感じる。

“明るく盛り上がる曲”で近年全国各地で大人気なのが、「ハイヤハイヤ!」「アゲアゲホイホイ!」などとコールしながら応援するベリーニ「サンバ・デ・ジャネイロ」で、高校生たちの間では通称「アゲアゲホイホイ」「アゲホイ」と呼ばれている。同曲は以前より多くの学校が応援に使っていたが、報徳学園(兵庫)がコールを付けてアレンジしたところ、「楽しい」「盛り上がる」と瞬く間に全国に広まった。さまざまな学校によるこの曲の演奏動画がSNSで拡散され、近年の甲子園では半数近くの学校が応援に取り入れている。

“勇ましい曲”では、1980年代後半に智辯学園和歌山(和歌山)から広まったヴァン・マッコイ「アフリカン・シンフォニー」が定番だが、応援に取り入れる学校が年々増加しているのが湘南乃風の「SHOW TIME」だ。原曲冒頭の「S・H・O・N・A・N 湘南!!!」という歌詞を学校名に変えて歌う学校がほとんどで、中でも「戦闘開始!」と拳を突き上げながらコールする東邦(愛知)が、高校野球応援のファンの間で特に人気が高い。

この2曲が現在の2大トレンドだが、スタンドを巻き込み、一体感が生まれる“参加型”の応援が近年の傾向と言えるだろう。

ほかにも、オリジナル曲にこだわる学校や、郷土色の豊かな応援など、学校によってカラーが異なるのも高校野球応援の面白いところ。今年の甲子園は、グラウンドで戦う選手たちを後押しする吹奏楽部の演奏にも耳を傾けてみてはいかがだろうか。テレビの音量を25くらいに上げるとよく聴こえるので、今夏はぜひ、各校の応援にも注目してみてほしい。

※記事初出時、一部アーティスト名および楽曲の表記に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

取材・文・撮影 / 梅津有希子

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