NONA REEVESの西寺郷太が日本のポピュラーミュージックの名曲を毎回1曲取り上げ、アーティスト目線でソングライティングやアレンジについて解説する連載「西寺郷太のPOP FOCUS」。NONA REEVESのフロントマンであり、音楽プロデューサーとしても活躍しながら、80年代音楽の伝承者として多くのメディアに出演する西寺が、私論も展開しつつポップソングの魅力を掘り下げる。連載の第4回では西寺が今、夢中になっているというSnow Manの「D.D.」にフォーカスする。
デビュー曲から見えるグループの真髄
「処女作にはその作家のすべてがある」などとよく言われます。特にジャニーズのアイドルグループはデビュー曲にこそ、その人たちの「真髄」が秘められ、そのグループの未来まで予感させるすべてが封じ込められている、と思ったりもします。もちろん、いわゆるアイドル不遇の時代、1991年秋に完全な逆風の中デビューして、その後突然変異的に覚醒し、途中から大爆発したSMAPみたいな例外もあるんですが……僕の場合、プロのミュージシャンになってから特に、ジャニー喜多川さんという世界的にも稀有な天才プロデューサーの頭の中を覗いて学びたいという研究心が高まったこともあり、特にジャニーさんが全力でパワーを注がれる新しいグループのデビュー曲は必ず自分で盤を買って、チェック、考察するようにしてきました。ポイントは差別化だと思うんですよね。これまでの連載で触れてきた1985年12月発売の少年隊「仮面舞踏会」や、87年8月リリースの光GENJI「STAR LIGHT」は個人的に別格、殿堂入りなんですが……わかりやすい例なんで、この80年代後半の時期に注目しても、翌88年に登場した男闘呼組はストリート感のある4人組バンドで、Bon Jovi的“歌謡ハードロック”「DAYBREAK」でデビュー。それぞれのグループの魅力や特性を生かしつつ、ファンがバラけるようにまったく別の仕掛けを施しているのがすごいな、と。
時代はそれから10年ほど飛びますが、僕は特に嵐のデビュー曲「A・RA・SHI」が大好きで。彼らがデビューした99年11月は大興奮でしたね。あの“ラップありバラードあり長い間奏とギターソロもあり”という摩訶不思議なごった煮感と急展開が、全米ナンバー1になったプリンスの「Batdance」的に感じたんです。「Batdance」は映画「バットマン」のためにプリンスがたくさん作った曲をコラージュして1曲にまとめたようなエキセントリックな曲でしたが、それくらい攻めてると感じたんですよね。今でこそ、日本ポップ史に残るクラシックとして普通に定着してますけど、最初聴いたときは「何これ!?」と。もちろんCDも買いましたし、その頃、NONA REEVESがパーソナリティを担当していた文化放送の「Come on FUNKY Lips!」っていう深夜番組でも、ことあるごとに「A・RA・SHI」を激しくプッシュしていました(笑)。「A・RA・SHI」と対になっている“兄弟曲”がNEWSの「NEWSニッポン」だと思っていて。「NEWSニッポン」も大好きでしたね。ただ、このCDは確かセブン‐イレブンでしか買えなかったので、レジで注文するのがなぜかめちゃくちゃ恥ずかしかった思い出があります。
また時は飛びまして、もう2年前になりますね、2018年春に、King & Princeの「シンデレラガール」を初めて聴いたとき「これはヤバい」と……特にジャニーズの伝統を完璧にアップデートしたようなアレンジが素晴らしいんで、自分と同世代や、もっと若い編曲家だったらショックで立ち直れない、なんて思ってクレジットを確認したら“船山基紀”と書いてあってホッとしましたよ。というか、船山さん本当にすごいな、と……この連載で船山さんの話は何回出てくるんでしょうね(笑)。キンプリのCDを買った当時はまだ船山さんにお会いしたことがなかったんですけど、去年、20th Centuryのディナーショー用にSANABAGUN.の大林亮三(B)と作曲して、僕が作詞した「グレイテスト・ラヴァー」の編曲をお願いできて。共同アレンジさせてもらいました。ミックスは「仮面舞踏会」や「ABC」も手がけた巨匠エンジニア・内沼映二さんで。内沼さんにはNONA REEVESの「二十歳の夏(Pts. 1&2)」を2000年にミックスしてもらって以来なんで20年ぶりで。そんな“少年隊オリジナルチーム”の方々と、少年隊への愛に満ちた直属の後輩・坂本(昌行)さん、長野(博)さん、井ノ原(快彦)くんと新しい楽曲を作り上げることができてうれしかったですね。ともかくジャニーズはつながっているんですよね。人も歴史も。
“ジャニーズ・ゴージャス・王子様ポップ”とは違う路線
そこまでさかのぼって見えてくる、今年デビューしたSnow Manの「D.D.」なんですが……リリース後すぐにハマりまくって動画を「大丈夫か?」と思うくらい繰り返し観てます。最初に「D.D.」を聴いたときの印象は正直「ジャニーズのデビュー曲っぽくないし、情報量がともかく多いな」と。どうしてもシンプルでゴージャスな「シンデレラガール」と対比してしまうので。サウンドもシンセサイザー感ばりばりのK-POP的というか……サビも最初はジャニーズのデビュー曲にふさわしい思い切りキャッチーなサビ、とまでは思わなかったんですが。ただ聴くたびに癖になるんですよね。個人的には、A.B.C-Zの「ABC座2016 株式会社応援屋!! ~OH&YEAH!!~」の舞台で、演出の錦織一清さんに指名してもらって脚本と音楽を任せてもらったんですが、そのときTravis JapanやMADE、They武道といった若い世代のジュニアたちのダンスがキレキレで、めちゃくちゃ驚いたことを思い出しました。当時彼らのダンスに刺激されて劇中歌として「We're Digital Boys」という冷たいデジタルビートの曲を作ったりもして。自分でも気に入ってたんですが、大きく言えばその路線でのデビューシングルが生まれてくるとは思ってなかったんで衝撃でした。ただ突き詰めてゆくと結局、80年代から続く“差別化”の結果だと思うんですよね。ほかのグループと同じ路線を行かない。「シンデレラガール」をリリースしたキンプリが、完全に昭和からの王道“ジャニーズ・ゴージャス・王子様ポップ”の結晶とすれば、違う道を行かなければ、と。King & Princeはジャニーさんが生前最後にデビューさせたグループですし、ジャニーズの世界観を忠実に表現した完成形として直接的な恩返し、親孝行をしたグループに感じます。Snow Manはなかなかデビューできず、中にはバックダンサーとして同年代や自分より若いデビュー組を10年以上盛り上げてきたメンバーもいて。ただその間にスキルをより磨いて回り道をした者だからこそできた“ツンデレな親孝行”な気がするんですよね。
ジャニーズイズムに感動
僕も最初は気付かなかったんですけど、よく聴くと「D.D.」には新しさの中に“ジャニーズメソッド”がふんだんに散りばめられていることが滲むように伝わってきて。一番のポイントは「D.D.(YouTube ver.)」の間奏2分あたりからの部分。まさに光GENJI「STAR LIGHT」「ガラスの十代」を彷彿とさせるデジタルパーカッション、クラップの華やかでにぎやかな使い方が遺伝子のつながりを感じさせて最高なんです。盛り上がらないわけがない。歪んで唸るシンセベースで2010年代初めの韓流的EDMの空気を漂わせつつ、構造的な部分に大舞台やスタジアムで歌い踊ることを前提に育まれてきた“ジャニーズイズム”が息付いていることに感動しました。
編成としては、もともと6人組の中に向井康二さん、目黒蓮さん、ラウールさんの3人が加入した、いわば“逆・光GENJI”状態ですよね。光GENJIはロサンゼルス・オリンピックに合わせて組まれたイーグルスでの活動がなくなった大沢樹生さんと内海光司さんの2人組「光」に、若手5人の「GENJI」が合流して爆発的なスーパーグループになったんですが、そういう上下の世代を混ぜる編成は光GENJIが初めての試みだったように思います。作られたばかりのグループにしかないある種の不安定さって魅力的だと思うんです。King & Princeもデビュー前はMr.KingとMr.Princeに分かれて活動していました。20th Century、Coming CenturyからなるV6以降は、光GENJIで成功した差別化、ライバル関係をグループの中に作るパターンも1つの流れになっていますよね。
個性際立つ9人
Snow Manは全員キャラクターがいいですよね。特に岩本照さんがダンスの合間に見せるふてぶてしいアウトローな表情や態度が好きで。サッカー界で言えば本田圭佑さんや中田英寿さんに感じる雰囲気と言いますか。「俺、すごいですけど。は?」みたいな(笑)。カップリングの「Crazy F-R-E-S-H Beat」の振り付けは、彼が1時間弱で考えたそうです。僕は音楽家ですが、振付師のことを心から尊敬していて。音楽を立体的に把握し、肉体の動きや、視覚、人数を縦横無尽に動かす数学的な頭脳も必要な仕事だと思うので。よく作曲したりプログラミングしていると「どうやったらそんなことできるんですか?」って聞かれるんですが、岩本さんに聞きたいですね。「どうやったらあんなすごいの考えられるん?」と(笑)。「Crazy F-R-E-S-H Beat」のダンス動画はYouTubeでも観ることができますし、大人も子供も一瞬で引き込まれると思いますよ。今、コロナ禍で皆さん楽しさに飢えてると思うんで、見たことのない方はぜひ。それと、渡辺翔太さんのボーカルも本当に好きで。癖がなく素直にグルーヴして伸びてゆくいい声だなあ、と。彼は自分の巧さに酔ってない。冷徹にコントロールできている、それが素晴らしいです。阿部亮平さんは上智大学大学院を卒業した賢さとそこからのギャップで、今バラエティでも注目を浴びていますが、僕と同じ11月27日生まれなんで応援してます(笑)。そういえばCDを買ったときに特典でファイルがもらえたんですよ。SixTONESとSnow Manが片面ずつにいて、そのファイルに領収書とかを挟んでます(笑)。単なるファンですね。だから、僕とcorin.さんという仲間でプロデュースしたV6の「Sexy.Honey.Bunny!」を、Snow Manが9人組になった一発目で歌ってくれたという事実を最近知ったときは本当にうれしかったです。
西寺郷太(ニシデラ ゴウタ)
1973年生まれ、NONA REEVESのボーカリストとして活躍する一方、他アーティストのプロデュースや楽曲提供も多数行っている。文筆家としても活躍し、代表作は「新しい『マイケル・ジャクソン』の教科書」「ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い」「プリンス論」「伝わるノートマジック」など。近年では1980年代音楽の伝承者としてテレビやラジオ番組などさまざまなメディアに出演している。
しまおまほ
1978年東京生まれの作家、イラストレーター。多摩美術大学在学中の1997年にマンガ「女子高生ゴリコ」で作家デビューを果たす。以降「タビリオン」「ぼんやり小町」「しまおまほのひとりオリーブ調査隊」「まほちゃんの家」「漫画真帆ちゃん」「ガールフレンド」といった著作を発表。イベントやラジオ番組にも多数出演している。父は写真家の島尾伸三、母は写真家の潮田登久子、祖父は小説家の島尾敏雄。
文 / 西寺郷太(NONA REEVES) イラスト / しまおまほ