HEADZ主宰者・佐々木敦が、ここ最近急激にハマっているというアイドルについて語るロングインタビューの最終回。新型コロナウイルスの影響で文字通りの“接触問題”に直面しているアイドルシーンは今後どこに向かっていくのか。今回も佐々木が怒涛のテンションで語る。
新しい方法を受け入れるような土壌
──佐々木さんは最近、初の小説「半睡」を発表されました。小説を書いてるときにデスクワークが続くからYouTubeを観る時間が増えたというのもあるんですか?
YouTubeは仕事絡みでチェックするくらいだったんだけど、前にも言ったように、1万字とか2万字以上の長い原稿を書くことが増えてきて、ひと仕事終えると動画をダラ見するようになった。俺は放っておくと10時間くらい延々と集中しちゃうタイプなんだけど、さすがに疲れるじゃない(笑)。最初はご多分に漏れずミュージックビデオばっかり観てたんだよね、古いのもいっぱい上がってるから。小説は去年の夏の終わりくらいからほかの原稿の隙間を見つけてやってたんだけど、それもあってとにかく机に向かってる時間が以前よりもさらに増えた。だからまあ、逃避だよね(笑)。最初は癒しのために犬の動画をひたすら観てたんだよ。なのにふと気付いたら、どんどんアイドルに……。
──逃避でアイドルにハマるのは典型的なパターンの1つでもあって。
そうなんだよね。
──ゆるめるモ!の「逃げろ!!」なんて、エスケーピズムそのものじゃないですか。
そうそう。あれが出発点だもん(笑)。いや、俺自身は逃げないよ。自分はどちらかといえば逃げない性分、逆境に強いタイプだけども、影響力のある人たちに「逃げてもいいよ」って、みんなに言ってほしい。俺も言いたいけど、あんまり説得力ないからさ。そうそう、作詞家の児玉雨子さん。めちゃくちゃいい歌詞書くよね。最近のハロプロの多くの名曲は彼女が書いてるじゃん。
──近年の楽曲はかなり増えてますね。どれも素晴らしく個性的で。
ちゃんとグループごとに違う色を出してるし、すごいなと思う。作詞・作曲・編曲ということにも、スタッフや作家のクリエイティビティの新陳代謝がハロプロはちゃんとできてると思う。
──雨子さんは高校生時代、長編小説が「すばる文学賞」の選考でいいところまでいっている人なんですよね。かなり早い段階から物書きの素養があった人で。高校生の時点で、宮本佳林さんも歌っていたコピンク(※静岡朝日テレビで放送されていた情報番組「コピンクス!」に登場するキャラクター)の曲に歌詞を書いたりしてるんですよ。
まだすごく若いんだよね、アイドルと年齢が近いアマチュア出身の人がメインの作詞家になれるというのもいいことだと思う。
──今は新たな才能にも門戸を開いてるわけですからね。作詞・作曲家の星部ショウさんもそうですし。
そうそう、星部ショウのギミック感、ノベルティ感って素晴らしいセンスだよね。昔ながらの徒弟制というか年功序列というか、確固たる業界のルールみたいなものがあって、そういう縛りが、ある種の息苦しさとか、既得権益的なものを生んでる部分って今も絶対にあるわけじゃない? それによって守られてるものもあるのかもしれないけれど、やっぱり新しい人材や新しいやり方が入ってこられないのはダメだと思うし、未来がないと思う。僕は日本の音楽ビジネスは基本的にはすでに崩壊してると思っているので、崩壊したことによって今までとは違うやり方でやらざるを得ない部分もあるし、新しい方法を受け入れるような土壌ができたということはあると思うんだよね。
新型コロナが及ぼす深刻な“接触問題”
──また別の話になってしまいますが、崩壊という意味では今、しんどいですよ。アイドルは基本的に握手会とかチェキ撮影で諸々のお金をペイしているので、それが新型コロナの影響で壊滅的な状態なので。
ああ、そうか。文字通りの接触問題だよね。濃厚接触や“三密”が問題となった今は特に。
──その脅威が立ちはだかっている。
俺は昔、渋谷のTSUTAYA O-nestで「エクス・ポナイト」っていうトークと音楽が合体したイベントを年に何度かやってたんだけど、ある時期からアイドルイベントがめちゃ増えてきて、O-nestが貸りられなくなっちゃった。スケジュールが空いてないって。だから最初はアイドルを恨んでた(笑)。でも、今みたいな状況になるまでは、小さなライブハウスにとってアイドルブームは救いになってたわけだよね。だって午前中からイベントを組めるんだから。
──1日にイベントを3回やったりすることもありますからね。
客も来るし。それは1つの救いではあったよね。アイドルがライブハウスに出るようになって、ロック系やノイズ系のミュージシャンがアイドルと急接近するという謎の現象が起きていった。それが必ずしもいいことだけではないと俺は思ってる部分もあるけど。テンテンコなんか素晴らしいと思うよ。彼女は音楽センス的に虹釜太郎に近いものがあると思う(笑)。でもそうだね、今のアイドル業界にとってはコロナの被害は相当大きいよね。ゴールデンウイークぐらいまでこの状況が続いたら、解散するグループも出てくるかもしれない。というか運営がもたないよね。自転車操業というか、日銭でやってるところが多そうだし。
──その影響はもちろんハロプロも例外ではなくて。
そうだ。ハロプロって年明けに全員集まってくじ引きをしてシャッフルユニットを決める企画があるよね。
──「ひなフェス」の企画ですね。
その動画を全部チェックしたんだけど。
──くじ引きの動画も観てるんですか(笑)。
いや、そういうのが観たいんだよ(笑)。で、今年のくじ引きは欠席者がゼロだったわけ。ハロプロメンバーが58人全員(当時)出てきて。俺は全員の顔をほぼほぼわかるようになっているんだけど……でもたぶん中止だよね(※その後、一部公演が無観客で開催され、その模様が生中継された)。あのときに決まったことが全部おじゃんっていう。だから本当に今は試練の時だよね。解散するこぶしファクトリーも、卒業しちゃうアンジュルムの室田瑞希も、フィナーレがどうなるかわからない。アンジュルムはむろ(室田)のあとに船木結も卒業する予定だけど、春ツアーが終わってからということだから、おそらくキャンセルだよね(その後、船木の卒業延期が発表された)。延期になってもツアーがいつか再開されるんだったらいいけど、例えば学校とかが絡んでて春以降は活動できないっていう可能性もあるじゃない?
──こぶしファクトリーの広瀬彩海さんは春から大学生で、本来は解散ライブをして、進学という順序なんだけど、それが変わる可能性もある(※その後、解散ライブは日程を変えずに無観客で開催、生中継された)。
そういうことを考えると、すごくかわいそうだなって。だけどコロナは全人類の問題だからね。無理やりやるわけにもいかないだろうし。でも、無観客ライブをやればいいじゃん、BAD HOPみたいに。あと山本精一さんみたいに。
──山本さんは配信もしてないじゃないですか(笑)。
無観客無配信という(笑)。ホントあの人最高だよ、尊敬してる。
動画コンテンツから生まれる新たなチャンス
──ロフトがチケット制でイベントの配信をやってみたら、演者によっては箱のキャパ以上の閲覧数を記録したみたいで。現状大赤字なのは間違いないんですけど、そっちに活路を見出すかもしれないんですよね。BAD HOPもクラウドファンディングですごい金額が集まったじゃないですか。ライブ終了後にクレジットが延々と流れ続けるほどたくさんの人が投げ銭していたし。そういうやり方は増えていくのかなと。
俺はまったく現場に行くことなく、ほぼほぼYouTubeだけでここまでハロプロにハマったわけですよ。数カ月前までは興味ゼロだったのに。
──それがくじ引き動画を観るまでになって(笑)。
同じ加入動画を何度も観て、セリフを覚えるくらいになってるから(笑)。前に加賀楓の話をしたけど、アンジュルムのかっさー(笠原桃奈)の「ウソですよね?」とか、アンジュルムのりんちゃん(橋迫鈴)のおばあちゃんにお年玉もらえると思った話とか(笑)。こういう状況だからこそ、レーベルや事務所はどんどん配信をしたらいいと思う。アイドルは全員、YouTuberになったらいい。有料配信でもなんでもいいから、とにかくいろんなコンテンツを配信したほうがいい。俺も全然、課金するよ。もともと現場行かないけど(笑)。
──苦難のときだからこそ新しいチャンスが見えてくるというのもあるのかなと。それこそ、つんく♂さんが喉頭癌になって、声帯摘出手術をして、ハロプロ総合プロデュースから離れたあと、新しい作家が台頭したように。つんく♂さん自身もハロプロ以外にたくさん曲を書くようになりましたし。
そうだと思うし、そう考えるべき。動画コンテンツをうまく使って化けてくるアイドルがこのタイミングで出てくる可能性だってある。そういう意味では、ある種のチャンスかもしれないよ。俺、最近、YouTuberの動画もわりと観るんだけど。
──YouTuber!
といっても有名なのは知らないんだけど(笑)、ほら、KissBeeって前からURA-KiSS名義でYouTuberもやってるじゃん。KissBeeも曲がいいから観るようになったんだけど、動画は完全にURA-KiSSのほうがメインになってた。URA-KiSSハウス時代のとか面白いのがたくさんあった。神宿もUUUM所属だけあってかYouTubeの使い方がうまい。バズった目隠しダンスとか。俺は例によってYouTubeのオススメに勝手に出てきたYouTuberの動画を男女問わず観てるんだけど、みんな毎日のように配信してるんだよね。女性のYouTuberとか、最初はミステリアスな雰囲気を出してても、毎日やってるとすぐにやることがなくなっちゃって、急にめちゃくちゃしゃべり始めるとかある(笑)。ああいうのってリアリティドラマよりもさらにリアルじゃん、いきなり素が出てしまうというか、出さざるを得ない。必然のキャラ崩壊で、そこからが勝負だったりする。あれがすごく好きなの。だから人気がすでに安定してる人よりも、これから的なYouTuberをよく観る。あとメイク動画も観てるんだよね。
──メイク動画まで(笑)。
顔がめちゃくちゃ変わるのが面白い、というかスゴい。アイドルも、もちろんできるだけかわいくなろう、かわいくありたいと思ってるわけじゃん。そういう意識を持つことはすごくいいことで、俺は全然整形したって構わないと思ってる。整形を隠しててもカミングアウトしても、どっちでもいいと思う。だって本人がしたくてやったんだから。「あれ、顔変わった?」とか言いたがる人がネットって多いけど、それがどうした、好きにさせてやれや、と思ってしまう。YouTuberもアイドルも最近はすっぴんで動画に映ったりしてることがけっこうあるよね。
──ビフォーアフターみたいな感じで見せてますよね。
で、すっぴんの顔が全然違ったりする。でも、それをあえて出しちゃってるっていうのは、たぶん運営も含めて、あるアイドルが客前に出るときとか写真を撮られるときはこんな感じだけど、でもメイクを落としたらこうなんですっていう、そういうのを全部込みで見せてもいい、むしろ見せたいと思ってるってことじゃん。俺は、裏表があるのに裏がないふりをすることとかが好きじゃないから、そういう意味でもYouTubeはテレビと全然違うと思う。俺がテレビを観なくなった理由は、この日本をこんなふうにしたのは安倍政権以上に芸能事務所なんじゃないかって思っちゃうくらい、いろいろなものが見えてしまうから。まあYouTubeにもそういう部分がないわけではないんだけど。今年に入ってから芸能人がどんどんYouTuberになっていってるじゃない。だから芸能界的な論理がYouTubeにも入ってくるようになっちゃうんじゃないかと思って。俺が不安がる必要もないのに勝手に憂慮してる(笑)。あと最近は、野球に全然興味ないのにプロ野球の解説動画を延々と観てたりする。
──ダルビッシュ有とか?
観てるね。あと里崎(智也)のチャンネルとか。どんな選手だったかも全然知らないんだよ、動画観てからWikipediaで検索したんだから(笑)。とにかく、人がカメラに向かって何かを一生懸命しゃべるってると観ちゃう。自分でもなんでかよくわからないけど。内容の問題じゃないんだよね。まあ逃避なんだけど(笑)。
──もう誰かがしゃべってさえいれば落ち着くくらいの(笑)。
今は単純に楽しいから、これでいい
俺、ずっと批評家を名乗ってきたんだけど、思うところあって批評家として仕事をするのを辞めようって考えて、実際に“批評家やめる宣言”もしたんだけど、俺が批評家を辞めてYouTuberになるんじゃないかっていう疑惑を持たれたことがあって(笑)。でも、やってみようかなという気持ちもなくはない。
──実際にそういう気持ちもあるんですね。
まあ、今のところ頭の中で思ってるだけだけどね。でも小説を書くのだって、ずっと長い間、妄想でしかなかったのに実際に書いたから、これは自分でもわからない。もともと文章だけでなく、このインタビューもそうだけど、方々でいろんなことについてしゃべるのも仕事の一部になってるわけだし。
──でも、本当にそう思いますよ。文章にするよりも動画配信のほうが知ってもらえるのかなと思うことはよくあります。
小説家の高橋源一郎さんがYouTubeチャンネルを開設したんだけど、その1回目が自分の昔の本を朗読するという内容だった。やっぱり作家だとそういう感じになりがちで、それはファンに向けてるからだと思う。でもYouTubeってやっぱり人がしゃべってるのが面白いわけで。「エガちゃんねる」がなんであんなに化けたかといったら、「エガちゃんの芸はテレビではできないから」とかみんな言ってるけど、テレビでできるできないの問題じゃなくて、あれは間違いなくエガちゃんがしゃべったからだよね。
──確かに。
「こんなにこの人ってしゃべれるんだ!」っていう驚き。お笑い芸人ってさ、これもテレビのせいで基本やたらとキャラ付けされて、飽きられるまでは同じパターンしか求められなくなるじゃない。キングコング梶原のカジサックが自分のチャンネルでいろんな芸人と対談してるんだけど、品川庄司の庄司(智春)としゃべってるのがあって、あれ観ると庄司ってすごくしゃべりが面白いんだよね。でもテレビでは「ミキティー!」しか言わせてもらえないわけじゃん(笑)。YouTubeで初めて彼がどんな人間なのかわかった。ああいうのがいい。俺はしゃべり仕事もしてるけど、実は他人のトークを聞くのはちょっと苦手だったの。前はしゃべり動画を観るのも苦手だった。なんかじれったくなってくるんだよね。だからラジオも苦手なんだよ。自分で時間をコントロールできないのがダメなの。だから書き起こしがいい。でもYouTubeって1つの時間が長くないし、いつでも止められるからね。それで動画を観ることが増えていった。お笑い、犬、アイドルが3大要素だったけど、最近はアイドルの比率が増してる。しかも同じ動画(笑)。アディクトされまくってる。あとでこのインタビューを読み直して、「あの頃の俺ってこんなヤバい感じだったんだ!」って思う日が来るのかもしれないけど。
──本当に楽しそうだなあ。
今後ハマれるアイドルを南波くんにどんどん教えてもらおうと思ってるから。俺も大森望さんみたいに「南波くん」から「南波さん」に変わるかもしれない。
──やめてくださいよ(笑)。それにしてもハマるタイミングが意外すぎます。
いつもそうなんだけど、なんか僕って、すごく早いかすごく遅いかのどっちかなんだよね(笑)。まだほとんど誰も気にしてないうちに好きになるか、全員が忘れた頃になって急にハマるみたいな。アイドルブームって、以前に比べて落ち着きかかってるじゃない? それはわかってるんだけど、そういうことと自分が興味を持ったプロセスは全然関係ないから。世の中の趨勢とは無関係に、まあ偶然というか、偶然を運命だと思い込むのが俺の人生に臨む姿勢なので。でも、ずっと音楽批評をやってきたから、音楽はどうでもいいとか、そういう感じにはどうしてもなれない。今後も曲さえよければ新たなアイドルに興味を持つ機会はたくさんあると思う。歌は下手でもいいけど、歌えるようになりたいとは思っていてほしいよね。だって自分の歌なんだから。
相手が何を考えているか想像すること
──自分も歌が下手なのが好きと思われがちなんですけど、そこがあんまり通じてなくて。下手でも全然いいっちゃいいんですけど、その先に見てるものがあって、そこに向かってがんばってるのがいいわけじゃないですか。
うんうん。
──決してアマチュアリズムばかりをもてはやしてるわけではないんですね。
結局、プロフェッショナリズムかアマチュアリズムか、どっちかしかないという考え方が間違っているんだと思う。プロ意識の高い人だって最初はアマチュアだったわけで、そこにはグラデーションがあって、そういう部分に意味があるわけだよね。あんまり歌がうまくならないでほしいとか、あんまりプロっぽくならないでほしいみたいなファン意識ってあるよね? その人の気持ちもわかるけど、その子がうまくなりたいんだったらしょうがないじゃんって俺は思うわけ。うまくなろうとしてない子は別として。
──本人もがんばってるのに「これ以上うまくならないでほしい」と言われたら決していい気はしないはずで。
もちろんこれは妄想も含めてなんだけど、コンテンツ文化やSNS文化など、近年の社会のメディア環境も含めた変化によって、我々日本人は、ともすれば他人にも心があるということがわからなくなってる部分があると思う。どんな人間にも心はたぶんあるわけだけど、それがわかりづらくなってるし、わからないほうがラクだみたいな風潮がある。他人の心は覗けないじゃない? でも、生きてる人は全員、おそらくは何かを考えたり、思ったりしてるわけだよね。だからアイドルを見るときも、表層的な、記号的な視点や、あるいは単に欲望の対象というか、愛でる対象としてだけではなくて、その子が十何年か生きてきて、生きている以上は、頭の中でいろいろなことを思ったり考えたりしてるんだということを想像する。そういう、誰しもが何かを考えてるということがわかるのは、突然泣いちゃったりとか、急に辞めることになったりとか、そういうときにわかりやすい形で出てくる。そのときに、そのアイドルの、しょせんは他人でしかないその子の気持ちを想像することが大事なんだと思う。これは別にアイドルに限らずで、だって我々は結局、それしかできないんだから。
──よくわかります。
男女問わず、だいたい小学校5、6年ぐらいから高校生ぐらいまでって、本当に心が激しく動く時期なわけじゃない。俺が大好きなマンガ家の阿部共実に「月曜日の友達」という作品がありまして。それは中学校1年の女子と男子が親友になる話なのね。中1ってすごく微妙な時期で、つまり中2になると恋愛になっちゃうんだよね。まだ小学生を引きずってる中1だからこそ、男女が親友になれるっていう、めちゃくちゃ泣けるマンガなんだよ。で、それくらいの年齢でアイドルになる子って多いじゃない。本当にたったの2、3年で見た目も性格も変わってしまう。まず、その変化を肯定する。でも今は、その不可逆的な変化が訪れる以前や、変化していく過程も、動画で何度でも観ることができる。
「赤いリップ事件」から見えたもの
例えば、さっきも話題に出たかっさーがアンジュに加入したときはまだかわいらしくて。
──加入当初は中1とかですもんね。
そう。すごい美少女なんだけど、彼女はその後グイグイ大きくなって、今ではグループでも一番背が高いぐらいになってるわけ。で、かつて「赤いリップ事件」っていうのがあったの。
──また、よく知ってますね(笑)。
ほかのメンバーがみんなお姉さんだから、自分も大人っぽくなりたくて赤いリップを使ったら、「かっさーには赤いリップは似合わない」みたいなことをファンに言われて、本人がいたく傷付いたっていう。
──ファンからメイクについての意見を受けて、「年相応目指します」とブログに書いたんですよね。
そこで当時アンジュのリーダーだった和田彩花が「かっさーが赤いリップを付けたかったら付ければいいと思う」ってお客さんの前で言ったんだよね。その動画を観て、和田さんってすごい立派な人だなって感動しちゃった。選挙に出たら当選するくらいの人物だと思う。一部のファンに釘を刺したところもあると思うんだけど、あれはかっさー本人にも言ってるんだよね。しかもそれを人前であえて言ってあげることに意味がある。10代って、男もそうだけど、どんどん自分も周りも変化しちゃうから、時として自分と世界の変化を持て余してワケがわかんなくなっちゃう。アイドルは、そんなプロセスが動画とかで、どんどんスナップショットされていく。それを逆回しで観ていって、まるで親戚の子が大人になっていくのを、あるいは存在しない自分の子どもが成長していくのを見守ってるかのような錯覚を起こせるというのが、俺がアイドルにハマっている理由なのかもしれない。ヤバいけどね(笑)。
「佐々木敦に見つけられた模様」
──いや、これ、延々と話せそうですよね(笑)。
でも、俺が今話してるようなハマり方をし得る人って案外いると思うんだよ。何かしらのきっかけがあれば誰しもがアイドルにハマる可能性があると思う。
──動画でさかのぼってハマっていくというのは誰もが体験していることで。ももクロ初期の「TIF」の動画を観て夢中になったりとか、Negiccoを好きになった人も「ヌキ天」(※アイドルオーディション番組「勝ち抜き!アイドル天国!!ヌキ天」の略称。Negiccoは2代目ヌキ天クイーン)までさかのぼって感情移入するとか、よくあることだと思うんですよね。
そうだよね。そういえば俺、実はもっと何年も前から、ちょいちょいアイドルに興味を持ってるっぽいツイートを実験的にしてみてたわけ。
──あれは実験だったんですか(笑)。
そうすると、何年か前までだったら「お前はこっち来るな!」みたいなことを言ってくるコワい人がいたんだよ。特にゼロ年代後半からテン年代初頭くらいまでは、そのパターンが多かった。でも少し前から、なんかみんなめっちゃ優しいの。俺が素人くさいことを言ってても温かく迎えてくれる感じがあって。
──本当に好きなんだと理解してもらえると皆さん優しいですよね。「拡散してくれるなら味方だ」みたいな。
そうそう。「佐々木敦に見つけられた模様」みたいな(笑)。なんか、その感じもありがたいんだよね。諸先輩方が優しい。
──そろそろ時間ということで、今回、僕も話したいことがいっぱいあったんですけど、佐々木さんの勢いに圧倒されてしまいました。
いやいや、なんかすみません(笑)。しかし自分でもここまでアイドルに興味を持つようになるとは想像もしていなかった。もしかしたら、これが俺の2020年代の幕開けなのかもしれない。新たなディケイドの始まりというか(笑)。でも南波くんと話してたら、そんなに変わったわけじゃなくて、自分の考え方や感じ方が、たどり着くべくしてアイドルにたどり着いたような気もしてきた。ありがとうございました!
取材・文 / 南波一海 インタビュー撮影 / 臼杵成晃 イラスト / ナカG