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番組終了を迎えるEテレ「シャキーン!」の音楽面を掘り下げる (後編) 参加者のラインナップはまるで音楽フェス、月替りの歌コーナーから生まれた名曲たちの誕生秘話

NHK Eテレ「シャキーン!」ロゴ(写真提供:NHK)
約3年前2022年03月20日 8:07

今年3月をもって放送終了となるNHK Eテレの早朝の子供向け番組、「シャキーン!」の音楽面を軸にして掘り下げるこの短期連載。前編では「サウンドファイターズ」などの人気コーナーを担当した和賀博史ディレクターと、番組の音楽制作を担当したサキタハヂメ氏へのインタビューを掲載したが、後編では月替りの歌のコーナー「シャキーン!ミュージック」を担当していた制作会社・ディレクションズの村井敦氏に、このコーナーから生まれた多数の名曲に関する話を聞く。

取材・文 / 橋本尚平

“遊び心のある、実験的な曲”が多く流れた理由

「シャキーン!ミュージック」は、インディシーンの注目株からベテランまで幅広い世代のアーティストたちが、書き下ろしの曲を提供したり歌唱や演奏に参加したりしていることでも有名だ。今年3月にリリースされた、このコーナーでオンエアされてきた楽曲を集めたコンピレーションアルバム「目覚めろ」では、PUFFY、Polaris、曽我部恵一、ホフディラン、かせきさいだぁの歌唱曲や、番組MCたちとTHE MICETEETH、ハンバート ハンバート、ザ・なつやすみバンド、怒髪天、Homecomingsらが一緒に歌うコラボ曲、堂本剛やgroup_inouによるMCたちへの提供曲など、さながら音楽フェスかのような顔ぶれによるバラエティ豊かな曲を聴くことができる。

一応は「朝の子供向け番組」とされている「シャキーン!」ながら、いわゆるキッズソングや童謡などとは一線を画したこういった選曲は、意図してのものなのだろうか。村井氏にメールをすると、このような回答が返ってきた。

「毎年7、8曲の月歌を作っていく中で、子供たちにもっと多様な音楽や価値観を知ってもらいたいと考え、今の形になっていきました。コーナー映像やMVでは旬のクリエイターを起用してきていたので、音楽でも同じことをやろうと進めてきた結果だと思います」

番組開始当初はサキタ氏が「シャキーン!ミュージック」の楽曲の多くを手がけていたが、バンドなどが楽曲を提供する流れが2014年あたりから徐々に始まった。これについて村井氏は「興味深く面白い音楽をやっているアーティストがたくさんいるので、子供たちに紹介したかった」と説明する。

「自分が担当していた頃は『今、何を、誰が、どう歌うか?』という、ポップミュージックでいう“同時代性”を大切にしていたので、そこにハマるアーティストを選んでいるうちに自然とそうなっていったのだと思います。あとは、Eテレというチャンネルの懐の深さですかね。有名無名にかかわらず『いいものはいい』が通用するEテレの気質が、さまざまなアーティストを起用できた一番の要因かもしれません」

2018年11月発売の2ndアルバム「AINOU」が各所で絶賛され、2021年には細田守監督作「竜とそばかすの姫」で主演を務めるとともにメインテーマや劇中歌を歌唱したり、「NHK紅白歌合戦」への初出場を果たしたりと、今や人気アーティストとなった中村佳穂。彼女が作曲と歌唱を担当した「72億人分のあの人」が2015年5月の時点で流れていたりと、あとから振り返ると時代を先取りしていたことに気付かされる人選も多い。

「中村佳穂ちゃんは大学の後輩ですね(ついでに言うとHomecomingsも)。確か2015年だったと思いますが、母校に新設された新しい学科の授業のプロモーション映像を作る仕事で、十数年ぶりに行ったキャンパスで佳穂ちゃんと知り合いました。新校舎には佐久間正英さんが監修されためちゃめちゃ立派なレコーディングスタジオがあるんですけど、そこにグランドピアノが設置されていたので、『出演者のRie fuさんと連弾してくれる在校生っていないかな?』と思い、当時映像学科の現役生だった映像作家・ミュージシャンの井上理緒奈に相談したところ、連れて来てくれたのが佳穂ちゃんでした。言わずもがな、当時からあんな感じなので『すごい学生おるやん!』と驚きました。撮影を終え帰ろうとしていた際に、佳穂ちゃんから1stミニアルバム『口うつしロマンス』をもらって、『今度東京でライブするとき行くわ』と約束したのが付き合いの始まりだったと思います。帰ってCDを聴いた瞬間『ああ、これは一緒に歌作らなあかん人や』と直感的に思いました。しばらくして恵比寿天窓で行われた中村佳穂+井上理緒奈のライブで再会し、当時温めていた『72億人分のあの人』の企画を佳穂ちゃんに話しました。そんなこんなで、あの楽曲が誕生していくわけです」

毎朝オンエアされる番組ゆえ、月替りの曲である「シャキーン!ミュージック」は1カ月間変化がないまま連日流れることになる。それによって子供たちに飽きられてしまうのが嫌で、いろいろな試行錯誤をした結果、遊び心のある実験的な曲が多く流れることになった。曽我部恵一の「どっか」は“場所”をテーマにした曲で、場所によって曲の感じ方が変わる面白さを表現するため、6つの異なるシチュエーションでフィールドレコーディングが行われた。

「『どっか』は個人的に大好きだったLa Blogotheque『Take Away Shows』へのオマージュが見事にハマった企画だったと思います。当時登戸で起こった、通学バス待ちの小学生たちが巻き込まれた悲しい事件から、楽曲のテーマは『場所が持つ意味』でいこうと考えていました。曽我部さんの弾き語りをさまざまな場所で聴かせることで、映像はもちろん、音や声、印象や感じ方の違いを体感できる立体的な楽曲に仕上がったと思います。日替わりで違うバージョンを放送できたのもデイリー番組ならではの仕掛けですよね。番組15分間、曽我部恵一しか出てこない『“どっか”スペシャル』はとても反響がありました」

同じように子供たちに飽きられないため、「サイコロを振って出た目によって佐藤良成(ハンバート ハンバート)、赤い靴、谷本早也歌、Enjoy Music Clubのうちの誰かがオリジナルの歌詞で歌う」という、ハプニング性を取り入れた「サイコロソングス」という曲もオンエアされた。

「『歌って、歌詞が決まってて面白くないな』と思って企画したのが始まりです。『偶然に身を任せる』をテーマに、岩見十夢と共通のコード進行、Aメロとサビの歌詞だけを作って。仲のいいアーティストや、一緒にやってみたかったアーティストに声をかけて、歌詞は意味が生まれないように“あいうえお作文”で散文的に書いてもらいました。番組内ではまったく明かさなかったんですが、本当にレコーディングスタジオでサイコロを振って歌詞の順番を決めたんです。同じ目が出てもOKというルールにしていたので、ハンバート良成さんが6の目を4回連続で出したときは『ろくろっ首に追いかけられた』と繰り返し歌う羽目に。あのときは笑いが止まりませんでした。映像もそれぞれの歌詞に合わせて撮ってもらったので、毎日変化する月歌に仕上げることができました。これもデイリー番組だからできる演出だったと思います」

番組から生まれたロックバンド、ザ・ぶどうかんズ

「シャキーン!ミュージック」からは、ロックバンド「ザ・ぶどうかんズ」も誕生した。当初6人組として結成されたこのバンドには、ドクター・ジョンばりのピアノロックである2曲目「いいわけ!?」からは中村佳穂、4曲目「WAKE-AI-TAI」からはファンファン(ex. くるり)もメンバーとして加入。2019年には野外フェス「朝霧JAM」での初ライブも予定されていた(※台風により中止)。

「僕と岩見十夢は、2016年当時に元気のなかった“ロック”を再構築し『現代の子供たちにそのカッコよさを伝えたい』『子供番組からフェスに出られる本物のロックバンドを生み出したい』という2つの目的を持ってザ・ぶどうかんズを結成することにしました。命名はバンドのボーカリストの1人であるやついいちろうさんで、高校生の頃にやついさんが友達と組んでいたフォークデュオの名前をそのままもらいました。デビュー曲である『おぼえてわすれて』はロックの初期衝動をテーマに、RamonesやTHE BLUE HEARTS、The Smithsなんかを彷彿とさせる演出を各所にちりばめています。その頃の『シャキーン!』は親子で観られる番組内容にシフトしていたので、寝起きの子供たちの後ろでテレビを観ているお父さんやお母さんに反応してもらえるようサウンドやビジュアルにもこだわりました。朝の食卓で親子の会話のきっかけになればいいなと、毎回“わかればニヤリとできるロックネタ”も入れ込みました」

店や施設などが閉まる瞬間を馬喰町バンドの歌とともに紹介する「終わる瞬間」や、漢字を飛ばして平仮名だけを歌ってしまうシンガー・とばしかんじが登場する「かんじない歌」など、番組内のミニコーナーから「シャキーン!ミュージック」の楽曲に発展したケースもあった。これについて村井氏が語る。

「馬喰町バンドは中村佳穂ちゃんの紹介で知り合いました。佳穂ちゃんから『絶対好きだと思うんで観に来てください』と渋谷7th FLOORでのツーマンに招待してもらったのが2016年頃だったと思います。彼らの無国籍なリズムや手作り楽器のサウンド、童歌の言葉遊びのようなリリックに一瞬で魅せられてしまいました。その日のうちにメンバーと『一緒に何かやりましょう』と意気投合したのを覚えています。すぐさま『シャキーン!』では珍しいミニドキュメンタリー『終わる瞬間』というコーナーのテーマソングに彼らの名曲『わたしたち』を使わせてもらい、次はオリジナル曲を作りましょうと、しばらく温めていた企画を武徹太郎さんに話しました。『終わる瞬間』の新しいテーマソングを作りたいというのは表向きのお願いで、本当に作りたいのは“死”をテーマにした楽曲です。周りから『朝の子供向け番組でなんて歌を作るんだ』って言われるかもしれませんが、人間いつかは終わります。でもそれに向かって生きている自覚を持てれば、自分の命の可能性や、日々の生活の尊さに気付けるんじゃないか? そんな歌を一緒に作りたいんです――みたいなことを熱く語った記憶があります。作詞作業では武さんとやり取りを繰り返し、今ある形に収まりました。そしてこの歌のもう1つの心臓であるMVは中山うりさんの紹介で、土屋萌児くんにお願いすることにしました。彼の切り絵アニメーションは一発撮りであとから編集したり、撮り直したりできません。その、後戻りできない手法がこの曲のテーマにハマらないわけない、と通常の倍のスケジュールを確保して制作しました。これまで多くの楽曲を制作してきましたが、この曲はとても思い入れの強い1曲となりました」

「馬喰町バンドはこのほかに、『普段参加しているお祭りって何を祝ってるのかよく知らないよね』という疑問から『まつりばなし』という企画も提案してくれました。視聴者である子供たちに、自分の地元のお祭りが何を祝っているのかを調べ、理解するきっかけを作りましょうというコーナーです。民俗学にも通ずる馬喰町バンドが、リサーチから作詞作曲、レコーディング、アニメーション制作まで手がけた、彼らの集大成のようなコーナーです」

「『かんじない歌』については、漢字がなくても送り仮名だけで成立する歌詞をフルサイズで書かなければならないので、作詞を担当してくれた岩見十夢くんは本当に大変だったと思います。やっと歌詞ができた! 次はレコーディングだ!といざスタジオに入ると、ボーカル録りという最大の難所にぶち当たりました。歌ってみるとわかるんですが、この曲はめちゃくちゃ歌うのが難しいんです。メインボーカルは大堀こういちさんが送り仮名だけを歌い、2番からは漢字部分だけを歌うミックスナッツハウスの林漁太くんが掛け合いのように入ってきます。2人とも何度もトライしてくれて、最後まで歌い切れたときは思わず拍手がでました。たぶんレコーディング後にボーカルエディットすれば、あんな苦労をしなくても簡単に編集できたんですが、子供番組で嘘をつきたくないという愚直なメンバーたちの本気に感心させられた1曲です」

三度笠をかぶった旅人が、Y字路で傘の倒れた方向に行き先を委ねるというショートアニメ「Y字郎」にはT字路sが出演。このコーナーも村井氏が企画したものだった。

「『小学生の頃、自分の行き先を傘を倒して決めたことあるよね?』というすごくバカっぽい思い出から生まれた企画です。横尾忠則の『Y字路』シリーズが着想の種だった気がします。担当のディレクターから『歌に乗せてアニメーションを作りたい』と相談を受けたので、当時聴いていたT字路sの「Tの讃歌」をシャレで貸したのがきっかけで主題歌をお願いすることになりました。T字路sの伊東妙子さんと篠田智仁さんを交えて打ち合わせをし、キャラクターのデザインやロケハンで撮ってきた写真など見ながら世界観を共有した末に、あのドープなテーマソングが生まれました」

なお、最終回を前にした3月21日(月・祝)から24日(木)にかけて、番組では「シャキーン!ザ・ライブ」と題した音楽企画が4日連続で放送される。これらの日には番組の歴代MCが集結し、八代亜紀、中村佳穂、ハンバート ハンバート、馬喰町バンドなどのゆかりのあるアーティストたちがゲストとして出演。「るるるの歌」「シャキーン!ザ・クロック」「なんどく列車ツアーズ」「WAKE-AI-TAI」「やわらか~いください」「サイコロソングス」といった「シャキーン!ミュージック」から生まれた楽曲をスタジオでパフォーマンスする。

今回の取材において、ディレクターの和賀氏、音楽制作のサキタ氏、そして「シャキーン!ミュージック」担当・村井氏の3人にこれまでの番組制作を振り返ってもらうと、それぞれ一様に「ただただ面白がって作っていただけで、意図して変なことをしようとは誰一人思っていなかった。でも、今までに誰も見たことがない面白いものを作りたかった」という趣旨のことを語っていた。番組は終わってしまうが、この15年間で「シャキーン!」に心と体を目覚めさせられた子供たちの中で、こういった姿勢は引き継がれていくことになるのだろう。

NHK Eテレ「シャキーン!」

シャキーン!ザ・ライブ

2022年3月21日(月)06:40~06:55
2022年3月22日(火)06:40~06:55
2022年3月23日(水)06:40~06:55
2022年3月24日(木)06:40~06:55

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