4年に一度のサッカーの祭典「FIFAワールドカップ」が11~12月にカタールで開催される。同大会に出場する日本代表チームの応援企画として、音楽ナタリーではサッカーを愛するアーティストに理想の代表メンバーを妄想してもらう連載企画を展開中。第6回となる今回は、Jリーグ・アビスパ福岡の熱心なサポーターとして知られるNUMBER GIRLのアヒト・イナザワ(Dr)に“アヒトジャパン”を編成してもらった。
取材・文 / ナカニシキュウ
アヒト・イナザワとサッカー
サッカーを好きになったきっかけは、僕たちの世代だとやっぱりマンガ「キャプテン翼」になるんですよね。ちょっとアクロバティックな感じで、現実のサッカーとはかけ離れた描写も多いんですけど、小学生の頃はマネしてオーバーヘッドキックをやってみたりしてました。そこからサッカーを好きになるんですけど、生まれ育ったのが福岡の片田舎だったものですから、当時はまだ少年サッカーのクラブチームがなくて、周りの子供たちはみんな野球をやっていました。僕は野球が苦手だったので、「地元にサッカーチームができればいいのにな」とずっと思っていたんです。
その後、中学へ上がったときにサッカー部に入部して、ようやく実際にプレーするようになりまして。ポジションはスイーパー(※1)という、今はもうほぼ聞かないポジションをやっていました。本当は中盤をやりたかったんですけどね。周りの選手がどこにいるかをキョロキョロ見ながらボールをもらって配球するみたいな、今で言うボランチ(※2)の役割が好きだったんで。僕はチームの中でもそんなにヘタなほうではなかったんですけど、監督から「お前がそこにいたほうがチームが締まるから」と言われて、渋々スイーパーをやっていました。リベロ(※3)だったらまだよかったんですけどね……。
大学生くらいのときにJリーグが始まるんですが、その頃はどっちかというと音楽にのめり込んでいたので、ちょっとサッカー熱が冷めていまして(笑)。試合を観るようになったのはNUMBER GIRLとして東京へ出てきてからなので、1998年か99年くらいからだと思います。当時のレーベルスタッフの方がサッカー好きで、スタジアム観戦に誘ってくれたんですよ。そのときに「生で試合を観るのって、すげえ面白いな」と思って、それからガッツリ観るようになりました。日本代表に興味を持つのはもうちょっとあとで、2000年代に入ってからだったと思います。2002年の日韓大会のときは、日本対ロシア戦をスタジアムへ観に行ってるんですよ。稲本潤一(南葛SC)がゴールを決めたとき、ちょっとオフサイド(※4)っぽかったんで、観客が一瞬反応に困っていたのをよく覚えています(笑)。
それ以来、代表の試合はだいたい観てますね。オリンピック代表とかのアンダーカテゴリーの試合も観てるし、女子も……クラブ単位とまではいかないですけど、なでしこジャパンの試合はけっこう観ます。普段はアビスパ福岡のサポーターとして、よくベスト電器スタジアムに1人で観戦に行ってますね。今年はなかなか行けてないんですけど、だいたい試合開始の2時間前くらいに行って、ゆっくりお酒を飲みながら選手のウオーミングアップを眺めたりしつつ、試合が始まってどんどん夜が更けていくさまを感じるのが好きなんです。せっかく今はアビスパがJ1に上がっているので、もっと観に行きたいなと思ってるんですけどね。
※1. センターバックの後方、GK(ゴールキーパー)の前方にポジションを取るDF(ディフェンダー)のこと。英語で「掃除屋」を意味する語で、マンツーマンディフェンスによる空いたスペースを埋めるのが主な役割。近年ではセンターバックがマンツーマンではなくゾーンで守備をする形が主流となっており、スイーパーというポジションはほぼ見られなくなった。
※2. ディフェンスラインの前方にポジションを取る守備的MF(ミッドフィルダー)のこと。ポルトガル語で「ハンドル」を意味する語で、攻守のバランスを取りながら試合をコントロールする役割が求められる。
※3. イタリア語で「自由」を意味する語で、積極的に攻撃参加するスイーパーのこと。通常のスイーパーは自陣ゴール前での守備のみを行うが、リベロは“特定のマーク相手を持たない”というスイーパーの特性を生かしてピッチを自由に動き回る。
※4. ゴール前での待ち伏せを禁止するルール。攻撃の選手は、相手陣内で味方からボールを受ける際、必ず相手の選手が2人以上、自分の前に残っていなければいけない。
コンセプトはドイツ、スペインと戦うための“現実的”な布陣
アヒトジャパンの基本システムは、スリーバック(※5)。守備時にはウイングバック(※6)の選手が最終ラインまで落ちてくるファイブバック(※7)の形でガチガチに守って、「前の3人で点を取ってきてよ」みたいな感じでいこうと思っております(笑)。今回のカタール大会はグループリーグの組み合わせがあまりにも悲惨すぎるというか、「なんでドイツとスペインが同じグループにいるんだ!」というのがあるから……もちろん、久保建英(レアル・ソシエダ / スペイン)や鎌田大地(フランクフルト / ドイツ)のような才能豊かな選手を使って華麗なサッカーができたら夢があると思うんですけど、現実的にはそうもいかないだろうなと。
まずGKは、足元の技術が高いシュミット・ダニエル(シントトロイデン / ベルギー)。アヒトジャパンの戦術的に「まずは守って、奪ったら前の選手に付ける」というのがあるので、フィードの精度が高いシュミットは適任だと思います。そしてセンターバック3枚は、左から伊藤洋輝(シュトゥットガルト / ドイツ)、板倉滉(ボルシアMG / ドイツ)、冨安健洋(アーセナル / イングランド)。3人とも足元がうまいしフィードも上手で、致命的なミスをしないイメージがあるので選びました。もちろんここに吉田麻也(シャルケ04 / ドイツ)でも全然いいんですけど、今回はあえて将来性を買おうかなと。3人ともまだ若いですからね。
次に、ウイングバックは左が中山雄太(ハダースフィールド / イングランド)、右が山根視来(川崎フロンターレ)。代表ではサイドバックで出ることの多い2人ですけど、ファイブバックで守る時間帯が多くなることが予想されるので、DFとしての強度も必要だろうと。それに加えて、中山はボランチ的な仕事もできるし、山根は前の選手と縦の関係を作るのがうまいんで。そしてボランチには、遠藤航(シュトゥットガルト / ドイツ)と守田英正(スポルティングCP / ポルトガル)がいいかなと。森保ジャパンでは遠藤をワンアンカー(※8)に置くことが今は多いですけど、そこを狙われてピンチを招くケースが多い印象があるので、「もうちょっと流動的にダブルボランチっぽくやればいいのに」と思って観てるんですよね。守田はアンカーに入ってもうまくやれると思います。
前3枚は、シャドー(※9)みたいな感じで三笘薫(ブライトン / イングランド)と伊東純也(スタッド・ランス / フランス)という鉄板の2人を置いて、ワントップ(※10)に古橋亨梧(セルティック / スコットランド)。戦術を考えた場合、本来であれば大迫勇也(ヴィッセル神戸)のようなポストプレー(※11)が得意なタイプをワントップに置いたほうがいいんですけど、最近の大迫はあまりコンディションがよくないように見えるので。その代わりになるのは誰かと考えたときに、日本人にはなかなか彼のようなタイプのFW(フォワード)がいないんですよ。そうなると古橋だったり、前田大然(セルティック / スコットランド)のようなスピードのある選手を使うのが現実的なのかなと。ポストができるタイプで言うと上田綺世(セルクル・ブルージュ / ベルギー)もいるんですが、とりあえずスタメンは古橋で見てみたいですね。
という11人を考えみました。ちょっと余談みたいになっちゃうんですけど、この中でも特に冨安にはちょっと特別な思い入れがあるんですよ。同郷の福岡出身ということもありますし、彼が中学生くらいのときにアビスパのトレーニングマッチに出ていたのをよく観てたんです。「うまい子がいるなあ」と思ってたら、あれよあれよとトップチームに昇格し、ベルギー、イタリアと渡って今やプレミアリーグでプレーしているわけですから。彼はアビスパ福岡の誇りです。
※5. センターバックを3枚配置する布陣のこと。現代サッカーのフォーメーションは大きく分けてスリーバックとフォーバックの2種類が主流となっており、フォーバックの場合はセンターバック2枚+サイドバック2枚の形が基本。
※6. 守備時はサイドバック、攻撃時はウイング(左右に開いて攻撃を行うFWのこと)のような役割を担うMFのこと。ポジション名に「バック」が含まれるためDFの一種と誤解されがちだが、MFの一種。基本的にはサイドバックを置かないスリーバックシステムでのみ採用されるポジション。
※7. 最終ラインを5枚で守る守備陣形のこと。
※8. 「アンカー」はDFの前方にポジションを取る守備的MFのこと。英語で「錨」を意味する語で、船舶をつなぎ止めるように守備を安定させる役割が求められる。この役目を1枚で担うのが「ワンアンカー」。
※9. 「シャドーストライカー」の略。センターFWの少し後方に影のように位置取り、得点を決める仕事が求められるポジション。
※10. 「トップ」はセンターFWの選手を指す語で、そのポジションが1枚の場合は「ワントップ」、2枚なら「ツートップ」と呼ばれる。
※11. 前線で起点を作るプレーのこと。「ポスト」は英語で「杭」を意味する語で、相手ゴールに近い位置で相手DFを背負いながらボールをキープできるだけのフィジカルの強さと安定感が要求される。ちなみに、そのポストプレーヤーにボールを渡すパスのことを「くさびのパス」と呼ぶ。
サブメンバーについて
最近の若手だと、藤田譲瑠チマ(横浜F・マリノス)がすごくいいと思います。今年6月の「AFC U23アジアカップ ウズベキスタン2022」にU-21日本代表として出ていたのを見てすごくいい選手だなと思ったんですけど、7月の「EAFF E-1 サッカー選手権 2022」ではフル代表にも選ばれて、そこでもめちゃめちゃよかった。ものすごく期待してるので、アヒトジャパンには遠藤か守田のバックアップとしてぜひ連れていきたいです。
久保や堂安律(フライブルク / ドイツ)に関しては、本来はサブではなくスタメンで使って、面白いサッカーを観たいんですけどね。彼らを生かそうと思ったら、たぶんそのためのチーム作りが必要なんじゃないかと思うんですよ。なので、次のワールドカップに期待したほうがいいのかなと。この2人は東京オリンピックでいいコンビネーションを見せてたし、たぶんお互いのことがよくわかってるんでしょうね。左には相馬勇紀(名古屋グランパス)もいて……相馬は今回アヒトジャパンには選びませんでしたけど、現実のカタール大会では選出されてもおかしくない選手だと思います。
あとは南野拓実(モナコ / フランス)だったり原口元気(ウニオン・ベルリン / ドイツ)だったり長友佑都(FC東京)だったり……やっぱり今まで代表に選ばれてきた選手を選んじゃいますね。あまりサプライズ的なものがないんで、記事としては面白みに欠けるかもしれませんけど(笑)、現実的に考えるとこんな感じになるのかなと。
現実の森保ジャパンについて
フタを開けてみないとなんとも言えないところではあるんですけど……グループリーグでは最高でも1勝1分1敗の勝ち点4、ってところでしょうかね。順当に行けば1分2敗、ヘタすれば3敗する可能性もあるかなあと思ってます。残念ながら。だいたい、ドイツがポット2(※12)にいるのがおかしいんですよ。ズルいじゃないですか(笑)。もちろん試合は応援するし、観たら観たで楽しいと思うんですけど、結果にはあまり期待していないというのが本音ですね。希望は持ちたいですけど、今回ばかりはちょっと相手が悪すぎるかなあ……。
※12. 「ポット」とは、グループリーグの組分けを行う際に戦力的な偏りが出ないよう考案された抽選方法。全出場国がFIFAランキング上位から順にポット1~4に割り振られ、その4つのポットから1カ国ずつが1つのグループを形成する。
自分をサッカー選手に例えると?
ええー? ちょっと待ってください、そんなの考えたこともない(笑)。そうですね……架空の選手でもいいのであれば、「キャプテン翼」に出てくる石崎くんあたりがいいかもしれないです。もともとそんなにサッカーが上手じゃないんだけど、根性でがんばってけっこういいところまで行くみたいな。そういう感じはすごく好きですね。「キン肉マン」で言えば、ジェロニモみたいな。超人たちの中で1人だけ人間ががんばってるっていう。
石崎くんって、ブロック塀を破壊するほど威力のある日向小次郎のシュートを顔面でブロックしても「痛ってえ」くらいで済ませちゃうんですよね。お前の顔、どんだけ硬いんだよっていう(笑)。当時、それを見て子供ながらにすごいなと思いましたし、ああいう生き様には憧れますね。僕も彼のようなプレイヤーでありたいです。
※カッコ内の所属クラブは9月27日(火)12:00時点
アヒトイナザワ
1973年生まれ、福岡県出身のミュージシャン。向井秀徳、田渕ひさ子、中尾憲太郎とNUMBER GIRLを結成し、1999年5月にシングル「透明少女」でメジャーデビュー。4枚のスタジオアルバムなどをリリースしたのち、2002年にバンドは解散する。その後はVOLA & THE ORIENTAL MACHINEを結成し、ボーカル&ギターを担当。バンド名の「VOLA」はアヒトが好きな魚である鯔と、NUMBER GIRL時代に結成したサッカーチーム・VOLA FCから、「ORIENTAL MACHINE」は彼の好きなプロサッカー選手で1970~80年代にドイツのブンデスリーガで活躍した奥寺康彦の愛称から取られている。NUMBER GIRLは2019年8月に再結成し、数々のフェスに出演するなど精力的に活動したが、再び解散することを発表。2022年12月11日に神奈川・ぴあアリーナMMにて解散公演「NUMBER GIRL 無常の日」を実施する。チケットの一般発売日は10月30日10:00。
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