YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週刊連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで11月8日から11月14日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、15位にXGの「HOWLING」が登場した。この曲は11月8日にリリースされた2ndミニアルバム「AWE」のリードトラック。11月8日のMV公開から、2週間で800万回再生を突破した。
21位にはENHYPENの「No Doubt」がランクイン。とあるオフィスを舞台にスーツ姿のメンバーが華麗なダンスを繰り広げ、最後はオフィスを破壊するという展開の映像になっている。
26位にはAぇ! Group「WANT」のライブ映像が登場した。この映像は彼らが今年5月から8月にかけて開催したデビューツアー「Aぇ! group Debut Tour ~世界で1番AぇLIVE~」の中から、7月31日の大阪・大阪城ホール公演で撮影されたもの。YouTubeのコメント欄では「バンドもいけるし、どのジャンルでもAぇさんは生歌で勝負できるよ」など、彼らのライブ力の高さを絶賛する声が多く上がっている。
32位にはIVE & デヴィッド・ゲッタの「Supernova Love」がランクイン。同曲は1983年に発表された坂本龍一「戦場のメリークリスマス」のメロディを引用した楽曲だ。ワールドツアー「SHOW WHAT I HAVE」の一環として9月に行われた初の東京・東京ドーム公演で初披露され、リリース前から日本で話題になっていた。
45位に登場したのは、キタニタツヤ & なとりの「いらないもの」。同曲は2人が初めてコラボをした、フジテレビ「ノイタミナ」枠で放送中のテレビアニメ「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 京都動乱」の第1クールオープニングテーマだ。MVにはキタニとなとりの頬に十字の傷が見えるカットなどもあり、楽曲だけでなく映像にも「るろ剣」の要素が反映されている。
人気ダンスグループの新曲、アニメ主題歌、ライブ映像など幅広い楽曲が並んだ今週は、下記の3曲をピックアップする。
サツキ「オブソミート」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場12位
今年4月に公開された「メズマライザー」のMVが1億再生を突破(2024年10月時点)し、一躍人気アーティストの仲間入りを果たしたサツキ。そんな彼が11月8日に新曲「オブソミート」のMVを発表した。「メズマライザー」と同じく、重音テト&初音ミクが歌う楽曲だ。
曲名の元になっていると思われる「オブソリート(obsolete)」という英単語は「廃れた」「時代遅れ」という意味。全体を通して「急に人気店になった食堂」に比喩して歌詞が書かれており、冒頭で「とある一品を境に / 突如、担がれ方だけ、三ツ星。 / そんで、分不相応な店舗を構えて / 勝手が分からず、撃沈。」と、いきなり多くの人に担ぎ上げられて戸惑う様子を描写しつつ、「話題性だけが先行していて / 碌に咀嚼せず嚥下か。」などの言葉で、人気を得たことで抱いた悲哀を描いている。MVにタピオカ、マリトッツォ、カヌレなどの一時的なブームが去ったスイーツが出てくることも、「メズマライザー」でブームになってしまった自身の現状を表しているように感じられる。
YouTubeのコメント欄では「最近の流行ってすぐに過ぎるから『賞味期限も過ぎずに、とっとと廃棄で、〈次の注文〉って…』のところ共感……皮肉たっぷりだ……」と、ポップなメロディとは裏腹に、サツキの辛辣で毒気の強い歌詞に共感する声が多く散見される。
柊マグネタイト「テトリス」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場31位
柊マグネタイトが新曲「テトリス」のMVを11月8日に公開すると、自身最速となる3日間で50万回再生を突破した。さらにBillboard JAPANが集計する、ニコニコ動画上におけるVOCALOID曲の人気を測る「ニコニコ VOCALOID SONGS TOP20」において、11月13日、11月20日公開のチャートで2週続けて首位を飾るなど、今すごい勢いで話題を広げている。
本作はタイトルと同じく、落ち物パズルゲームの代表作「テトリス」のBGMとして知られるロシア民謡「コロベイニキ」を引用した面白い試みの楽曲。おそらく「重音テト」と「テトリス」をかけているのだろう。聴き馴染みのあるメロディやBPM170の心地いいリズムに加え、「共振で苦しんでし罵倒 / Q.更新で降る隕石抹消可?」や「興味ねえ救い派手感動 / 常備ねえ薬食べBAD」など、随所で韻を踏んだリリックが中毒性の高さを生んでいる。キャッチーさとは裏腹に、生きづらさを嘆いているようなダークで奥深い歌詞とのギャップも多くのリスナーの心をつかんだ要因のようだ。
ちなみに今YouTubeで急上昇入りしている、七人のカリスマ「カリスマピザパーティー」も奇遇にもサビでテトリスのメロディを引用している。この曲は二次元キャラクターコンテンツ「超人的シェハウスストーリー『カリスマ』」が3周年を迎えたことを記念して作られたもの。柊マグネタイト「テトリス」の公開から1週間後の11月15日に配信シングルとしてリリースされた。ピザがテーマで、なぜロシア民謡を引用しているのか謎だが、こちらの曲も非常に話題になっている。
この偶然と呼ぶにはあまりにもできすぎた一致。もしかしたらこれをきっかけとして「コロベイニキ」を引用した曲がさらに増えるかもしれない……。
tuki.「アイモライモ」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場95位
12月31日にNHK総合ほかで放送される「第75回NHK紅白歌合戦」に、ソロアーティストとして歴代最年少で初出場することが決まった、高校1年生のシンガーソングライター・tuki.。11月6日に新曲「アイモライモ」のMVを公開すると、2日間で100万再生を突破した。
通話アプリの呼び出し音を想起させる旋律のイントロと、「もしもし今何してた?」「髪を乾かしてたとこ」というカップルの何気ない日常のやり取りから始まるこの曲。好きな人と赤い糸で結ばれている喜びと、その関係がいつまで続くかわからない不安で揺れる恋心が、柔らかくもはかないメロディとともに紡がれていく。
これまでtuki.のMVはアニメーションのみであったが、今回は若手女優の當真あみを迎えた初の実写映像になっている。tuki.はX(Twitter)で「儚い雰囲気が曲にぴったりでとってもとっても感動しました!!!」とポスト。YouTubeのコメント欄では「実写MVで、びっくり あみちゃん現役高校生だし、tuki.ちゃんのMVにぴったりだと思ってたから、出ていて嬉しい リピ確の曲」という、楽曲と映像の親和性の高さや當真の表現力を絶賛する声が多く上がっている。
なお、tuki.は1stアルバム「15」を2025年1月8日にCDリリース。このアルバムには「アイモライモ」も収録される。