YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週イチ連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで6月6日から6月12日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、1位にHANAの「Burning Flower」が登場した。6月9日にMVが公開されて、わずか1日で330万再生を突破。6月20日現在で約1000万再生されており、加速度的に再生回数を伸ばしている。
9位にはSnow Manの「SERIOUS」がランクインした。今作は7月23日にリリースされる12thシングルの表題曲で、メンバーの渡辺翔太が主演を務める映画「事故物件ゾク 恐い間取り」の主題歌だ。映画の世界観とリンクするような不気味な音や叫び声などが随所にちりばめられた、ミステリアスな雰囲気のダンスナンバーに仕上がっている。
18位に登場したのはLE SSERAFIMの「DIFFERENT」。この曲はLE SSERAFIMが初めて挑戦するディスコファンクで、自然と体を動かしたくなるグルーヴィなビート、ファンキーなベース、卓越したリズム感を打ち出した歌が印象的だ。
29位にはRYUHEI(BE:FIRST)による「Loop」のスペシャルダンスパフォーマンス映像がランクインした。これはメンバーのソロ企画「One of the BE:ST」第3弾で、今年5月にリリースされたシングル「GRIT」収録曲。指先1本1本の動きにまでこだわりを感じるRYUHEIの繊細なパフォーマンスに魅了される。
人気ダンスグループの楽曲が目立った今週は、下記の3曲をピックアップする。
吉本おじさん「お返事まだカナ?おじさん構文!(feat. 雨衣)」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場5位
80年代に流行ったシティポップやニューミュージックが注目されるようになったり、90年代後半から00年代前半に流行したY2Kファッションが再燃したりと、かつてのトレンドが1周してZ世代に受け入れられている今、何周しようと「逆に新しい」とならないのが“おじさん構文”である。
おじさん構文とは、LINEなどのチャットツールで過剰に絵文字を使ったり、「了解デス」と語尾にカタカナを使ったり、「おはようー」と音引きをやたらと多用する文章などが特徴だ。これらの文章は、おじさん同士のやりとりで発生することは稀で、基本的におじさんが若者に連絡する際に使われることが多い。がんばってカジュアルな雰囲気を出そうとした結果、それが裏目に出てしまっているのだろう。
また文体だけにとどまらず、相手との距離感がつかめないため妙に馴れ馴れしかったり、聞かれてもいないのに自分の近況報告をしたり、上から目線だったり、下心が漏れ出ているような文章も、おじさん構文の特徴に挙げられる。
そんなおじさん構文をテーマにした曲が吉本おじさんの「お返事まだカナ?おじさん構文!」である。メッセージアプリ上での“おじさん”と“若い女性”のやりとりをそのまま歌にしたこの曲。基本的には気持ち悪い文章と揶揄しつつも、ネガティブなイメージだけで終わらず「愛を言葉にできる才能」「恋を絵文字にできる才能」とおじさん構文をポジティブな視点で捉えた歌詞が新しい。それでいて「無視さえ無視するキツさが / 逆にチルいです」と毒っ気も多分に含まれている。
その後も一方的に送られ続ける“おじさん構文”に、だんだんエモさを感じ始める女性。しかし調子に乗った“おじさん”から一線を越えたメッセージが届いた瞬間、“おじさん”はブロックされ同時に曲が終了する、というオチも切れ味抜群で面白い。
なお、この曲には5月30日に発売されたばかりの、イラストレーター兼Vtuber・しぐれういがキャラクターデザインとキャラクターボイスを手がけたバーチャルシンガー、雨衣の声が使用されている。
※「お返事まだカナ?おじさん構文!(feat. 雨衣)」は「?」と「!」が赤の絵文字、「?」の前に汗、「!」の前に笑顔の絵文字が正式表記。
なとり「プロポーズ」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場62位
なとりが今年5月から6月にかけて開催したワンマンライブツアー「ONE-MAN LIVE TOUR『摩擦』」内で曲名非公表のまま披露された新曲がある。ファンの間でリリースを熱望する声が多く、6月6日に満を持して配信リリースされたその楽曲のタイトルは「プロポーズ」。幸せな愛の告白を連想させるタイトルだが、そんな直球な内容ではないように思う。むしろ、愛する人がこの世にいないことへの思いや未練のようなものが感じられて、思わず胸に込み上げてくる。
この曲の歌詞は「そこに愛、集った」で始まっていて、一見すると好きな人への愛が募った描写に思えるが、なとりの歌は「会いたかった」にも聞こえる。また2番のAメロ「ここに愛、焦った。。。?」も、文字だけで見れば愛するあまりに焦る心境を表しているように思えるが、実際に聴くと「愛は去った」という悲しいフレーズに聞こえる。その“幸せ”と“悲しさ”のコントラストが随所にちりばめられているのが素晴らしい。
MVに注目すると、33秒からのシーンは“僕”と“君”が結婚式の衣装に身を包み、幸せそうに踊っているように見えて、タキシードのシワとボタンに「SOS」の文字が見えたり、1分25秒からのシーンで首に包帯を巻いた傷だらけの顔の“君”の笑顔を見て“僕”が涙を流す場面があったりと、幸せになることができなかった悲哀が、どんどん深くなっていくのが印象的。MVのコメント欄では「最初ただのラブソングかと思ったら、天使とか足におもり着いてる描写とか相手が嫌いだったって自分に言い聞かせてるシーンとかから、男性のもういない愛する子へのプロポーズなんだって知って鳥肌。。曲のセンスありすぎるなとりさん」「こんなに胸が苦しくなるラブソングある……?」など、なとりの切ない世界観に胸を打たれている人が多い様子だ。
Vaundy「こんな時」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場63位
Vaundyが6月6日に新曲「こんな時」のリリックビデオを公開した。これは5月30日に亡くなった音楽塾ヴォイス塾長である音楽プロデューサー・西尾芳彦への思いをつづった追悼曲だ。
西尾は1986年に西尾芳彦&ライトスタッフとしてメジャーデビューを果たしたのち、1997年に福岡で音楽塾ヴォイスを開校。この塾は「ヴォイス理論」と呼ばれる西尾独自の実践的ロジック集を用いた指導により、VaundyをはじめYUI、絢香、家入レオ、玉城千春(Kiroro)、Chilli Beans.など多数のアーティストを輩出した。
「こんな時」の歌詞でVaundyは、ミュージシャンとしての自分を育ててくれた大切な恩師が亡くなったことについて「こんな時 / 送る言葉が浮かばないもんで」と整理がつかない当時の心境をつづりつつ、「皆ひとしきりこう言います / あなたに会えてよかったと」と、多くの人に愛されていた彼の人柄を表現している。そしてこの曲は「輪廻してまたね / この先で会いましょう」と再会を願う言葉で締めくくられる。1曲わずか3分23秒の中に、故人への敬いや慈しみ、そして深い愛情が感じられる。
