昨年初開催され、大きな反響を呼んだ国内最大規模の国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN」。2回目となる今年は、6月13日に東京・TOYOTA ARENA TOKYOで授賞式(Grand Ceremony)が行われ、各賞の受賞者が発表される。
この記事では4人のライターに「MUSIC AWARDS JAPAN 2026」の受賞者および受賞作品の予想を依頼。主要6部門を中心に、それぞれの視点から分析してもらった。果たして“今年の顔”に選ばれるのは誰なのか。あなたの予想と照らし合わせながら、4人の論考を楽しんでほしい。
構成 / 橋本尚平
※寄稿者を50音順に掲載
キムラ(ライター)の予想は……?
「ジャンルそのものよりも、どんな文脈で流通したかによってその存在感が測られる時代」
主要6部門については、「最優秀楽曲賞」「Best Global Hit from Japan」は米津玄師「IRIS OUT」、「最優秀アーティスト賞」はMrs. GREEN APPLE、「最優秀ニュー・アーティスト賞」はHANA、「最優秀アルバム賞」はFujii Kaze(藤井風)「Prema」、「最優秀アジア楽曲賞」はHUNTR/X「Golden」が、それぞれ最有力と見ていいだろう。どの部門も対抗馬はいるものの、現時点での勢いや話題性、楽曲・作品単位での浸透度を考えると、大きく外す選択肢はあまり考えにくい。
「紅白歌合戦 出場者予想2025」の記事でも書いた通り、近年はアイドルグループの躍進が続いており、そのあたりをどう押さえるのかも重要なポイント。今年からアイドル部門は楽曲賞 / アーティスト賞ともにボーイズ部門とガールズ部門に分けられ、より多くのアイドルがノミネートに選出されるようになった。昨年は全体的にややガールズ優勢だったが、今年は「最優秀ボーイズアイドルカルチャーアーティスト / 楽曲賞」の新設により、STARTO ENTERTAINMENT所属のグループが一気に出そろう結果となった。
他方、「最優秀ガールズアイドルカルチャーアーティスト / 楽曲賞」に名を連ねるのは、CANDY TUNE、CUTIE STREET、FRUITS ZIPPER、超ときめき♡宣伝部、=LOVE。こちらも非常に納得感のあるラインナップだ。さらにCANDY TUNEとCUTIE STREETは、Vaundyや藤井風、Mrs. GREEN APPLEと並んで「最優秀ロングヒット楽曲賞」にもノミネートしており、KAWAII LAB.ブランドの強い持続力を感じる。
ただし、いくつか疑問が残るところもある。例えば「最優秀R&B / コンテンポラリー楽曲賞」では、星野源とFujii Kaze(藤井風)の楽曲がそれぞれ複数ノミネートされている。両者の作品性からしても異論はないし、無理にアンダーグラウンドのアーティストを発掘することが、このアワードの本懐ではないだろう。とはいえ、同一アーティストへの集中がここまで強くなると、部門としての広がりは見えづらくなる。
これは「MUSIC AWARDS JAPAN」がJ-POPのシーンにおける「ジャンル」という壁をどう捉えるべきか、模索していることの表れでもあろう。とりわけ今のJ-POPシーンは、ロック、ポップス、ボカロ、アイドル……といった既存のジャンル概念を超えた、複雑な土台の上に成り立っている。それが、SNSで切り抜かれ、ライブで共有され、ファンダムの間でまた新たな意味が生まれ、時には海外にも届く。ジャンルそのものよりも、アーティストやその楽曲がどんな文脈で流通し、どのような場で受け取られたのかによって、その存在感が測られる時代なのだ。そうした複雑な広がりを、受賞結果がどこまですくい上げるのか。今年の「MUSIC AWARDS JAPAN」の大きな見どころになりそうだ。
キムラ
1997年生まれ。ライター / Podcaster。集英社オンライン、ナタリー、MikikiなどのWebメディアで取材・執筆。J-WAVEなどラジオ出演。ポッドキャスト「コンテンツ過剰接続」配信中。
伏見瞬(批評家)の予想は……?
「広告性と質感へのこだわりを両立するミュージシャンが評価されるべき」
今の時代はポップアートの時代だと思っている。自分の運営しているnoteにも「2020年代=『新たなポップアート』の時代」という文章を書いたが、大衆消費社会に広がったイメージを作品に転化するポップアートの感性が、2020年代の大衆作家、つまりMAJにノミネートされるようなアーティストには必須だと考えている。そして、現代は作品と広告の区別がつかない時代だ。チャーリーXCXのアルバム「Brat」、映画「Marty Supreme」、NewJeans。この時代に大きなムーブメントとなった作品や作家は、みな作品を広告化することに対して臆さなかった。同時に、作品のニュアンスや質感にもこだわりを示した。MAJにおいても、広告性と質感へのこだわりを両立するミュージシャンが評価されるべきだと思う。その基準が、「世界とつながり、音楽の未来を灯す」をうたう、「MUSIC AWARDS JAPAN」にふさわしいからだ。
「最優秀楽曲賞」は、サカナクション「怪獣」が取る。楽曲自体の構成の技術や演奏のニュアンスもさることながら、YouTubeで発信を続ける山口一郎の姿が作品の魅力をブーストしていると感じる。
個人的には米津玄師「IRIS OUT」を推したいところだが、この曲は「Best Global Hit from Japan」を取るだろう。LiSA「ReawakeR(feat. Felix of Stray Kids)」も海外で多く聴かれた曲だが、音の強度とイメージ想起力で、「IRIS OUT」には及ばないだろう。
「最優秀アジア楽曲賞」はどうしてもHUNTR/X「Golden」にならざるを得ない。昨年から今年にかけての楽曲の広がり方が圧倒的だからだ。
「最優秀アルバム賞」は、サウンドとして新しい次元を切り開いた藤井風「Prema」が取ると思う。ただ、ビジュアル表現も含めたパフォーマンスが試される「Coachella Valley Music and Arts Festival」で素朴すぎるライブをしたのは、マイナスに感じる。今年になってから、星野源「Gen」により強く惹かれる自分がいることも、告白しておきたい。
「最優秀アーティスト」は、視覚表現や広告表現に現代で最も敏感なグループ、つまりMrs. GREEN APPLEが取る。そして、主要部門で最も迷うのは「最優秀ニュー・アーティスト」。ポップアート性という点で、CANDY TUNEには目を見張るものがある。時代を表現するという気概も感じる。しかし、音の質感への追求と、ビジュアル表現の両立という点で、HANAを推したい。「Blue Jeans」は「最優秀楽曲賞」に選ばれてもおかしくないくらいの、時代に即した名曲。2025年1年間の驚異的な飛躍度も加味すれば、ここはHANAだろう。
主要部門以外で注目は「最優秀バイラル楽曲賞」。ここが最も激戦で、現在進行でチャートを制覇しているM!LKの2曲、快進撃を示したKAWAII LAB.の2組、リバイバルヒットを記録したHALCALI「おつかれSUMMER」、「ラブライブ!シリーズのオールナイトニッポンGOLD」から生まれ海外でバズを起こした「愛♡スクリ~ム!」。どれが取ってもおかしくないし、どれが取っても文句は言えない。現在の勢いを見ると、M!LK「好きすぎて滅!」か。
その他、「最優秀リバイバル楽曲賞」「最優秀ロングヒット楽曲賞」なども気になる。いずれにせよ、2回目で初の東京開催。注目度も高く、批判の声も生まれるだろう。その中で、有意義な賞として持続して展開してほしいし、ワクワクする催しであり続けてほしいと思う。結局ワクワクが一番だからね! 楽しみましょう!
伏見瞬(フシミシュン)
批評家 / YouTuber。2018年より批評×旅行誌「LOCUST」の編集長を務める。「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾」第3期 東浩紀審査員特別賞を受賞。2021年に初の単著「スピッツ論 『分裂』するポップ・ミュージック」を刊行。照沼健太とともにYouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」を運営している。2015年以降の日本の音楽シーンを歴史化する「J-POP3.0ディスクガイド」を、てけしゅんとして間もなく刊行予定。
森朋之(音楽ライター)の予想は……?
「登壇するアーティストにはぜひ、今の社会に向けたメッセージを発信してほしい」
最優秀アーティスト賞のノミネート5組のうち、突出したインパクトを放っているのは米津玄師。「最優秀楽曲賞」(「IRIS OUT」)はもちろん、「最優秀アニメ楽曲賞」「最優秀ロングヒットアルバム賞」(「LOST CORNER」「STRAY SHEEP」)、ハチ名義での最優秀デジタルカルチャーアーティスト賞など、実に18部門で名を連ねている。さらに特筆すべきはアジア・ヨーロッパ・北米・中南米のすべてで「Best Japanese Song in ○○」にノミネートされていること。海外での実績も際立っていて、今年の「MUSIC AWARDS JAPAN」の軸になっている。アニメタイアップの効果を最大限に増幅させた「IRIS OUT」が、楽曲のクオリティ、世界的な知名度を含めて、現在の音楽シーンの顔であることは間違いない。
もう1つの顔になっているのがHANA。2025年デビューでありながら9部門にノミネートされているという事実は、彼女たちの驚異的な躍進ぶりをはっきりと証明している。もちろんプロデューサーのちゃんみなの手腕が大きいのだが、楽曲やパフォーマンスの魅力のみならず、アーティスト活動におけるジェンダー、ルッキズム、メンタルヘルスといった現代的なイシューを前景化させた功績は極めて高く、“日本の音楽業界の価値観は確実にアップデートしている”ということを世界に示す意義もある。「最優秀ニュー・アーティスト」「最優秀ダンス&ボーカル楽曲賞」(なんとHANAの楽曲が5曲もノミネート!)は当然、彼女たちだろう。
個人的に注目しているのは「最優秀劇中伴奏音楽賞(映画)」。本命は、映画「国宝」の原摩利彦。歌舞伎をテーマにした「国宝」の世界を見事に彩った原の音楽は、昨年の日本のエンタテインメントにおけるもっとも良質な仕事の1つだと思う。映画「爆弾」の劇伴を手がけたYaffle、映画「岸辺露伴は動かない 懺悔室」の菊地成孔 / 新音楽制作工房を含め、日本の劇伴のレベルの高さにも注目してほしい。
6月13日のグランドセレモニーでの演出やパフォーマンスも楽しみ。登壇するアーティストにはぜひ、今の社会に向けたメッセージをどんどん発信してほしいと思う。今年のグラミー賞における「ICE OUT」もそうだが(※1)、アワードは本来“我々はどういう人間で、どんな思いで音楽をやっているか”をアナウンスする場でもある。それが日本の風土になじまないこともわかっているが、アーティストが世界に向けて自らの意思やスタンスを明らかにすることは、「世界とつながり、音楽の未来を灯す」というテーマとも必ずリンクするはずだ。
※1:アメリカの移民・関税執行局(ICE)職員による一般市民の射殺事件などへの抗議を示すため、グラミー賞の式典に出席した著名人たちが胸元に「ICE OUT」と書かれたピンバッジを着用していた。
森朋之(モリトモユキ)
音楽ライター。2000年頃からライター活動をスタート。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な執筆媒体は音楽ナタリーのほかReal Sound、Billboard JAPAN、ROCKIN'ON JAPAN、AERA dot.など。
レジー(批評家)の予想は……?
「実は昨今のシーンの雰囲気がよくわかるのは『最優秀リバイバル楽曲賞』です」
この手のアワードの盛り上がりに影響するのは、なんと言っても受賞する顔ぶれの納得感。そう考えると、主要6部門、特に最優秀楽曲賞と最優秀アーティスト賞には「この1年の顔」とでも言うべき人が選ばれてほしい。
そんな思いを込めて、この2部門はHANAのダブル受賞を予想。社会現象とも言える昨今の人気は、女性ダンス&ボーカルの新しい地平を見せてくれたことのみならず、女性として自分らしく生きることを肯定するグループのメッセージが広く受け入れられている証と捉えるのが自然。社会の流れと音楽の流行のリンクという観点でも日本の芸能において重要なケースとなったHANAの活躍が、受賞という形で記録にも残るのが望ましいのではないか。
HANAがノミネートされていない最優秀アルバム賞で注目したいのは、星野源と藤井風の対決。ともにそれぞれのキャリアで新しいフェーズを迎えている2人だが、ここでは星野源「Gen」を推したい。インディーのグッドミュージシャンからお茶の間スターへの転身という10年以上の大河ドラマを経て辿り着いた絶望と希望の入り混じるこのアルバムのクオリティは、先般のツアーも含めて特筆もの。海外への発信という意義もあるMAJにおいて、日本の音楽シーンで育った男性アーティストの存在がさらに広く伝わるきっかけとなれば素晴らしい。
ちなみにこの2人が3曲ずつを送り込んでいるのが「最優秀R&B / コンテンポラリー楽曲賞」。ここでは星野源ではなく藤井風「Prema」の受賞を予想する。彼がここまで培ってきたピアノと歌の組み合わせが最良の形で結実したこの曲は、同名のアルバムの中でも出色の出来。同賞にノミネートされている山下達郎や宇多田ヒカルといったソウルやR&Bを日本らしく翻案してきた存在の系譜に、藤井風も名を連ねる資格があることを明確に証明している。
ここまで主にこの1年ほどの音楽業界の動きについて触れてきたが、実は昨今のシーンの雰囲気がよくわかる賞として注目したいのが「最優秀リバイバル楽曲賞」。昨年は大滝詠一「ペパーミント・ブルー」や西田敏行「もしもピアノが弾けたなら」がノミネートされていたが、今年は5曲すべてが90年代以降のリリースで、スピッツ「ロビンソン」を除いた4曲は21世紀の楽曲。令和の時代に音楽を作るアーティストは、この30年あまりで蓄積された名曲のカタログとリスナーの耳を奪い合わないといけない状況に置かれていることがわかって興味深い。思わぬ形でのバイラルヒットとなったKANA-BOON「シルエット」がフジファブリック「若者のすべて」やORANGE RANGE「イケナイ太陽」を差し置いて受賞したら面白いが、やはり今年は間もなくその活動を終える嵐「Love so sweet」が選ばれるのではないか。
レジー
1981年生まれの批評家・会社員。一般企業で経営戦略およびマーケティング関連のキャリアを積みながら、日本のポップカルチャーについての論考を各種媒体で発信している。著書に「東大生はなぜコンサルを目指すのか」「ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち」「増補版 夏フェス革命 -音楽が変わる、社会が変わる-」や、宇野維正との共著「日本代表とMr.Children」など。


