ゲームが大好きなPerfumeののっちさんが、ゲームに関わるさまざまな人々に会いに行くこの連載。今回は、バーチャルライバーの月ノ美兎さんが企画・ディレクションを担当したオリジナルゲーム「アルクマルチバース」が今年2月にリリースされたことを受けて、ゲームクリエイターとなった月ノさんにお話を聞かせてもらうことになりました。
のっちさんは、以前から月ノさんの配信を追いかけてきたヘビーリスナー。2020年9月に開催されたPerfumeのオンラインフェス「"P.O.P" Festival」では、2人で一緒にゲーム実況をしたこともあります。当連載にはそのときの対談記事も掲載していますが、このたび約5年ぶりの対談が実現しました。
今回はインタビューの前にちょっと寄り道して、取材時に東京・六本木ミュージアムで行われていた、月ノさんが所属するにじさんじの初の展覧会「にじさんじフェス展」に遊びに行くことに。前編となるこの記事では、のっちさんの「にじさんじフェス展」体験記と、月ノさんの解説付きで「アルクマルチバース」をプレイした様子をお届けします。
取材 / 倉嶌孝彦・橋本尚平 文 / 橋本尚平 撮影 / 曽我美芽 ヘアメイク / 大須賀昌子 題字 / のっち
©ANYCOLOR, Inc.
靴の汚れにグッと来るのっちさん
4月2日から6月29日にかけて東京・六本木ミュージアムにて開催されていた「にじさんじフェス展」。この展覧会では立体作品や映像など、過去に4回行われた大型イベント「にじさんじフェス」にまつわるさまざまなものが展示されていました。
今年2月に千葉・幕張メッセ国際展示場で開催された「にじさんじフェス 2025」には自身のアリーナツアー中のため行くことができず、アーカイブ配信で現場の雰囲気を楽しんだというのっちさん。イベントの盛り上がりを追体験できるとあって、この展覧会に行くことを楽しみにしていたそうです。
ミュージアム内に併設されたコラボカフェや、会場の外のフードトラックでは、2023年の「にじさんじフェス」で販売されたメニューの一部を復刻していました。のっちさんは樋口楓&月ノ美兎プロデュースのドリンク「楓と美兎 ~ジンジンじょぼじょぼ編~」と、Idiosプロデュースの「いでぃおすーぱーレインボーップコーン」をテイクアウト。「超ワクワクする……!」と声を弾ませながら、胸を躍らせて入場しました。
最初の部屋では、校舎をモチーフにした形状の大きなスクリーンで「にじさんじフェス2025」を振り返る映像を上映中。大音量で流れるにじさんじ全体楽曲「Hurrah!! 2025Ver.」に、のっちさんは体を揺らします。
続いてのコーナーは「にじさんじフェス2025」を振り返る写真展示。ステージの様子はもちろん、ライバーと1対1でトークをしてからツーショット撮影ができる「視聴覚室」などのアトラクションの写真も飾られています。会場には行けなかったのっちさんですが、たくさんの写真を見て、すっかり「にじさんじフェス」を楽しんだような気持ちになれたようです。
こちらに展示されているのは、「にじさんじフェス2025」で大盛況だったヒーローショーで実際に使われていた衣装の数々。これらのヒーロースーツはフェスのために作られたもので、フェス会場でもこんなに近くでは見ることができないため、展覧会の中でも特に人気のコーナーだそうです。
至近距離で衣装を見たのっちさんは「作り込みが細かい!」「マスクも超かわいい!」と感嘆。配信で観たヒーローショーを振り返りながら「そんな手があったか!って思って、めっちゃ感動しました」と熱弁しました。
靴のちょっとした汚れを見て、その実在感にグッと来たというのっちさん。あえてそのまま展示していることを絶賛しつつ、Perfumeの衣装展を思い出して「私たちの靴は全部キレイにしてから飾ってました(笑)」と笑っていました。
「こんなものまで展示されてるの!?」と笑うのっちさん
さらに奥へ進むと、唐突に1台の洗濯機が姿を現し、それを見たのっちさんは「こんなものまで展示されてるの!?」と思わず大笑い。これは着ぐるみショーのとあるショッキングな場面で登場した小道具です。月ノ美兎さんが活動初期に洗濯機の上にノートPCを置いて配信していたという逸話が知られていることもあって、のっちさんはこのなんの変哲もない洗濯機を前に感慨深げ。
着ぐるみコーナーは、月ごとに展示されるライバーのラインナップが変動し、10体前後の着ぐるみがターンテーブル上で回転しています。展示を見ながら「着ぐるみが……」と言いかけたのっちさんは、一瞬気まずそうな表情に。
「着ぐるみのことを着ぐるみって言っていい場面ってあんまりないですよね(笑)。私、今ダメなこと言っちゃったような気持ちになってちょっとドキッとしちゃった」
こちらは加賀美ハヤトさんの別衣装である巨大専用ロボ、ダイカガミの展示。フェス会場では手のひらに乗って記念撮影することもでき、最長180分待ちの人気スポットになっていました。
しゃべれる犬・黒井しばの犬小屋では、肉球型のボタンを押すと話しかけてくれる仕掛けに、のっちさんは「すごいファンサ!」と大喜び。「しばちゃんが本当に動いてしゃべって、こんなこと誰が考えたの?って思った」とツボを心得た企画に感心していました。
「にじさんじフェス」の一環としてライバーたちが手がけたアート作品を集めたコーナーも、展覧会の見どころの1つです。ミニ四駆や短歌、書道、イラスト、写真など、その内容は実にバラエティ豊か。フェス当日は混雑のためゆっくり鑑賞できなかった人も、ここでは落ち着いて作品を味わうことができます。
ちょっと恥ずかしそうなのっちさん
計173人のライバーのスタンディ(等身大パネル)がずらりと並ぶ部屋に入った瞬間、その迫力ある光景に「うっわ! すご!」と声を漏らすのっちさん。ライバーたちの一員になったような気分で、記念の1枚をパチリ。
最後に用意されていたのは、来場者がライバーへのメッセージやフェスの思い出をタブレットで書き込める「寄せ書きエリア」。「えー、なんて書こう……?」と少し悩みながら、のっちさんも思いを込めてメッセージを書きます。
次の部屋に進むと、その書き込みが「ライバーが書いた“寄せ書きフラッグ”」の上に重ねて投影されるという演出が。「ライバーさんのメッセージと、私たちの思いが重なり合うんですね。なるほど! 素敵な展示!」と感心しつつ、自分の言葉が大きく映し出されているのを見て、のっちさんはちょっと恥ずかしそう。
会場から出たのっちさんに、「にじさんじフェス展」をたっぷり堪能した感想を聞いてみました。
「面白かったー! ただの展示じゃなかったですね。アトラクションみたい。カーテンをめくるたびに新しい世界が現れて。最初に振り返りの映像を見せてくれて、フェスに行ってない人でも楽しめる。配信だけ見てた私も、いろんなことを思い出せたし、実物をこんなに近くで見られるなんて」
「ライバーさんが書いたり作ったりした作品の現物を目の前で見ると『ホントにいるんだ……!』っていう感動がありますね。1人ひとりライバーさんの見せ方もやっぱみんなこう工夫されてて愛情も感じたし、ファンとしてうれしい展示の仕方でした」
情報を遮断してずっと楽しみにしていた「アルクマルチバース」をついにプレイ
展覧会をたっぷり楽しんだのっちさんですが、今回の企画はここからが本番。月ノ美兎さんとお話をするために、にじさんじを運営するANYCOLORのオフィスに移動します。
月ノ美兎さんが企画・ディレクションを担当したブラウザゲーム「アルクマルチバース」は、2月に発売された月ノさんのミニアルバム「310PHz」に収録された「アルクユニバース」をベースに、プレイヤーの選択によって映像も楽曲も変わる“インタラクティブMVゲーム”。 製品版は「310PHz」のにじさんじストア限定特典として販売されました。
対談本編に入る前に、まずは月ノさんの解説付きで、のっちさんに「アルクマルチバース」を実際にプレイしてもらうことに。ちなみにのっちさん、「310PHz」も自分で購入し、遊ぶのを楽しみにしていたものの、今回の企画が決まったため、あえて手をつけずにガマンしていたんだそうです。
「美兎ちゃんの動画で、後輩の石神のぞみさんが『アルクマルチバース』をプレイしている回があるんですけど、それもまだ観てないんですよ。情報を遮断してたから、今日をすごく楽しみにしてました」
そんな念願の「アルクマルチバース」、いよいよプレイ開始です。「スタート地点の公園から、次にどこに向かうのか?」が最初の選択肢。時間制限がある中、のっちさんは「わ、ヤバいヤバい! じゃあ駅! 駅行きます!」と大慌てで行き先を選びます。
のっちさんが初プレイでたどったのは、駅から田舎道を経由して神社に至るという、原曲と完全に一致するルートになりました。ミニアルバムを繰り返し聴いているというのっちさんは、耳になじんだ楽曲に合わせて楽しそうに歌い始めます。その様子を目の当たりにした月ノさんは、「うわっ、のっちさんが歌詞を覚えている……! 嘘みたい……!」と感動を隠しきれない様子。ちなみに月ノさんによると、最後の選択の結果はランダム要素があるため、原曲とまったく同じルートになることはそこまで多くないそう。
1周目は実質、原曲のミュージックビデオと言ってもいいような展開だったので、月ノさんからの「ちょっと逸れたルートも見ていただきたいです」という提案を受けて、のっちさんはさらに何度かプレイすることに。不穏な雰囲気のトンネルを潜り抜けて雪国にたどり着いたり、商店街のゲームショップから恋愛ゲームの世界に入ってしまったりと、同じ曲なのにプレイするたびに違った場所に到達します。各ルートに登場する月ノさんのイラストを見ながら、のっちさんは「こんなにかわいい絵なのに、このルートに来なきゃ見れないんですね……」とお得な気持ちになっていました。
そしてこれで最後のチャレンジ。ウサギを追いかけているうちに穴に落ち、たどり着いたのは地球の裏側・ブラジルでした。このブラジルルート、月ノさんによるとセリフはほぼすべてアドリブなんだそう。
「これは家で最後に収録した気がするんですけど、うしろでブラジルっぽい音が鳴ってるだけで、私が何を言うかはすべて任されていたんですね。映像だけ先に決まってて、どんな声を入れるかはもう自分次第という。だからなんか恥ずかしいですね(笑)」
念願だった「アルクマルチバース」をプレイして、制作者である月ノさんに聞いてみたいことがどんどん浮かんできたのっちさん。後編のインタビューでは月ノさんに、そうしたゲームにまつわる話を中心に、動画配信をはじめとしたバーチャルでの活動などについてもたっぷり聞きました。公開をどうぞお楽しみに。
<後編に続く>
