2017年にスタートし、今や日本のヒップホップシーンを語るうえで欠かせない存在となっているABEMAのオーディション番組「RAPSTAR」(ラップスタア)。¥ellow BucksやKohjiyaといった優勝者をはじめ、毎年この番組から多くのスターが生まれており、敗退しながらも番組をうまく利用して成り上がっていくラッパーもいる。“このシーンの1番問題児”を自称する東京・渋谷出身のTee Shyne(ティーシャイン)は、そんなラッパーの1人だ。
昨年「ラップスタア」に初挑戦したTee Shyneは、課題ビートで制作した楽曲による動画審査を通過するが、続くサイファー審査(SELECTION CYPHER)で敗退。ここでは芳しい評価は得られなかったものの、審査員のralphを名指しながら番組を批判した楽曲「RAPSTAR DIS」を発表して一気に注目を浴びると、その後も突飛な言動を連発して知名度を上げ続けてきた。
個性的なキャラクターのみならず、確かなラップスキルを持つ彼は、今年の「ラップスタア」にも挑戦。今回は視聴者や審査員の高評価を得るが、またしてもサイファー審査で敗退してしまう。ここで彼は制作意欲の低下やヘイターによる誹謗中傷、ライブ会場への襲撃などを理由に音楽活動から引退することを発表してファンを驚かせたかと思えば、その数週間後、審査員全員をネームドロップしたディス曲「RAPSTAR DIS 2」でカムバック。再び大きな話題を集めている。
音楽ナタリーでは、帰ってきたTee Shyneにインタビュー。彼の証言を前後編に分けてお届けする。前編では引退騒動の真意を明かしてもらいつつ、過去2回の「ラップスタア」について振り返ってもらった。
取材・文 / 三浦良純
引退発表は全部本当
引退発表については嘘をついたわけではなくて、全部本当ですよ。過去の言動が原因で誹謗中傷はめちゃくちゃ来るし、ライブへの襲撃も本当にあって過去に4回くらい襲撃されてます。15人くらいに囲まれたり、ライブに乱入されたりして、友達が病院に行くほどの怪我を負いました。俺よりも周りが被害を受けてるんすよね。襲撃に来るのは、マジで会ったこともないような奴らっすよ。ドラッグ食ったり、酔っ払ったりしてワケわかんなくなってる奴とか、音楽と関係ない地元のしがらみとか。子供みたいな奴がケンカふっかけてくることもあって、そういうのは返り討ちにしてボコボコにしてますけどね。仲間がいるんで全然対処できるんですけど、どこに行くにも仲間を10人以上連れて行かなきゃいけないのは本当で。
そこに「ラップスタア」があって……いい番組なんすけどね。引退発表後のインスタライブで「いい番組」って連呼してたのは、今観るとネタ振りに見えるかもしれないですけど、けっこう本心です。「ラップスタア」のおかげでここまで来れたというのはマジであるんで。自分は高2くらいからラップをやっていて、「ラップスタア」に出る前はKID DA NOIZEというクルーで曲を出していたんですけど、自分名義の曲は去年の「ラップスタア」敗退後に出した「RAPSTAR DIS」が最初だったんですよ。そこから成り上がって次の年に優勝できたら、めっちゃキレイというかカッコいいなと思って、この1年がんばってきたんですけどね。またサイファーで落ちちゃって……まあショックでした。
それで制作意欲がなくなったのもあるし、ここ最近ライブばっかりやってて曲を作る時間がなかったんですよ。月10回くらいライブがあって、飛行機に乗ったり、新幹線に乗ったり、それで3日くらい潰れちゃうんで、曲の作り方自体を忘れたところもあって。そういうのが重なって、ガチで引退しようと思ってました。「ラップスタア」に落ちてからはライブも全部断って、レコーディングもしてなかったです。自分のちょっと前にTohjiが引退発表してましたけど、Tohjiに感化されて引退発表したわけではないっす(笑)。そこはまったく関係ないっすね。
復帰は仲間とファンのおかげ
復帰しようと思えたのは仲間の存在が大きいです。仲間には迷惑をかけて申し訳ないなってめっちゃ思ってたんですけど、「そんなの気にせずにやっていいよ」「思ったこと歌え」って言ってくれて。引退発表時点では「RAPSTAR DIS 2」を作る予定もなかったんですよ。さすがに2回目はダサいから。でも、KID DA NOIZEのメンバーのBBとか仲間の圧と熱意がすごくて、ちょっとやってみるかと思ったっすね。
ファンからも引き止めるDMはめっちゃ来ました。エグいっすよ。DM開いたら、画面一面が応援メッセージみたいな。しかも1000件くらい届いてる中の100件くらいは本当に長文なんですよ。「そんなに俺の曲好きなのかよ」って思ったっすね。自分はそんなに熱いメッセージを送れるくらい好きな人とかいないから、超うれしかったし、そこで背中押されたのはめっちゃあるっす。
それで数日は迷ったんですけど、「ラップスタア」で1回夢見れたから、ここで辞めんのはよくないなと思って復帰することにしました。引退詐欺みたいに見えるんで、これでまたアンチはいろいろ言ってくると思うっすけどね。ブランディングじゃないですけど、これまで自分は、ほかのラッパーがやったら絶対ダメなこと、それはもうラッパーじゃないって言われるようなことをずっとやってきたんで、本当のファンは今回の件も全然だと思います。信じてます。
初挑戦はめっちゃ悔しかった
「ラップスタア」に挑戦したのは去年が初めてです。応募者はビートが発表されてから、1週間ちょっとで楽曲と応募動画を作らなきゃいけないんですけど、普段から歌詞は書いてたので、それをうまくハメていく感じで作ったっすね。出るからには、もちろん優勝を目指してました。
その曲で動画審査は通過してサイファーまでは進んだんですけど、サイファー審査では何回撮り直していいのかとか全然わかんなくて不安でしたね。サイファー審査は1人あたりの小節数が決まってて1分半くらいの応募曲を50秒くらいに切らないといけないんですよ。それで、自分はもともとフックから始まる予定だったんですけど「努力いらねぇあるのはセンス つけてみろよ点数」ってヴァースから始まることになっちゃって。審査ではそこをralphにピックアップされて「センスある人たちが努力してるんで」と言われてましたけど、いきなりこのラインが来たらそう思いますよね。めっちゃ悔しかったです。
落ちたことは事前に知らされるけど、審査の内容は放送までわかんないんですよ。だから、放送前はめっちゃワクワクしてたっす。ライブ後に友達と一緒に観たんですけど、どんなこと言われるのかなと思ったら、触れられもしなくて。最後にオーガナイザーのRYUZOさんがようやく「Tee Shyneさんは?」って振ってくれましたけど、ralphが「努力してくれ」って話しただけで終わって次の映像が始まって……ほかの審査員はコメントなしでした。だからralphには「ありがとう」って感じです。ralphがいなかったら誰をディスればいいかわからなかったんで。
「ラップスタア」出ただけじゃ伸びない
「RAPSTAR DIS」の制作期間は2週間くらいかな? 落ちてすぐ作ったわけじゃないんですよね。「ラップスタア」に出たらめっちゃフォロワーが増えるんだろうと思ったら、全然フォロワーが伸びなかったんです。それで「これじゃ出た意味ねえな……」と思って。「ラップスタア」自体にムカついたとこもあったし、じゃあディスろうかなって。
「ラップスタア」に落ちた人でも、キャンプステージ(RAPSTAR CAMP)くらいまで行ってる人は、そこからがんばって伸びてる気がするんですよ。でもサイファーで落ちて今知名度ある奴って、いなくはないけど少ないなと思って。俺のサイファーのグループは誰も知名度ある奴がいなくて、俺以外全員消えたと思いますね。俺はここまで大きいメディアに出るんだったら絶対に成り上がってやろうと思って「RAPSTAR DIS」を出しました。本当にラップを仕事にしたいから、これでアンチが来ても関係ねえなと。
Tade Dustにもディスられてありがたかった
去年落ちたときに、次の年も出ようと思ったというか、逆にもう絶対受かんないレベルまで成り上がりたいって思ってたんですよね。例えば、今KohjiyaとかWatsonが「ラップスタア」に出るのは、おかしいじゃないですか。「ラップスタア」のおかげで、今ここまで来れてるっすけど、本当はそのくらいもっと上に行くつもりで動いてきたんですよ。そのために曲もめっちゃ出したし、MVもたくさん作りました。曲出してもMVは作らないというラッパーが多いですけど、俺はだいたいの曲にMVあるんすよ。あとはディスられてもいいからSNSの活動をがんばって、とにかく知名度を上げていきました。
大きな出来事としては、今年の3月末にTade Dustにディスられたんですよね。俺の友達の友達がTade Dustで、間接的にはつながっていて、Tade Dustの弟のKee Roozとよく同じライブに出てましたけど、Tade Dustと直接の面識はなかったんですよ。そんな彼が俺に向けて「日本でGang気取り Gra? Gra? 腹ちぎれるほど笑わせてくれてありがとう」って、突然ディスってきたからびっくりしましたね。しかも、自分がけっこう仲よくて、クラブで会ったら乾杯するし、普通に遊ぶ042ghxstの曲の客演でディスってきたんですよ。その曲で「03- Performance」にも出て。
それに対して自分からは特に何も反応してなかったんですけど、042ghxstから「会える?」って電話がきて。「会える?」なんて言われたことねえし、詰められるのかなと思いましたけど「本当ごめん」って謝られました。でも、客演に入ってもらったラッパーのリリックを変えるべきじゃないし、言いたいことを言うのがラッパーじゃないっすか。だから俺は「全然大丈夫っすよ」って。
042ghxstに「思ってること言っちゃっていいから」って言われたんで、じゃあ曲作ったろと思ってできたのが「Entertainer」ですね。この曲のMVは3月にイギリスで撮影したんですけど、そのときはまだディスられてなかったんですよ。ディスを受けてリリックをちょっとだけ録り直しました。「罠ハマるネズミこの言葉Cheddar / お前がトムなら俺ジェリーか / でも嘘つかないNo snitch だしNo cap」ってラインのトムは、夜猫族ってクルーに所属してるTade Dustを指してます。
この一件について、俺は全然怒ってないし、逆にありがたかったんすよ。Tade Dustはめっちゃ有名だし、好きなラッパーだし、「Entertainer」がけっこうバズって、さらに知名度も上がったんで。Tade Dustは、たぶん盛り上げたかっただけなんですよね。その後ライブで会ったんですけど、実際めっちゃいい人だったんで、TikTokも一緒に撮ってもらいました。
ライブ漬けの日々で到達した無心の境地
今年の「ラップスタア」に向けての準備らしい準備は、めっちゃライブをやったくらいかな? いい練習になりましたね。もともとライブ経験が全然なくて、マイクを握って5回目くらいが去年の「ラップスタア」だったんですよ。去年のサイファーは息が続かないところがめっちゃあって、撮り直しするまで全部噛んじゃって。最後のテイクが使われたんですけど、緊張してる感じが出てますよね。この1年でライブやりまくって堂々と歌えるようにはなったっす。
ライブでヴァースの最後だけ歌わずに客に歌わせるのはラッパーあるあるですけど、自分は全部の歌詞を歌うんすよ。全部歌いたい派で、そこがほかのラッパーとは違うなって思うっす。なんでこんな歌えるんだってファンに言われることもあるくらいですね。最近は「今日何を食べようかな」って考えながら歌えるくらい染み付いてきてて。いや、手を抜いてるわけじゃないけど、そのくらい無心でライブできるようになってて成長を感じてるっす。観客の盛り上がりもすごくて、「Dirty Bitch」って曲では、女の子がブラジャーとか物投げてくるんですよ。バレンタインのときはめっちゃチョコもらったっすね。
今年の応募動画はガチのMVを作った
今年の「ラップスタア」はあえてHomunculu$のドリルビートじゃなくて、Chaki Zuluのビートを選びました。ドリルはめっちゃ好きなんすけど、俺はドリル以外もできるし、新しい一面を見せられるかなと。もっと上のステージでドリルを使ってカマすことも考えてました。Chakiのビート自体めっちゃよかったし、いいラップの乗せ方もできたと思うんですよね。一軍、二軍みたいに分けて書き溜めたリリックのメモから抜粋したり、新しい歌詞を書いたり、韻やフロウを考えたりして、曲自体は4日くらいで作りました。めっちゃ腕のいいカメラマンの友達がいるから、動画制作に時間をかけてガチのMVを撮りたかったんですよ。応募動画をiPhoneで撮ってる人もいるけど、俺はそこでも強さを見せたいなと。友達は制作のスピードも速いんですけど、応募動画ができたのは締切の2日前くらいかな。
そもそも自分はそいつがいなかったら去年の「ラップスタア」も出てなかったんですよ。そいつもそれまでラッパーの動画を撮ったことがなくて、この機会に一緒にやろうって声をかけてくれたから出ることになったんです。今回の動画を撮ってるとき、めっちゃファンに話しかけられて、成り上がりを感じたっすね。動画にはファンに話しかけられたときの様子も使ってます。
今年の「ラップスタア」はサイファー審査の前に「MIC TRYOUT」ってライブ審査が渋谷のHARLEMであって。去年はなかったんでびっくりしましたけど、自分にはライブの積み重ねがあって、その日も名古屋のライブから帰ってきたようなタイミングだったので、めっちゃ堂々とやれたっすね。自分の前の奴は緊張で噛んじゃったり、忘れちゃったりしてかわいそうでした。1回目がリハーサルで、次が本番なんすけど、「俺は最初から本番でいい」って言ったんすよ。それで結局2回やったんですけど、終わったあとは拍手されて「ヤバいっす、ありがとうございます」みたいな。これはカマしたなと。中には「めっちゃファンです」って言ってくれるラッパーもいたけど、俺ら同じ立場だし、もっとラッパーとしての自覚を持った方がいいよって思いました。
サイファーもめっちゃカマせたのに
去年のサイファーは、ドリルのビートなのに歌ってるやつがいたり、アイドルがいたりして、ピリピリしてたんですよね。話しかけてくる奴もいて、俺が「ほかのグループはKohjiya、lj、MIKADO、Hezronとか有名なラッパーめっちゃいるけど、俺らのグループは知名度ある奴いなくないっすか」って言ったら、そいつは「ラップわかんないし、全員知らないっす」とか言ってて。「こいつよくラップスタア受かったな……」って思いましたね。
でも今回は知り合いもいたし、ピリピリしなかったっす。DJのCHARIくんとも面識あったから「おひさしぶりです」って挨拶したり、同じグループのSad Kid Yazくんも会うの2、3回目で。遊んだことはなかったけどうれしかったっす。あと「ラップスタア」のスタッフの人たちが優しくて。HARLEMでも言われたけど「『RAPSTAR DIS』ありがとうございます。本当にカッコいいっす」って言われたり。アットホームじゃないっすけど、雰囲気よかったっす。ほかのグループで参加してた福岡のTrrryも知り合いで、一緒に酒飲んでたりもしてたんで挨拶してくれて。そのTrrryがめっちゃカマしてるの見て「俺はいけるかな」って緊張したんですけど、俺もちゃんとカマせたっすね。
それなのに落ちたって連絡が来て「どっかミスってたのかな? 音に乗れてなかったのかな?」って思ったんですけど、動画を観たら「いや、めっちゃカマしてんじゃん」って。落とされたけど、これは恥ずかしくない。この曲はたまにライブでもやるんすけど、ライブでミスることもあるっすもん。普通だったら息が続かなかったり、噛んだりする場所あるんすよ。だから、動画を観て自分でもマジですげえなって思っちゃったっす。
それで「なんで落ちたんだろう」って思いながら、番組を観たら審査員が普通に褒めてて。「気持ち悪いな」って。去年の「RAPSTAR DIS」のことも突っ込まれるかなと思ったら、誰にも触れられなかったし。これは憶測なんすけど、点数の付け方として、誰か1人に深く刺さったほうが点数が上がるのかなって。ディスるわけじゃないけど、Sonsiくんとかは審査員の誰かの1位になったんだと思うんすよね。俺のことは審査員みんな評価してたけど、みんな1位じゃなくて真ん中くらい順位で票を入れてたのかなと。Benjazzyが通過者を見て「Tee Shyne見たかったな」とか言ってて、みんな納得してない感じでしたけど「相談して決めろよ」って思いましたね。
プロフィール
Tee Shyne(ティーシャイン)
東京・渋谷出身のラッパー。ABEMAのオーディション番組「RAPSTAR 2024」にて「SELECTION CYPHER」で敗退したのち、番組を批判した楽曲「RAPSTAR DIS」を発表し、一気に注目を浴びる。2025年2月にEP「"The Secret" MIX TAPE」を発表し、同月にはドリルシーンを牽引する若手ラッパーが集結した「03-Performance」のサイファーに参加。「RAPSTAR 2025」では前年同様「SELECTION CYPHER」で敗退し、引退を宣言するも、審査員全員をネームドロップした新曲「RAPSTAR DIS 2」でシーンにカムバックした。


