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渡辺淳之介の敗北宣言・後編~世界を目指して~

「渡辺淳之介の敗北宣言」
16分前2025年12月02日 3:02

音楽事務所WACKの代表を務めていた渡辺淳之介は、2024年7月に同社を退任。現在は拠点をロンドンに移し、ロンドン大学ゴールドスミスカレッジで起業家精神を学ぶ大学院生として生活しつつ、WACKオーナーとして各グループと関わっている。本コラムはそんな渡辺からの近況報告を受けて、WACKの今後を示すインタビューに発展した、本人による独白記事である。

序編では渡辺からのメッセージ「渡辺淳之介の敗北宣言」をプロローグとして紹介。前編ではGANG PARADE、KiSS KiSS、ExWHYZ、ASP、BiTE A SHOCKが2026年内に解散、豆柴の大群がWACKを離れて活動を継続することを発表し、さらに2026年3月に合宿オーディションを開催することも宣言された。

衝撃の発表に続く後編では、渡辺が海外で気付いた「日本というぬるま湯の正体」、35歳までパスポートなしだった“典型的日本人”の挑戦、WACK“第2章”の日本とロンドンの2拠点戦略などを語る。

最後には「もしも人生に行き詰まったのなら……」と題し、渡辺と同世代の社会人やアイドルを目指す人へのメッセージも紹介。破天荒なプロモーションで話題をさらい、次なる野望の実現に向け、会社の代表を退いてまで海外に拠点を移した渡辺なりの行動論を示している。

題字 / 渡辺淳之介 取材・構成 / 田中和宏

ロンドンで気付いたぬるま湯の正体

僕自身の話になるんですけど、2024年の夏に音楽ナタリーで取材してくれた「渡辺淳之介、WACKやめるってよ」でお話しした通り、ロンドンの大学院に進学しました。早いものでもう卒論を書いていて、2026年1月に修了予定です。大学院では「Creative & Cultural Entrepreneurship」という学科で、起業家精神をクリエイティブやカルチャー視点で研究するプログラムを学んでいるんですが、教授とも話が噛み合わないんです。その原因は「日本の音楽マーケットが異常なほど大きい」ということから来る価値観の違いでした。

いわゆる芸術系のインディービジネスにおける予算感のケタが、僕の想定よりイギリスはひと桁少ないんです。僕が「この規模で、このくらい宣伝費を使って、こういうふうにやりたい」と伝えても、教授は「いや、お前そんなの無理だろ」「お前の抱えてるアーティストなんか誰も知らないよ」って空気になる。もちろん海外におけるWACKの立ち位置からすればその通りだと思うんですけど、日本でもビジネスをする前提で予算計画を伝えると、「お前のアーティストってどれだけの規模なの?」って驚かれる。規模の話で言うと、BiSHが東京ドームに5万人を集めたというのは、日本の人口1億2000万人の0.042%に該当します。比率からしたら大したことないように見えるですけど、世界からみると日本人だけでそれだけの人数が集客できるって、実はとてつもないことなんです。

WACKからavexに移籍したアイナ・ジ・エンド(ex. BiSH)のSpotifyのフォロワーは、「革命道中」の大ヒットもあって今500万人に迫る勢いですけど、海外でも人気があるといいつつ、そのほとんどが日本人のはずで、とんでもないことなんですよね。僕の大好きなバンビー・サグっていうアイルランドのシンガーソングライターは、Spotifyのフォロワーが27万人。もちろんそれだけが指標ではないですけど、すごい差ですよね。これは日本のマーケットの異常性を示すものだと思うんです。

日本で5万人を集めたグループのメンバーで、サブスクで500万人のフォロワーがいても、日本のカルチャーを知らなければ、ほとんどの人が海外だと「誰?」って反応になる。日本のマーケットは日本国内で回るから、海外にわざわざ目を向ける必要がないとも言えるんですが、例えばK-POPの大手事務所にいた人とかでも「WACKに転職したい」って応募が来たりするんです。K-POPで大成功してるのに、なんでインディーズの事務所に?と思って話を聞くと、やっぱり日本の市場が大きくてそれだけで魅力的だっていうんです。日本は恵まれてますよね。でもぬるま湯すぎる。

35歳までパスポートなし、“典型的日本人”が海外へ

かくいう僕も35歳までパスポートすら持ってなかった典型的な日本人でした。日本人は17~8%しかパスポートを持っていないみたいなので、国民の8割以上が日本から一歩も出ずに一生を終えるわけです。円安とか物価高とか不況とかいろいろありますけど、日本の経済規模が大きいから、わざわざ国内から出る必要がないという見方もできますね。今イギリスだとハンバーガー、ポテト、コーラのセットで5000円くらいするところもあるし、24時間やっているようなコンビニはない。お酒が飲めるパブの多くは23時に閉まるから不便です。それに比べると日本の居心地がよすぎるので、わざわざ出ようとしないのも頷けます。

僕もそのぬるま湯に長いこと浸かってました。それがすべての間違いでした。ロンドンに来て丸2年、英語の勉強はずっと続けていますが、なかなか思うようには習得できていないです。洋楽の歌詞が少し聞こえるようになったくらいで、地下鉄のエスカレーターでデヴィッド・ボウイの歌が流れたとき、歌詞がちょっと聞き取れて涙が出ました。デヴィッド・ボウイは僕の洋楽の原体験みたいなアーティストで、僕の音楽ルーツはイギリスにあると思っているので、本当に感慨深い体験でした。ああ、もっと前からちゃんと勉強しておけばよかったなあと毎日、毎日思う日々です。

英語の話を続けると、以前通っていた語学学校の先生に言われました。「お前、日本人だから完璧じゃないとしゃべれないと思ってるだろ」と。その通りです。間違えるのが怖くて黙るんです。ほかの国の人は、アクセントがめっちゃ強くても気にせず英語をしゃべる。日本人は完璧主義すぎて口を閉ざす。僕もまだ怖いし、一生ペラペラになれないかもしれない。なんとなく相槌を打っている日本人は、最後に「イエス」って言うんですって(笑)。「何がイエスだよ!」という話ですけど、そうやって誤魔化そうともしちゃう。けっこうバカにされてるんですよ、日本人って(笑)。「なんでお前らはそんなに英語がしゃべれないんだ」って。それもいつかぶっ壊したいですね。典型的な日本人のイメージを払拭できたらいいなと思ってます。

WACK“第2章”は日本とイギリスの2拠点に?

BiSHが東京ドームでのライブを成功させたように、WACKの第2章でも目指したい景色はあります。イギリスだとまずロンドンのO2アリーナ(収容人数2万人)。“まず”ってレベルじゃないですけど(笑)。こっちでONE OK ROCK、BABYMETAL、YOASOBIを観て改めて思ったんですけど、やっぱりああいうアリーナ規模のライブをまずは実現させたいです。もしイギリスで“最大”を目指すなら、ウェンブリースタジアム(収容人数9万人)になるでしょうね。最近だとOasisが立ったあの場所です。

海外で存在感も示したいので、BBCラジオで曲が流れたり、海外アーティストとのコラボをもっと増やしたりもしたい。高校時代からずっと憧れていた吉井和哉さん(THE YELLOW MONKEY)、上田剛士さん(AA=、THE MAD CAPSULE MARKETS)、ヒダカトオルさん(THE STARBEMS)に楽曲を書いてもらうという夢はこれまでに叶えてきたし、ASPでは僕の大好きなイギリスのバンドWargasmのサム・マトロックに曲を書いてもらえて、日本ツアーのオープニングアクトにASPを選んでくれました。だからデーモン・アルバーンに曲を書いてもらうことだって、不可能じゃないと思っています。書いてもらいたいな。

そういった目標を叶えるためにはイギリスにも会社としての拠点が必要だろうと考えています。今は、“物言う株主”でありつつ、全部ボランティアみたいな感じなので、通帳の残高がどんどん減っていくのを見るのがつらい日々(笑)。WACK所属グループがイギリスでライブをする「WACK in the U.K.」も学校の授業の一環なんで、学生ビザの自分だとやっちゃダメなレベルですけど、先生には報告しつつ、許可を得てやっているという状態です。

なのでビザが取れたら、まずロンドンで会社を立ち上げようと思っています。そこにスタッフを置くのか、僕が日本と海外をつなぐエージェントとして一旦動くのか、未定です。ビザの準備が整ってから調べて考えてみようと思います。2026年1月までに今後、どう動けるかが固まるんですが、それを待たずに今できることを進めている感じですね。とか言いながら、海外のスタッフを雇う予定があったりもします。

予定は未定ですが、僕の書いた宣言文のとおり、世界を次の戦場に選びました。もちろん僕は日本人だし、世界には日本が入ってます。またみんなを震わせるような仕事ができるようにまた裸一貫、がんばりますよ。

もしも人生に行き詰まりを感じているなら……

僕と同じ世代に向けてお伝えできることですか? 40歳でロンドンの大学院に挑戦したことは、僕にとっては大きな転換点でした。日本で40歳と言えば「もうおじさんだよね」って扱われることもあるし、自分でもどこかそう思っていたところはあります。でも実際に行ってみたら、30代はもちろん、自分より年上の人も普通にいて、セカンドキャリアを築こうとしている仲間がたくさんいたんです。インド、インドネシア、アルゼンチン、中国……いろんな国からイギリスの大学院に学びに来ていて、全員がそれぞれの目標や目的を持っている。その環境に身を置いてみて改めて、日本がいかに閉鎖的なコミュニティなのかと痛感しました。日本にも外国の方たちはいますけど、圧倒的に大学でも日本人がマジョリティですもんね。ロンドンの大学院では本当に多文化を感じたし、いわゆる本当の意味での根本的な考え方の違いによるいざこざも経験しました。それを改めて乗り越えたことは1つの糧となったし、ガソリンになりました。今こうしてある種、20代のときのような野望を恥ずかしげもなく言えるようになったのは、環境を変えたおかげだと思います。

だからもし、人生に行き詰まりを感じてる人がいるなら、環境を変えてみるというのはいいことだと思います。思い切ってリフレッシュ休暇を取って、数カ月だけでも今まで行ったことないところに行ってみたり、もちろん海外でもいいし、なんでもいいんですけど、何か違う感触を実感できると思うんです。日本の企業だって、昔と違って長期休暇を否定できる時代じゃなくなってきたし、有給が余ってる人も多いでしょう。仕事を辞めたいなら辞めてもいいと思うんですよ。人のせいにせず、自分の決めたことに責任を持てるなら。1週間くらいじゃ何も変わらないと思うんですけど、数カ月の逃避行なら確実に何かが変わる。僕自身、そういう「環境を変えて知る」という経験がすごく大事だと感じています。

学生でも社会人でも、「何をしたらいいかわからない」って当然なんですよ。僕だってわかんないときのほうが多いです。でも、その気持ちを放置するんじゃなくて、ちゃんと“具体化”したほうがいい。例えばですが、自分が成功している未来を想像してみる。ロックスターになりたいなら、東京ドームに立っている自分を思い浮かべて、「そのときにギターを持っているのか」「英語をしゃべっているのか」みたいな細部まで想像する。そうすると、自分に必要なアクションが見えてくるんですよね。いきなり思い描いたゴールには立てないけど、思い描いた自分がギターを持っているなら練習しなきゃいけないし、海外でライブしたいなら英語は必要だし。大きな目標ほど道筋は見えにくいけど、分解していくと急にリアリティが出てきます。

僕自身もそうやって生きてきました。学生の頃の夢は「レコード会社でA&Rをやって、自分の名前をCDに載せること」だったんですけど、BiSとの活動やWACKの立ち上げで、思ったより早くその夢は叶ってしまった。そこから「武道館をやるには?」「どう目立つか?」とまた具体的に考えていくうちに、次の目標が生まれていった。結局、夢ってそういう積み重ねなんです。

夢や目標を実現するために、もう1つ大事なのは「毎日自分の目標に向かって具体的に何かをする」ことだと思います。完璧じゃなくていいし、1分でもいいから毎日“必ずやる”。忙しくても、デート中でも、トイレの中でもいいんですよ。とにかくゼロの日を作らない。それだけで、ルーティンとして体に染み付いてくる。日本人って完璧主義だから、できなかった日の取り返しをしようとしたりして、余計に続かなくなったりするんですけど、それは逆効果だと思います。やれるときはしっかりやる、無理なときは最低限やる。僕も365日のうち3日くらいはできてないと思いますが、英語に関してはそういうスタンスで勉強しています。つまり365日継続できないからダメなんじゃなくて、「どうしてもダメだった日以外は全部やってる」ということです。それくらいのゆるい継続が、結果的には大きな差になると思っています。

アイドルになりたい人でも、僕と同じくらいの年齢で行き詰まってる人でも、結局は全部同じで。大きな夢を具現化するために、毎日1つは小さなアクションを起こす。その積み重ねが、未来を変えると思うんです。最初の一歩が一番重い。でも、その一歩さえ踏めれば、あとはだんだん景色が開けていく。僕だっていまだに偉そうなこと言えるほど立派ではないですけど、これだけは間違いないと思っています。だから、もし僕と一緒にやりたいことがある人がいたなら、やりましょう。そして一緒に具体的な目標を立てて一歩ずつ進みましょう。僕もそういう人を応援したいし、一緒に仕事ができる日を楽しみにしています。

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