今、最もホットなラッパーが集まる東京の現場と言えば、2011年に東京・恵比寿にオープンし、今年15周年を迎えるEBISU BATICA。2018年4月には釈迦坊主の伝説的なイベント「TOKIO SHAMAN」が初開催された日本語ラップの最前線であり、毎月さまざまなパーティが開催されています。この連載では、そんなBATICAのブッキングを担当しているスタッフの一瀬公佑さんに特に印象に残ったパーティやラッパーを毎月紹介していただきます。
取材・文 / 三浦良純
本物のSonsi、BATICA初ライブ
1月は「RAPSTAR 2025」でファイナリストに選ばれ、時の人となったSonsiが出演するイベントがありましたね。これは去年Worldwide SkippaやPAX0を呼んでいた子の持ち込み企画で。僕も年末にSonsiにアプローチしてて、そのときは予定が合わなかったんで、ブッキング担当者としては正直ちょっと悔しさもあったんですけど(笑)、このタイミングでBATICAに出てもらえてよかったです。
「ラップスタア」後にSonsiが関東でライブするのはたぶんこれが初めてで。BATICAの前に柏でライブをする予定だったんですけど、メンタル的な問題で出演キャンセルとなっていたんですよね。でも、この日はちゃんと来て前向きなライブをしてくれて、お客さんも大合唱で、ものすごい盛り上がりでした。「SonsiがEPをリリースする」というフェイクニュースが話題になっていたタイミングでもあったんですけど、EPではなくアルバムをKoshyと制作中という発表もありましたね。
Sonsiのお客さんがたくさん集まる中で、その前にはMADEINBEN10、Gam Ballが出演して、いい流れのパーティでした。この2人も本当に僕の好きなラインなので……その点でもやっぱりジェラシーを感じるパーティでしたね(笑)。
熱気あふれるLillieのリリパ
愛知の若手ラッパーagulの1stアルバム「Forecast」のリリパもありましたし、1月は内容的にいいイベントが多いんですけど、中でも印象に残っているのが1月30日です。Lillieのリリパと「BRIDGETHEGAP」というナイトイベントがあって、スタッフ的にはしんどいくらい盛り上がりました(笑)。
Lillieは、東京を拠点とするラッパーSarenとSecurity Blanketというクルーを組んでいた岡山出身のラッパーです。2022年に出したデビュー曲「SpeeD」が、今より尖った、芸術的なニュアンスで注目を浴びたんですけど、そこから一旦、地元に帰ってしまいました。
しばらくブランクがあったんですが、東京に戻ってきて2024年10月にリリースした1stアルバム「WSYG」が話題になったんです。その後はまたしばらくリリースがなかったものの、去年は「RAPSTAR 2025」の応募動画も話題になり、今年1月に2ndアルバム「Bet my Boots」がリリースされました。今はこのアルバムがすごくいろんな人に聴かれてるんですよ。
リリパには「WSYG」から聴いている子たちもたくさん来ていて、フロアの熱量がすごくよくて……これから何か始まりそうだなという予感がしました。Lillieは“男が好きになる男”って感じのカッコよさがあるんですよね。リリックがフレックスではなくて、等身大の自分や東京という街に向き合う内容で、自分たちのノリというかラフな部分もちゃんと出している。シンプルにカッコいいものを作っているから、今の子たちにすごく響くんじゃないかなと思います。
広島のニューカマーYoung 888
このリリパには、Young 888という広島のラッパーも出ていました。16歳からラップを始めた子で今は20歳くらい。数年前からSoundCloudに曲を上げていて、広島ではライブをやりまくってるから、みんなが歌うぐらいのアンセムを持ってるんですけど、サブスクで配信し出したのは去年なので、東京の知名度はまだないと思います。
ヤンパチは、僕も広島出身ということもあって、去年の9月にBATICAに呼んだら、すごくカマしてくれたんですよね。それで今回、Lillieのリリパに誰を呼ぶかという話になったときに、ヤンパチを含む10組くらい候補をLillieに送ったんです。そしたら「Young 888がめっちゃカッコいいから呼びたい」って返事があって、出てもらうことになりました。
もともとLillieとつながりがあったわけではなく、Lillieのファンは知らなかった人が多かったはずです。出順も最初でお客さんも15人ぐらいしかいなかったけど、やっぱりラップがうまいし、お客さんを置いてかないライブをしていて、本当に盛り上げてくれましたね。その日に客演で出ていた関谷拳四郎とかいろんなラッパーも「こいつヤバい。めっちゃ元気出た」ってニコニコしてて。Lillieはカマすだろうとみんな予想してたし、もちろんカマしてたんですけど、ヤンパチは期待値を大きく超えたので印象に残りましたね。
SWEEら出演パーティが140人集客
Lillieのリリパのあとには、千葉のDJ・SOMAが主催する「BRIDGETHEGAP」が開催されました。もともとは千葉の熱帯夜ってハコでやってたイベントなんですけど、ちょっと規模を広げて都内でやりたいということで、4回目くらいからBATICAでやるようになったんです。今回はBANNY BUGS、Kouichi Arakawa、SWEEとかR&B寄りのメロウなラインナップで、お客さんはトータルで140人くらい来ましたね。
キャパ130人のBATICAで来場者が100人を超えるイベントは多くなく、まして140人を超えるのはアニバーサリー企画くらいで、本当にめったにないので驚きました。アーティストをしっかり観に来た人が多かったです。開場直後に入場して、2階がオープンするまで階段付近で待ってて、最初のDJから最前を陣取っている子たちもいて。ナイトでこの雰囲気のパーティはひさびさじゃないかな。
SWEEは2021年に活動を開始してからジワジワとリスナーを増やしてるシンガー / ラッパーで、イベントはちょうどIOを客演に迎えた「Ride Remix」が発表されたタイミングだったんです。これからIOと組んでしっかりやっていくのかな? 僕も気になってライブを観たんですけど、やっぱり上手だし、この規模ではもう観られないのかなと思うような雰囲気がありました。
それもあってイベントは総合的にすごく盛り上がったし、みんなお酒を飲むし、ライブが終わったらアーティストのファンの子は帰るんですけど、パーティ野郎がずっと残ってて。その後もお酒の注文は続くし、5時を過ぎてもDJはプレイしていて、1回僕が「そろそろ……」と止めようとしたんですけど、止まらなかったです。結局7時前くらいまでやっていて、スタッフ的には本当に大変だったけど、いいパーティでした。
ライブ中にタトゥーを入れ始めたSSP
その翌日のナイトには、ARuMの1stアルバム「Still ARuM」とSSPの2nd EP「SWAG」のダブルリリースパーティもありましたね。ARuMもSSPもたくさんファンがいるし、お祝いの雰囲気もあって、みんなお酒も飲んで、これもいいパーティでした。
SSPがライブ中に彫師をステージに上げてタトゥーを入れたのが話題になってましたけど、僕も事前に話を聞いてなくて「何してんだろう?」って(笑)。面白い人ですよね。でも、僕の印象では、すごく真面目というか硬派というか。ブランディング的にそう言っていいのかどうかわからないですけど、おちゃらけた人ではないと思ってるんですよ。
ARuMもしっかり盛り上がっていて。途中でケンカとまではいかないですけど、ハプニングでフロアが揉めかけたときに、ARuMは「誰のライブ観にきてんだよって」ってお客さんを盛り上げる形でそれを消化していたのが印象的でした。本当にライブをちゃんとやってきてる人にしかできない立ち回りでしたね。
Worldwide Skippaも実は出ていた
1月はWorldwide Skippaも出てたんですよ。14日に「SNK × mid points」というパーティがあって、フライヤーには載ってないんですけど、プロデューサーのkrynXがDJで出ることが前日くらいに決まったんです。「バックDJで行くんですけどDJ枠余ってないですか?」みたいな連絡があって、余ってたからお願いしたら「ショットライブでSkippaが出るんで」って言われて。
いや、さすがに名古屋から来ないだろと思ったら、当日本当にSkippaが現れて。3曲くらい歌ってました。平日だし、DJタイムはイベントの頭のほうだったので、お客さんも15人くらいしかいなかったし、SNSに動画とかも出回ってないと思うんですけど、めっちゃ盛り上がってましたね。BATICAにSkippaが初めて出たのは去年の夏くらいで、その頃にはもう話題でしたし、それからめちゃめちゃ売れたんで、こんなに少人数のフロアで観られるのは貴重だったと思います。
ちなみにこの「mid points」は、僕がアルバイトの頃から携わっているイベントです。当時は“アングラ“という言葉がまだ浸透してなかったんですけど、ハイパーポップのブームのあと、ジャンルがどんどん細分化していく中で、SoundCloudにめっちゃラップがうまい子たちが出てきたんですよね。そういう子たちを中心に集めようということで始めたイベントで、2024年5月開催の第1回にはSieroが出てます。Elleが僕をネームドロップ(「頭が上がらないっす一瀬さん / だからBaticaで寝る / バーカンに足は向けず」)してくれてる曲のタイトルの由来もたぶんこのイベントですね。
1月の「mid points」には、Elle、PAX0、Filix王、timmy dio、Aero S、ramtboyという以前からBATICAと交流のあるメンツに加えて、XiangXiang、hero、Ryzn2kという完全にはじめましての3人にも出てもらいました。XiangXiangは福岡のラッパーらしいですね。「ビジネス ー浮気した元カノdissー」とか「シンガポール」が面白かったので「どんな人なんだろう?」と思いながらDMして出てもらいました。
彼はDJ FLOWWとかkrynXと仲がよくて、お年玉でkrynXにビートをもらったとか言ってましたけど、当日はすごくピュアに楽しんでた印象です。この日Skippaと並んで一番くらいに盛り上がってたかもしれない。
Sad Kid Yazとのコラボ曲「あたイラ」をリリースしたheroもカッコよかったですし、アルバム「メルカゾール」が話題になっていたRyzn2kも、ライブはまだ慣れてないと思うんですけど、やっぱりラップがうまくて。これから伸びていきそうだと思いました。
体調不良のシラフが爆発
1月23日にシラフとかICHIROとか、僕が仲のいい人を呼んだ新年会的なイベントをしたんですけど、トリのシラフが胃腸炎か何かで4日ぐらい固形物を食べてないと言ってて、リハ中はこっちも心配になるくらい元気がなかったんですよね。その一方で、トリ前のICHIROはめっちゃお酒を飲んでいて。ICHIROは僕の元上司の時代からずっとBATICAに出てるから肩の力が抜けるのかなと思います。ライブでは、本人も覚えてないらしいんですけど、曲のイントロとかアウトロでずっとフリースタイルをして盛り上げてました。
そこからシラフの出番だったんですけど、体調不良で100%の状態じゃないし、この流れは難しいだろうなと思ってたら、アカペラのフリースタイルでライブを始めて。そこまでの流れを全部回収してから1曲目に入ってめちゃくちゃカマしてました。みんな言ってましたね、「体調不良なんてウソだろ」って。もともとの実力がしっかりあるから乗り越えられたんじゃないかなと思うけど、びっくりしました。
2月の注目パーティは?
THE SAMURAI SQUAD「"なんか、いい人生。Release Party"」
2月はもう日程が近いイベントになっちゃうんですけど、6日にTHE SAMURAI SQUADのアルバム「なんか、いい人生。」のリリパがあります。
サムスクはマンブルっぽいWhoopee Bomb、スピットするSeeker4L、低音の雀悟、メロディアスなMAX!!!とキャラクターがバラバラで、こんなにバランスいいクルーは最近あんまりいないんじゃないかと思います。メンバー同士で仲いいのもあって、シンプルに売れてほしいですね。アルバムは、jerkなどのビートがフレッシュな部分もありつつ、リリックやテーマの遊び方は等身大で。「マシマシ」という曲では「お世話なりましたバチカに 次は幕張に立ちたい」ってネームドロップもしてくれています。
リリパにはサムスクと並んで、さっき話に出たシラフとTOKYO世界、トラックメイカーのSKINNY YMTのクルーLegal nerd boyz、神奈川の7人組クルーAwesome Brothers、「ラップスタア」で注目を浴びたHIZAGUTYAを擁するKUROJIが出演します。みんなBATICAによく出ているクルーなんですけど、ちゃんと実力も知名度も上がってきていて、シンプルにいいイベントになると思います。
Clr.
Kiannaがブレイクするきっかけになったサイファー動画「UDG FRESHMAN CYPHER 2026 - JPN」の主催者で、今度SEEDAと新しい「CONCRETE GREEN」(※アンダーグラウンドで活動するラッパーたちをフックアップするコンピレーションアルバムシリーズ)を作ることでも話題のキュレーター・she's roughのイベント「Clr.」が2月11日にあります。she's roughは、昔からライブ動画とかVlogとかをTikTokやYouTubeに上げていた人で、最近はMVをYouTubeで公開しています。Roverというコレクティブに所属していて、Sieroの「ニコニコ」のMVにもアシスタントとしてクレジットされてますよね。
「Clr.」はそのshe's roughが最近気になってる人だったり、これから来るんじゃないかって人を集めているイベントなんです。今回はLisa lil vinci、Nagatomi、Slay4、Madaler kid、PAX0、DIEGODIABLO、Tak!e、tiea creator、Lieというラインナップなんですけど、例えばLisa lil vinciが好きでほかのラッパーがわからないという人でも全部楽しめるんじゃないかと思います。
店舗情報
EBISU BATICA
クラブとライブハウスの両方のよさを引き出し、違った感性と人をつむぐ新しいコミュニティ作りの場として、多種多様なシーンに対応するイベントスペース。1Fは40名前後、2Fは80前後のキャパシティで、ドラムセット、アンプ、プロジェクターなども備えている。DJやライブイベント、展示からウェディングパーティに加え、飲み会、結婚式の二次会、試聴会、プレス向け発表会、展示会、各種撮影など、さまざまな形態での利用が可能となっている。


