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ジャパニーズMCバトル:PAST<FUTURE hosted by KEN THE 390 EPISODE.3(後編) 韻にこだわり続ける“RHYME SAVER”:FORK

左からFORK、KEN THE 390。
5か月前2023年11月22日 10:03

ラッパーのKEN THE 390がホストとなり、MCバトルに縁の深いラッパーやアーティストと対談する本連載。EPISODE.3の前編では、ゲストのFORKに、徹底した押韻スタイルや伝説と化した「UMB 2016:ULTIMATE MC BATTLE」でのHIDADDY戦について話を聞いた。

後編では、バトルにほぼ出ていなかった期間のことや、“RHYME SAVER”の異名を持つモンスターとして活躍した「フリースタイルダンジョン」でのエピソードを紹介する。

取材・文 / 高木“JET”晋一郎 撮影 / 斎藤大嗣 ヘアメイク(KEN THE 390) / 佐藤和哉(amis)

般若からの電話で「フリースタイルダンジョン」に参戦

──FORKくんは、2006年の「ULTIMATE MC BATTLE」(UMB)での勝者インタビューで「来年出るかわからない」と話し、実際それ以降はバトルにはほぼ出ていないですね。

FORK 大きな大会だと韻踏合組合の「ENTER」とか、縁の深い友達のやってるイベントに出るくらいで。バトルに関してはずっとやめどきを探してたし、UMBで優勝したときは「よし、これで誰にも文句言われずにやめられる」と思いましたね。

KEN THE 390 音源作りとバトルを全力で両立させるのは負担が大きいですよね。

FORK それに、当時はフリースタイルやバトルに今ほどの可能性はなかったじゃん。「MCバトルで食える」なんて考えられないし、バトルに出ることと労力やプレッシャーの割が合わなかった。賞金の額も今とは全然比べ物にならないくらい少なかったし、バトルの日までの時間の過ごし方が嫌すぎて、これはやってられないな、と。やっぱりライブと音源が“音楽で食う”には一番近かったし、当然そこを目標にするから。

──大きなイベントでは2011年の「B-BOY PARK」(BBP)に出ていますね。

FORK あれはオファーがあったんですよね。あのときに初めてバトルでギャラをもらった。

KEN バトルに出てギャラをもらうなんて概念はなかったですもんね。

FORK 最初は二つ返事で断ったんですよ。

──ははは! “二つ返事”のあとに否定のワードがきた(笑)。

FORK 連絡くれたのはCRAZY-Aさんだったんですけど、なんの可能性も残さず食い気味に断って。そしたら「ダメ」って言われて(笑)。

KEN 拒否に拒否で返すのもすごいな(笑)。

FORK 「ギャラ10万払うから」ということで「じゃあ出ましょう」と。結果、決勝でPONEYに負けたけど、大きいバトルに出たのはそれぐらい。

──だから、MCバトルとは完全に距離を置いたと思っていたので、ICE BAHNとして「フリースタイルダンジョン」に3rd seasonRec3-2(2016年1月18日放送)から登場し、その後はFORKくんが隠れモンスターとして、そして2代目モンスターとして参戦したのには驚きました。

FORK その前に1回審査員として出てるけど(2nd Season Rec 1 / 2016年4月20日放送)、バトルする側として出たのは3rd Seasonが最初。初めはサイプレス上野から「ある人に電話番号を教えていいですか?」って連絡があって、それでOKしたら、般若さんから「隠れモンスターをやってほしい」と連絡があって。

KEN 本当にFORKくんと般若さんのバトルでの縁は深いですね。

FORK それで「般若さんからの連絡だし」と快諾して、番組制作側と折衝していく中で、まずはICE BAHNとしてチームで出ようという話になったんです。

ラスボスまでの最終関門みたいな存在に

KEN モンスターでいえばR-指定は、FORKくんがバトルに積極的じゃなかった時代にUMBを制していたラッパーでしたけど、例えばRみたいな次世代のバトルスターについてはどう思ってました?

FORK 世代全般的なことは言えないけど、Rに関しては俺らの世代がやってきたバトルの延長線上にありつつ、それを自分なりのフィルターを通してアウトプットすることで、着実に進化させた存在だなと。鎮座DOPENESSのような明らかに違う角度の存在というより、これまでのバトルの蓄積上にある、オーソドックスなスタイルを極めた存在だと思った。それは会場や現場じゃなくて、映像を通して彼のバトルを観てたから、余計にそう感じてたのかもしれない。

KEN 現場で観たら感触が違った?

FORK 生で戦ったら「強かった」。画面からはわかりにくかった負けん気がすごく伝わってきた。もともと持ってる天性のものに加えて、経験や練習を重ねる中でそれを補強してきた部分もかなりあると思うし、努力も含めた天才なんだなと感じたね。

──2018年3月から放送された「初代モンスター VS 2代目モンスター」(5th Season Rec3)でのFORK VS R-指定戦は、お互いのストロングポイントが強く出たバトルになったと同時に、「布団が吹っ飛んだ、これはダジャレだ」から始まる一連など、パンチラインも数多く生み出されました。

KEN あの試合も含めて、FORKくんがダンジョンで見せたバトルは、これまでのスタイルをもう一段バージョンアップさせたと思うんですが、本人的にそれは意識的なものだったんですか?

FORK 意識してた。オファーがあってから出演するまで3カ月ぐらいスパンがあったんだけど、その間にあったダンジョンの収録はすべて観に行ってたし、「あの中で自分が出て行って言えることはなんだろう」ということを考えて、そのうえでの答えが、ダンジョンでのバトルだったと思う。ここで俺が見せるべきやり方、言えること、俺だからこその説得力、俺なりの「ダンジョン」へのカウンターの打ち方……それを探しながら、番組の観覧をしてた。実際、チャレンジャーのテンションは高いし、熱いラップになりがちだから、自分のスタイルを対比させるためにも、より平熱で間をしっかり取った、言葉をしっかり落とすラップを心がけてた。そして収録では「自分の持っているスキルの中で、この場には何がハマるのか、どう見せるほうがいいのか」をずっと考えてて。

KEN めっちゃ分析的ですね。それを体現するのにはスキルも裏打ちされなきゃいけないから、普通の人は狙ってできることじゃない。

FORK 「ビビってた」のもあるかな。「俺はこれから何をやるのかな」ということをイメージする作業をしないと怖かったから。

KEN 「なんとかなるだろう」みたいな気持ちはなかった?

FORK ないね、まったく。そんな気持ちでバトルに出たことは一度もないし、「ダンジョン」は特にひさびさのバトルなうえにテレビ放送だから、とにかく不安だった。

KEN でもFORKくんは特に最初の何戦かは無敵だったし、ばっちり当時の「ダンジョン」にハマってましたよね。

FORK 最初が負けなしだったのは大きかったかもね。やっぱりボロは見せたくないし、いいとこを見せたいじゃん。初代のモンスターでいえばR-指定みたいな、ラスボスまでの最終関門みたいな存在になりたいと思っていたし。

バトルも1つの作品

──“韻のマシマシ”スタイルではなくなりましたね。

FORK ライムよりも「何を言うか」の方向に重きを置いたし、そこでちゃんと意味のあることを言って流れを生み出すことができれば、ケツで3文字ぐらい踏めばちゃんとそれがパンチラインになるから。だから「相手に何を言うか」が、今のバトルで自分に課してることかもしれない。ちゃんと言い返せば韻がそこまで固くなくても相手やリスナーに刺さるのが、今のバトルのあり方だと思うし。

KEN アンサーがどう決まるかのほうが大事になってますよね。

FORK それを自分に気付かせたのには、呂布カルマの存在もデカい。韻の数や固さじゃなくて、意味やアンサー能力で勝つというのは、やっぱり呂布カルマが切り開いた道だと思うし、それは自分も意識してる。俺自身、KENみたいに3連で畳みかけるとかってタイプでもないし。だから、自分のラップスタイルとの折り合いの部分でもあるよね。そうやって、いろんなアップデートとか変化は意識しつつも、「フリースタイルである」の根本は変わらないと思うし、それは自分の自信のある部分だから、そこは意識し続けないとなと。

KEN 「うまい言い回しを冷静に踏んで落とす」という今のFORKくんのバトルのスタイルは、音源に近付いていってると思うし、結果としてバトルと音源がつながってるのかなって。

FORK それは本当にある。「ダンジョン」で見つけた今のバトルスタイルは、自分でもリリックを書くときの俺に近付いているんですよね。だから「ダンジョン」で見つけたと思ったスタイルが、本来の俺のスタイルだったのかもと気付かされた部分もあって。KENとの「インファイト feat. ERONE, FORK(ICE BAHN), 裂固, Mr.Q」は、俺が2代目モンスターに抜擢されてすぐくらいに作った曲だったから、如実にそういう部分が出てるかもしれない。一方で、曲のリリックでは言えないことがバトルではスッと出てきたり、逆にバトルで言うようなことはリリックにはできないなと思うときもある。バトルは正直、「いやー、うっかり言っちゃったな、てへへ」で済ませられる部分もあるじゃん。

KEN よほど普段の発言とかけ離れてない限り、そうですね。

FORK でも音源は言い訳ができないし、「言葉に対する責任感」みたいな部分はちょっと違うかもしれない。もちろん、バトルだから無責任という意味ではないんだけど、極端に言えばバトルと音源は「そもそものジャンルとして違う部分がある」と思う。

──ただ、FORKくんが出るような大きなイベントになると、映像などアーカイブ化されることも今は普通だし、音源と同じように“残る”ことがスタンダードな形になっていますね。

FORK だからここ何年かは、「バトルも1つの作品」と思うようになってきてますね。そのアプローチの違いが、フリオチや言葉遊びはちゃんと落とし込みつつ、そこにいかに責任のある言葉、意味のある内容を込められるかという今のバトルに対する姿勢につながってるし、フリースタイルの形になってるんだと思う。

KEN FORKくんの今のバトルスタイルって、「その場の輝き」に加えて、「あとに残っても通用する言葉の耐久力」も意識してると思うんですよね。それはパンチラインの重さや、韻の質みたいなことから感じる。

FORK やっぱり「フリースタイルダンジョン」で、「バトルでの言葉に字幕が付いた」というのが大きい。字幕になったときを意識するし、うっかり変なことは言えないなと。でも、それで変にかっちりしすぎてもフリースタイルならではの面白さはなくなってしまうし、みんなが観たいものは即興ならではの、バトルならではの妙だというのはわかってるから、そのバランスは意識してた。

──そこでもバトルに対する意識が変わったと。

FORK 常に変わってますね。相手の言葉のケツから始めることが最近は多いのは、そのほうが字幕になったときにわかりやすかったり、今のバトルでは通じやすいという部分もある。そして、相手の言葉から始めつつ、その中で自分のフィールドに導けたときは勝ち筋に近付いてると思うし、逆に着地できなくてフワフワしたときは負けがち。だからバトルの中で「うわ、戻れた!」とか「つなげられたはずなのに……」とか、自分でも驚くことがありますね。

KEN ラッパー側の高揚感やひらめきが伝わって、オーディエンスが湧く部分はありますよね。

FORK 「これは今ひらめいたな!」というのは観てても戦っててもわかるし、それは絶対ぶち上がる。逆に「これは固めてきたな」も聞けばわかるし、それが臭ったら負けだよね。

KEN 「あ、これは仕込んでたな」と臭う瞬間があるんですよね(笑)。

FORK 切り返し方だけじゃなくて、フロウでも「あ、これは置きに行ったな」とわかることもあるし、今はみんなそれを嗅ぎつける。

KEN だからFORKくんみたいに固く踏みつつ名言を生み出す、みたいなことが即興でできるのは本当に今のバトルにフィットしてるんだろうなって。

FORK 名言……自分でそうやって言い出したらヤバいから反応しづらいけど(笑)。

KEN でもFORKくんは名言を求められるところありません?

FORK よく言われるんだけど、そっちに行きすぎるとヤバいから、絶対ふざける部分は入れようと思ってる。「名言を残す」がテーマになったら絶対ケガするから。だから、もう「名言集」みたいな本は絶対読まないようにしてる。絶対影響を受けちゃうし、それがバレたら全部終わる(笑)。

KEN バレたらキツい(笑)。

FORK だからメッセージのような部分は自分の中から見つけないといけないのかなって。

KEN でも、それはちゃんとラップとしてのパンチラインだから意味があると思うんですよね。例えば「ダンジョン」でのNAIKA MC戦(3rd season Rec 5-1)での「お前のスタイルが王道になっちまうんだったら / 今後バトルの熱は相当冷める / それが正義だって言うHIP HOPシーンなら / 俺は抜いた刀をそうっと収めるよ」。

FORK あのときは「じゅう~」(字幕では「お前じゃなくてハンバーグが食いたいな焼いて / じゅう~」)みたいなことをNAIKAが言って、それに会場が沸いたから「なんだよ、冷めるな」と思って、それであの切り返しが生まれたんだよね。

KEN FORKくんのマインドから出てきたと。本当にありえないクオリティの名言であり、名パンチラインだと思うんですよね。

FORK もちろん自分の中にストックされてたライミングだけど、このバトルであの言葉を言おう、あの韻につなげようとは思って出てはないよね。

──あれはNAIKA MCというFORKくんとはまったく対極的なラッパーだったからこそのスタイルウォーズだったし、あの内容に意味がしっかり生まれたと思います。

FORK あれとSAM戦の「いろんな調べてきた固有名詞出して / 韻踏まれても全員こういう目して見てると思うよ」は自分でも手応えがある。

KEN 確かに、あれも「まだこんな韻が日本語には残ってるんだ」と思いましたね。

FORK SAMが出した「ポーカーフェイス」という言葉に引っ張られたのと、「チェダー ボム」を俺が「ジェダイ」と聞き間違えたことから始まってるから、実は切り返しとしてはミスってるんだよね。でも、それがフリになって、自分でも笑うぐらいいい着地になったので、それがフリースタイルの面白さだよね。

図抜けたやつが出てきてもおかしくない

──最後に、今後のMCバトルはどうなっていくと思いますか?

FORK 巨大化したことで、言い方は難しいけれどもヒップホップやB-BOYというアティチュードを持たない人も参加するようになったと思うし、運営する側はそれをどう舵取りするかを考える必要があるのかなって。大きくなったことでネガティブな部分も増えてると思うけど、それをポジティブにひっくり返すことも可能だと思うんですよね。それに、ネガティブな意見が生まれるのは、ポジティブなイベントや、「いいバトルが観たい」という気持ちがあるからだと思うし。

KEN 無関心だったら、ネガティブな意見すら出ないですからね。

FORK そう。バトルを好きな人が増えたからこそだと思うし、いい方向に持っていくチャンスでもあると思ってて。

KEN 「いいバトル」「いい方向」は大まかにいえば、アティチュードや誰が出るかといった「内容」と、小節なのか持ち時間なのかといった「構造」の2軸があると思うんですが、プレイヤーとして「構造」の部分ではどう思いますか?

FORK THE BRIDGE YOKOHAMAでやってるイベント「CLEAN UP」のエキシビションで、「8小節×2、4小節×2、2小節×4、アカペラ」と16小節がどんどん細かくなってくルールで晋平太とバトルしたことがあるんだけど、長くするんじゃなくて短くするのも面白いかなって。だからシステムとしてもいろんな方向性や可能性が残ってると思う。バトル全体のことで言えば、「バトルのプレイヤーとして世の中に知られる大スター」はまだ出てきてないと思うし、それが見たいな。これだけメンツが多くなれば、そこで図抜けたやつが出てきてもおかしくないし、それが今の希望ですね。

FORK(フォーク)

横浜を拠点に活動するラッパー。2001年にヒップホップクルー・ICE BAHNを結成し、同年の「B-BOY PARK」出場を皮切りに、多くのMCバトル大会に参加。ICE BAHNで出場した「3 ON 3 MC BATTLE」で優勝し、個人でも2006年の「ULTIMATE MC BATTLE」、2021年の「KING OF KINGS」で優勝を飾っている。2017年8月からテレビ朝日にて放送されたMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」には、2代目および3代目モンスターとしてレギュラー出演した。徹底した押韻スタイルでシーンに大きな影響を与えている。

Ice Bahn

KEN THE 390(ケンザサンキューマル)

ラッパー、音楽レーベル・DREAM BOY主宰。フリースタイルバトルで実績を重ねたのち、2006年、アルバム「プロローグ」にてデビュー。これまでに11枚のオリジナルアルバムを発表している。全国でのライブツアーから、タイ、ベトナム、ペルーなど、海外でのライブも精力的に行う。テレビ朝日で放送されたMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」に審査員として出演。その的確な審査コメントが話題を呼んだ。近年は、テレビ番組やCMなどのへ出演、さまざまなアーティストへの楽曲提供、舞台の音楽監督、映像作品でのラップ監修、ボーイズグループのプロデュースなど、活動の幅を広げている。2023年11月に新作EP「Unfiltered Red」を配信リリースした。

KEN THE 390 Official

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