YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週刊連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで3月15日から3月21日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、16位に去年12月から兵役に就いているV(BTS)の「FRI(END)S」が初登場した。全編英語のラブソングとなっており、Vの卓越した歌唱力を堪能できる。MVは2つの世界線が交錯する短編映画のような内容で、ラストシーンの展開については「これは夢オチなのか?」と考察で盛り上がっている。
40位には乃木坂46の「チャンスは平等」がランクインした。70~80年代のディスコソング風のサウンドと、その時期に人気を博したテレビ番組「ソウル・トレイン」をテーマにしたMVが見事にハマっている。この曲は5月に卒業コンサートを控えている山下美月のラストシングルで、今回初めて3期生メンバー・11人全員が選抜入りを果たした。3期生が横並びで椅子に座っている2分37秒のシーンで、1人分の席が空いているのは、2021年に卒業をした大園桃子の存在を表しているのだろう。
46位には千葉雄喜, Young Coco & Jin Doggの「チーム友達 Remix」が登場。2022年に引退したKOHHが突如本名の千葉雄喜としてリリースした「チーム友達」を、関西の盟友2人を迎えて制作したリミックスバージョン。MVは大阪にあるチング屋という韓国料理店(チングは友達を意味する韓国語)の前で撮影されており、YouTubeのコメント欄には「ほかの地域のパターンも作ってほしい」という声が多く寄せられている。
そのほか、2月に解散したBAD HOPが3月22日に“最終作”と銘打ったアルバム「BAD HOP(THE FINAL Edition)」の配信に伴い、新曲MVの連続公開を開始した。この週のウィークリーミュージックビデオランキングには51位に「THE FLAME feat. YZERR & Tiji Jojo」、79位に「ONE PAN feat. Vingo, kZm, Benjazzy, Red Eye & Jin Dogg」が登場。ウィークリーランキングの集計期間を過ぎたあとも「Fam*ly feat. Tiji Jojo, DADA & LEX」「KAWASAKI SONG feat. DJ TY-KOH,Bark, T-Pablow, Benjazzy, JJJ, BIM & A-THUG」と次々にMVが公開されており、急上昇ランキングにBAD HOPの楽曲が多く並ぶ結果となった。ヒップホップの楽曲が目立った今週は、下記の3曲をピックアップ。
藤井風「満ちてゆく」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場3位
藤井風の「満ちてゆく」は、川村元気による恋愛小説を映画化した「四月になれば彼女は」の主題歌として書き下ろされた楽曲だ。
映画の公式サイトでは藤井と川村の対談が公開されているので、その内容を一部紹介したい。藤井曰く、この楽曲は神聖で崇高な場所で作りたいと思い、教会を借りて数時間で書き上げたそうだ。対談の中で個人的に興味深いと思ったのは、「咲いては枯れるとか、始まって終わるとか、そういうところを超えたところに行きたいし、探しつづけたいと思っているんです。その先を目指す、みたいなことをみんなにもシェアできれば、生きやすくなる人がいるのかなと」という藤井の言葉。これは「満ちてゆく」の歌詞を読み解く上で大事なポイントに思えた。
まず、1番の歌い出し「走り出した午後も 重ね合う日々も / 避けがたく全て終わりが来る」というフレーズは、これまでの日常が永遠ではないことを表しているのだろう。サビの「手を放す、軽くなる、満ちてゆく」については、大切な人とつないでいた手が離れるわけだから、普通に考えれば「軽くなる」という言葉は着地しないようにも思えるが、ネガティブな感情で愛を終わらせるのではなく、ポジティブな言葉に昇華することで、対談での藤井の言葉通り“その先を目指し”“生きやすく”なる道を照らしているように思う。
そして川村の提案によって生まれたというブリッジ部分の「開け放つ胸の光 闇を照らし道を示す / やがて生死を超えて繋がる / 共に手を放す、軽くなる、満ちてゆく」も重要だ。このフレーズがあることで、この曲がいわゆるラブソングではなく、死生観も描いた壮大な“生きとし生けるもののバラード”であるように感じられる。
MVは全編ドラマ仕立てで、藤井は青年と老人の2役に挑戦。表現力巧みな迫真の演技で、普段の自然体な彼とは違った一面を見せている。
to HEROes「Be on Your side」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場13位
今年の元日に発生した能登半島地震を受けて、「エンターテイメントと共に、明日への一歩を踏み出すための支援プロジェクト」として、TOBEが立ち上げた新プロジェクト「to HEROes Project -Act for HOPE-」。そのプロジェクトのテーマソングとして作られたのが、TOBEの所属アーティストである三宅健、北山宏光、Number_i、IMP.、大東立樹の13人がto HEROes名義で歌唱する「Be on Your side」だ。この曲は、3月14日から4日間にわたり東京ドームで開催されたTOBE所属の全アーティストによる初のコンサート「to HEROes ~TOBE 1st Super Live~」で初披露されており、そのときの映像がMVになっている。
作詞を平野紫耀、神宮寺勇太、岸優太の3人がNumber_i名義で手がけたこの曲には、「被災された方だけでなく、様々な悩みを抱えながら日々を過ごす、すべての方の気持ちに寄り添いたい」という意味が込められている。個人的には1曲を通して、傷付いた心に優しく毛布をかけるような温かさと、手を差し伸べて明るい場所へ連れ出すような希望が感じられた。
「Be on Your side」は3月18日に配信リリースされていて、5月1日にはCDも発売される予定。なお、CD・各音楽配信・YouTubeなどによって得られたこの曲の利益は、被災地の子供たちのために役立てる予定だという。
Travis Japan「T.G.I. Friday Night」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場48位
「T.G.I. Friday」は「Thank God It's Friday」の頭字語で、欧米では「TGIF」と記して「今日は金曜日で、神に感謝します」や「今日は金曜日でよかった!」を意味する。その曲名の通り、休日前の開放的な気持ちを表した元気がもらえる歌詞と、グロリア・ゲイナーやChicなどのきらびやかな70sディスコファンクを彷彿とさせるサウンドが魅力だ。振付は三浦大知、BLACKPINKをはじめ、国内外の人気アーティストの振付を手がけているダンスパフォーマンスグループの s**t kingzが担当した。
MVを観て思ったのは、彼らのダンスや歌唱力の高さは言うまでもないが、その世界観に「ハイスクール・ミュージカル」や「ラ・ラ・ランド」のようなミュージカル映画と通じるものがあって、映像全体に漂う幸福感が7人の雰囲気と見事にマッチしているということ。観ているだけで陽のパワーが得られる素晴らしいMVになっている。
なおTravis Japan のYouTube公式チャンネルでは、全国ツアー「Road to Authenticity」の2月21日の大阪城ホール公演でこの曲が初披露された際の映像が、パフォーマンスビデオとして公開されている。