3月27日に東京・東京国際フォーラム ホールAにて、武部聡志が音楽監督を務める「武部聡志プロデュース『ジブリをうたう』コンサート」が行われた。コンサートには昨年11月にリリースされたスタジオジブリ初のトリビュートアルバム「ジブリをうたう」に参加したアーティストを中心に全9組が出演。時代や国境を超えて愛されるスタジオジブリ作品の主題歌や劇中曲を入れ替わり立ち替わりパフォーマンスし、ときにはこの日限りのコラボレーションを繰り広げて集まった5000人の観客をめくるめく“ジブリワールド”へと誘った。
家入レオとWakanaによる「いつも何度でも」
「ジブリをうたう」はコロナ禍において、武部が「みんなが笑顔に、元気になることを音楽でできないか」という思いから、スタジオジブリの宮崎吾朗監督と鈴木敏夫プロデューサーに企画を持ちかけ制作したアルバム。ジャンルも世代も異なるアーティストが参加したバラエティに富んだ内容は、ジブリファンの大きな反響を呼んだ。
コンサート冒頭で武部は、「ジブリ愛あふれるアーティストと、ジブリ愛あふれるお客さんで作るコンサートです」「コンサートから帰るときに、あの映画を観返してみよう。あのアーティストの曲を聴いてみようというきっかけになったら……」と期待を口にする。観客の熱い視線がステージに注がれる中、トップバッターとして現れたのは家入レオ。彼女はスクリーンに浮かぶラピュタを背に、「天空の城ラピュタ」の主題歌「君をのせて」を主人公・パズーのようなまっすぐな声で歌い、コンサートの幕開けを壮大に飾った。続いてWakanaがステージに合流し、家入とWakanaによるデュエットによる「いつも何度でも」(「千と千尋の神隠し」主題歌)へ。向かい合わせになった2人は、ガットギターが奏でるハープのような音色に繊細な声を絡ませ、不可思議な世界へと観客を引き込んだ。続いて「天から降ってくるような神々しさのある声」と武部に評されたWakanaは「もののけ姫」(「もののけ姫」主題歌)の独唱で、豊潤で神秘的な歌声をホールいっぱいに響かせる。そしてWakanaが作り出した神聖な空気は、Little Glee Monsterが歌う「テルーの唄」(「ゲド戦記」挿入歌)でも引き継がれていく。椅子に深く腰をかけた観客たちは映画のワンシーンをそれぞれに思い浮かべながら、アーティストたちが歌うジブリ楽曲に耳を傾けた。
ロックの風を吹き込んだGLIM SPANKY
Little Glee Monsterによる「世界の約束」(「ハウルの動く城」主題歌)が残した穏やかな空気の中、武部の「大好きな2人組ユニット」という紹介でGLIM SPANKYがステージへ。目を引くレトロなファッションに身を包んだ2人は、「風立ちぬ」の主題歌として使用された「ひこうき雲」をユーミンへのリスペクトを込めながらカバー。松尾レミ(Vo)は少しくぐもったハスキーボイスで歌詞を噛み締めるように歌い、亀本寛貴(G)は切なく情感あふれる旋律を奏で、ノスタルジーを誘う。しかし一転して「Don't disturb me」(「アーヤと魔女」主題歌)が始まるとロックモードにスイッチ。2人は水を得た魚のようにステージを躍動して、オーディエンスの熱気を高めた。
飛び道具的なGLIM SPANKYのパフォーマンスと、「(トリビュートアルバムを聴いて)改めて武部聡志の力を思い知らされた」と語る宮崎吾朗監督によるVTRコメントを挟み、武部のピアノ演奏を中心とした「コクリコ坂から」メドレーのコーナーへ。映画のストーリーをなぞるように、「夜明け」「朝ごはんの歌」「初恋の頃」「さよならの夏」が手嶌葵の歌唱を交えて披露される。聴く者を夢見心地にさせる手嶌の繊細でたおやかなボーカル、武部が弾く情感あふれるピアノの旋律、そして手練れのバンドメンバーによるアンサンブルがえも言われぬサウンドを描き、ホールを穏やかな幸福感で包み込んだ。
青き衣をまといステージに降り立つ玉井詩織
観客のクラップに乗って、弾むような足取りで登場したのは、ティアドロップをあしらった赤地のワンピースに、ドット柄のパンツというファッションに身を包んだ木村カエラ。彼女はコケティッシュな魅力を放つ「ルージュの伝言」(「魔女の宅急便」主題歌)、伸びやかな歌声が映える「時には昔の話を」(「紅の豚」エンディングテーマ)を生き生きと披露して、Da-iCEの大野雄大と花村想太にバトンタッチした。口々に「緊張してます!」と話す2人だったが、「いのちの名前」(「千と千尋の神隠し」テーマソング)で、オリジナルバージョンに引けを取らぬ透明感のあるハイトーンボイスをたっぷりと聴かせた。ここでLittle Glee Monsterが再登場し、ゴスペル調のアレンジを施した「カントリー・ロード」(「耳をすませば」挿入歌 / エンディング主題歌)を披露。高い歌唱力を誇る2組のコラボは観客を圧倒し、さわやかな余韻をホール内に残した。
「今日は(メンバーカラーの)黄色を封印して……」と、目が覚めるような鮮やかな空色のジャケットとドレスで現れたのは玉井詩織(ももいろクローバーZ)。「その者、青き衣をまといて金色の野に降り立つべし」という「風の谷のナウシカ」に登場する台詞を体現した衣装に身を包んだ彼女は、「1人でこういったステージにお呼ばれするのは初めて」と柔らかな笑みを浮かべる。そして、映画のテーマ曲である「風の谷のナウシカ」を、みずみずしくほのかにあどけなさを感じさせる声でパフォーマンス。現役アイドルらしい華やかなオーラを放ちながらも、シンガーとしての魅力を観客に印象付ける。玉井の出番はこれだけで終わらず、武部の呼び込みで同世代の家入と「ひとりぼっちはやめた」(「ホーホケキョ となりの山田くん」主題歌)でコラボ。初共演は思えないほど息ぴったりのデュエットを繰り広げた。
岸田繁と玉井詩織がポーニョ ポーニョ ポニョ
しかし予想外のコラボはこれだけにとどまらない。家入を送り出した武部が続いて呼び込んだのは岸田繁(くるり)。岸田と玉井が同じステージに立つという、かつてない景色に客席がざわめく中、武部は「これはなかなか異色のコラボだと思いますよ」と満足げに笑う。これを受けて岸田が「好きだけど、この曲を人前で歌うとは思わなかった」と口にすると、玉井もそれに同意する。「今日、歴史が変わります」。そんな含みを持たせた岸田の言葉から始まったのは「崖の上のポニョ」(映画「崖の上のポニョ」主題歌)だ。まさかの1曲に客席は再びざわめくが、そもそもオリジナルバージョンの「崖の上のポニョ」は藤岡藤巻と大橋のぞみという、親子ほど歳の離れた2組による1曲。世代も性別の違う岸田と玉井だからこそ生み出せる味わい深いハーモニーが、観客を童心に帰らせる。さらに家入、Little Glee Monster、Wakanaが合流して「さんぽ」(「となりのトトロ」のオープニングテーマ)が始まると、会場のアットホームなムードはますます強まっていった。
女性アーティストたちとのにぎやかなセッションを終え、武部と岸田はジブリ作品への頻出度が高い“メガネのおじさん”を引き合いに和やかにトークを展開。さらに岸田は、武部からトリビュートアルバムへの参加オファーがあった際に「僕、『トトロ』が歌いたいです」と自己申告したことを明かしてから、満面の笑みを浮かべ「となりのトトロ」(「となりのトトロ」エンディングテーマ)を滋味のある声で朗唱した。そして、アンコールでは出演者全員が集い、武部いわく「いつの時代も響くメッセージが込められている」という「やさしさに包まれたなら」(「魔女の宅急便」主題歌)をそれぞれの個性を放ちながら歌い上げる。1974年に荒井由美が発表した1曲が50年の時を経て、ステージ上のアーティストと5000人のジブリファンたちの心をつなぎ、客席が明るくなったあとも、ホール内にはジブリ作品を観終わったときのような温かな空気がいつまでも漂っていた。
なおこの日のコンサートの模様は、5月18日16:00よりU-NEXTにて配信される。6月2日まで見逃し配信も行われる。
セットリスト
「武部聡志プロデュース『ジブリをうたう』コンサート」2024年3月27日 東京国際フォーラム ホールA
01. 君をのせて / 家入レオ
02. いつも何度でも / 家入レオ、Wakana
03. もののけ姫 / Wakana
04. テルーの唄 / Little Glee Monster
05. 世界の約束 / Little Glee Monster
06. ひこうき雲 / GLIM SPANKY
07. Don't disturb me / GLIM SPANKY
08. 「コクリコ坂から」メドレー(夜明け~朝ごはんの歌~初恋の頃~さよならの夏) / 武部聡志、手嶌葵
09. ルージュの伝言 / 木村カエラ
10. 時には昔の話を / 木村カエラ
11. いのちの名前 / 大野雄大(Da-iCE)、花村想太(Da-iCE)
12. カントリー・ロード / 大野雄大(Da-iCE)、花村想太(Da-iCE)、Little Glee Monster
13. 風の谷のナウシカ / 玉井詩織(ももいろクローバーZ)
14. ひとりぼっちはやめた / 玉井詩織(ももいろクローバーZ)、家入レオ
15. 崖の上のポニョ / 岸田繁(くるり)、玉井詩織(ももいろクローバーZ)
16. さんぽ / 岸田繁(くるり)、玉井詩織(ももいろクローバーZ)、Little Glee Monster、家入レオ、Wakana
17. となりのトトロ / 岸田繁(くるり)
<アンコール>
18. やさしさに包まれたなら / 全員