今年で75回目を迎える大晦日の大型生特番「NHK紅白歌合戦」。この番組は毎回その年に活躍した豪華な顔ぶれが出場者としてラインナップされることもあって、「紅白出場」を目標に掲げて活動するアーティストも多く、年末が近付くたびに「誰が出場するのか?」という話題に人々の関心が寄せられる。
この記事では、タイプの異なる4人のライター / ブロガーに、今年の紅白の出場者予想を依頼。「初登場アーティストのうち3組」「特別企画」「紅組白組それぞれのトリ」という3つのトピックについて考えてもらった。これらの意見を参考にしながら、あなたも自分なりの出場者予想をしてみては?
構成 / 橋本尚平
※寄稿者を50音順に掲載
Kei(音楽チャートアナライザー)の予想は……
初出場のうち3組
- Creepy Nuts
- Da-iCE
- ヨルシカ
特別企画
- 復活ステージ(嵐、西野カナ、X JAPAN等)
トリ
- (希望を込めて)竹内まりや&山下達郎
紅白初出場の選考基準には、複合指標で構成されサブスク人気が大きく反映されるBillboard JAPANのソングチャートが大きな役割を果たします。「Bling-Bang-Bang-Born」が年間首位確実、また海外でもヒットしたCreepy Nutsには、昨年におけるYOASOBI「アイドル」級のステージが期待できます。
アイドル / ダンスボーカルグループでは、サブスクやSNSで「I wonder」がヒットしたDa-iCEが悲願の初出場を果たすでしょう。またNHK発のアニメ「チ。 ―地球の運動についてー」でエンディング曲を担当するヨルシカが出場すれば、ネット主体に話題となるはずです。紅白ではNHK関連曲が披露されやすい傾向にあります。
NHKはSTARTO ENTERTAINMENT所属タレントの起用再開を発表しましたが、10月20日放送の「NHKスペシャル ジャニー喜多川が築いた“アイドル帝国”の実像に迫る」を踏まえるに出場枠は減少すると予想します(音楽チャートを見れば減少は自然なことと考えます)。出場するならばフィジカルシングルがミリオンを達成したSnow Man、そして「ファタール」がサブスクでヒットした中島健人さんとキタニタツヤさんによるGEMNが有力。また次作の朝ドラ「あんぱん」に二宮和也さんが出演することから、2020年大晦日に活動休止した嵐がデビュー25周年を機に復活するかもしれません。ほかにも、今年紅白で“復活”する歌手は多いでしょう。西野カナさんや、常連となったYOSHIKIさんが今年はX JAPANとして出場するかにも注目しています。
(なお、紅白がSTARTO ENTERTAINMENT所属歌手を起用する / しない、そのどちらを選んでもNHKは批判を免れないでしょう。起用再開の基準を予め提示すべきだったと考えますし、局側がきちんと自省しているか疑問だというのが厳しくも私見です。NHKには責任ある態度を願います)
周年記念、年末年始リリース、NHK特別番組出演といった要素が紅白出場につながりやすいことから、オリジナルアルバムが発売予定のサザンオールスターズ、デビュー45周年の竹内まりやさんが出場するかもしれません。ならば、まりやさんや桑田さん夫妻がコーラスに参加した山下達郎さんによる「蒼氓」が披露されることは、紅白テーマ設定の背景にある“おおくの悲しみ”を癒やし、戦いの終結を祈る意味でもふさわしいといえます。
無論、山下達郎さんの出場確率は極めて低いとして、竹内まりやさんのバックバンドを務めているならば可能性はゼロではないはずです。ただし紅白がネットとの親和性を高めている現状において、少なくとも披露曲がサブスクで解禁されていることが出場条件ではないかと感じています。
Kei
青森県津軽地方在住の音楽チャートアナライザー。ブログ「イマオト -今の音楽を追うブログ-」を毎日、ポッドキャスト番組「Billboard Top Hits」を毎週更新。これまでに「Impress Watch」「TOKION」「uDiscovermusic日本版」「NumberWeb」などへ寄稿している。
柴那典(音楽ジャーナリスト)の予想は……
初出場のうち3組
- Creepy Nuts
- Number_i
- FRUITS ZIPPER
特別企画
- 米津玄師「さよーならまたいつか!」+「虎に翼」スペシャル
トリ
- 紅組:YOASOBI
- 白組:Official髭男dism
NHKが選考の基準としているのは「今年の活躍」「世論の支持」「番組の企画・演出」という3点。中でも「今年の活躍」を考えるならば、初出場が最も確実なのは「Bling-Bang-Bang-Born」が今年を代表するヒット曲になったCreepy Nutsなのではないかと思います。先日に放送されたNHKの特番「Venue101 Presents Creepy Nuts THE LIVE」でも披露された新曲「オトノケ」もスマッシュヒット中。一昨年のVaundy、昨年のMrs.GREEN APPLEに続いて紅白への初出場から国民的アーティストへとステップアップしていく予感がします。
Number_iも有力候補でしょう。今年1月に「GOAT」でデビューしてから話題性は拡大の一途をたどり、Billboard JAPANのアーティストチャートでも長期にわたってトップ10にランクイン。男性ダンス&ボーカルグループの勢力図が大きく変わってきている今の音楽シーンの象徴になりそうな気がします。おそらく披露する曲は「INZM」になるのでは。
紅組はFRUITS ZIPPERの初出場が濃厚なのではと予想します。TikTokで9億回再生された代表曲「わたしの一番かわいいところ」は今年9月にBillboard JAPANのTop User Generated Songsチャートでトップ5に入るなど、リリースから2年経った今もバイラルヒットが継続中。テレビ番組などの出演も増え認知度も広まってきているタイミングでの出場で女性アイドルグループの世代交代を印象付けることになるのではないでしょうか。
特別企画については、予想というより期待の気持ちで選びました。今年は朝ドラ「虎に翼」が大きな話題を巻き起こした1年でした。主演の伊藤沙莉が紅白で司会を務めるということもあり、米津玄師「さよーならまたいつか!」の初歌唱は多くの視聴者が待ち望んでいるのではないかと思います。
トリについてはここ数年ずっと白組は福山雅治、紅組はMISIAで続いてきているけれど、そろそろ変化があってもよいのではないかと思います。国内だけでなくアジアなど海外各国にも日本の音楽のリスナーが増え、音楽シーンのグローバル化が進んでいる昨今。ここ数年のJ-POPのシーンを牽引している2組がトリを務めることで番組全体のトーンを刷新していくことに期待したいと思います。
柴那典
音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立。音楽やビジネスを中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。著書に「平成のヒット曲」「初音ミクはなぜ世界を変えたのか?」「ヒットの崩壊」、共著に「渋谷音楽図鑑」「ボカロソングガイド名曲100選」がある。
てれびのスキマ(ライター)の予想は……
初出場のうち3組
- Creepy Nuts
- こっちのけんと
- フジファブリック
特別企画
- アニメソング追悼メドレー
トリ
- 紅組:星野源
- 白組:あいみょん
昨年に続き、音楽に詳しくない僕がこの企画に参加していいのかと思いましたが、今年もテレビからよく聞こえてきたなあという観点から考えてみました。
初出場の大本命はCreepy Nutsだというのは衆目が一致するところではないでしょうか。ヒップホップ系のアーティストにはハードル高めのイメージのある紅白ですが、世界的にもヒットし、今年最大の話題作ともいえる「Bling-Bang-Bang-Born」がある彼らを呼ばない手はないはずです。10月5日には「Venue101 Presents Creepy Nuts THE LIVE」と題されたNHKの音楽番組「Venue101」のスピンオフ特番に出演。もはや、障害は何もありません。
「はいよろこんで」がヒットしたこっちのけんとさんも観てみたい。RADWIMPSのバックコーラスとして、実は紅白に参加したことがあるというのも物語性があっていいと思います。「くじら」がフジテレビのパラリンピックテーマ曲になったので2度目の出場も不思議ではない菅田将暉さんとの兄弟リレーがもし実現すれば話題性も抜群です。
現在の朝ドラ「おむすび」の主題歌「イルミネーション」を歌うB'zの待望の初出場も有力だと思いますが、希望を込めて最後に挙げたいのがフジファブリック。来年2月をもって活動休止となることが発表されましたが、最後に紅白のステージにも立って「若者のすべて」を歌う姿が観たい。
今年はマンガ家の鳥山明さんや声優のTARAKOさん、大山のぶ代さん……と、マンガ・アニメに関係する巨星たちの訃報が相次いだ年でもありました。アニメソングメドレーのような企画は何度かやられてきましたが、今年改めて「ドラゴンボール」「ちびまる子ちゃん」「ドラえもん」などの主題歌メドレーが歌われればまた感慨が違うのではないかと思います。個人的には「アララの呪文」を歌いに爆笑問題が“乱入”してほしい!
トリはそろそろ世代交代してほしいので紅組は昨年の予想同様、あいみょんさんを推したい。そして大トリには星野源さんを予想(というか希望)。出場すれば10回目の節目となり、機は熟した感があります。今年は新曲のリリースはありませんでしたが、逆にそれは、新曲にこだわらず、トリにふさわしい代表作を選曲しやすいということでもあります。ここ数年、別の場所から歌うことが続いていますが、NHKホールのステージでほかの出場者たちを背にしながら歌い、多幸感に包んで2024年を締めくくってほしいです。
てれびのスキマ
ライター。テレビっ子。戸部田誠名義で著書に「タモリ学」「1989年のテレビっ子」「全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方」「笑福亭鶴瓶論」「芸能界誕生」「史上最大の木曜日」などがある。最新刊は「フェイクドキュメンタリーの時代」。
西森路代(ライター)の予想は……
初出場のうち3組
- こっちのけんと
- Da-iCE
- XG
特別企画
- ダンスコラボ×TikTokでバズった曲コラボ
- 「虎に翼」コーナー
トリ
- 紅組:福山雅治
- 白組:MISIA
初登場予想の「こっちのけんと」に関しては、TikTokなどでバズった人が初出場するのは、去年のimaseに続いて恒例になるのではという理由からです。
Da-iCEは去年の「スターマイン」で初出演するのかと思いましたが、まだ出ていないことに驚き。今年の「I wonder」は誰が聴いてもさわやかな好感度の高い楽曲なので、紅白に初出場するには最適なように思えます。とはいえ、「Bling-Bang-Bang-Born」がTikTokで大バズリし、しかも「まだ紅白出たことかったの!?」という意味では、本当はCreepy Nutsの方が大本命でしょう。
今年はアジア圏の若者が、日本語の楽曲、日本人アーティストの楽曲でダンスをしている姿をTikTokなどの動画で見ることが、以前よりも多くなった1年だったと思います。もちろん、その始まりは韓国で人気となったimaseがきっかけだったと言えると思いますが、個人的にはMiyauchiの「Swag」のダンス動画を夏に圧倒的に見かけました(あまり一般的には話題にならなりませんでしたが)。また、NewJeansの日本デビュー曲「Supernatural」がリリースされたことも、日本語が含まれる楽曲で踊る動画をよく見かけるきっかけになったと考えられるでしょう。
XGの「WOKE UP」で踊る動画もよく見かけました。XGは韓国だけでなく、中国での人気も高く、日本でもこの夏、逆輸入的にテレビ番組に出演していました。まだ初出場には早いかもしれませんが、期待としてXGを挙げたいです。
事務所の垣根を超え、男子グループのアーティストがダンスコラボをするということは去年から盛んになり、去年の紅白でもYOASOBIの「アイドル」でコラボが見られました。今年はそこに、TikTokなどで話題となった人たちも合流したコラボステージなどがあれば、日本に留まらないダンスアイドルやアーティストの広がりが感じられるのではないかと思いました。
また、今年のNHKと言えばなんと言っても「虎に翼」。米津玄師さんと伊藤沙莉さんの対談番組も放送されましたが、今年は伊藤沙莉さんが紅白の司会をすることも発表されていますし、年末にも「虎に翼」ロスの人々(私も含みます)の気持ちを盛り上げてくれる企画があることを期待していますというか、あるでしょう!
トリについては、紅白はあまり変化がないように思っていたので、しばらくは福山雅治とMISIAという座組は、変わらないのではないでしょうか……。
西森路代
愛媛県生まれ。地元テレビ局、派遣社員、編集プロダクション勤務、ラジオディレクターを経てフリーライターに。主な仕事分野は、韓国映画、日本のテレビ・映画やお笑いについてのインタビュー、コラムや批評など。著書に「K-POPがアジアを制覇する」「韓国ノワール その激情と成熟」、共著に「『テレビは見ない』というけれど エンタメコンテンツをフェミニズム・ジェンダーから読む」などがある。