YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週イチ連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで4月18日から4月24日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、2位にKing Gnuの「TWILIGHT!!!」が登場した。今作は劇場版「名探偵コナン 隻眼の残像(せきがんのフラッシュバック)」の主題歌。曲中にはテレビアニメ版でお馴染みの扉の音が取り入れられており、X(Twitter)では配信リリース直後に「コナンの扉の音」がトレンド入りを果たした。
17位にはAぇ! Groupの「Destiny」がランクインした。メンバーの正門良規が主演を務めるテレビ朝日系オシドラサタデー「ムサシノ輪舞曲」の主題歌で、不器用で思い通りにいかない熱い恋心を表現した切ないラブソングに仕上がっている。
39位に登場したのはRADWIMPS「賜物」のリリックビデオ。NHK連続テレビ小説「あんぱん」の主題歌としてオンエア中のこの曲は、リズミカルに歌うパートや優しく繊細に歌うパートなど、1曲の中でいろんな表情を見せるのが印象的だ。
46位には氷川きよし with t.komuroの「Party of Monsters」がランクインした。テレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎 私の愛した歴代ゲゲゲ」のエンディングテーマで、プロデュースを務めたのは氷川がかねてから大ファンだったという小室哲哉。テクノ色の強いダンストラックや高速ラップなどからは、氷川の新境地が感じられる。
62位にはずっと真夜中でいいのに。の「微熱魔」が登場。こちらはテレビアニメ「阿波連さんははかれない season2」のオープニングテーマで、MV公開から2週間で300万回再生を達成し、破竹の勢いを見せている。
話題のアニメやドラマの主題歌が目立った今週は、下記3曲をピックアップする。
ジャクソン・ワン「GBAD(Number_i Remix)」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場20位
ジャクソン・ワンは昨年開催された「Coachella Valley Music and Arts Festival」の88rising Futuresステージで、Number_iのパフォーマンス中にサプライズで登場。彼らとともにNumber_iのデビュー曲「GOAT」を披露した。その後にアメリカのインタビュアー、ザック・サングのYouTubeチャンネル「Zach Sang Show」に出演したNumber_iは、ジャクソンとコラボした感想を聞かれ、メンバーの神宮寺勇太は「誰かとコラボすること自体が初めての経験で、ステージ上でパフォーマンスの刺激を受けた」と話した。平野紫耀も「1曲歌っただけなのに、僕らと友達になってくれた」とコメント。また岸優太曰く、ジャクソンが来日したときは4人で食事に行く約束をしたという。
ライブを通してNumber_iと意気投合したジャクソンは、3人を迎えて最新シングル「GBAD」のリミックスを制作。「GBAD(Number_i Remix)」として4月16日に全世界配信リリースした。
原曲である「GBAD」は今年発表予定のジャクソンのニューアルバム「Magic Man 2」からの先行シングルで、3月公開のMVは約1カ月で3160万再生を突破している。一方でNumber_iを迎えたリミックスは、オルタナティブなR&Bだったオリジナルバージョンに新たなアレンジとリリックが加わり、華々しく都会的なシティポップへと進化を遂げている。ちなみにタイトルの「GBAD」は、曲中で繰り返し歌われている「Just gotta be a dick sometimes(たまには嫌なやつにならなきゃな)」の「gotta be a dick」を略した言葉で、ジャクソンはこの曲で「自身の意志を守るために“悪者”になる覚悟」を歌っている。
そんな曲でNumber_iがラップしているリリックは、フジテレビのYouTubeチャンネル「めざましmedia」で公開された動画によると、各メンバーが自分のパートを自分で書いているのだという。岸がかつての自分たちの状況を振り返るかのようにラップする「あの時あの日の軽々しく笑ってる皆言う無理」というリリックは、世界的アーティストとのコラボを果たしたこの曲で聴くと一層感慨深いものがある。3人の個性が加わったことで、原曲がどのように変化したのかぜひチェックしていただきたい。
AKASAKI「徘徊」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場89位
深夜の繁華街はきらびやかに輝くネオン、お酒を飲んで楽しそうに話す人の声など、興奮と活気に包まれている。まるで大人だけが入場できる遊園地のようだ。昨年リリースされた「Bunny Girl」で一躍注目の的になったAKASAKIの新曲「徘徊」には、夜の街を楽しそうに徘徊する男女が描かれている。「目まぐるしくときめく ワンダーランド」「洒落た夜を置いてくの」「いかんせん 街の眼差し / 胸を打つたび 北風が舞うのよ」などの言葉を巧みに操って、好きな人と過ごす一夜の出来事を表現している。そんな大人な楽曲を書いているAKASAKIが、まだ18歳の大学1年生というのが驚きだ。
河島英五が名曲「酒と泪と男と女」を18歳で書いたように、AKASAKIも実年齢を飛び越え、豊かな想像力で物語を紡ぐことに長けている。メロディの構成力やサウンドメイクの緻密さもさることながら、日常を切り取るセンスが光っている。
今日だろう京太郎「なんか気まずくない?」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場92位
今日だろう京太郎は1997年生まれのお笑い芸人。もともと漫才コンビ・ソロデビュー'sとしてリズムネタを中心にライブ活動をしていたが、2022年にコンビを解散しピン芸人に転向した。
ピンになって音楽活動も本格的に開始したところ、それまでのリズムネタで培われてきたワードセンスが開花。昨年7月に1stシングル「へーそうなんだ」をリリースすると、歌詞に合わせてリズミカルに手を叩く「トントントンダンス」がTikTokを中心にブームとなった。
さらに話題はこの曲だけに留まらず、昨年10月にリリースされた「なんか気まずくない?」も大流行。「ネイル変えた?」と褒めたら「2ヶ月前にね」とバッサリ斬られ、「初めまして!」と意気揚々と挨拶すれば「この前会ったよ」と不穏な空気が流れるなど、この曲は誰もが経験したことのある「気まずい瞬間」がテーマになっている。
短いフレーズから繰り出されるリアルな描写の数々がリスナーの共感を得た結果、今年春頃から「なんか気まずくない?」というフレーズがネットミーム化。歌詞の一部を改変した“あるあるネタ”のショート動画が多く投稿されるようになり、さらに楽曲の知名度が高まった。
話題曲を立て続けに作り上げた今日だろう京太郎は、自身のオリジナル曲を作るだけでなく楽曲提供も開始。Vtuberユニット・荒川ゾンビDiaryが4月25日にリリースした「チャンネル登録しろ」の作詞作曲を担当している。芸人としてだけでなく、今後は音楽活動にもますます力を入れていくのかもしれない。
