YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週イチ連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで5月2日から5月8日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングには、12位にSixTONESの「BOYZ」が登場した。今作は6月4日にリリースされる15thシングルの表題曲であり、テレビアニメ「WIND BREAKER Season2」のオープニングテーマ。力強いサウンドと、自分を信じて突き進むことを表した歌詞が、SixTONESの男らしい雰囲気とマッチしている。
18位にはTOMORROW X TOGETHERの「Love Language」がランクインした。透明感と爽快感のある歌やサウンドが、スペインのきらびやかな映像と見事に調和している。
23位に登場したのはRIP SLYME「どON」だ。メジャーデビュー25周年記念日となる2026年3月22日までの約1年間、再び5人体制で活動することを発表した彼ら。約9年ぶりに5人がそろった、活動再開後初となる今作は、エッチな要素を含んだリリックの多彩な言葉遊びや、彼ららしい飄々とした雰囲気も感じられて「これぞRIP!」と言いたくなる。
32位には宝鐘マリンの「A Horny Money World ~伝説の夜~」がランクイン。冒頭から勢いがあるハイテンションなボーカルや、何度も聴きたくなるラテン風のビートなど、宝鐘マリン節が炸裂している。
多種多様な楽曲が並んだ今週は、下記の3曲をピックアップする。
Mrs. GREEN APPLE「天国」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場1位
Mrs. GREEN APPLEの大森元貴とtimeleszの菊池風磨がダブル主演を務めた映画「#真相をお話しします」の主題歌として書き下ろされた「天国」が、今週のランキングで初登場1位を獲得した。MVは5月2日の公開から2週間で600万回再生を達成し、破竹の勢いを見せている。
4月25日に東京・TOHOシネマズ日比谷にて行われた公開初日舞台挨拶で、大森は同曲について次のようにコメントした。
「天国を作るにあたって、お芝居とは全然違う角度でこの作品に向き合い直した。誰が悪いとかじゃなくて、誰もが悪いみたいな。そういう贖罪を抱えたどうしようもないお粗末な生き物をどうやって愛していけるかということに立ち返って、ミュージシャンとしてこの曲を書きました」
筆者が「天国」を初めて聴いたとき、2019年にリリースされた8thシングル「僕のこと」が脳裏に浮かんだ。塞ぎ込んでいた主人公が顔を上げて「ああ なんて素敵な日だ」と声高らに歌うこの曲は、聴いていて天に昇るような輝かしさがあふれており、壮大な人生讃歌に感じた。一方、「天国」は「もしも / 僕だけの世界ならば そう / 誰かを恨むことなんて / 知らないで済んだのに」「どうしても / 貴方が許せない」という“僕”が抱える恨み憎しみのフレーズで始まり、この世にいないであろう“君”に思いを馳せて、ラストは「あぁ 天使の笑い声で / 今日も生かされている / もうすぐ此方に来る頃ね / あの頃のままの君に / また出会えたとして / 今度はちゃんと手を握るからね」と天国へ飛び立った君に再会するような描写で幕を閉じる。生の世界にいる喜びを描いた「僕のこと」とは対照的に、「天国」は死あるいはこの世と違う世界へ行った“君”に会える喜びが描かれているように思う。
どちらにも共通しているのは、大森の映し出す死生観は神々しく佳麗であることだ。なぜ、彼の書く曲はこうもはかなく美しいのか? 大森元貴という人の源流に何があるのかを知りたくなる。
timelesz「ワンアンドオンリー」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場3位
timeleszが6月11日にリリースする「FAM」は、新体制になって初のアルバムだ。今作のコンセプトである“FAM=家族”を象徴するように、リード曲「ワンアンドオンリー」は今日までともに歩んできたファンやメンバーなど、timeleszに関わる大事な家族に向けた楽曲に感じる。特に印象に残ったのが「奇跡みたいな軌跡 / 今日まで紡いだこのヒストリー / ここから共に紡いでく新しいストーリー」のフレーズだ。「今日まで紡いだこのヒストリー」というのは新メンバーオーディション「timelesz project」だけではなく、前身グループ・Sexy Zoneのことも表しているように思う。
ここでMVについて触れていこう。部屋の間取りを立体化したセットの中で、机を囲んで座るメンバーの菊池風磨、佐藤勝利、松島聡。そこから1人また1人とメンバーが加わって、8人で輪になるという一連の場面はtimeleszの成り立ちを表現しているのだろう。では、なぜ部屋の間取りをモチーフにしているのだろうか? 3月13日発売の「TVガイドPERSON vol.151」で筆者が松島にインタビューをした際の彼の言葉が頭をよぎった。
「元々は“仲間探し”というキーワードを掲げてオーディションを進めていましたけど、最終的には“家族探し”になっていて。Sexy Zoneという家があり、その中の部屋数を増築していくことに近い。最初は5人の家族がいて、そこから2人が一人暮らしをして巣立っていった。そして僕らは2人の部屋を残したまま、部屋を増築させて、新しいメンバーとして家族を迎え入れることにした。ファンの方は複雑な気持ちがあると思うけど、僕らはこれまでの歴史や歩みを大事にした上で、迎え入れたい思いがある」
偶然の一致かもしれないが、あのときの松島の言葉が「ワンアンドオンリー」とつながっている気がした。
テセサクch「切り替えピース」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場15位
テセサクchは大阪府出身のテセとユーサクによる2人組のYouTuberで、高校生のあるあるネタを再現した動画を多く投稿している。彼らの名前が世間に広まるきっかけとなったのが、部活や勉強などをがんばる学生たちに「何事も切り替えが大事」というメッセージを込めて作ったというポーズ「切り替えピース」だ。「切り替え!」と声を上げて手を2回叩きピースサインをするという一連の行動が反響を呼び、TikTokやInstagramなどのショート動画プラットフォームでユーザーによって拡散された。
また、2024年のパリ五輪スケートボード女子ストリート競技で、吉沢恋選手、赤間凛音選手、中山楓奈選手が競技前に「切り替えピース」を行っていたことが報じられて話題になった。中山選手は2024年8月放送のフジテレビ系情報番組「めざまし8」にて、このことについて「『切り替えピース』が3人の中で流行っていて、(競技中に転倒してしまい)悪い流れがあったから、一旦切り替えようということで3人で集まって、あのポーズをしました」とコメントしている。さらに「切り替えピース」は、ベネッセコーポレーションの通信教育講座「進研ゼミ小学講座」の会員1万6000人が選んだ「小学生の流行語ランキング2024」で1位を獲得した。
そして今年4月30日、テセサクchはInstagramで、何度も挫折しそうになったこれまでの活動を振り返りながら「次なる挑戦」として重大発表を予告。この翌日に発表されたのが「切り替えピース」という楽曲のリリースである。長さ約50秒、歌詞は「切り替えピース」のみという構成だが、繰り返される歌詞とリズミカルなメロディが強烈に耳に残るこの曲。一緒に口ずさめば前向きな気持ちが湧いてくる。バックトラックで学校のチャイムのメロディをループしているのは、もしかしたら「授業はもう終わり。気持ちを切り替えて」と呼びかけているのかもしれない。シンプルながら、聴けば聴くほど味わい深い楽曲だ。
YouTubeで公開されたMVのコメント欄で、テセサクchは「応援歌を配信する事になりました‼ いつも応援してくださる皆さんのおかげです! 辛い時、うまくいかない時、切り替えピースを聞いてください」と説明。 そしてその言葉の通り、「1分間でこの満足感 すごすぎる。切り替えピースって人々を笑顔にする最高の言葉なんだな」「歌詞、ほぼ切り替えピースだけなのにすごい……こんなにも心に響くんだなぁ、、!」など、この曲を聴いて励まされている人の声が多く書き込まれている。
