神奈川・横浜赤レンガ倉庫 1号館ホールにて連日行われている音楽イベント「毎日が夏祭り 2025」の一環として、Mummy-D(RHYMESTER)とPES(RIP SLYME)によるツーマンライブが7月13日に行われた。
「Mummy-Dは僕の後輩なんだよね」
ヒップホップシーンだけではなく、日本の音楽史においても大きな影響を与える数々の重要作をリリースしてきたMummy-DとPES。その関係性も30年以上にわたる2人だが、ソロでの対バンはこの日が初めてということもあって、期待に胸を膨らませたファンが会場には多く詰めかけていた。
開演時間になると、7月11日にリリースされたばかりのPESとMummy-Dのタッグ作「イケイケ・ア・ゴーゴー」のトラックが流れ、手拍子に包まれながらステージにPESが登場。「ありがとうございます。楽しむ準備はできてますか? 行ってみよ!」と、アコースティックギターを手に「黄昏サラウンド」のリフを奏で、ライブをスタートさせた。2ndヴァースからはバックバンドも登場し、会場のクラップもより大きく響いていく。
「今日のライブもカオスです。そのパニック状態を楽しんでもらえれば」という観客への呼びかけのあとで、PESは「こんな夜」を披露。ディスコティックなビートに乗せて「こんな夜は踊っていたい」と歌い、観客の体が自然に揺れ動く。続くミッドテンポのファンクチューン「時々」では、グルーヴィな空気が会場を包み込んでいった。
「本日は僕とMummy-Dさんのツーマンライブということで、すごく楽しみです。でもソロキャリアでは、Mummy-Dは僕の後輩なんだよね。だから応援してあげよっかなーという気持ちです」と言って会場を笑わせるPES。そんな冗談が出るのも、Mummy-DとPESの親密さと信頼感ならではと言えるだろう。
RIP SLYMEとRHYMESTERをマッシュアップ
キーボードを弾きながら「天才」「Good Enough」へと展開し、そのマルチプレイヤーぶりを表現するPES。そしてキーボードでの弾き語りで「1000年」を披露し、メロウなサウンドに乗せて叙情的な言葉を紡いでいく。
「盛り上がれと言いながら、急にしっとりしたコーナーでした。でも後半はしっとりなんてさせねえぞ! 夏祭りなんで、夏推しでいきますよ!」と宣言したPESは、ギターを爪弾きながら「楽園ベイベー」へ。フックでは会場全体が一体となり、左右に手を振ってサマーソングを楽しむ。さらに、シティポップ的なサウンドがバンドの演奏によってカラフルに彩られる「シーサイドラバーズ」がスタートし、夏の空気感がより深く会場に広がっていった。
「最後も夏推しでいきます!」という呼びかけとともに、サーフロックなリフが流れてRIP SLYME「太陽とビキニ」に突入。そしてMummy-D、キーボードのタケウチカズタケ、DJのDJ大自然がステージに登場し、「太陽とビキニ」にRHYMESTERの「サマーアンセム」がマッシュアップされるというスペシャルな展開に。互いのサマーソングを織り込んだ、この日ならではの豪華コラボに、フロアからは大きな歓声が巻き起こった。
Mummy-Dが横山剣を歌う
Mummy-Dはまず、照明が落とされたステージで「O.G.」を披露。ここまでのパーティ感から一転した「ラップじゃないんだヒップホップだ」というシリアスなメッセージが観客に投げかけられ、それに応えるようにフックの合唱が広がっていく。そしてMummy-Dは、ラッパーとしての矜持をラップに刻み込む「マイク持つ者よ」、自身のラッパーとしてのキャリアを64小節に織り込んだ「Bars Of My Life」と続け、タフなメッセージとハードなラップで観客を圧倒していった。
「(PESのライブと)ラップの内容が違いすぎて、同じクルー出身とは思えないな(笑)。30年以上付き合いがあるけど、PESとのソロでの対バンは今日が初めて。PESが『ソロで対バンしませんか』と声をかけてくれた……んだけど、『Dのソロを応援してあげよっかなー』とは何事だ! 先輩だぞ俺は!」と言って会場の笑いを誘うMummy-D。「俺は横浜出身だから、赤レンガ倉庫には縁があるんだけど、こんなにキレイになる前は、入っちゃいけない場所だったんだよね。そういう思い出を歌います」と告げ、アカペラで「Dear My Home Ground」、そしてIsley Brothers「Between the Sheets」をバックトラックにして「肉体関係 Part 2」が披露された。この曲では横山剣(クレイジーケンバンド)のパートをMummy-Dが歌い、タケウチのキーボードと大自然のスクラッチが絡む、ライブならではの構成から生まれる、セクシーなメロウネスが会場を包んでいく。
「楽しんでますか? しかしPESのライブは1曲目から『黄昏サラウンド』かよ! 国民的ヒット曲を出すのはズルだよ! ……なので俺もみんなが待ってる曲をやります」と宣言したMummy-Dは、ここからRHYMESTERの「POP LIFE」「ONCE AGAIN」を連発。DJとMPC、キーボード、そして会場の手拍子に乗せて、Mummy-Dがラップを繰り出していく。
そしてMummy-Dは「ここからはお祭りシフトにしましょう」とオーディエンスに告げ、マボロシの「SLOW DOWN!」を披露。予想外の選曲にフロアから思わず大きな歓声が上がる。そして、アバンギャルドなジャズトラックにタイトなラップが絡む「Free」で疾走し、ステージは一旦幕を閉じた。
なぜかリコーダーを吹き、SUのパートをカバー
アンコールでは、再びPESとMummy-Dが2人で登場。Mummy-Dが「これをやらなかったら嘘だからね」と言い、PES & Mummy-D名義の新曲「イケイケ・ア・ゴーゴー」をライブ初披露する。公演の前々日にリリースされたばかりのこの曲は、ベテラン同士がスキルを尽くしてふざけ合う“大人のパーティソング”。万雷のクラップと「ゴーゴー!」「ホエホエ!」というコール&レスポンスが響き、会場内は陽気な雰囲気で満たされた。しかし曲が終わってからも「もう1回!」というコールが起き、この曲を2連続でパフォーマンスすることに。まさかの展開にMummy-DもPESも爆笑しながら2回目の「イケイケ・ア・ゴーゴー」がスタートした。
そして最後にバンド隊が再登場。「普段できないことをやりましょう」という呼びかけから、PESが宇多丸パートをカバーするという特別な構成でRHYMESTER「B-BOYイズム」が披露された。さらにPESがキーボードを弾き、Mummy-Dはなぜかリコーダーを吹くという形でRIP SLYME「熱帯夜」へ。Mummy-DがSUのパートをカバーするというレアな展開に、場内の熱気はますます上昇した。
PESの「またやりましょ」という言葉に、Mummy-Dは「それまでにリコーダーの腕を上げときます」と返し、「そこじゃないんだよなー」と笑うPES。日本語ラップを進化させてきた2人が、和気あいあいとしたハッピーな空気を醸し出し、そのうえで改めて「音楽の魅力」を提示したツーマンライブは、こうして幕を閉じた。
セットリスト
Mummy-D×PES「毎日が夏祭り2025」2025年7月13日 横浜赤レンガ倉庫 1号館ホール
PES
01. 黄昏サラウンド
02. こんな夜
03. 時々
04. 天才
05. Good Enough
06. 1000年
07. 楽園ベイベー
08. シーサイドラバーズ
09. 太陽とビキニ ~ サマーアンセム
Mummy-D
01. O.G
02. マイク持つ者よ
03. Bars of My Life
04. Dear My Home Ground
05.肉体関係 Part 2
06. Pop Life ~ Once Again
07. Slow Down!
08. Free
<Encore>
09. イケイケ・ア・ゴーゴー
10. B-Boyイズム
11. 熱帯夜
