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2010年代のアイドルシーン Vol.7 “楽曲派”と呼ばれるグループたち

左上から時計回りにTHERE THERE THERES、ゆるめるモ!、tipToe.、amiinA。
5年以上前2021年05月11日 11:02

2010年代のアイドルシーンを複数の記事で多角的に掘り下げていく本連載。今回は“楽曲派”と呼ばれるアイドルグループを記事のテーマとし、amiinAなどを手がけてきた齊藤州一、ゆるめるモ!のプロデューサーである田家大知、THERE THERE THERES(ex. BELLRING少女ハート)やMIGMA SHELTERを世に送り出してきたAqbiRecの田中紘治、tipToe.をプロデュースしている本間翔太の4人による座談会をセッティングした。“楽曲派”は2010年代以前に起源のある言葉だが、ここ10年くらいは王道のアイドルソングを歌わず、洋楽などへのオマージュに満ちたコアな音楽性を持つグループ、音楽好きの運営が手がけるアイドルのことを指す際に使われてきた。なぜ2010年代のアイドルシーンにそういった楽曲派アイドルが多く登場したのか、4人のトークを通してその答えに迫る。

取材・文 / 小野田衛 インタビューカット撮影 / 近藤隼人

ももクロがいなかったら、アイドルをやっていない

──本日お集まりいただきました4人は、いわゆる“楽曲派”と呼ばれるアイドルグループをプロデュースしています。まず、そう捉えられていることについてどう感じているのですか?

田中紘治 自分で「楽曲派です」なんて思ったことはないですよ。

齊藤州一 呼ばれ方はあまり気にしないですね。少なくとも僕の場合、特別に尖ったことを狙ってやろうとか、奇をてらったことをしようという気概はあまりないんです。もともと僕はアイドルに詳しかったわけじゃないんですが、ゆるめるモ!さんやベルハー(BELLRING少女ハート)さんがすでに活動している姿を見ていたから、「アイドルって好きなことをやっていいジャンルなんだな」という認識で関わりを強く持ち始めたわけです。

田家大知 「アイドルに詳しくない」「純然たる音楽オタク」という2点は、この4人に共通するポイントかもしれませんね。

齊藤 ただ、横の連帯みたいなものはそんなに強くはないと思います。だから楽曲派と呼ばれるシーンやムーブメントがあるかと言われればわからない部分もあります。それぞれが勝手に好きなことをやっていたら、「あの人たちは楽曲派」ということでひと括りにされただけなのかなと思っています。

田中 自分の中で大きかったのは小泉今日子さんの存在。かなり早い段階でハウスを積極的に取り入れたり、「木枯らしに抱かれて」といったモロに「The Riddle」(1984年に発表されたニック・カーショウのシングル)な楽曲をリリースしたり……。そういう小泉さんの楽曲に触れたことで、「アイドルは自由な音楽なんだ」という発想が決定的になった部分はあります。だから、僕の場合はカウンターを狙っている意識すらないんですよ。ほかのジャンルの音楽ファンも巻き込んで渦を作っていくのがアイドルの面白さだと信じているので。BELLRING少女ハートでサイケデリックロックをやり始めたのも、単純にお客さんだって今までにない音のほうが楽しめるんじゃないかと考えたから。それなのに「奇をてらっている」みたいな言われ方をすることが多くて、最初のうちは困惑しましたね。

本間翔太 そうかー。僕なんかは齊藤さんと同じでベルハーさんを見たうえで始めたようなところがあるから、いろいろ勉強になりますね。

田家 ゆるめるモ!を始めたのが2012年10月で、ベルハーさんが出てきた半年後くらいなんです。当時、とにかくインパクトが強かったのがももクロ(ももいろクローバーZ)さんでした。ももクロさんがいなかったら、僕はアイドルを始めていなかったかもしれないくらいで。曲でいうと、NARASAKI(COALTAR OF THE DEEPERS、特撮)さんが書いた「ピンキージョーンズ」とかに非常に感銘を受けましたね。それと同時にアイドルの世界を見渡したときに、インディーロックやニューウェーブといったオルタナティブな音楽性のグループがいなかったんですよ。「これはもうやるしかないな」と心を決めました。

──それはロック通にも受け入れられるアイドルを作ろうという考えなんでしょうか?

田家 うーん、だけど「音楽的偏差値が高い人だけ聴いてくれればいいや」と突き放すような発想はなかったんです。ポップでキャッチーな曲も配置して、ディープなところに連れていこうと考えていましたし。僕の場合、幸運だったのは普通の歌謡曲とかJポップも大好きだったんですよ。マニアックなバンドも追いかけてはいたけど、それ一辺倒にはならなかった。節操なく、みんなが聴くようなジャニーズとかも耳にしていたんですよね。「FUJI ROCK FETIVAL」も行くけど、「COUNT DOWN TV」もチェックします、みたいな(笑)。

田中 「ももクロがいなかったら、アイドルをやっていない」というのは僕も田家さんとまったく同じですね。それくらい彼女たちの影響は絶大だった。「楽曲派はどこから始まったのか?」と聞かれたら、いろんな考え方があると思うんだけど、やっぱりももクロは外せないでしょうね。ヒャダイン(前山田健一)さんは曲の中にアシッドハウスの要素をブチ込んだり、実験的なことを次々と仕掛けていましたし。それから2011年くらいになるとBiSも騒がれるようになっていたので、「アイドル=なんでもあり」という考えはいよいよ強くなっていったと思う。

齊藤 僕は、ももクロをファンの人から薦められたんです。「これは絶対にチェックしておいたほうがいいですよ」って。確かに観てみたらエネルギーをめちゃくちゃ感じたんですけど、それと同時にいろんなジャンルのクリエイター陣が一堂に集まっていることに驚きがあったんですよね。AKB48が大ブレイクしたことで、アイドルというものが改めて世の中に知られるようになったじゃないですか。そのあとのももクロのブレイクにより、クリエイターやリスナーの裾野が一気に広がった印象があるんです。

なぜ楽曲派が増えたのか?

──これは楽曲派という単語の定義の話になりますが、「だったらAKB48は楽曲派じゃないのか?」という問題もありますよね。もちろん乃木坂46や櫻坂46にも同じことが言えますけど。

田中 そういったグループの楽曲を手がけている作家さんたちはマニアックな音楽をやろうと思ったら、いくらでも作ることができるんです。それが容易にできたうえで、大衆向けの音楽を届けているわけでね。音楽的なクオリティはめちゃくちゃ高いですよ。

――グループによってはコンペで300曲くらい集めて、そこからシングルにする曲を選んでいるわけですからね。

本間 ある意味、AKB48こそが楽曲派だと思いますよ。もともと僕は下北沢のライブハウスに出ているようなギターロックとかが好きだったんです。ところが熱心に追いかけているうちに、ちょっとロック熱が落ち着いちゃってた時期があったんですね。それでフラットな気持ちでAKB48やももクロを見てみたら、曲がものすごくわかりやすいのに、細かい部分に対するこだわりは強い。高度な二重構造になっていたんです。「メロはキャッチーなのに、コード進行は奇妙」みたいな。その衝撃は大きかったです。

──では、本間さんも楽曲を制作するうえでAKB48やももクロも意識する?

本間 僕の場合、曲を作っている段階でお客さんがどう盛り上がるのかまったく予想が付かないんですね。これはどうしようもない部分でもあって、結局、アイドルファン上がりじゃないからアイドルファンの心理がわからないんです。それで最初の頃は「アイドル好きな人はこういうのを喜ぶのかな」とか考えながら間奏部分にコールを入れるパートを作ったりしたんですけど、まったく思った通りにならなくて(笑)。「気にせず好きなように作ってほしい。どんな曲が来てもコールや盛り上がり方は俺たちで考えるから」ってお客さんに説得されちゃった。そこで思い知ったのは「アイドルソングだから、こうしなくてはいけない」という考え方は捨てたほうがいいんだなということ。どんな曲を出そうが、アイドルファンは勝手に調理するだけの腕と度量を持っていますからね。

齊藤 でもtipToe.は曲がすごくポップだから、マニアックな印象はあまり受けない気がします。

本間 ポップであること、つまり伝わりやすい音楽を作ること。それは最初からすごく意識していました。実はアイドルプロデューサーになる前にたまたまブクガ(Maison book girl)さんとベルハーさんのツーマンを観る機会があって、かなり衝撃を受けたんですけど、その2組はアイドル界の中でも異端な方々なんだろうと思ってたんですね。でも実際に自分がこの世界に入って周りを見渡してみたら好き勝手にやってるアイドルがたくさんいて、自分ももうちょっと我を出していいのかなと思うようになりました(笑)。それにしてもあのツーマンはすごかった!

田中 それはうれしいなあ。そのときは何が刺さったんですか?

本間 メジャーならともかく、同じインディーズの世界のはずなのに、自分が観てきたバンドのライブにはない熱量があったんですよね。それこそインディーズバンドのイベントとかだと、お客さんはアーティストに対して受け身というか身体的にも精神的にも少し距離を置いて見てるし、アーティスト側も「俺らは好きにやるだけだから」って調子で演奏する。ところがアイドルの現場って、ステージの上と下で一体感があるじゃないですか。お客さんは自分たちが応援するグループ以外のステージでも盛り上がってくれたりするし。

齊藤 確かにアイドルファンって、自分が推しているグループでなくても少なくとも1曲は聴いてくれますよね。その1曲で心をつかむことができれば、好きになってもらえる可能性は高くなりますし。

田中 実際、バンドマンから対バンのオファーが来ることってすごく多かったんです。対バンするとバンドの出番のときでもオタクがめちゃくちゃ騒ぐから、ライブが終わったあとに「こんなに充実感を覚えたのはひさしぶりだ!」って興奮して話しかけられたこともあります。

田家 だから「なぜ楽曲派が増えたのか?」ということに関しては、アイドルファンの気質が大きいんじゃないですかね。なんでも積極的に受け入れる姿勢があるので。考え方が柔軟なんですよ。

楽曲よりも、まずはメンバーありき

本間 アイドルって面白いなとつくづく思うんですけど、ジャンルとして総合格闘技に似ているんですよ。芸能事務所出身のアイドルもいれば、飲食店や地方自治体、ヴィジュアル系の人が仕掛けるアイドルもいて、僕たちみたいな音楽オタクもいる。ムエタイ出身ファイターもいればブラジリアン柔術家もいる格闘技の世界と同じですよね。流派が違っても全部を飲み込むような懐の広さが刺激的。それはアイドルファンが「面白ければ、なんでもOK」と考えてくれているからなんでしょうけど。

──音楽のジャンルって、例えばジャズ、ヒップホップ、レゲエ、パンク、へヴィメタルとか、それぞれサウンド的な共通項がありますよね。“アイドル”ってどんな音楽を指すんですか?

田家 そう考えると、やっぱりアイドルって音楽的なジャンルではないんですよ。ましてや楽曲派の音楽的特徴なんて存在するはずがない。

田中 うん、アイドルを音楽ジャンルのみで括るのは無理があると僕も思う。よくメンバーに伝えるのは、「SMAPを見てみろ」ということなんです。クールな木村(拓哉)くんがいて、トーク番組で活躍する中居(正広)くんがいて、無口だけど笑いも取れる草なぎ(剛)くんがいて……こういうキャラクターが浸透しているからこそ、ファンは東京ドームに集まって熱狂するわけですよ。これって要するにテレビの力じゃないですか。生き様を知ることでドキュメンタリー的な面白さが加わってくるので。じゃあテレビがない我々はどうやってキャラを浸透させればいいのか? そこで握手会とか特典会でファンにキャラを知ってもらうという話になるんですね。「今日、調子悪かったんだ」とか「がんばったことで歌割りが増えたんだね」といった物語を、お客さんは特典会で知ることになる。そうやってドラマチックな要素を加え、感情移入してもらうわけです。

齊藤 メンバーのキャラクターあってこそのジャンルだということですよね。それは僕もまったく同感。メンバーの脱退によって曲の印象がまるで変ってしまうこともあるし、アイドルって音楽面だけを切り離して議論できないですよ。

田中 逆に純粋に音楽だけで食っていける人ってどれくらいいるんですかね? 例えばOasisはギャラガー兄弟のバチバチした仲の悪さがあるからこそ、緊張感を持ってステージを観ていた部分があるじゃないですか。それはキース・リチャーズとミック・ジャガーの関係も同じですよね。結局、ファンは人間性を見ているんです。雑誌のインタビューとかを読んでドラマ性を楽しんでいる。

田家 「楽曲よりも、まずはメンバーありき」というのは本当にその通りだと思います。「楽曲派とは何か?」というこの対談の趣旨には則していないのかもしれませんが(笑)。ゆるめるモ!に関しては世の中に訴えたいことがあるから続けているんです。それは「本当につらいことがあったら、逃げてもいいんだよ」とか、そういった内容なんですけど。ゆるめるモ!のメンバーはひきこもりや社会との距離感がつかめずにキツい思いをしているような人たちばかりだったから、そういうメッセージに共感しながら気持ちを込めて歌うことができるんですね。

こんなに下手でも成立するんだ!

――皆さんがクオリティの高い楽曲を作ろうと努力していることには頭が下がりますが、それをアイドルに歌わせる必要ってどこにあるのでしょう? 純粋な歌唱スキルなどを考慮すると、原曲のよさをもっと上手に表現できるアーティストもいるはずです。

齊藤 僕の場合、話の順番が逆だったんですよ。自分がやりたい音楽をアイドルグループのメンバーに歌わせるのではなく、amiinA(結成当時はamiina)のメンバーが先に決まっていて、彼女たちに歌わせるべき楽曲を考えていった。最初は知り合いに頼まれたものの、正直言って躊躇しましたね。当時はAKB48みたいな衣装を自分たちで準備して、メンバーのお母さんが物販をやっていたんです。観客も5人とかだったし、「これからどうすればいいの?」という感じでした。当時の僕たちからしたら、ゆるめるモ!とベルハーなんて“キング・オブ・キング”ですよ。手が届かない存在だった。

田中 えー、ホントですか!?

齊藤 本当ですよ! ライブを観たら、さらに衝撃を受けましたけどね。歌がめちゃくちゃだったから(笑)。「こんなに下手でも成立するんだ!」という今までの音楽体験にはなかった気付きがあったし、フリーダムさにやられてしまいました。やられたという意味では、本間くんのtipToe.にもやられましたけどね。「3年縛り(※tipToe.はメンバーの在籍可能年数を最大3年と定めている)ってなんなの?」とか、最初は意味がわからなかった(笑)。

本間 それはわりと単純な話で、特別に選ばれた人間ではない普通の子たちが必死にがんばっていく姿をtipToe.では見せたかったんですよ。それを永遠にやるのでは意味がない。未来のことよりも目の前の3年間をどれだけがんばれるかに意味があるのであって。

──とはいっても、ビジネスとして考えたら同じメンバーで続けたほうがいいに決まっていますよね。投資した額を回収しないといけないわけですし。

本間 マンガでも、主人公が強くなりすぎると面白くなくなるじゃないですか(笑)。面白くないというか、強すぎると見てる側として自分に重ねられなくて、「あの人たちもがんばってるから自分もがんばろう」と思いにくい。

齊藤 話としてはわかるけどさ、自分にはない感覚だったから驚かされた部分が大きかったな。

本間 tipToe.は甲子園を目指す高校生の物語であって、そのあとでプロ入りするとか大リーグに移籍するという部分を見せようとは考えていないんですね。今は幸いにして2期生にもファンの方がついてくれていますし、そこで新たなストーリーが生まれていることに手応えも感じています。

メンバーのスキルアップについて

──ゆるめるモ!のジャケットデザインは、洋楽ロックへのオマージュが目立ちますよね。そういうところも楽曲派と呼ばれるゆえんかと思われるのですが。

田家 例えばNeu!というカッコいいバンドがいます。あるいはESGでもSuicideでもいいんですけど、このカッコよさを一部の音楽オタクだけでなく、もっと多くの人に知ってほしいという単純な思いがあったんです。実際、アイドルを通じてだったらそれが可能ですからね。そもそも音の部分での影響を示しただけだと中途半端なオマージュになっちゃうから、僕らはビジュアル面も含めて先人たちにリスペクトを表明したかったんです。

田中 そんな深い意味があったとは(笑)。

田家 どれとは言いませんけど、有名なジャケットのデザインだけを真似したような作品ってあるじゃないですか。いかにもデザイナーの趣味みたいな感じで。僕はああいうのって好きじゃないんです。確かにゆるめるモ!はPrimal Screamのジャケットをオマージュしていますけど、当然、それは音も絡めてのオマージュなんですよ。だから「スクリーマデリカ」をメンバーの人数分だけ買い、「これ聴いといてね」って配っていますし。

──もしかしたら、ゆるめるモ!の歌唱法はボビー・ギレスピーから影響を受けている?

田家 それはわからないですけどね(笑)。でも最低限のリスぺクトはメンバーも持っていないとダメだろうし、メンバーの中には「このPrimal Screamっていうバンド、めちゃくちゃカッコいいじゃないですか」とか言い出す子もいますよ。

──楽曲派アイドルでよくあるのが「曲はいいんだけど、パフォーマンスが追いついていない」という評価です。運営サイドとしては、メンバーのスキルアップをどのように考えているんですか?

本間 「曲はいいけど……」というのは初期の頃にさんざん言われましたね。「そうなのかもしれないけど、スキルがすべてじゃないでしょう?」と思ってました(笑)。そもそも僕自身が好きだったバンドも「うまいか? 下手か?」という価値基準がすべてじゃなかったわけです。むしろ必死で歌っているボーカルの声がしゃがれていたら、そっちのほうがカッコよかったりするわけで。

齊藤 ああ、わかるな。僕自身は歌やダンスは徹底的にやらないとダメだという考え方なんですよ。「下手だけど味があっていい」なんて、少なくとも自分のグループでは許されないと思っていましたし。だけどそれだけじゃないんですよね。かなりその本人たち次第なところはあると思います。

本間 もちろんメンバーはうまくなりたいと考えているんですよ。ボイトレもダンスレッスンもがんばってくれてますし。だから今できるすべてを見せてくれて、それでもできないことは悔しがってまた努力してくれてればいいかなと。

田中 初期のベルハーはパフォーマンスがたどたどしい子が多かったので、とにかくがむしゃらにグチャグチャッとやるしかなかったんですよね。ところが途中からある程度ロックを歌える子が入ってくると、同じようにやっても絵にならない。うまい子がわざと下手にやるって難しいですから。ステージで水とか吹いていても、「狙ってやっている感」が出ちゃうと愛されない。

本間 そのへんはメンバーによって違うということですか。

田中 そうですね。「ベルハーは下手糞だ」という意見は多かったけど、気にしてるメンバーは少なかったです。「いや、うまいです」とか、「当たり前じゃん。だって私たち、下手糞に作られているんだから」と開き直っているメンバーもいたくらいで。

──そういえば、「ベルハーはメンバーに練習させない」という噂もありました。

田中 そんなことないですよ! それ、よく言われるんですけどね。結果としてああいう稚拙な感じだっただけで。

田家 田中さんはメンバーに対してめちゃくちゃ熱血指導していますよね。ゆるめるモ!のメンバーは、それを見ていつもうらやましがっていました。僕が何ひとつ指示しないものだから(笑)。

田中 いくらステージでデタラメやっているだけのように見えても、うまくなろうという努力を怠ってはダメだと思うんですよ。そこはメンバーにも絶対に勘違いしてほしくなかったですね。

「楽曲派だからセールスは度外視」ではない

──マニアックな音楽性をメンバーはどうやって咀嚼しているのでしょうか? 「私は乃木坂46みたいな曲を歌いたかったのに話が違う!」ということはないんですか?

本間 tipToe.を始めたときに集まってきた子は、サブカルチャー好きが多かったんです。「アイドルを始めます。運営はカメラマンやギターロックに明るい人たち」と発表した時点で興味を持って手を挙げるような層ですからね。そうなると自然にロック少女みたいな子が多くなるわけです。ジャンルによっては、僕なんかより詳しい子もいましたし。ところが第1期が終わって第2期のメンバーになると、tipToe.が初期よりもアイドルとして認知していただけるようになったのもあって、普通のアイドル志願者が増えたんですね。まあそれはそれで面白いから、僕としては全然アリで新しいtipToe.を作っていきたいと思ってるんですけど。幸いなことに第1期も第2期もメンバーが自分たちの曲を大好きだと言ってくれることが多くて、その点で恵まれてるなと思います。

田中 このへんはメンバーによって温度差もあるんですけど、ベルハー初期の頃はロックっぽい曲に抵抗感を示して「こんな曲を歌いたかったわけじゃない! これはアイドルじゃないです!」とか泣かれたこともありました。顎下10cmくらいまで鼻水を垂らしながら大号泣して。

田家 そんなことがあったんですね(笑)。

田中 だけど、その号泣した子はステージではやり切るタイプだったんです。最終的には本人も納得してくれたから、すごくよかったですけどね。

──最後にお伺いします。皆さんはご自身のプロジェクトで最終的に何を目指しているのでしょうか? 楽曲派と呼ばれるアイドルは、ときに「売れる」とか「利益を出す」以外の部分に力を入れているようにも見えるのですが。

齊藤 自分の関わっているグループの誰かが「フジロック」のステージに立つこと。僕はこれを目標としています。そして一度アイドルから離れたとしても、彼女たちが再び音楽をやりたいと思ったときに実際にやれる場を整えておくこと。これも僕の使命だと思っていますね。

本間 例えば地方のラジオでtipToe.が流れたとき、それをたまたま聴いた普通の中高生が「もうちょっとがんばろう」と一念発起する……みたいなところまで持っていきたいですよ。つまりそれはtipToe.のメジャー化という話になるでしょうね。だからこそ、楽曲は誰にでも届くように極力ポップにするよう徹底させているんです。

田家 目標に関しては、ゆるめるモ!を始めたときから変わっていませんね。自殺を考えている人が思いとどまるような音楽を作っていきたいです。1人でも多くの人にメッセージが届けばいいなと考えながら活動していますし、自殺した人の報道を見ると自分の無力さに打ちひしがれます。本間さんと一緒で、やっぱりそのためには売れる必要が出てくるんですよ。「楽曲派だからセールスは度外視」ということは決してないです。

齊藤 うん、それは僕も同じですね。「届けなくちゃいけない」という使命感があります。

田中 僕は自分の手がけるグループがある程度セールス的に見込めるようになったら、大手プロダクションやメジャーレーベルに送り出していきたいんです。ずっと自分のところで囲う気はないし、作家さんやフォーマットも含めて全部をお渡ししたい。自分が作ったグループが大手の力でもっとメジャーになっていく様子を見るのが今の夢ですね。「田中さん、さよなら」って笑顔でメンバーからバイバイされたいです。

齊藤 渋い! さすがに最後はカッコよく締めるなー(笑)。

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