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音楽ナタリー編集部が振り返る、2023年のライブ

音楽ナタリー編集部が振り返る、2023年のライブ
3か月前2023年12月30日 9:06

コロナ禍が収束に向かう中で、ライブエンタテインメントが活況を取り戻したと言われる2023年。5月に新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類に引き下げられてからは、声を出してライブを楽しむという、かつて当たり前だったことの喜びを改めて噛み締めた人も多いのではないだろうか。9月には世界最大級の音楽アリーナである神奈川・Kアリーナ横浜がオープンしたりと、音楽ライブにまつわるポジティブな話題が増えた1年となった。

この記事ではそんな2023年に開催されたさまざまなライブの中から、音楽ナタリーの編集部員たちが“個人的に印象に残ったもの”を振り返る。

台風クラブ単独公演で初めて使った“ある言葉”

文 / 石井佑来

台風クラブ「遠足'23」 7月16日 東京・東京キネマ倶楽部

音楽ナタリーの編集部員は、それぞれ年間で何十本、多い人は100本以上のライブレポートを執筆します。目の前で起きた2、3時間の出来事を描写する──そんな仕事をするにあたって、その公演の内容に合わせた言い回しや表現方法はもちろん誰もが心がけているところ。それでもやはり人間なので、恥ずかしながら「この言い回し、前もどこかで使ったな……」「また自分の手癖が出てしまっているな……」と反省することも少なくないのが本音です。だからこそ「まだこんな言い回しが残っていたんだ」と実感できたり、「この言葉初めて使うな」と思えたりする瞬間には、なんとも言えない喜びがあるもので。そしてその喜びの裏には「普段使わないような言葉でしか言い表せない“未知の体験”に出くわしてしまった」という興奮が必ずあると思います。そんな喜びや興奮を与えてくれるライブというのも、“いいライブ”のうちの1つなのかもしれません。

自分が今年最も印象に残っている“初めての言葉を使ったライブレポ”が、7月に東京キネマ倶楽部で行われた台風クラブの単独公演のレポートでした。ライブを観るたびに「自分はまだこんなにも“ロックバンド”というものに夢中になれるのか」と思ってしまう人たちがいて、台風クラブもそのうちの1組なのだけど、この日ほど“ロックバンド”というものにロマンを感じた日はないかもしれません。この日の台風クラブは“呼ばれてないのに出てくる”という暴挙も含めて、4回ものアンコールを披露しました。本編だけで24曲と十分な曲数が演奏されたにもかかわらず、会場の熱気は一向に冷めることなく、それどころかますますヒートアップしていく始末。客席からコールが沸き起こった「台風銀座」に、原曲の持つ郷愁をぶった切るかのようにハイテンポで披露された「火の玉ロック」。ステージから去っては現れ演奏する。そのたびに倍増していく会場の熱気。その熱の中心には、普段はそれぞれの場所で暮らし、それぞれの生活を抱えている“遠距離バンド”だからこそ奏でられる音が確かにあったような気がしてなりません。ものすごく、ものすごくシンプルなライブのはずなのに、少なくとも自分は「もしかして今、かなりすごいものを観ているんじゃないか?」という気分にさせられたし、この日見た光景は、自分にとって間違いなく“未知の体験”と言うべきものでした。

興奮冷めやらぬ状態で会場を出て、心をクールダウンさせるかのように2駅分ほど歩きながら徐々に徐々に仕事のモードに頭を切り替える。そんな中でふと浮かんでくる1つの疑問。「4回目のアンコール」ってなんて呼ぶべきなんだろう? 調べてみると、英語で「ダブル」「トリプル」の次は「クアドラプル」らしい。なので正解は「クアドラプルアンコール」。クアドラプルアンコール……クアドラプルアンコール……なんなんでしょう、この猛烈な耳心地の悪さは。「トリプルアンコール」まではしっくりくるのに、「クアドラプル」になった途端に感じる大きな違和感。であればここは「アンコール(4回目)」などと書くのが無難だろうか? いや、あの熱狂をそんな味気ない言葉に収めてしまっていいのだろうか? 当たり前のように書かれた「クアドラプルアンコール」という言葉が放つ違和感こそが、このライブの異常さを、この夜の特別さを、何よりも雄弁に物語ってくれるはず。やや大袈裟ではありますが、そんな思いを持ってセットリストの「27. 火の玉ロック」と「28. まつりのあと」の間に「<クアドラプルアンコール>」という耳慣れぬ文字列を忍び込ませることにしました。記事公開後、真っ先にスカートの澤部渡さんが「クアドラプルアンコール……?」と反応してくれたときにどこからか込み上げてきた感情を、「うれしさ」と言うべきなのかなんなのか、僕はいまだにわかっていません。

ちなみに台風クラブ以外で「クアドラプルアンコール」という言葉が使われたライブレポートは、15年以上続くナタリーの歴史の中でたった3組。sads、黒夢、DAIGO☆STARDUSTだけでした。

男闘呼組が思い出させてくれた「自分もこんなふうにバンドをやってみたい」という気持ち

文 / 橋本尚平

「祝・日比谷野音 100周年 男闘呼組 2023 THE LAST LIVE -ENCORE- 2023」 8月26日 東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)

それまで自分が知っていた男闘呼組は、小学生の頃に歌番組で観た「DAYBREAK」や「TIME ZONE」くらい。だからあの日、高倍率なチケットの抽選に落ちたたくさんのファンが音漏れだけでも聴こうと日比谷野音の外に集まっている中で、そんな自分が解散ライブを観ることに若干の後ろめたさもありました。でも期間限定での再始動が発表されてからずっと、自分の中に「絶対に生でライブを観るべき」という確信めいた予感があったんです。

それなりに期待値を上げて行ったつもりでしたが、初めて観た男闘呼組は、想像以上に“完璧なロックバンド”でした。「すでに全国ツアーや日本武道館4DAYSを終えたあとだから」というのももちろんあると思いますが、29年もブランクがあったとはとても思えないほどに仕上がった演奏は圧倒的のひと言。生で観たのは初めてだったので過去の公演と比較することはできませんけど、それでも「今がこのバンドの全盛期なんだろうな」と強く感じさせられる内容でした。

突然の活動休止から長い年月、メンバー全員で集まることも叶わなかった4人が、その空白を埋めるように男闘呼組として最後に立ったステージ。再びこのメンバーで演奏をする喜びを心の底からあふれさせた彼らの、50代半ばにしてキラキラした青春を謳歌している姿を見ていると、バンドっていいな、自分もまたこんなふうにバンドをやってみたいな、という気持ちにどんどんなっていきます。若い頃ならともかく、誰かが演奏する姿を見て「自分だって」という気持ちが湧き起こるだなんてかなり長いことなかったので、もう40代半ばである自分が奮い立たされていることに不思議な感覚を味わっていました。

トリプルアンコールを終えても拍手が止まらず、完全燃焼しきった様子で「もうできる曲がない」と苦笑した彼ら。長い歴史の中でずっと推し続けているファンが多いバンドなので、新参の自分なんかがその魅力を完全に理解しただなんてことはとても言えませんけど、そう思わせられても仕方がないほどに、彼らはラストライブでバンドの重ねてきた日々の歩みをすべてを出し切っていたように感じます。男闘呼組の歴史はこの日で終わりましたが、今後はRockon Social Clubとしての彼らの活動を応援していきたいとますます思いました。

タトゥーや金のチェーンよりゴリゴリでいかついKREVAのラップスキル

文 / 三浦良純

OZROSAURUS「NOT LEGEND at YOKOHAMA ARENA」9月18日 神奈川・横浜アリーナ
KREVA「KREVA CONCERT TOUR 2023『NO REASON』」9月15日 東京・日本武道館

いろんなライブに足を運んでいると、出演者によって、観客の雰囲気が全然違うことに気付きますよね。男女比だったり、年齢層だったり、ファッションの系統だったり、ライブの楽しみ方だったり。同じジャンルのアーティストでもファンの傾向は千差万別です。

ここ最近で一番記憶に残ってるのは、横浜をレペゼンする伝説的ラッパーMACCHOを擁するOZROSAURUSのワンマンライブ。今年さまざまなヒップホップの大きなイベントがあった中でも特に注目度の高かったライブで、MACCHOをリスペクトするラッパーや気合いの入った日本語ラップファンが集結していたのですが、どこを見てもゴリゴリのタトゥーや金のチェーンが目に入り、ほかのライブでは味わえないような威圧感が漂っていました。

仲間同士で連れ立って来ている人も多かったので、1人で来た僕は会場内を歩いているだけでもちょっと緊張してしまい……開演前に売店でホットドッグを買って食べていたところ、横から強い視線を感じ「ひと口くれないかな」という声が聞こえてきたので、震えながら急いで口に詰め込んだのをよく覚えています。

そんな異様なムードの横浜アリーナをこの日最も沸かせたのが、MACCHOが過去に楽曲の中で批判していたと言われるKREVAを迎えて披露したコラボ曲「Players' Player」。決して交わることがないと思われていた因縁深い2人が、同じステージ、同じビートの上でバチバチと火花を散らし、笑顔で抱き合う姿はファンからすれば夢のようであり、歴史的名場面として後世に語り継がれていくでしょう。

ここで取り上げたいのは、2人の関係性ではなくファン層の違い。ちょうどこのライブの数日前、僕はKREVAが日本武道館で行ったライブも観ていたのですが、会場の雰囲気はまったく異なり、緊張感はゼロ。タトゥーや金のチェーンを見かけることもありませんでした。同じラッパーと言ってもリスナー層がまったく別で、メジャーに上り詰めたKREVAとアンダーグラウンドな日本語ラップのシーンには隔たりがあるのが事実だと思います。

もちろん日本語ラップが好きでKREVAを知らない人はいないでしょうが、この日、横浜アリーナに来ていた人で、最近のKREVAの活動も追っているようなファンは少なかったはず。そして、そんなアウェーと言っていい場所だったからこそ、KREVAが会場中を感動で震えさせる姿はより痛快に映りましたし、そんなことができたのは、どんなステージでもかまし続けてきた彼の絶対的なライブ力があったからこそだと思います。

YouTubeで公開されている映像をぜひ観てほしいのですが、そのラップスキルから佇まいまですべてが完璧で圧倒的。たった1曲のパフォーマンスで強面の観客たちをねじ伏せ、歓声を掻っさらっていく姿はスターそのものであり、ラッパーの中のラッパー「Players' Player」でした。メロディアスなラップで老若男女を魅了するKREVAですが、そのいかついラップスキルでも日本語ラップヘッズを唸らせ続けてほしいです。

「茅ヶ崎ライブ」がある夏、日常と非日常の狭間で

文 / 三橋あずみ

「サザンオールスターズ『茅ヶ崎ライブ 2023』powered by ユニクロ」10月1日 神奈川・茅ヶ崎公園野球場

潮風が抜ける小さな街が浮足立つ夏。2023年の夏は、「茅ヶ崎ライブ」がある夏だった。

今年6月にデビュー45周年を迎えたサザンオールスターズが、フロントマン・桑田佳祐さんの故郷である神奈川・茅ヶ崎公園野球場で4日間にわたって行ったアニバーサリーライブ「サザンオールスターズ『茅ヶ崎ライブ 2023』powered by ユニクロ」を取材しました。桑田さんと同じく茅ヶ崎が生まれ故郷である自分にとっても、どうしたって特別なライブ。この機会に、我が街が日常と非日常の狭間にあったあの4日間のことを、少し振り返ろうと思います。

そもそもの話、茅ヶ崎公園野球場で音楽ライブが叶うこと自体、地元民的には信じ難い。信じ難いというか、「本当にサザンしか成し得ない……」という感覚があります。球場の南側は海岸線を走る国道に面していますが、その三方を囲むのは閑静な住宅地(しかも、市内でも一等地の)。球場周辺の道だって、車は通れども犬の散歩や自転車での買い物に程よいくらいの“生活サイズ”……。2万人近くの人々を一度に迎える一大事が起きるなんてことは夢にも想定していなかったであろう小さな球場で、過去3度も“それ”が起きて、日々の暮らしの中心に桑田さんのあの歌声がダイレクトに響く。「茅ヶ崎ライブ」が真の意味で奇跡の上に成り立っている時間なんだという興奮混じりの実感は、まだまだ自分が子供だった初開催(2000年)の頃には得ることができないものでした。

“茅ヶ崎市民枠”のチケットを見事に当てた名誉ある弟の付き添いを仰せつかり、姉弟2人で熱狂の祝祭を目の当たりにした2000年。今とは違う職場の記者として取材に入り、地の利を生かして自転車で周辺取材をしまくった2013年。ナタリーの記者として初めて「茅ヶ崎ライブ」を取材することができた2023年。そのどれもが自分の人生の中で決して忘れることのできない経験であり、特別な瞬間です。そして、まだまだ残暑を引きずっていたこの4日間。同じ青空の下に集まった人々には、それぞれの人生や生活と重ねたサザンオールスターズへの思い、茅ヶ崎ライブへの思いがある。音も潮風も日差しも、その場にあるすべてを感じ尽くそう、楽しみ尽くそうとする客席の大きな一体感の中でそんなことを考え、果てしない気持ちになったけれど……桑田さんの歌声と笑顔は、そのすべてをまるごと受け止め包み込んでしまう、本当に大きな包容力に満ちていました。いつの時代の「茅ヶ崎ライブ」よりもその歌声が「優しい、温かい」と感じたのは、自分自身の心境や環境の変化が故なのか。そして、またいつの日か“次”があるとしたなら、そのとき自分は何をしていて何を感じるんだろう。“3度目の奇跡”の余韻に浸りながら、慣れ親しんだ道を歩いて帰った10月1日。長かった夏の終わりを感じた1日でした。

U2がSphereで描き出した空前の景色

文 / 中野明子

「U2:UV Achtung Baby Live At Sphere」10月5日 ラスベガス・Sphere

I love you! I love you!

ブライアン・イーノのアート作品「TURNTABLE」を巨大化したというステージの上、ジ・エッジ(G)が弾く「Even Better Than The Real Thing」の印象的なギターリフに乗せて何度も繰り返されるボノ(Vo)のラブコール。それに大歓声で応えるオーディエンス──30年前に発表された名盤「Achtung Baby」を軸としたセットリストをもとにしたパフォーマンスに、めくるめく景色の連なり。天井から足元まで広がる微細な映像に、自分がどこにいるのかわからなくなってくる。ああ、これこそが没入感、とひとりごつ。

まず最初に断っておかなくてはいけないのが、音楽ナタリーは「国内アーティスト(邦楽)を中心とした音楽メディア」という肩書きを持っていること。そこに「編集部が振り返る今年のライブ」というお題とはいえ、現在U2がラスベガスの球体型会場「Sphere」で開催しているレジデンシー公演を取り上げるのはいかがなものか。しかし、自分の中で2023年において最もインパクトがあったのがU2のライブだったのでどうかご容赦いただきたい。

さて、U2が2024年3月までレジデンシー公演を行っているSphereについては多くのメディアが報じている通り、15万7000台の超高指向性スピーカーと、3.5エーカー(14164平方メートル)の半円型超高画質ビデオスクリーンが特徴の会場で、最高の音響と映像が楽しめるという触れ込み。

ホールに入ると急斜面の客席と対峙するように、コンクリ打ちっぱなしの壁が視線を支配する。この無機質な壁に映像が投影されるとしたら、スピーカーはどこ?と疑問に思いながらビールを飲みながら待つこと30分。次第に場内が暗くなり、ヘリが天井を横切るところからライブ本編へ。「Zoo Station」が始まった瞬間、壁が十字に開いていき、実はコンクリ打ちっぱなしに見えていたものすらも映像だったことが判明して言葉を失う。

プログラムコードに紛れ込んだかのような演出に、外の景色そのまま切り取ったようなラスベガスの街、暗闇の中を舞うように散る火の粉……解像度の高い映像が色とりどりの世界に誘う。映像の強烈さ故にバンドの演奏や音楽は二の次になってしまうのか。そういった懸念や指摘はあるが、そもそもが還暦を超えたメンバーたちのエネルギッシュなパフォーマンス(注:レジデンシー公演でラリー・マレン・ジュニア(Dr)に代わりサポートを務めるブラム・ファン・デン・ベルフは40代)、映像にまったく引けを取らない強度を持つ魅力的な楽曲があってこそ成立するライブでもある。音響的な面でいくと、大半が地面から上に向かって響いている印象だったが、アンコールの最後で披露された「Beautiful day」では壮大なクワイアを聴かせるパートがあり、天井から歌声が幾重にも重なって降ってくるようなすさまじい迫力を堪能することに。15万7000台のスピーカーの威力よ。

「すべてがハイライト」という陳腐すぎる言葉が観賞から数カ月経った今も出てくる有り様だが、その中でも1つだけ選ぶならアンコールでの「With Or Without You」から「Beautiful day」への流れだろうか。水面に浮かぶ青いSphereがボノのエモーショナルな歌声とともに花のように開いていき、「Nevada Ark(ネバダの方舟)」が視界に広がっていく。ただただ圧倒され、腕にびっしりと鳥肌が立つ。何百回も聴いてきたはずの曲がまったく違う景色を描き、これまで味わったことのない感情を呼び起こす。まごうことなき新体験である。

終演後、耳に入ってきたのは何人もの観客のつぶやく「Awesome(素晴らしい)」という言葉。それ以外表現のしようがないか、と思ったのは確か。ただ、この公演を映像作品にしたとて100%楽しめるかというと難しい気がする。スチール泣かせ、映像作家泣かせ、記者泣かせのステージなのだ。そして、どんなに言葉を尽くしても、どの瞬間を切り取っても伝え切ることはできない。視界が360°ない限りは。自分の表現力の乏しさにがっかりしながらも、新しい音楽体験ができたうれしさを噛み締める。そしてアジアや日本で生まれた音楽がそこで鳴る瞬間はあるのか?と妄想する。Perfume、YOASOBI、King Gnuやmillennium paradeの音楽は合うだろうか? 映像演出も魅力的なL'Arc-en-Cielがここでライブをやったらどうなるのか……とつらつらと書き連ねてしまった。

さて、大切なことなので最後にもう一度。

音楽ナタリーは「国内アーティストを中心とした音楽メディア」です。2024年もどうぞご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

ノスタルジアとは一切無縁!現在進行形のフィッシュマンズはめちゃくちゃカッコいい

文 / 望月哲

「FISHMANS TOUR “LONG SEASON 2023"」10月24日 東京・Zepp DiverCity(TOKYO)

普段ライブは静かに観るほうだ。涙を流したり震えたり拳を突き上げたりするようなことは、まずない。仕事目線とか、そういうことではなく学生時代からずっとそんな感じだ。声を出すより息をのむタイプ。「ライブを観て泣かないと冷たい人と言われそう」──斉藤由貴の「卒業」じゃないけど、エモく盛り上がっている人を見ると純粋にうらやましいなと思う。とはいえ決して無感動なわけではない。「うおー!」とか叫ぶことはないが、本当に素晴らしいライブを観たときは「すげー」「ヤバ」という感嘆のつぶやきが心の奥底から自然に湧き出てくる。いわば静かに感動しているのだ。

その意味で、今年観たライブの中で最も感動的だったのが、7年ぶりに行われたフィッシュマンズのツアー東京公演だ。中でも「LONG SEASON」の演奏中には、感嘆のつぶやきが、汲めども尽きぬ泉のようにドバドバとあふれ返ってきた。「LONG SEASON」はフィッシュマンズが1996年に発表した1曲35分にも及ぶ楽曲で、ここ数年は海外のリスナーの間でも多大な人気を博している。事前のインタビュー(参照:フィッシュマンズ茂木欣一、「LONG SEASON」を語る)で茂木欣一(Vo, Dr)さんが「2023年の今の気分で『LONG SEASON』を鳴らしたい」と話していたこともあり、それなりに覚悟していたつもりだったけど……実際目の当たりにした2023年版の最新型「LONG SEASON」は想像以上にヤバかった。ステージ上の演者が、すさまじいテンションで1音1音を鳴らし、全員で壮大な音の曼陀羅を描き上げていく。いわゆる“再現ライブ”ではなく、楽曲に新たな息吹が生々しく注ぎ込まれていくさまをリアルタイムで目撃するような、このうえなくスリリングな38分。個人的には、静かに目を閉じ全神経を集中させた茂木さんがドラムソロに突入する瞬間が、この日のパフォーマンスのハイライトだった。ライブ後に取材メモを見返したら「雷雨!」と殴り書きされていて思わず笑ってしまったのだが、本当にそんな感じで、笑っちゃうくらい、ただただ圧巻の演奏だった。

1973年生まれの僕は、佐藤伸治(Vo)さん存命時のフィッシュマンズのライブを体験できた幸運な世代だ。「LONG SEASON」発表直後、1996年12月26日に赤坂BLITZで行われた「LONG SEASON '96~97」の最終公演で披露された「LONG SEASON」の衝撃も、「すごいものを観てしまった!」という会場全体の雰囲気込みで、ありありと覚えている。そして当時の衝撃をハッキリと覚えているからこそ、今回のライブで感じた衝撃がまったく別モノであることも“体感”としてよくわかる。言語化するのは難しいのだけれど、あえて言葉にするならば、「ノスタルジアとは一切無縁のプリミティブな感動」というか。この日も27年前と同じく「すごいバンドのすごいライブを観た!」という純度の高い興奮が場内に渦巻いていた。ふと周りを見渡せば観客の多くが若者ばかりだ。「LONG SEASON」が発表されたときには生まれていなかった人も、かなりの数いたのではないだろうか。なんなら外国人もいる。最高の笑顔で「Fu●kin' Great Fishmans!!」と叫んでいる外国人がいて正直ちょっとうらやましいなと思った。現在進行形のフィッシュマンズはめちゃくちゃカッコいい。

NUANCEやRYUTistに感じる贅沢な“もどかしさ”

文 / 近藤隼人

「NUANCE HALL ONEMANLIVE "HOME"」 4月22日 神奈川・神奈川県民ホール
「RYUTist ACOUSTIC LIVE. at duo MUSIC EXCHANGE」 11月26日 東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGE

こんなすごいことになっていたのか。4月に神奈川・神奈川県民ホールで開催されたNUANCEのワンマンライブ「NUANCE HALL ONEMANLIVE "HOME"」を観たときにそう思った。NUANCEは神奈川・横浜の街を連想させる楽曲を発表し続けているアイドルユニット。神奈川県民ホール公演では“ドリーヌュ号”で世界中を航海するお嬢様4人の“HOME”横浜のお屋敷を舞台に、演劇パートを挟みながら大所帯の生バンドをバックにしたパフォーマンスが繰り広げられた。時にグルーヴィで時に繊細なサウンドを生み出すアンサンブル、椅子を取り入れた独創的な振付、俳優や芸人を交えた本格的な芝居やコント……それらが歌やダンスとナチュラルに融合し、完成度の高い1つのステージに。それまで都合が合わずNUANCEの生バンド公演を観れていなかった自分は、正直かなりの衝撃を受けた。

神奈川県民ホールはNUANCEにとって過去最大規模の会場だったものの、動員は満員にまでは至ってなかった。それが不思議でならず、この日はレポート記事のためにライブ写真を撮影させてもらったが、「これをもっと多くの人と共有しなければいらない」という一心でシャッターを切った。「楽曲やパフォーマンスがよくても売れるとは限らない」というのはアイドル界で時たま耳にする言葉。アイドルはあらゆる要素をごちゃ混ぜにした総合エンタテインメントで、最近はTikTokやSNSでの“バズ”が知名度を高めるために必須になっている側面がある。そのひと筋縄でいかないところが面白くもあるが、もどかしい。自分が目撃するのが遅れただけで、NUANCEの曲とライブの質の高さはアイドル界でよく知られていることだし、神奈川県民ホールにも多くのファンが集まっていたが、「ここにいる人たちだけでこのライブを独占しちゃっていいの?」と素直に感じた。

新潟を拠点に活動しているRYUTistに対しても同じことをよく感じる。11月に行われたアコースティックライブはこれが東京での初開催だったが、「もっと早く東京でやってくれてよかったのに!」と。2010年代初めから爆発的に数が増えたご当地アイドルの中には彼女たちを筆頭に、地方で宝を抱えているグループは少なくない。そしてそんなグループはやけに謙虚なのがだいたいの共通点。RYUTistの所属レーベル・PENGUIN DISCを主宰する音楽ライターの南波一海さんは以前、別媒体のインタビューで「ずっと素振りをやりまくってたら、めちゃめちゃバット・コントロールできるようになっちゃったみたいな人たち」と例えていた。彼女たちのライブを観るたびに感銘を受けつつ、「甲子園で優勝できる実力があるのになあ」と毎回のように思う。ライブ会場などの活動規模の大きさが“正義”とは思わないが、やっぱり単純に「もったいない」と内心でおせっかいを焼いてしまうのだ。音楽ナタリーの記事を通じて、少しでもその存在を世に広める手伝いができたらと思う。

真実の世界へ駆け出そう──時計の針を進めた超特急のライブに見た未来

文 / 三橋あずみ

超特急「BULLET TRAIN ARENA TOUR 2023『T.I.M.E -Truth Identity Making Era-』」12月24日 大阪・大阪城ホール

選曲に、歌詞に、衣装に、演出に、そして9人のダンスや表情、歌声に。あらゆる角度からすさまじい密度で詰め込まれるファンへの思いと未来への意志。超特急が“今”を刻んだ年末アリーナツアー「BULLET TRAIN ARENA TOUR 2023『T.I.M.E -Truth Identity Making Era-』」は、夢の場所へと走り続ける彼らの確かなマイルストーンになる。そう思わずにいられない公演でした。

「T.I.M.E -Truth Identity Making Era-」は、12月に活動12周年を迎えた超特急が「時間」をテーマに作り上げたライブ。“ひと回り(12年)”の時間経過を時計というモチーフに重ねつつ、これまでの歩みの中で彼らが獲得してきた彩り鮮やかな魅力がメンバーそれぞれの無二の個性とともに次々と提示されていく。超特急のライブはメンバーのユーキさんが演出を担当しているのですが、その表現の1つひとつには“当事者”でしか注ぎ得ない熱量の意味やメッセージが込められていて、一時も目が離せない。今回のライブは、そんなメッセージ性の高さと彼らのパフォーマンス力の高さがひときわ高次元で融合していて、その充実度に目を見張るほどでした。

感想は尽きないのですが、ここでは1つだけ。「T.I.M.E」のライブ本編は「SURVIVOR」という楽曲で幕を閉じ、メンバーは「1時(13時)」を指す時計が映し出されたLEDパネルの奥へ、9人で進んでいきます。「SURVIVOR」は、超特急が活動初期にovertureとして使用していたトラックに歌詞を付けた、1stアルバムの収録曲。ライブの最後に次へ進むためのovertureを響かせ、力強く足を踏み鳴らす彼らの眼差しは燃えるように熱く、闘志と希望に満ちていました。

「SURVIVOR」の歌詞には「真実の世界へ 駆け出そう」という一節があります。彼らが今見つめている「真実の世界」って、どんな世界なんだろう──曲に乗せて届けられるメッセージの捉え方は、本当に人それぞれだと思います。ですが私の頭の中には、彼らが長い間待ち望んでいた“光”の中へ駆け出していくような……そんなイメージがふと浮かびました。

「ずっと進化してゆこう 無限の可能性感じながら」。ライブ本編のクライマックスで歌われた「My Buddy」の歌詞にも特別な意味を感じつつ、実際に9人が8号車(超特急ファンの呼称)さんに見せた進化と可能性、そして充実感に満ちた言葉の数々に頼もしさを山ほど受け取った「T.I.M.E」(ライブの詳細については、ぜひ音楽ナタリーのレポートをご覧ください!)。「もっともっとたくさんの人に、この魅力が届いてほしい」。初めて彼らのライブを観たときから、記事を書くうえでずっと変わらない思いですが、その思いが最大限に高揚するのを感じた、そんな夜でした。

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