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ノーナ西寺郷太が「ひょうきん族」のエンディングテーマを解説

「西寺郷太のPOP FOCUS」
9分前2024年02月07日 9:03

西寺郷太が日本のポピュラーミュージックの名曲を毎回1曲選び、アーティスト目線でソングライティングやアレンジについて解説する連載「西寺郷太のPOP FOCUS」。NONA REEVESのフロントマンであり、音楽プロデューサーとしても活躍しながら、80年代音楽の伝承者としてさまざまなメディアに出演する西寺が私論も盛り込みながら、愛するポップソングを紹介する。

約4年間の連載のラストで取り上げるのは、NONA REEVESもカバーした山下達郎の楽曲「土曜日の恋人」。大人気番組「オレたちひょうきん族」のエンディングテーマにもなったこの曲の温かなメッセージを紐解きながら、山下との交流秘話も明かす。そして最終回で西寺が語る日本の音楽に対する思いとは? YOASOBI「アイドル」を例に挙げながら世界的に愛される日本のポップミュージックの魅力を再発見する。

文 / 西寺郷太(NONA REEVES) イラスト / しまおまほ

土曜日の楽しみは「ひょうきん族」

ついにこの連載も最終回。どの曲を選ぶか迷ったのですが、山下達郎さんの楽曲で最も思い入れがある「土曜日の恋人」をセレクトすることにしました。「土曜日の恋人」は、22年前の2002年にNONA REEVESでもカバー。このカバーバージョン、数年前からのシティポップブームも相まって各種ストリーミングサービスでプレイリストに選んでもらうことも多く、僕らの“裏・代表曲”のような存在になっています。アナログ7inchシングルとしても発売されましたし、昨年末のクリスマスライブでも大切に歌わせてもらいました。

「土曜日の恋人」は1985年11月にリリースされた達郎さんの15枚目となるシングル。当時若者や子供たちに大人気だった番組「オレたちひょうきん族」(ビートたけしや明石家さんまが出演したフジテレビ系バラエティ)のエンディングテーマでした。「ひょうきん族」は親の世代からすると下ネタなども多い俗悪番組とされていましたが、クラスメイトや僕はこの番組が放送される土曜日を毎週楽しみにしていました。番組のエンディングで「土曜日の恋人」が流れ始めると、「ああ、明日はもう日曜日だ。次の日は、もう学校なんだな」と、日常に引き戻されるような、なんとも言えない寂しさを味わったものです。この曲がテレビから流れていた期間を改めて調べると、1985年10月から1986年9月までの1年間。達郎さんは32歳(シュガー・ベイブの1stアルバム「SONGS」のリリースから10年、ソロデビューからは9年)。僕自身に当てはめると小学6年生の秋から中1の秋まで。

大人から子供へ伝える、さわやかな切なさ

ちなみに「ひょうきん族」の最初のエンディングテーマはEPOさんによるシュガー・ベイブ「DOWN TOWN」のカバー。EPOさん自身の作詞・作曲による「土曜の夜はパラダイス」や、シュガー・ベイブの「パレード」、後期の松任谷由実さんの「土曜日は大キライ」「SATURDAY NIGHT ZOMBIES」も印象的でした。今にして思えば、すべてどこかノスタルジックでドリーミーなトーンで統一されています。普通に考えれば、当時の人気アイドル、若いアーティストの楽曲を使うなどいろんな考え方があったと思うのですが、エネルギッシュな芸人さんたちが大暴れする破茶滅茶な番組だったからこそ“大人世代のミュージシャンが紡ぐ胸をキュンとさせる音楽”で素敵にパッケージするという狙いが功を奏し、さわやかな切なさが子供にも伝わってきたのだと思います。

1980年に小学校に入学した自分にとって、1970年代の日本の伝説的なミュージシャン、シュガー・ベイブや大滝詠一さんの作品、細野晴臣さんの「泰安洋行」(1976年7月発売のアルバム)を含む“トロピカル三部作”、大貫妙子さんの「SUNSHOWER」などは少し世代がズレた遥か昔の作品でした。まだネットがない、過去の作品や情報がなかなか手に入らない時代の話です。その意味で、YouTubeやストリーミングサービスが浸透した現代の若者のほうが自然に、そういった過去の日本の名作たちに思春期に触れているなあ、と日々感じます。僕のソロアルバム「Sunset Rain」(2023年3月発売)に参加してもらったSANABAGUN.の20代の大樋祐大くんや、それ以前に「南佳孝さんの『Midnight Love Call』をカバーしませんか?」と誘ってくれた同じSANABAGUN.の大林亮三くんなど30代前半の世代のほうが詳しかったりすることは多々あります。

週末の夜を大切な人と

さて、シュガー・ベイブと言うバンドに対する大人になった達郎さんなりの返答とも思える「土曜日の恋人」で、僕がもっとも好きな歌詞は「微笑んだ君は やわらかい宝石」という一節。作詞は達郎さんご本人。自分が20代の終わりにカバーしたときは、あまり歌詞の意味を深く考えずに歌っていたのですが、年を重ねて改めてこの曲の歌詞を読んだとき、あることに気付かされたんです。この曲が発売される前年、達郎さんと竹内まりやさん夫妻の間に娘さんが生まれているんですよね。これは、あくまで僕の推測でしかないのですが、もしかしたらこの曲は、娘さんと過ごす楽しいひと時、赤ん坊の彼女を抱きしめたときに生まれたラブソングなんじゃないか?と。「ひょうきん族」を家のテレビで観ているということは、土曜日の夜に自宅にいるということ。当時はバブル景気に日本が突入してゆく空気感に満ちていて、週末となれば若者や大人たちが街に繰り出し、バンバンお金を使って大騒ぎしていたような時代。そうした世の中の雰囲気とあえて逆行するように、達郎さんは週末の夜を大事な家族や恋人と家で過ごすことの幸せみたいなものをこの曲で表現しようとしたんじゃないかと思ったんです。時代の狂騒的なムードを戒めるような、さりげないメッセージのようなものが込められているのではないかと。

夢見心地のサウンド、懐かしいコーティングに包みながら、多くの人々が安易に流されてゆく波に対してアンチテーゼの姿勢を示している。10年前の発売当時、一部の熱狂的な好事家の支持にとどまり大きな話題にはならなかったという「DOWN TOWN」や「パレード」は、この頃すでにリバイバルされお茶の間でも愛されるクラシックとなっていました。それなら今の自分でもう一度あの頃の世界観を作り出してみよう、焼き直しでなく成長した視点、姿勢で、自ら詞も書いて、という達郎さんらしい強気のトライアルがこのマスターピースを生んだのではないかと僕は感じています。

達郎さんがかけてくれた言葉

ゼロ年代半ば頃にご縁があって、一時期達郎さんとお酒の席をご一緒させていただいたり、ご挨拶させてもらうことが重なりました。僕が感じた彼の印象は「過大評価されることも、過小評価されることも好まない方」。変に持ち上げられたり、崇拝されることをよしとせず、1人の人間同士として向き合い、音楽であれ、どんな話題であれ正直に語り合うことを楽しまれる方だなあ、と。日本で評価の低かったThe Beach Boysの「Pet Sounds」が、達郎さんや萩原健太さんなどによる熱心な再評価と啓蒙から、多数の理解者を生み出し世代を超えて愛される作品へと変わっていったこともよく知られています。これも“過小評価”に対する怒りの原動力が、適正な評価へと動かした好例です。

初めてバーでお話しさせてもらった夜、僕が実は達郎さんの音楽を詳しくは知らないんです、と本人に話したら「え、そうなの?」と驚かれて。「ひょうきん族」のエンディングに流れていた「土曜日の恋人」は大好きでカバーもさせてもらったのですが、あくまでもそれは子供の頃にテレビを通じて好きになった楽曲であって、早い段階からアメリカやイギリスから届くヒット曲に夢中になったので、日本の音楽を掘り下げて聴くことがなかったんです、と正直に伝えると、リラックスしたような表情で受け入れてくださるのがわかりました。どうせ、取り繕って「大ファンです」と言ったところで少し話すとメッキが剥がれてしまうことがわかっていたので……。「どういう音楽、アーティストが好きなの?」と聞かれたので「マイケル・ジャクソンやプリンス、スティーヴィー・ワンダーが大好きなんです」と答えたら、達郎さんは「それでいいんだよ」と笑ってくださいました。自分が責任を持って伝えたいのは1970年代までの音楽で、80年代以降は若い世代に任せる、と当時直接言っていただいたことを美味しいワインの香りとともに思い出します。

世界に愛される日本の音楽

連載の最後になりますが、最近僕が一番衝撃を受けたパフォーマンス、楽曲について少し触れて終わりたいと思います。それは大晦日の「紅白歌合戦」で歌われたYOASOBIによる「アイドル」。多くの人が観られたことと思います。日本や韓国のアイドルたちが、まるで1985年の「We Are The World」のようにスター勢ぞろいで踊る演出は圧巻で、称賛の渦が巻き起こっていました。僕自身この「アイドル」という曲の素晴らしさはアニソン的J-POP特有のごった返すような刺激の連続とともに、前半と後半に「You're my savior, You're my saving glace」という賛美歌のようなコーラスが含まれていたことにあると思っているんです。

達郎さんとともにシュガー・ベイブを牽引したメンバーであり、ソロシンガーとして多数の傑作をリリースされてきた大貫妙子さんの名曲「4:00 AM」。ここ数年SNSを通じて特に世界的に伝播し愛されている「4:00 AM」の遺伝子を「アイドル」の中に僕は感じたんです。もしも「アイドル」の「You're my savior, You're my saving glace」というコーラス部分が、「4:00 AM」のゴスペルコーラス「Lord, give me one more chance」にインスパイアされたものだったとしたら、凄まじいなと。つまり、近年巷にあふれるいわゆるおしゃれで心地いいグルーヴをイメージとした画一的なシティポップ感の取り入れ方ではないが、あれだけド派手な音像とテンポチェンジ、情報量の多い歌詞、ここ数年の究極のJ-POP的楽曲の中に、ちゃんと“日本の70年代からの音楽史の継承と進化”を、作詞・作曲者であるAyaseさんが楽曲の中に埋め込んでいるという、そのソングライティングのテクニックと音楽愛に感動してしまったんです。勝手な思い込みかもしれませんが……。

大晦日の「紅白」で、K-POPアーティストや今の日本のアイドルたちを集めてあの曲を披露することまで制作時の計算に入っていたかどうかはわかりません。ただ、僕はここ数年「K-POPは海外でも聴かれているが、日本の音楽は内向きで進歩がない」というような論調があふれすぎている気がしていました。これまで日本が積み重ねてきた音楽が、自国の経済規模が大きかったが故に生まれた一種のガラパゴス的な文化であったことは事実ですし、実際にアメリカに次ぐマーケットだったわけですから、長年国内で完結してしまったこともそれなりの理由があります。ただ、よくも悪くも独特のポップミュージックが生まれ、育ってきたのは事実。アメリカやイギリスの音楽に憧れ、どうにかサウンドやグルーヴを取り入れて、日本語という言葉とミックスしてきた歴史。意図的にも偶然にも成長してきたそうしたシティポップ、アニソン、J-POPの刺激的なところ、独創的なところを強い意志を持って重ね合わせたとき、かえってどこにもない世界的に愛される魅力的な音楽が生まれたという事実に心が動かされたんです。YOASOBIのお二人のインタビューなどもその後いくつか読ませてもらったり、動画も観たりしたのですが、驚いたのがこれほどまで国民的、世界的にも多くの人に愛され、プレッシャーと忙しさで潰されてもおかしくないであろう状況の中でお互いの能力や才能について素直に褒め合うという姿勢。特にAyaseさんがボーカルの幾田りらさんに対して「喉の運動神経が素晴らしい」と褒め、幾田さんが本当にうれしそうに恐縮されている場面を観たとき、清々しさを感じたんです。これからいろんな可能性があるな、と若い世代から教わった大晦日でした。

最後に

丸4年間続けさせていただいたこの「POP FOCUS」。90年代から活動してきた僕の作詞・作曲家、歌手視点による楽曲やアーティストへの考察によって、新しい楽しみ方、味わい方が少しでも生まれていればうれしいな、と思っています。そして、最後に。ありがたいことにこの連載の書籍化が決定しました。この連載「POP FOCUS」を軸にした僕にとって初めての“日本人アーティスト、楽曲”に関する初めての書籍となります。これまでさまざまな雑誌で担当してきたコラムや連載、そして書籍のための書き下ろし原稿や僕自身が敬愛する仲間、先輩や若い世代との特別対談なども多数掲載予定です。シンガー、ソングライター、プロデューサーとして僕ももっともっといい曲を書き、歌い、自分の世代の役割を果たして音楽を継承し、携わり続けようという思いを強くしています。これからもよろしくお願いします。本当にありがとうございました。

西寺郷太(ニシデラゴウタ)

1973年生まれ、NONA REEVESのボーカリストとして活躍する一方、他アーティストのプロデュースや楽曲提供も多数行っている。2020年7月には2ndソロアルバム「Funkvision」、2021年9月にはバンドでアルバム「Discography」をリリースした。文筆家としても活躍し、著書は「新しい『マイケル・ジャクソン』の教科書」「プリンス論」「伝わるノートマジック」「90's ナインティーズ」など。近年では1980年代音楽の伝承者としてテレビやラジオ番組などに多数出演している。2023年3月、3rdソロアルバム「Sunset Rain」リリース。

しまおまほ

1978年東京生まれの作家、イラストレーター。多摩美術大学在学中の1997年にマンガ「女子高生ゴリコ」で作家デビューを果たす。以降「タビリオン」「ぼんやり小町」「しまおまほのひとりオリーブ調査隊」「まほちゃんの家」「漫画真帆ちゃん」「ガールフレンド」「スーベニア」「家族って」といった著作を発表。最新刊は「しまおまほのおしえてコドモNOW!」。イベントやラジオ番組にも多数出演している。父は写真家の島尾伸三、母は写真家の潮田登久子、祖父は小説家の島尾敏雄。

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