YouTubeでの視聴回数チャートや、ストリーミングサービスでの再生数が伸びている楽曲を観測し、今何が注目されているのかを解説する週イチ連載「再生数急上昇ソング定点観測」。今週はYouTubeで11月14日から11月20日にかけて集計されたミュージックビデオランキングの中から要注目トピックをピックアップします。
文 / 真貝聡
まずはこの週の初登場曲の振り返りから
今週のYouTubeのミュージックビデオランキングは、3位にSnow Manの「悪戯な天使」が登場した。今作はメンバーの岩本照が主演を務める、テレビ朝日系で放送中のドラマ「恋する警護24時 season2」の主題歌。どこか懐かしさを感じさせるような、ジャジーで大人な雰囲気に仕上がっている。
15位には星野源の「いきどまり」がランクインした。堺雅人の主演映画「平場の月」の主題歌として、星野が書き下ろした楽曲だ。ピアノとボーカルのみで構成されたソリッドなプロダクションは、星野の新たな到達点を予感させる。
また嗣永桃子、夏焼雅、鈴木愛理からなるユニット・Buono!が2012年に発表した「初恋サイダー」の2本の映像が、今になってトップ100に初登場。2016年に東京・日本武道館公演で披露したライブの映像が24位に、「初恋サイダー」のMVが65位に同時ランクインした。11月13日放送の音楽番組「ベストヒット歌謡祭2025」内で、井上和(乃木坂46)、吉川ひより(超ときめき♡宣伝部)、佐々木舞香(=LOVE)、櫻井優衣(FRUITS ZIPPER)、TSUZUMI(ME:I)の5名によるスペシャルユニットが同曲をカバーしたのがきっかけとなり、13年前の原曲が現在のアイドルファンに発見されて今回のランキングにつながったのだろう。
77位に登場したのはRADWIMPSの2011年リリースのシングル「狭心症」のMVだ。11月19日にリリースされたRADWIMPSのトリビュートアルバム「Dear Jubilee -RADWIMPS TRIBUTE-」で、Mrs. GREEN APPLEが同曲をカバーしたことにより、再びこの曲が注目されたと思われる。
今話題のドラマや映画の主題歌から、10年以上前の楽曲まで幅広い世代のMVが並んだ今週は、下記の3曲をピックアップする。
優里「最低な君に贈る歌」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場9位
角田光代の小説「愛がなんだ」は、28歳のOL・テルコが1つ年下で出版社勤務のマモちゃんに、過剰なほどの片思いをしている様子を描いた作品だ。マモちゃんはテルコの気持ちを知ったうえで、付き合う気がないのに、深夜に呼び出したり買い出しをお願いしたりと、いいように甘える。テルコも相手が自分に恋心を抱いていないことをわかったうえで、マモちゃんに尽くすところに、2人の歪な関係を感じる。
ある日、マモちゃんから「なぜ、自分にそこまで親切にするのか?」と尋ねられ、テルコは心の中でこんな気持ちを抱く。「好きだから、なんて理由で、私のやっていることのすべてを括ることができればどんなにいいだろう」。ときとして片思いは大きな矛盾を孕んでいる。「どうせ成就しないのだから、早く気持ちを切り替えたほうがいい」「この人は自分を求めているわけではないのに」と頭ではわかっていても、一緒にいたいという思いは止められない。
優里の新曲「最低な君に贈る歌」も、まさに恋の矛盾を描いた楽曲である。主人公の“私”は自分を都合よく弄ぶ相手に対して「最低な君」と思いながらも、求愛されれば「離さないで キスは止めないで」と願ってしまう。「楽しかったよ / これ以上はもういらないよ」というフレーズのあとに「どうか幸せにならないでね」と苛立ちを込めた心情を吐露するあたりにも、複雑な感情が表れている。理想の恋愛や純愛とは一線を画す、「好き」「嫌い」「憎しみ」「未練」が混ざったリアルな恋愛感情の描写が聴き手の共感を誘う大きな魅力に思う。
初星学園「理論武装して」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場72位
「アイドルマスター」シリーズの最新作「学園アイドルマスター」にて11月16日に追加プレイアブルキャラクターとして新アイドル・雨夜燕が実装された。雨夜燕は初星学園の生徒会副会長で、学園内でNo.2のアイドル。書道、数学、日本史、読書など多様な趣味・特技を持っており、プライドが高くて自他ともに厳しい実力主義者だ。また、幼馴染で生徒会長である学園一のアイドル・十王星南のことを強くライバル視している。
そんな雨夜燕のオリジナル曲として2026年2月25日にリリースされる1stシングルの表題曲が「理論武装して」だ。作詞作曲はBiSやBiSHなどの人気曲を多く手がけてきた松隈ケンタで、編曲は松隈率いる音楽クリエイターチームのSCRAMBLESが担当した。
この曲は「決して朽ちない崩れない / 遠くの景色見るために」「照りつける太陽浴びて / あるべき姿思い出せ」というフレーズからも読み取れるように、誇り高いNo.2の雨夜燕が知性や実力を武器にNo.1を目指す姿を描いている。全編通して強気な姿勢が表現されている一方、それだけでなく「恐れを知ったから / 負の感情がこぼれた」など、彼女が自分の弱さを自覚したうえで高い壁を乗り越えようとする描写もあり、キャラクターの人間味が際立っている。激しく重いサウンドや力強いリズムからも、雨夜燕の“強さ”と“覚悟”が感じられる1曲だ。
モーニング娘。'25「私のラミンタッチオーネ」
※YouTubeウィークリーミュージックビデオランキング初登場73位
モーニング娘。'25の新曲「私のラミンタッチオーネ」は、12月3日にリリースされる両A面シングル「てか HAPPYのHAPPY!/ 私のラミンタッチオーネ」の表題曲の1つ。11月14日にMVが公開されると「なんか昔のモーニングっぽい湿っぽさがあって、この曲かなりいいな」「2025年にこんなつんく節の効いた曲に出会えるとは」などの反響があり、昭和歌謡のウエットな雰囲気や疾走感のあるビートが「抱いてHOLD ON ME !」「Memory 青春の光」をはじめとした初期のモーニング娘。の楽曲を彷彿とさせると話題を呼んでいる。
プロデュースを手がけたつんく♂は自身のnote「つんく♂のプロデューサー視点。」内で、今作の解説を公開している。この記事によると「私のラミンタッチオーネ」の歌詞は、次のような思いを込めて書いたという。
「失恋して冬を迎える。彼に依存してた私は、その依存から解放されて良かったじゃんと自分で自分を肯定しようともがいている曲です」
曲の世界観を表現するために、サビを歌うメンバーの表情についてもつんく♂は強いこだわりを持っているようだ。振付を担当しているYOSHIKOに、彼はこんなことを依頼したそうだ。
「『曲の雰囲気で行くときっとサビは悲しい、切ない顔を全員すると思うけど、そうじゃない。ここは笑ってやっててください。その方が、フッた彼氏にとっては怖いから』ということを伝えたので、結構良い感じの笑顔をしてくれてます」
「てか HAPPYのHAPPY!/ 私のラミンタッチオーネ」は、12月5日に行われる神奈川・横浜アリーナでのコンサートをもって卒業する12期メンバーの羽賀朱音と、13期メンバーの横山玲奈、および年内で卒業となる15期メンバーの北川莉央にとってラストシングルであり、現在の11名体制での最初で最後のシングル。それを踏まえると「出会った頃よりも / 割と背が伸びていた」「希望ばかり未来しかないわ」といったフレーズは、過去を振り返りつつも新しい人生を歩もうとする、モーニング娘。'25の物語を表しているようにも思える。


