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パンチライン・オブ・ザ・イヤー2025(中編)~ラップが映し出す社会の空気とパーソナルな痛み

パンチライン・オブ・ザ・イヤー
8分前2026年03月17日 3:02

「2025年もっともパンチラインだったリリックは何か?」をテーマに、高久大輝、YAMADA KEISUKE、ポーザー白石、渡辺志保という4人の有識者たちが日本語ラップについて語り合う短期連載「パンチライン・オブ・ザ・イヤー2025」。前編の記事では、「売れること」に対するMIKADOの今っぽいスタンスや、オーディション番組「RAPSTAR 2025」がもたらした熱狂、そしてシーンの排外主義に対する視点について語り合ったが、この中編の記事ではWorldwide SkippaやZORNが描く社会との接点、TeteやSEEDAの楽曲に見られる「男性の育児描写」、そしてKamuiやJinmenusagiといったキャリアを重ねたラッパーたちの成熟について深いトークが交わされた。

取材・文 / 宮崎敬太 題字 / SITE(Ghetto Hollywood)

政治がラップやヒップホップと切り離されたカテゴリーだった時代

──「団結前夜」に対しては新しい世代による明確なカウンターもありました。Worldwide Skippaもディス曲「ダサくて助かる」を発表しましたし(参照:排外主義の曲は腹立つけど「ダサくて助かる」ラッパーWorldwide Skippaが痛烈ディス)。

渡辺志保 Worldwide Skippaのパンチラインとして、私は「まほろば」の「すべての差別と改憲に反対です」を選びました。彼はこういうことを真正面から言うけど、実は1曲まるごとこういうことを歌っているわけではない。音楽ナタリーのインタビューにあった通り、むしろ全体としてはファニーなラインの中に「すべての差別と改憲に反対です」みたいなラインがサブリミナルに入っている(参照:排外主義や差別に音楽でどう抗うか? Worldwide Skippaが目指すのはクラブで流れる“サブリミナルポリティカル”)。

ポーザー白石 テーマの選び方や曲の雰囲気に世代感が顕著に出ていますよね。僕はWorldwide Skippaのファニーな面として、「WAKARASE」から「ハネたことないけどコイキング / 次ギャラどうする? / 沢山ギャラ貰う」というラインを選びました。

渡辺 このラインの意味わかりますか?

──まったくわからなかったです……。

渡辺 私は息子の影響でギリ理解できました。これ、ポケモンなんですよね。

ポーザー そうなんですよ。僕は世代だから反応したし、大好きなラインだけど、むしろわからなくて当然という面もあります(笑)。解説すると、まず「コイキング」はポケモンの最弱キャラなんですね。「ハネる」がコイキングの技なんだけど、全然ダメージが入らない攻撃なんです。Worldwide Skippaはマイクを握ってまだ1年ちょいだから、マイクすら握れてなかったときのことを「ハネたことないけどコイキング」と言っていて。続く「次ギャラどうする?」はコイキングの進化形態であるギャラドスというポケモンとかかっているんですよ。文字で見ると「次ギャラどうする?」だけど、音源を聴くと「ギャラどす」と歌っていて(笑)。

──え、めちゃうまいですね!

ポーザー ですよね! コイキングって育てるのが超大変なんですけど、ギャラドスに進化させるとめちゃくちゃ強くなる珍しいポケモンなんです。

YAMADA KEISUKE しかも有言実行にもなっている。

──一気にシーンを駆け上がったWorldwide Skippaという珍しい存在を、ポケモンの進化になぞらえて表現しているのがうまいですね。

ポーザー そうそう。これはポケモン好きにはたまらないラインですよ。

渡辺 このラインには時代性を感じますよね。もう我々の世代はわからないですもん。

ポーザー こういうリリックはだいぶ増えてきましたよ。若い子は「Minecraft」というゲームのネタとかもめっちゃ入れてきて。自分ももうギリギリわかるかわからないかというレベルです。

──でも、ポケモンやマイクラのような固有名詞には時代性が記録されているので、もっと時間が経つとジャーナルとしての意味が出てくるんです。この時代の若者はこんなことを面白がっていたのか、みたいな。そういう意味でも固有名詞をうまく使うリリックは貴重だと思います。

ポーザー Worldwide Skippaがネットミームを取り入れることについて、「それって今しか面白くないじゃん」みたいな叩かれ方もしていますけど、ちょっと時間が経つと逆に「あの頃、こういうミーム流行っていたね」となりますもんね。

渡辺 そういう中にさっきの「すべての差別と改憲に反対です」だったり、「俺が出るライブで痴漢したら殺す」という曲で「俺が出るライブで痴漢したら殺す / 例え俺が出てなくても」みたいなことを言ってくれることに、すごく希望を感じます。

ポーザー Worldwide Skippaは発明家だと思います。「俺が出るライブで痴漢したら殺す」を歌うことで、警告にも啓蒙にもなる。

渡辺 こういうことって、いくら女性が言っても矮小化されたり揶揄されたりしてなかなか伝わらないんですよ。

音楽ナタリー編集部 あとWorldwide Skippaが「RAPSTAR」で敗退したとき、ファンの間で「BIBIONATRACKが上がって、なんでSkippaが落ちるんだ」的な批判があったんです。そういうときもWorldwide Skippaは「俺はBIBIONATRACKさんをカッコいいと思っているので、そういうこと言わないでください」的なことを言っていて。

ポーザー 「本当に俺が好きだったらそういう言葉出てこないはずだけど」みたいなノリでしたよね。みんなが無視してきたことをちゃんと言う姿勢がありますよね。確か、ゲイをあざけるジョークに対しても、Sieroが「それ全然面白くない」としっかり言っていたし。カッコいい人がダサいことをちゃんとダサいって言い始めるのはすごくいいなと思いました。

音楽ナタリー編集部 jellyyとSieroのコラボ曲「Fxck Pt. 2」には、jellyyの「くだらん アイツらはいじってるゲイ」というラインがありました。

渡辺 Worldwide Skippaよりも2世代くらい前のラッパーにとって、レイシズムの話題も含めて、政治はラップやヒップホップと切り離されたカテゴリーだったと思うんです。アメリカでは当然地続きですが、先ほどの世代の人たちは「日本の俺たちのラップはそうじゃない」と思っているフシがあるように感じる。

高久大輝 あくまで想像の範囲ですが、上の世代は、政治に関しても反権威的な意図を持ってあえて歌詞に取り入れてこなかった面もあると思うんです。その当時、政治について我が物顔で語る人に対するうさん臭さのようなものを嗅ぎ取っていたんじゃないかなと。だからこそ、こうしたズレが生じてしまっている気もします。あと、「団結前夜」については右翼系暴力団を扱った映画になぞらえて、「現代版の『凶気の桜』だ」なんて言われていたりもしたんですけど、その話を友達のDJにしたとき、「全然違うよ。『凶気の桜』は無知な若者が狡猾な大人に騙されて洗脳 / 搾取される話で、今回の一件とはまったく違う話だよ」と言われて、確かになと思ったんです。あの映画と「団結前夜」は完全に別物なんですよね。

人の痛みと真剣に向き合い、共感する努力をすることの意味

渡辺 この流れで私は、YAMADAさんがZORNの「戦争と少女」の「虹がかかんのは雨のあと/ 歴史の末っ子 誰もがそう」をどんな理由で選ばれたのか伺いたいです。

YAMADA これはNHKで放送されたドキュメンタリー「戦火の時代(いま)に紡ぐ歌 PASS THE MIC」を通じて制作された楽曲です。この番組はZeebraとZORNそれぞれが番組側からお題をもらって、リリックに落とし込んでいくという内容でした。Zeebraのテーマが「現代の戦争」、ZORNのテーマが「東京大空襲」と「戦災孤児」。Zeebraはイスラエル、パレスチナ、ロシア、ウクライナといった各国のラッパーたちとディスカッションして、「UNITY」的なマイクリレーをしようということになったんです。ただ、今挙げた国の人たちがマイクリレーすることは当然難しくて……。

──お題の設定の時点で、ちょっとZeebra側はハードルが高すぎるような……。

YAMADA そうなんですよね。世界各地で起きている現代の戦争について、日本で暮らしている我々が当事者たちにどうこう言えることは少ないと思うので、Zeebraサイドの企画は難しいなと感じました。一方でZORNは、戦争体験者のおばあさんから話を聞いていました。ZORNはリリシストであり、言葉を軽く扱わない人なので、自分でもいろいろ考えて、迂闊なことは言わないようにしている。でも、取材を進める中で、とある女性から「想像できないでしょ」と言われてしまうんです。これは企画の根本を揺るがす発言ですよね。それでもZORNがめげずに言葉と向き合って紡いでいく様子がカッコよかったです。

──そんな中でもYAMADAさんがZORNの「戦争と少女」のラインを選ばれたのはなぜでしょう?

YAMADA ZORNの「歴史の末っ子」という表現に感銘を受けました。最近の情勢の中で自分もそう感じさせられることが多いですし、この曲をヒップホップが好きな若い世代が聴く意味は大きいなと感じます。番組では、ZORNが娘さんに戦争の話をするものの、「それはいいから遊びに行こう」と言われて終わります。これは逆説的に日本が平和であることを象徴していて印象的なシーンでした。話を聞いたおばあさんの中には、その後に亡くなってしまった方もいたんですが、戦争体験者である彼女たちの話がZORNのヴァースというアートとして残った点でも、意味のある曲だと思います。あと、この曲はビートがNujabesというのも特別な点です。Nujabesのビートに日本人のラッパーが乗ることなんて、今後もう一生ない気がするのでNHKには感謝ですね。

高久 今の話題の流れから、僕はdj.Blackolyのアルバム「現場からは以上です」に収録された「Our Friend」での、客演の仙人掌が歌っている「お前の苦しみは俺たちの一部だと知れ」というラインについて話したいです。この曲は仙人掌が友達に向けて歌っている曲だけど、自分自身に向けて言ってるようにも聞こえるし、もっとたくさんの痛みも包摂しているように感じたんです。ここまで何度か話題になった「RAPSTAR」のフッドステージでは、誰がどれだけハードに生きてきたか、苦しんできたか、ということが評価軸の1つになっていますよね。大前提として、それはそのラッパーの背景にある事実で、もちろん番組を盛り上げる演出でもあるのですが、視聴者はどんどんハードなエピソードに惹かれる傾向がある。要するに痛みを数値化していくような流れがどうしても出てくると思うんです。このラインはそんな状況を踏まえた中で、そもそも「痛みの共有」とは他者と深くつながる手段だったんじゃないかというところに立ち戻らせてくれた。

──他人の不幸な生い立ちを、ただエンタメとして消費するだけではなく。

高久 はい。生きているとみんなそれぞれ何かしらの痛みを抱えています。もちろん人それぞれだから、どういう痛みで、その人にとってどんな重さなのかも違う。人種、民族、宗教、ジェンダーの違いからくるものや家庭環境の問題などさまざまな形があると思うんですけど、痛みを比べることって本質的にはできないと思うんです。あくまで、「痛みの種類が違うだけ」で。種類は違っても、痛みは痛みとして、いろんな人の中にある。だからこそ、その痛みを通してつながることができるんじゃないかと思います。

──それは誰かの痛みを矮小化するわけではない、という意味も含めてですね。高久さんがMasato Hayashiのときにお話しされた内容につながる視点だと思います。

高久 はい。痛みは本来共感し合えることだ、というのをこの仙人掌のラインで再確認しました。先ほどの話題で言うと、仙人掌も政治的なこととは距離を置いていた世代だとは思います。でもMoment Joonとシャウトを送ったりと変化しながら、物事の本質を突くような表現を続けているラッパーです。MONJUもそうですが、僕は仙人掌が東京最高峰のラッパーの1人だと思っているし、実際にシーンのプロップスも得ている。客演も含めてラッパーとしてもコンスタントにリリースを重ねていますし、2025年には幻の1stアルバムと言われた「Be In One's Element」もリイシューしてるので、若い世代のリスナーにもぜひゲットしてもらいたいですね。DJ Slowcurv名義でミュージックラバーとしての側面も見せてくれているのも魅力的です。

男性の育児参加をヒップホップから感じた

YAMADA 「痛みの共感」という話題が出たので、痛みではないのですが共感したラインであるTete「angela」の「帰ってきたら 泥だらけ / お風呂に入れたら 靴を磨く」を紹介します。このラインを選んだのは、私が育児に比較的コミットしているからなんですが、2025年は育児に関して言及するラッパーが、ベテラン、若手問わず多かった年でもあったと個人的には記憶しています。過去の「パンチライン・オブ・ザ・イヤー」では女性目線の家事、育児がピックアップされてきていますが、今年でいえばほかにもBenjazzyの「RAPと子育てしかしてねぇ今はもう」など、5年前とかだったら考えられないラインがあります。

高久 Teteのこのライン、すごいですよね……。

YAMADA この曲には「机に氷結と紫」といった退廃した描写もありつつ、そんな中でも子供について考えていることがわかるのが、ピックアップしたラインなんです。お風呂に入れたあとに、泥だらけの靴を洗う描写にリアリティを感じました。

渡辺 Teteが歌う娘さんの描写には、育児の連続性がありますよね。おむつを替えるとかそういう瞬間的な行動ではない、生活の中で育児と自分自身が並走しているイメージと言いますか。

YAMADA 渡辺さんのおっしゃるとおりで「男性が育児している」というドヤ感がない。Teteのリリックには情景描写がよく出てきますが、その中にたまたま育児がある、という印象ですよね。あくまで日常の中の一部という自然体のラインになっていて、Teteのリリックの中でも特に好きでした。

高久  育児といえば、SEEDAの「親子星」も最高でしたよね。

YAMADA あの曲ではフックで「スプーンで食べてよ ほら」と歌ってるんですけど、小さい子供って、親がいくら言っても手で食べちゃうんですよね。そこを拾ってリリックにできるところが、等身大を大事にしているSEEDAならではだと思いました。実際に育児をしてないと、このラインをフックに入れようという発想にならないと思うので。

──自分は子供がいないので、そのニュアンスを全然わかってませんでした! 個人的にSEEDAの「親子星」は2025年におそらく一番聴いたアルバムなので、新しい視点を教えてもらえてうれしいです(笑)。

YAMADA 本当に素晴らしいアルバムでしたよね。収録曲「L.P.D.N. Feat. VERBAL」で日本屈指のビーフとして知られる「TERIYAKI BEEF」を終結させたのも、シーンにとっても大きな出来事でしたし。

高久 「親子星」に関しては、SEEDA自身が若い世代とチームになってコライトでアルバム制作したことを大々的に打ち出したことも重要だったと思います。

ダサいものをカッコよくしているところがカッコいい

YAMADA そんなSEEDAのアルバムに客演で参加していたJinmenusagiの「うそさ」から、「結局バースで歌うほどみんな好きじゃなかったんだろ / この音楽『これしかねぇ』とか平気で嘘つける / お前なら余裕だよ就活」を選びました。この曲を収録したアルバム「ALXVE」は今のトレンドというより、彼が本当にやりたいことを突き詰めた作品だと感じました。そんな中で「うそさ」は、彼のアイロニーが際立っています。「ぜんぶ嘘さ 大人はクソだ」と言いつつ「子どもの頃 楽しかった なんて うそさ」とも言っている。一般的にはどちらかになりがちですが、彼はどちらも嘘かクソだとラップしています。

渡辺 YAMADAさんはなぜこのラインを選ばれたんですか?

YAMADA 「これしかねぇ」って、いわゆるラッパーのクリシェじゃないですか。それと就活を掛けているんですよね。就職活動は、いかに取り繕って自分をよく見せるかっていう側面があるので「平気で嘘をつけるお前なら、ほかの仕事もできるよ」という意味にも掛かっていて見事だなと思ったんです。しかも、Jinmenusagiは自らのヒップホップ道を貫き通したことを誇る一方で、別の道を選択した人たちに対して同じヴァース内で理解を示しているんです。彼はラップゲームに参加している人に向けてこの曲を歌っているのかもしれないですが、リスナーにも同じく刺さる曲だと思いました。

ポーザー 自分がKamuiさんと配信している番組で、Jinmenusagiのアルバムを取り上げたんですが、KamuiさんとJinmenusagiは年齢もキャリアも近いみたいで。同じ時代を経験していると話されていました。

渡辺 JinmenusagiやKamuiたちがデビューした直後に、BAD HOPやKANDYTOWNという、すごく大きな光のような2グループがブレイクしたし、彼らはジレンマを感じることも少なくなかったんじゃないかな。

ポーザー 僕もこの「うそさ」は本当に大好きです。特に「皮肉なことにも人間らしさを教えてくれたのはインターネット」はものすごいパンチラインだと思いました。今の20代以下の世代にはこういう感覚の人、少なくないと思うんですよ。ヘッズツイッタラーの人たちはこのラインに沸きに沸いていましたね(笑)。

──ポーザーさんはKamuiの客演曲からもラインを選んでいますよね。

ポーザー Need a Flex「Why do we fall?(feat. Kamui)」の「誰だって最初は無名 / 破れたダチの夢 / 代わりにおれ縫うミシン / 美人を追うように人生夢で生きてる羞恥心」というKamuiさんのラインです。

渡辺 「縫うミシン」という言葉選びが素晴らしいですね。

ポーザー Kamuiさんは35歳で、もうキャリアも10年を超えようとしているんですね。このラインはそういう人じゃないと言えない重みがあります。あと僕がこのラインを選んだポイントは「美人を追うように人生夢で生きてる羞恥心」で。昔、羞恥心ってグループがいたじゃないですか。

YAMADA 「クイズ!ヘキサゴンII」のですか!?

高久 めっちゃ世代だった(笑)。

ポーザー ですです。羞恥心の「羞恥心」っていう曲に「人生 夢で生きてる」という歌詞があって、Kamuiさんはそこをサンプリングしているんですよ。自分もギリ世代だったので、気付いたときにめっちゃびっくりしました(笑)。

──この曲カッコいいですよね。

YAMADA 羞恥心をサンプリングして、ダサいものをカッコよくしているところがカッコいいですね。

ポーザー 「美人を追うように」のフロウもすごい跨ぎ方をしていて。自分自身、今年で28歳なんですけど、最近になってようやく今30代のラッパーの言っていることがわかるようになってきたんですよね。数年前は「これは俺の話じゃねえな」みたく思っていた自分が恥ずかしいんですけど……。

YAMADA いやいや、そういうものですよ(笑)。

ポーザー 実際、自分みたいなことをやっていた周りの友達や知り合いも、やめていく人が増えてきた時期だったから、Kamuiさんのラインは余計に身に沁みました。

渡辺 Kamui、2026年にもっとたくさんの人に知られてほしいな。

ローソンの前で、2人組のギャルが歌っていたヴァース

渡辺 YAMADAさんが選んだJinmenusagiの「うそさ」のラインも、ポーザーくんが選んだKamuiのラインも、共通した感覚がありますよね。その流れで言うと、高久さんが挙げているLunv Loyal「Big Step ft. YTG, Deech, Yvngboi P」でのYvngboi Pの「今誰でもマイク持てる時代 / カスか偽物ばかり / I’m trap star, not rapstar / You feel me? / 俺の仲間たち本物しかいない」も近いものがあると思いました。

高久 「Big Step」は2025年を代表する曲だと思います。僕は特にそのYvngboi Pのラインが好きですね。さっきも話しましたけど、言い方は悪くなりますが、最近はラッパーが多すぎて、僕自身もがんばっていろいろ聴いてはいるものの「……」となることが増えたんです。さすがに「カスか偽物」とまでは思わないけど、クリシェがあふれすぎていて、似たり寄ったりに聞こえるというか。自分の耳の問題なのかもしれないけど……。

渡辺 新しさを感じないことは多くなりましたよね。

高久 そんなときにこの「Big Step」を聴いてブチ上がってしまったんですよ(笑)。東北、関東、九州のカッコいいラッパーたちがみんなカッコいいラップをしていて、おそらくほとんどの人はこれを聴いて「偽物」とは思いませんよね。そういう時代的な側面と、つながり的な面が見えて個人的にすごく好きで、かつ一番盛り上がったのが僕が挙げたYvngboi Pのラインでした。個人的には去年出た中では一番インパクトがあった曲ですね。あとこれは超個人的な体験なんですが、去年HARLEMの近くのローソンの前で、2人組のギャルがYvngboi Pのヴァースをアカペラで楽しそうに歌っていて。

全員 ヤバー(笑)。

高久 ライブがあったのかわからないんですけど、お酒を片手に口ずさんでいたのを目撃したことも、このラインを選んだ理由として大きかったですね。

YAMADA 話は少し戻りますが、私も高久さんと同じように、新曲を聴くことにちょっと疲れた時期があったんです。そんなときに友人が「『SONG WARS』が面白かったよ」と教えてくれたので、軽い気持ちで観てみたら、出ているアーティストたちのクオリティの高さに驚きました(参照:誰の曲が“DOPE”か?注目のヒップホップアーティストが競い合う「SONG WARS」開催)。「え、日本語ラップの若手って今こんなレベルなのか!?」と感動して。私は今年で38歳なんですけど、だんだん若い世代の感覚がわからなくなってきていて。でも日本語ラップは好きだし、なんとか聴いてきたんです。そんな中で、Worldwide Skippa、Siero、jellyyなどが出演していた「SONG WARS」と出会わなかったら、ここまで熱心に日本語ラップの新譜を聴くことはなかったかもしれないです。そこで知ったラッパーの中で、最も刺激的だったラインがjellyyによる「Most Hated」の「大嫌いな自分の声で 大嫌いな奴ら殺す」です。

──番組でjellyyの「Most Hated」に出会ったんですか?

YAMADA いえ、番組で披露していたのは「Guap / Ballout」でしたね。その曲が大好きになり、ディグっていく中で「Most Hated」にたどり着きました。このような剥き出しの感情は若い世代にしか出せないと思ったんです。私自身は若い人と接する機会がどんどん減っているので、こういった曲から今の社会の空気を理解する入り口になった感覚があって、このラインを選びました。

渡辺 ポーザーくんに質問なんですけど、配信は若者たちの居場所になっている感じなんですか?

ポーザー だと思いますね。「SONG WARS」を配信しているdominguap(参照:アングララッパーの新たな登竜門、山梨在住のストリーマーdominguapが仕掛けるTwitch企画「MOB SONG WARS」の舞台裏)が言っていましたが、視聴者はかなり若い子が多いようです。主にアングラと呼ばれる超若い子を取り上げているから、自然と視聴者もそういう世代が多くなるようで。「RAPSTAR 2025」のサイファーに出ていたh1rukaは、もともとdominguapの配信の視聴者だったんですよ。dominguapの「1時間で曲を作ろう」という企画にh1rukaが曲を送ってきたり。「RAPSTAR」のサイファーでもdominguapのTシャツを着ていたのがアツかったです(笑)。

渡辺 ネットネイティブの子たちが自分らでコミュニティを作って、その中で自分の生きがいを見つけられるのって素晴らしいと同時にすごく合理的に感じます。

メンタルヘルスは外からではわからない

ポーザー ちょっと話が前後しますが、Lunv Loyalからの東北つながりで、VCE NAVA(ヴァイスナーヴァ)の「flame」から「親2人飯も食えてるけど満たないハート / 自殺した友達だって貧乏じゃなかったっしょ」というラインの話をしたいです。

YAMADA 私もこのラインすごく好きです。

ポーザー VCE NAVAは青森の人で、去年会いに行ってきたんですね。街を案内してもらったんですが、中心地から住宅地の距離がすごく短くて。青森市であったイベントをリハから観させてもらったんですが、そこで地元の若手ラッパーに話を聞くと、やはり小さい世界で回っている感じというか。悪い言い方をすると地方都市的な閉塞感があって。

高久 わかります。それってLunv Loyalがラップしてきた東北の寒さや、ちょっと暗い雰囲気、閉塞感のある土地、というイメージとも重なるなあと思いました。

渡辺 ポーザーくんはなぜこのラインを選んだんですか?

ポーザー 「貧乏ではなかったけど自殺してしまった」という部分に、今の日本の闇があると思ったからです。痛みと言いますか。そういうことを言う若いラッパーがあまりいないんですよ。年末に出たSieroの「THE GOAT TAPE 4」がまさにそういう作品だったんですが、パンチラインとして1行だけ抜くのが難しくて選べない。

渡辺 同感です。私もどこかのタイミングでSieroについて話そうと思っていました。

ポーザー 僕自身、父の同級生に家族ぐるみで仲よくしていた方がいたんです。奥様もお子さんもいて、いわゆる普通の家庭だと思っていたんですが、その方は自死されてしまって。メンタルヘルスは外からではわからない。だからこそ、VCE NAVAがSieroのように曲で言及していたことにハッとさせられて、このラインを選びました。

<後編に続く>

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