10月11、13~15日の4日間、東京・恵比寿ザ・ガーデンホールで細野晴臣の音楽活動50周年を記念したイベント「祝!細野晴臣 音楽活動50周年 × 恵比寿ガーデンプレイス25周年『細野さん みんな集まりました!』」が開催された。
このイベントは“細野さんの音楽活動50周年をみんなで勝手にお祝いをする、120%ファン目線”をテーマに行われたもの。日程ごとに異なる内容の公演が実施された本イベントでは、台風19号接近による影響から12日の公演が中止となったものの15日に振替公演が行われ、予定通り4日間にわたるプログラムの中でさまざまなアーティストが細野の50周年を祝福した。この記事では初日の「細野さんを歌おう!」を中心に、本イベントの様子をレポートする。
Day1 細野さんを歌おう!
細野と長年活動を共にしてきた高田漣(G)、伊賀航(B)、伊藤大地(Dr)、野村卓史(Key)からなるThe Eight Beat Comboがホストバンドとなり、さまざまなボーカリストを迎え細野の楽曲をパフォーマンスする初日の「細野さんを歌おう!」。スモークが淡く漂う舞台に静かに登場したThe Eight Beat Comboの面々は、まず映画「銀河鉄道の夜」の「エンド・テーマ『銀河鉄道の夜』」を演奏し観客を迎え入れた。その後「皆様ようこそいらっしゃいました」という高田の挨拶のあと、1人目のゲストボーカリストとして安部勇磨(never young beach)が登場し「ハニー・ムーン」「悲しみのラッキースター」を歌唱。1曲目を歌い終えた安部は震える声で緊張を訴えて観客の笑いを誘いながら「今日出演する方もここに来ている皆さんも、みんな細野さんが大好きという奇跡……”細野さんが大好き×大好き=無限大“という、こんな日にご一緒できて僕は心の底からうれしいです」と語った。続いてアコースティックギターを手に登場した藤原さくらは「四面道歌」「東京ラッシュ」をブルージーな歌声で披露し、3人目の角舘健悟(Yogee New Waves)は「ろっかばいまいべいびい」「はらいそ」を情感たっぷりに歌い上げた。「はらいそ」の間奏部分では、角舘が自らシンセサイザーを演奏し宇宙感のある電子音を会場に響かせる一幕もあった。
続いて伊藤のカウントから「PLEOCENE」がスタートし、ジャケット姿の高城晶平(cero)が登場。The Eight Beat Comboとのセッションを楽しみながら楽曲を歌唱したあと、自身がDJでよくかけるという「ZOOT KOOK」を歌い上げた。そして颯爽とステージに現れた志磨遼平(ドレスコーズ)は、エキゾチックなナンバー「北京ダック」とロカビリー調の「Pom Pom 蒸気」を華やかにパフォーマンスし会場を盛り上げる。6組目は、辻村豪文がアコースティックギター、辻村友晴がミュージカルソウをそれぞれ携え登場したキセル。「フニクリ、フニクラ」を歌唱したあと、The Eight Beat Comboのメンバーがステージ袖にはけ、キセルだけで「しんしんしん」を披露。2人が奏でる楽器の音色と朗らかな歌声が会場を包み込んだ。そしてThe Eight Beat Comboが再び舞台に戻り、ピンク色のシャツに身を包んだ永積崇(ハナレグミ)を迎え入れ小坂忠「しらけちまうぜ」をパフォーマンス。MCで永積は、細野にベーシストとしてだけでなくシンガーとしての尊敬の念を抱いていることを語る。また星野源が選曲を担当した細野のベストアルバム「HOSONO HARUOMI compiled by HOSHINO GEN」についても言及し、「そのアルバムのブックレットの中で、(星野)源ちゃんが『細野さんは愛の人。“おまえの中で雨が降れば 僕は傘を閉じて 濡れていけるかな”という歌詞の一節にすべて表れている』というようなことを書いてましたけど、まさにそうだなと……今日はこのシャツと一緒に、その曲を歌わせていただきます」と語ったのち、「恋は桃色」を披露。永積のみずみずしく豊かな歌声にオーディエンスはうっとりと耳を傾けた。
その後休憩を挟んで、ライブの後半がスタート。高田の“本日の最年少ゲスト”という紹介で細野の孫でベーシストの細野ゆうたが呼び込まれ、高田らとインスト曲「ABSOLUTE EGO DANCE」を披露し会場を大いに沸かせた。続く9人目のゲストとして現れた原田郁子(クラムボン)は、満面の笑みで「お願いしまーす!」と声を張り上げ、表情豊かに「福は内 鬼は外」、そして伸びやかな歌声で「風の谷のナウシカ」をパフォーマンスした。次にギターを手に登場した堀込高樹(KIRINJI)は、「YELLOW MAGIC CARNIVAL」「ローズマリー、ティートゥリー」の2曲を歌唱したほか、この日の楽屋での出演者同士のやりとりを紹介し観客を和ませた。その後11人目のゲストの曽我部恵一(サニーデイ・サービス)が登場し、細野が作曲と編曲を手がけたかまやつひろし「仁義なき戦い」を熱唱。楽曲について「初めて聴いたとき、たまげてね……すぐサニーデイ・サービスでコピーしました(笑)」とお気に入りの1曲であることを語った。次に披露した「暗闇坂むささび変化」では、爽やかなバンドサウンドに乗せて曽我部がまっすぐな歌声を響かせた。
会場のムードが高まる中「ガラスの林檎」の演奏がスタートすると、舞い踊るようにUAが登場。バンドの奏でる音色に耳を傾け体全体を揺らしながらパフォーマンスしたUAは「今日の、ものすごい魂に触れてる感ね!」と興奮を観客に呼びかける。次曲の「Roochoo Gumbo」では、UAが情熱的な歌声を披露すると共にバンドメンバーのソロパートを回し、会場全体の温度をさらに上昇させた。YO-KING(真心ブラザーズ)は、観客に語りかけるように「僕は一寸」を、そして身振り手振りを交えながらyanokami「終りの季節」をパフォーマンス。途中「今日仕入れたばかりの、細野晴臣もぎたて情報を1つ。楽屋で(高橋)幸宏さんから聞いた情報なんですけど。細野さんは一人称を“俺”と“僕”とで使い分ける人が嫌いらしくて、幸宏さんが使い分けていた際に、細野さんが『あれ?』ってつっこんできたんですって(笑)」と話し、観客を大いに笑わせた。そして客席が一層の盛り上がりを見せる中、14人目のゲストとして大貫妙子が歓声を浴びながら登場し「ファム・ファタール」を豊かに歌唱。次曲「ウォリー・ビーズ」の歌詞について大貫は、「“Om Namah Chandraya Shanti Shanti Candraya”という部分は、『尊い安らぎをお与えください』という意味。皆さんも一緒に歌ってくださいね」と呼びかけ、客席から湧き起こる合唱に応えながら繊細かつ柔らかなパフォーマンスを繰り広げた。そして高田の呼び込みで、最後のゲストである高橋幸宏がステージに登場。大きな歓声に包まれた高橋は「Stella」と、そして「最後の曲のタイトルは、今日のこのバンドの気持ち。そして出演者全員の気持ちです」という言葉を添えて「ありがとう」をパフォーマンスし、観客からの大歓声に包まれながらステージをあとにした。
アンコールでは、高田の「先程、幸宏さんを最後のゲストと言いましたが、もうひと方お呼びしたいと思います。細野晴臣!」という紹介で、細野が登場。客席から割れんばかりの大歓声が湧き起こる中、ステージの中央の椅子に腰掛けた細野がおもむろに口を開く。「今日一番疲れてるのは僕ですよ。ずっと鏡見ているみたいな……今まで鏡見ないで暮らしてきたのに(笑)」と第一声で観客の大笑いをさらった細野は、続けて「それにしても、バンドの皆さん。本当にありがとう……自分だったらできないね。いやあ、若いんだね」と照れながらも、出演者への感謝の気持ちを語った。そして「薔薇と野獣」を歌唱し、メロウな歌声とバンドサウンドを会場いっぱいに響かせた。その後、細野は翌12日に予定されていた映画の上映イベントについても言及し「中止は残念だなと思ってますが、いつか、近いうちにまた。ひょっとすると火曜日あたりにできるんじゃない?」と観客を笑わせた。そして細野の「幸宏、出てきて」という合図で高橋が再び舞台に登場し、しばしステージ上の椅子に並んで腰かけ談笑を繰り広げた。しばらくして高橋が、「あのときは僕が歌ってたんですけど、こういうバージョンでは細野さんが抜群なんで、僕はあんまり邪魔しないように」と話すと、細野が「じゃあね、“俺”は1番歌うから、君は2番歌って」とすかさず返答。場内に大きな笑いと歓声が響きわたる中、絶妙なタイミングで「スポーツマン」へ。客席からハンドクラップが自然と湧き起こり、細野と高橋のボーカルとバンドの軽快なサウンドのセッションが繰り広げられた。最後に細野はThe Eight Beat Comboの4人と高橋を改めて紹介。大歓声を浴びながら「ありがとう。皆さんお疲れさまでした。よいお年を。あと台風に気をつけて。おやすみ」という言葉と共にステージをあとにした。こうしてThe Eight Beat Comboによる、 16組のゲストを迎え全32曲が披露された初日の公演の幕が下ろされた。
Day3 細野さんで踊ろう! Presented by 音楽ナタリー
13日に行われたDJイベント「細野さんで踊ろう!」には細野のほかスカート、水原佑果、TOWA TEI、Kenmochi Hidefumi(水曜日のカンパネラ)、砂原良徳、小西康陽、OL Killerが参加。各アーティストは細野のソロ曲のほか、彼がプロデュースや作詞作曲を手がけたナンバー、はっぴいえんどやYellow Magic Orchestraといった所属グループの曲など、数々の楽曲を用いたパフォーマンスで観客たちを踊らせた。ジム・オルークは前日の台風による交通機関への影響で出演がキャンセルとなったが、彼のDJタイムでは自身の用意した音源が流された。さらに小西のDJの際には、ゲストとして野宮真貴もステージに登場し、ピチカート・ファイヴ「パーティー」を披露するサプライズでオーディエンスを沸かせた。
この日トリを務めた細野は「いらっしゃい!」と気さくな様子でオーディエンスを歓迎。「最近よく聴いていた曲でDJ、やってみます」と語るとHonne「I Might ○」、Tok Tok Tok「The Weight」、ペギー・リー「It's a Good Day」など、落ち着いたムードの楽曲群でフロアをチルアウトさせた。合間には自身の関わったユニット・SKETCH SHOWの「ATTENTION TOKYO」、HASYMOの「WEATHER」を挟みつつ、M. Zalla「Produzione」では軽やかな足取りでステージを闊歩。そして最後に細野はクラシック曲「Fantaisie In E flat Major」でフロアを厳かに彩り、大勢の拍手に包まれながらステージをあとにした。
Day4 細野さんと語ろう! ~デイジーワールドの集い~
14日には「細野さんと語ろう! ~デイジーワールドの集い~」と銘打ち、細野がメインナビゲーターを務めるInterFM「Daisy Holiday!」の公開収録を兼ねたトークイベントが行われた。ホストの細野はステージ上のソファに腰掛け、代わる代わる登場するゲストと30分ずつ対談。Yellow Magic Orchestraを手がけた音楽プロデューサー川添象郎とのトークでは当時の活動の裏側が語られ、細野は「川添さんなくしてはYMOの成功はなかったですよ」と断言した。また川添は最初にYMOの音源を聴いたときのことを回顧し、「あれは最初、誰しも頭を抱えますよ! 細野さん、勘弁してくださいよ(笑)」と当時その音楽性に思わず困惑したことを明かした。
続くゲストの原田知世は10月16日にリリースしたバラードアルバム「Candle Lights」より、細野がリミックスした「Love Me Tender - Haruomi Hosono Rework」について「声の歌の表情が全部変わっていて、感激して鳥肌が立って。何度も何度も聴いてしまいました」とコメント。自ら出演を志願したという3人目のゲスト・いとうせいこうとの対談では、音楽から台風の話まで話題が多岐にわたった。細野は近年特に多作であることについて触れられると、「限られた時間しかないから、加速してるんですよね」と返答し、さらに「『20世紀を忘れちゃいけないよ』という気持ちが自分にあるんでしょうね」とカバーに対する思いを語った。イベントの最後には細野が「自分の生まれ変わりかと思った」と語ったブギウギを愛する19歳・福原音と、細野の孫のベーシスト・細野ゆうたが登場。先日「Daisy Holiday!」で顔を合わせた3人は、福原(G)、細野ゆうた(B)、細野晴臣(Dr)という編成でSanto & Johnny「Sleep Walk」を生演奏し、「細野さんと語ろう! ~デイジーワールドの集い~」を締めくくった。
Day2 細野さんと観よう! Presented by 映画ナタリー 振替公演
10月12日に開催予定だった「細野さんと観よう!」は、台風19号の影響を受け15日に振替公演を実施。この日は細野自身がセレクトしたアニメ映画「イリュージョニスト」と彼の姿を追ったドキュメンタリー映画「NO SMOKING」特別編集版の上映、細野、リリー・フランキー、安藤サクラによるトークが行われた。
2011年の東日本大震災直後に「イリュージョニスト」を鑑賞したという細野は、同作のオリジナル脚本を手がけたジャック・タチについて触れつつ「タチの動きがそのままアニメとして表現されているのにびっくりしました。アニメーターは、タチの全作品を観て練習したらしいんです。僕もあの動きを練習したんですけど、すごく難しいんですよ(笑)」と明かす。また本作やタチの「プレイタイム」に感じる印象を「今観ると、時代の変わり目を感じるんです。未来的な都市と、主人公のギャップがかなりある」「タチの気持ち、なんとなくわかりますよね。自分がその歳になってきているから。時代が変わっていく中で、芸人や音楽家も疎外感を味わうんです」と共感を語った。
途中からトークコーナーに参加したリリーと安藤は、細野が音楽を制作した是枝裕和の監督作「万引き家族」について話題に挙げる。その中では細野と「万引き家族」に出演した樹木希林の外見が似ていることについて語られ、撮影時のエピソードもたっぷりと語られた。イベントではこのほか、音楽活動50周年を祝福する著名人のメッセージ動画を上映。そしてドキュメンタリー映画「NO SMOKING」上映後、細野は4日間にわたるイベントを振り返り「いやー、長かった。うれしいことばっかりでしたね」と感慨深そうに語り、ピースをしながらステージをあとにした。
※高城晶平の「高」ははしご高、曲名「I Might ○」の○は右半分黒の声調記号が正式表記。
「祝!細野晴臣 音楽活動50周年 × 恵比寿ガーデンプレイス25周年『細野さん みんな集まりました!』細野さんを歌おう!」2019年10月11日 東京・恵比寿ザ・ガーデンホール セットリスト
The Eight Beat Combo
01. エンド・テーマ「銀河鉄道の夜」
ゲスト:安部勇磨(never young beach)
02. ハニー・ムーン
03. 悲しみのラッキースター
ゲスト:藤原さくら
04. 四面道歌
05. 東京ラッシュ
ゲスト:角舘健悟(Yogee New Waves)
06. ろっかばいまいべいびい
07. はらいそ
ゲスト:高城晶平(cero)
08. PLEOCENE
09. ZOOT KOOK
ゲスト:志磨遼平(ドレスコーズ)
10. 北京ダック
11. Pom Pom 蒸気
ゲスト:キセル
12. フニクリ、フニクラ
13. しんしんしん(※キセルのみ)
ゲスト:永積崇(ハナレグミ)
14. しらけちまうぜ
15. 恋は桃色
ゲスト:細野ゆうた
16. ABSOLUTE EGO DANCE
ゲスト:原田郁子(クラムボン)
17. 福は内 鬼は外
18. 風の谷のナウシカ
ゲスト:堀込高樹(KIRINJI)
19. YELLOW MAGIC CARNIVAL
20. ローズマリー、ティートゥリー
ゲスト:曽我部恵一(サニーデイ・サービス)
21. 仁義なき戦い
22. 暗闇坂むささび変化
ゲスト:UA
23. ガラスの林檎
24. Roochoo Gumbo
ゲスト:YO-KING(真心ブラザーズ)
25. 僕は一寸
26. 終りの季節
ゲスト:大貫妙子
27. ファム・ファタール
28. ウォリー・ビーズ
ゲスト:高橋幸宏
29. Stella
30. ありがとう
<アンコール>
ゲスト:細野晴臣
31. 薔薇と野獣
ゲスト:細野晴臣、高橋幸宏
32. スポーツマン