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「さんピンCAMP」とその時代|サイプレス上野×SATUSSY対談(後編)

サイプレス上野(サイプレス上野とロベルト吉野)とSATUSSY(韻踏合組合)。
18分前2026年07月07日 10:02

伝説のヒップホップイベント「さんピンCAMP」の全貌に迫る連載企画「『さんピンCAMP』とその時代」。最終回となる今回は、サイプレス上野(サイプレス上野とロベルト吉野)×SATUSSY(韻踏合組合)の対談をお届け。90年代ヒップホップファンの異常とも言える熱気について盛り上がった前編に続き、後編では「さんピンCAMP」に出演した各アクトのパフォーマンスについて両者に語り合ってもらった。映像作品に収録されなかったILLMARIACHIのステージ(その経緯は連載初回・中編を参照のこと)など、会場に実際足を運んだ2人だからこそ語ることができる“ヘッズ目線”のリアルな証言に耳を傾けてみよう。

取材 / 猪又孝、高木“JET”晋一郎 文 / 高木“JET”晋一郎 撮影 / 沼田学

大神 / SHAKKAZOMBIE

──ここからは「さんピンCAMP」に実際に足を運んだお二人に、各アクトのパフォーマンスについて振り返ってもらおうと思います。ECDさんの「J-RAPは死んだ! 俺が殺した!」という歴史に残るシャウトから、ライブは大神のステージで始まりました。

サイプレス上野 「大怪我」のイントロがかかった瞬間、興奮しすぎてステージの一番前まで走って行きました。

SATUSSY たまらなくなっちゃって(笑)。

サ上 当然、警備員に羽交い締めにされて「席に戻れ!」って言われました(笑)。

SATUSSY 俺はかなり後ろのほうの席やったけど、一気にテンションが上がったよね。続けて登場したSHAKKAZOMBIEも人気がすごかった。やっぱり華があった。3人ともおしゃれだったし、「こういう人たちがビッグイベントのトップバッターなんだ」っていう出面(デヅラ)もよくできてたなって思う。その意味でも、大神からのシャカというのはよく考えられた構成だったと、自分たちがイベントを運営する側になった今だからこそ改めてよくわかるな。

HAC

──続いてはHACさんです。

SATUSSY 俺、この場を借りて強く言っておきたいことがあって。HACさんの「さんピン」でのライブをちょっとネタ的な感じで言う人がいますけど、あの日の「SPECIAL TREASURE」は、会場の全員が大合唱してましたからね!

サ上 ホントに大合唱でしたね。ステージでHACさんが「みんな歌って!」って客席に呼びかけたら、迷彩服のイカツい野郎たちが「♪ゆ~め見てる、ゆ~め見てる……」。

SATUSSYサ上 「♪なぜなの~教えて~Baby」。

サ上 って大合唱してるんですよ! 「マジで夢見ているみたいだな」って(笑)。「SPECIAL TREASURE」はビートもカッコいいし、HACさんはフィメールラッパーとして男だらけのシーンに食い込んできた実力の持ち主で、しかもCISCOの店員。そういう情報が野郎どもに刺さりまくってましたね。

SATUSSY 「SPECIAL TREASURE」に限らず、あの日は、みんな全曲歌ってたね。全員がほぼ全曲を知ってて、全部被せられるっていう。

──イベントに先駆けて「さんピンCAMP」のサントラ(コンピレーションアルバム「さんピンCAMP ECD PRESENTS THE ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK」)がリリースされていたことや、当時リリースされている日本語ラップの曲自体が少なかったという前提があるとしても、この日に披露された多くの曲を、リスナーがアンセムとして認識していたということですね。

サ上 体の中に曲が詰まってて、それを吐き出すために行ってるみたいな。

SATUSSY 間違いない。あの日のお客さんたちは、観客席にいるものの、気持ちはステージにいるぐらいのバイブスだったと思います。「俺が歌ってやる!」ぐらいの、全員そういう感じだった。

RHYMESTER

──RHYMESTERのステージはいかがでしたか?

SATUSSY Mummy-Dさんの「まだだぞ」というMCのパートは、とにかく記憶に残ってる。俺らずっとマネしてたからな。いまだにしてるかも(笑)。

サ上 俺も完コピできる。当時の「Fine」に載ってた「ラッパーが聴いているアルバム」みたいな記事で、RHYMESTERの「EGOTOPIA」が2位に選ばれてたんですよ。FG(FUNKY GRAMMAR UNIT / EAST END、RHYMESTER、KICK THE CAN CREW、RIP SLYME、MELLOW YELLOWなどを中心としたヒップホップクルー)はキャッチーなイメージがあったんだけど、みんな認めてるんだなって。

SATUSSY 「口から出まかせ」にキングギドラとSOUL SCREAMが参加しているから、そこに違和感がなかったんだと思う。

E.G.G.MAN / SOUL SCREAM

SATUSSY ソウスクのパフォーマンスは、E.G.G.MANさんのソロから始まるという構成が新鮮やった。

サ上 熱かったっすね、あれは。

──E.G.G.MANさんが水泳帽とゴーグルなのに、めちゃくちゃカッコよく見える。

SATUSSY でも最初、「え、どういうこと? ソウスクは?」って意味がわからんくて。あれはE.G.G.MANさんのソロ(「化けの皮~羊の皮かぶった狼~」)が「さんピン」のサントラに入ってたから?

サ上 そうじゃないっすか?

SATUSSY  E.G.G.MANさんのパフォーマンスに続けてHAB I SCREAMさんが出てきてソウスクのライブが始まるっていう流れもカッコよかった。ソウスクは人気も高かったし、みんな歌ってたね。

サ上 もはやソルジャー同士が歌ってないやつを監視する状態になってた(笑)。

SATUSSY いや、マジで(笑)。「お前、知らんの? 歌えんのに来んなや!」ぐらいのバイブスでしたよ。

サ上 「さんピン」のビデオを観ると、ソウスクのライブパートで会場にいる俺が映ってるんですよ。ビデオを観た人はぜひ「上野、ちゃんと歌ってんな」と確認してください(笑)。

キングギドラ

──そしてキングギドラのステージです。

SATUSSY この日は2DJでのパフォーマンスで。

サ上 DJ KENSEIさんとDJ KEN-BOさんですね。

SATUSSY その顔合わせも食らった。豪華やったもんな。KEN-BOさんの音の抜きとか、バックDJとしてのスキルもめちゃくちゃ高い。

サ上 あのときのKダブさんの格好も全身迷彩でしたよね。

SATUSSY ジブさんが全身真っ白のファッションで、シマウマ柄のサングラスをかけて。それから「すぐそこのビル、厚生省なの知ってるか! 薬害エイズ! 犯行現場なんだよ!」っていうMCね。メッセージとして当時から社会的なことをずっと言ってるから、そのブレなさはすごいなって。

ILLMARIACHI(HAZU&TOKONA-X)

──映像には残っていませんが、ここでHAZU(現:刃頭)&TOKONA-Xが登場します。

SATUSSY 刃頭さんはBEATKICKS(TWIGYとのユニット)で出る予定だったっていう話を聞いたことがあるな。でも、TWIGYさんが出なくなって、急遽TOKONA-Xとのタッグになったという。あの日の出演者は俺、ほぼ全員名前を知ってたけど、「誰この人?」っていうのは、たぶんTOKONA-Xだけだった。だからTOKONA-Xが登場したときは、正直ちょっと戸惑ったというか、会場も微妙な空気にはなったよね。

サ上 最初から大盛り上がりではなかったっすね。

SATUSSY ただ、ステージに出てきていきなり「名古屋だがや!」ってカマして。10代であの規模の会場でカマしたんやからすごいよ、やっぱり。

サ上 考えられないですよね。でも、パフォーマンス自体はけっこう短かった印象がある。

SATUSSY 「TOKONAIZM」とか1、2曲かな。

サ上 だったかも。

SATUSSY ライブ自体は盛り上がってた。少なくとも俺の感触では会場をすごくロックしてたと思う。

サ上 俺もブチ上がった記憶がある。ヴェルファーレか何かのイベントにもTOKONA-Xが出てたんですよ。そのときも「名古屋だがや」って出てきて、すっげえドキッとして「めっちゃカッコいい! しかもHAZUさんとタッグを組んでるんだ!」って驚いた。

SATUSSY 忘れちゃいけないのが、HAZUさんのインスト曲「BALL」。あの日のヘッズにとっての野音へ向かうときのテーマ曲、というか行進曲みたいな(笑)。

サ上 あのあと、元ネタ(17世紀頃から歌われているイギリス軍歌「The British Grenadiers」)が高校の音楽の授業で流れて、「これだったのか!」って1人で授業中にブチ上がりました。

──迷彩服を着てる連中が軍歌を元ネタにした曲を聴きながら集合してたという。物騒すぎる、「さんピンCAMP」(笑)。映像では「BALL」に乗せて、当日の野音周辺の様子が映っていますが、その状況は覚えていますか?

SATUSSY すげえ数の人がいたのは覚えてる。ダンサーやグラフィティライターも集まってるし。

サ上 ブレイカーが踊ってたり、ブラックブック(グラフィティライターが自身のデザインやアイデア、タグを練習するためのスケッチブック)をライター同士が見せ合ってたり、こんなにB-BOYがいるんだ!って衝撃だった。

SATUSSY さっき「やってる側」って言ったけど、その「やってる側」にはラッパーだけじゃなく、ダンサーとかライターとか、ヒップホップカルチャーにヤラれた人たちがいっぱいいたよね。

サ上 みんなが競い合ってましたね。

SATUSSY ホンマにそう。自分の表現を発表できる場が少なかったから、ここで見せたら、わかってくれるやつがいるんじゃないかって。ライターも絶対そうやし。だから上ちょが日比谷線で見ず知らずの人にデモテープを渡したのも、そういうことだったんだと思う。

サ上 俺は野音に着くまで待てなかった(笑)。その後、野音には何回も行ってますけど、あの高揚感は二度と味わえてないな。

SATUSSY 当時のオールスターが総出演したというのも大きいと思うけど、ここまでみんなが「さんピンCAMP」を語り継ぐのは、会場を取り巻く熱気がすごかったからだろうね。

MURO feat. MACKA-CHIN, GORE-TEX

──そしてMUROさんのステージです。ステージ上にラッパーたちがたくさん上がって。

SATUSSY 仲間をステージに上げるあの感じは、いまだに憧れる。知らないやつらがわさわさ出てきて、「え? こんなにたくさんステージに上がってくるの? でもカッコいい!」みたいな(笑)。あの光景は、あの日一番ヒップホップっぽかった。

サ上 MUROさんが率いるK.O.D.P.(KING OF DIGGIN' PRODUCTION)周りのラッパーがたくさんステージに出てきて、「くそー!」と思いましたよ。「俺もそっちに行きたい!」って。単純に嫉妬(笑)。

SATUSSY そういえば、ラッパーのMARS MANIEがポッドキャストで「さんピン」の話をしてて。彼も当日、会場に行ったんだって。

サ上 あ、そうなんすね。

SATUSSY で、K.O.D.P.つながり(MUROのステージには、K.O.D.P.や、のちのニトロにつながるアーティストが登場。MARS MANIEは後年、DABOやDELIなど、ニトロの一部メンバーを中心に結成されたJBLやTEAM 44BLOXといったクルーに参加するなど、つながりがあった)でMUROさんに挨拶したら「お前もステージに上がれよ」って言われたんだけど、タイミングが悪いことに、そのときMARS MANIEはYOU THE ROCK★のTシャツを着てたんだって。それで、ユウさんのTシャツを着てMUROさんのステージに上がるのは気まずいなと思って、ステージに上がれなかったことをいまだにすごく後悔してると話してた。

サ上 最高すぎますね。「さんピン」でのMUROさんといえば「こんなシーンを待ってたぜ!」っていうMC!

SATUSSY 歴史に残るパンチラインだね。

サ上 あれも俺、完コピできます(笑)。マジで染みたよなあ。

SATUSSY DJ WATARAIさんのDJがまたうまいんだ。

──映像で観ると一瞬、音が飛んだような瞬間があって、映像が切り替わるタイミングだから編集上の理由かと思ったら、本当に針が飛んでたようで。

サ上 まあレコードっすからね。

SATUSSY 大神の「大怪我」でも、HIDE-BOWIEさんのパートで……。

──あれも針飛びのようですね。HIDE-BOWIEさんは「俺が間違えてるわけじゃない。むしろリカバーした」とおっしゃってました。

サ上 当時、俺は純粋だったから「こういう間をズラした歌い方もあるんだ! カッコいい!」って思いながら観てましたよ。

SATUSSY RUN-D.M.C.の「Here We Go (Live at the Funhouse)」も、針飛びでリズムがズレるのをMC2人が無理くりリカバーしてて。最初に聴いたとき「ヒップホップはこれがありなんや!」って感動したけど、それに近いよな。アドリブで乗り切る力っていう。

サ上 サ上とロ吉のライブで、それを逆手に取って「あえて針飛びさせる」っていうのをやったんですよ。そしたら宇多丸さんに「お前ら! ヒップホップを冒涜してるのか!」って叱られて。

(一同爆笑)

サ上 「すいません、封印します」ってすぐに謝りました(笑)。

YOU THE ROCK★

──次はYOU THE ROCK★さんです。ユウさんは本当にアジテーターというか、生み出す熱気がとんでもない。

SATUSSY あれぐらいから陽が落ちて会場が暗くなって。「MIC MASTA」で登場して、「真っ赤な目をしたフクロウ!」ってガンガンにシャウトして、それに客席が大盛り上がりするっていうシチュエーションはとにかくカッコよかった。

サ上 ユウさんもあの日は迷彩のパンツを履いてましたよね。

SATUSSY そのポケットにマイクを入れて。UZIくんと一緒にやってる「BOOM BYE BYE (HIP HOP NEVER DIE 2)」の呼び込みもカッコよかったな。

サ上 櫓の上でガンガンに煽ってたじゃないですか。カッコいいって思うのと同時に、「雨ですべらないかな……」って心配になりながら観てました(笑)。

RINO

サ上 次に登場したRINOさんのパフォーマンスは、イントロの口笛からもうカッコよすぎて。

SATUSSY あれはもう伝説でしょ!

サ上 今観てもしびれますね。

SATUSSY 神でしょ。「サクッと決めるぜ」って言って、ホンマに「夕陽のタンガンマン」1曲でインパクト残して。全員全曲歌えてたと言ったけど、RINOくんの曲はさすがに歌えなかったかもしれない。ラップがうますぎるし、渋すぎて、「ちょっと聴いとく?」みたいな。あの日で言えば、スキルは断トツだった。

サ上 しかも「さんピン」のサントラに入ってない曲だったんですよね。

──「夕陽のタンガンマン」が収録されたのはコンピ「続・悪名」ですね。「さんピン」が7月、「続・悪名」が9月のリリースです。

SATUSSY だから当時は曲を知らんかったのかな。それなのにあれだけ聴かせられるのはすごいよ。今聴いてもカッコいい。

G.K.MARYAN with UZI, YOU THE ROCK★, KEN-BO / LAMP EYE feat. RINO, YOU THE ROCK★, G.K.MARYAN, Zeebra, GAMA, DEV LARGE, UZI

──そしてG.K.MARYANさんの登場から「証言」という流れですね。

サ上 MARYANさんは気合いがすごかったですね。UZIさんと一緒に「俺の言い分」をやって、さらに左右の櫓にジブさんとユウさんが上がってシャウトするっていう。全員のテンションと勢いがすごかった。

SATUSSY あの人に“バイブス”っていう概念を教わった感じがある。レゲエでいうとBOY-KENさんみたいな。

サ上 力強さというか。

SATUSSY 理屈じゃないよな。「ようわからんけど、すげえ!」みたいな(笑)。

サ上 MARYANさんはプロレスが好きだし、「なんだかよくわかんないけど、とにかくすげえ!」みたいな感じは共通してるかも。

SATUSSY ヒップホップには重要な要素だよね。

サ上 「♪忘れられねぇ あん時のバスガイド / 多摩川で飛ばしたゲイラカイト」

全員 「飛べ!」

──言葉の意味はわからないのに、みんな被せられる(笑)。

サ上 あの日も雨の中、みんなで合唱してましたよ。

SATUSSY そうそう。あれぐらいの時間から本格的に雨が降り出した。その状況と「証言」のパフォーマンスの組み合わせがドラマチックだったんだよね。盛り上がり的にも、あの日のマックスだったんじゃない? メンバーが「証言」のレコードを客席に投げて。

サ上 それを俺の横にいたヒップホップにまったく興味ない同級生がキャッチしたんですよ。で、「お前にはもったいない! そして俺が連れてきたんだから俺にもらう権利がある!」とか、曲の間どっちが持って帰るかで揉めてた(笑)。

SATUSSY 貴重な時間に(笑)。「証言」のレコードは当時、入荷してもすぐ売り切れるぐらい、人気すぎて手に入らなかったんだよね。だから僕もあのレコードがすげえ欲しかった。でも、これは届かんだろっていう距離にいたから客席でのレコード争奪戦には参加できなかった。

四街道ネイチャー&MC JOE

SATUSSY 次に四街道ネイチャーとMC JOEさんが登場して「HIGH-NEKKEN」をやったんだよね。

──映像ではカットされています。

SATUSSY 当日の会場では、「四街道はLB側」みたいな認識をみんな持ってたと思う。

サ上 四街道ネイチャーは翌週の「大LB夏まつり」にも出てるんですよね。

──そもそも、スチャダラパーの「Little Bird Strut」「GET UP AND DANCE」にも参加してますからね。

SATUSSY だから、ちょっと対立側という印象があったし、それを象徴するように、四街道のときにみんなトイレに行きだしたの。

──はあ~! なるほど。

サ上 そっかー。俺はずっと観てましたよ。四街道も大好きだから。

SATUSSY 俺も好きやったから観てたけど、みんなぞろぞろトイレに行ってた。ほかのグループに比べてちょっとテンションが違う印象もあったし。それが当時の俺の正直な感想。

サ上 確かに盛り上がりは弱かったですね。その前の「証言」でみんな疲れちゃったのもあるだろうし。

SATUSSY そうそう。エアポケットみたいな感じだった。

サ上 でもECDさんが四街道ネイチャーと一緒に出るっていうのが、俺的にはうれしかったですね。

ECD

──ECDさんがここで登場しますが、時間調整の意味でも、この位置に自分のライブを置いておくという意識があったかもしれないですね。

サ上 自己顕示欲で「自分を大トリ前に」っていう人では絶対にないですからね。むしろ、大盛り上がりになることがわかってるアーティストの狭間に自分を置くのは、主催者だからだろうなって。

SATUSSY あの規模のイベントを開催までこぎつけたこと、そして「J-RAPは死んだ、俺が殺した」という冒頭の宣言で、大きな役割を果たしたといっても過言ではないもんね。あの第一声がそもそも伝説だから。

BUDDHA BRAND

──そして、ラストはBUDDHA BRANDです。

サ上 正直に言っていいっすか? もう燃え尽きてたのか、実はあんまり覚えてない。

SATUSSY そう。俺もあんま覚えてない。長丁場の中びしょ濡れで、疲れてきてもいたしね。

──トラックがオリジナルバージョンじゃなくて、別トラックのレコード2枚使いだったというのも、ブッダのパフォーマンスがあまり記憶に残っていない理由になりますか?

SATUSSY それは大きいかも。会場で観てても、あの差し替えと2枚使いは全然意味がわからんかった。もちろん、今ならその理由がわかるんやけど、音楽的な知識が乏しかった当時のSATUSSY少年からしたら、「ついにブッダ! DEV LARGEはまた衣装チェンジしてるし、オレンジでカッケー!」みたいなテンションやったのに、「……え、でもこのトラック全然知らん」みたいなさ(笑)。

サ上 ホント、そうっすよね。

SATUSSY 最後はオリジナルの「人間発電所」でドカーンと盛り上がって帰りたいのに、「うーん……」みたいな(笑)。それは正直なところかな。ただこれは言っておきますが、「おもんなかった」では絶対にない。

サ上 そう、カッコいいんですよ! 確かにカッコいいんですけど……「大トリで、なんでこんなことするの?」っていう(笑)。俺たちソルジャーは雨の中でずっと「人間発電所」を待ってたのに。「俺たちが大トリ、ビッグバード」って、「ナイトフライト」でさんざんヘッズの期待を高めておいて。

SATUSSY ホント。「俺たちソルジャーを一緒に天まで飛ばしてください!」って思ったよ(笑)。

サ上 ははは! だから「さんピン」に行ったやつとも「『人間発電所』やったよね」「それは記憶違いじゃん?」って、たびたび議論になりますよ。

──映像には残っていないけど、「人間発電所」はやってはいるようですね。一時期、スチャダラパーが「今夜はブギー・バック」をオリジナルトラックでやらないときがあって。あのモヤモヤ感にちょっと近い。

SATUSSY ああ、そういうノリやったかも。「ファンはビッグチューンを聴きに来てるんだから、ちゃんとやってくれんと!」っていう。

サ上 でも、「ヒップホップだなー」っていう。実際、映像を観ても相当ヒップホップだし。ただ、当時の俺たちにとってはヒップホップすぎた。もっとみんなで大合唱できたらよかったですけどね。大雨の中、ソルジャーたち全員で。

──ただ、あの日はSHAKKAZOMBIEも「無限のスペース」をDouble XX Posse「Money Talks」のトラックでやってるんですよね。

SATUSSY そう。MUROさんがMAKI & TAIKI「バスドラ発~スネア行 feat. MURO」をReal Live「Get Down For Mine」のトラックでやったりね。それは出番のタイミングもあるし、全部の曲が別トラックじゃなかったから。「さんピン」の時期は「証言」「人間発電所」「大怪我」の3曲がビッグチューンやから。それはやっぱオリジナルで聴きたいじゃないですか。

サ上 しかも組合長は大阪から1人で来てるのに(笑)。

幻の「さんピン」大阪公演

サ上 ちなみに組合長は大阪版の「さんピンCAMP」にも行ったそうですけど、大阪公演はどうだったんですか?

SATUSSY 正直ね、東京と比べるものではない内容でしたよ。

サ上 へえ! そうなんすね。

SATUSSY まずメンツがめちゃめちゃ少なかった。雷と、ほかに2、3組しか出てない。「さすがにこれで『ツアー』と呼んだらあかんやろ。東京と違いすぎるやん!」みたいな(笑)。会場は昔の心斎橋パルコの上にあったクアトロで、お客さんも15人くらいしかいなかったと思う。だから「東京と大阪の両方にいったのは俺だけかも」というのは、それが理由。しかもお客さんは全員ラッパー。ただ、そこに来てた15人は全員やっぱり筋金入りのソルジャーで、全員大合唱やった(笑)。

サ上 ソルジャーの中の精鋭部隊が(笑)。

──山奥に放置されてヘビ食って生き延びる訓練をさせられるタイプ(笑)。「さんピン」に関しては、あとは名古屋公演に行った人を見つけるだけですね。

サ上 捜索願いを出しましょう(笑)。

──情報求む(笑)。

サ上 名古屋で開催されてたのをそもそも知らなかったもんな。

SATUSSY 俺も知らなかった。さっき話したパンフレットにも東京公演しか載ってなかったから。「大阪公演もあります」みたいな情報は、「もう来週やん!」みたいなレベルで急遽アナウンスされた気がする。

サ上 そりゃ集客は厳しいっすね。

SATUSSY でも、そこに来てる15人は、すげえ熱いキラキラした目でステージを観てたよ。雷がバーン出てきて、めっちゃ沸いたもん。雷もフルメンバーじゃなかったけど(笑)。

サ上 ははは。俺たちはそういうので耐性がついてるから、Wu-Tang Clanの来日でメンバーに欠員が出ても驚きはない(笑)。

SATUSSY ヒップホップとはそういうものだっていう(笑)。

「さんピンCAMP」がその後のシーンに与えた影響

──間違った訓練をされたソルジャーたちの悲哀が(笑)。総括的な話になりますが、「さんピンCAMP」が自分に与えた影響、そしてその後のシーンに与えた影響はどういうものだと思いますか?

SATUSSY 「これがヒップホップなんだよ」という価値観を刷り込まれた感じはありますよね。それは本当によくも悪くも。

サ上 マジで「よくも悪くも」っすね。

SATUSSY ライブだけじゃなくて、それ以外の部分も含めて、ヒップホップの醍醐味がすべて詰まってたイベントかなと思います。個人的には特別視もしてないし、あのイベントだけを神格化するのも違うとは思ってるけど、これだけ語り継がれるということは、絶対に何かがあるわけだから。雑な言葉で言い切ってしまうと、「ヒップホップの核」みたいな部分が、あのイベントにはあったと思う。当時ヒップホップが日本に伝わって、何年くらい?

──巷間言われるように、1981年にリリースされたスネークマンショー「咲坂と桃内のごきげんいかが1・2・3」を起点とすると、15年目ですね。いとうせいこう & Tinnie Punx「建設的」からは10年目でした。

SATUSSY その時点でのマックスのイベントだったと思うし、それ以降の日本のヒップホップを「さんピン」が定義付けて、そこから枝葉が分かれていった気がする。だから結局、フェス感、ファッション感、カルチャー感、ストリート感とか全部ひっくるめて、日本のヒップホップシーンの原点という意味では、あそこに行き着くのかなって。当然、俺の中でも大きい存在で、自分を形成してるものの大きな軸であることは間違いない。しかも、10代で観てるから。15~20歳ぐらいに観てるもの、食らってるものは、一生残るでしょう。だから「さんピン」に出てた人たちは、自分の中で一生アイドルですよ。

──上野くんはどうですか?

サ上 俺も「さんピン」をガキのときに体験できたのはデカいなと思います。会場にいる全員が、全部のアーティストのステージに向かって大声を出して、全部の曲で合唱するっていう、あんな経験はもうできないんじゃないかな。

SATUSSY 「シーンの一体感」を現場で体感できたっていうのは、俺らの貴重な財産だよね。

サ上 ホントそうっすね。ただ、「あの日、楽しかったよね」って言われると、「楽しいだけじゃなかったかも」とか思うこともあって(笑)。自分のその後のキャリアを考えると、あそこに立てなかった悔しさのほうがデカいよ、みたいな。そういう気持ちがありますね。

SATUSSY ああ、なるほどな。

サ上 でも、当時のシーンを押し進める存在がステージにみんな立って、それを見たソルジャーたちは「俺たちもいつかそこに行きます」と気合いを注入されたんだと思う。だから組合長も俺もいまだにヒップホップシーンにいるんでしょうね。

プロフィール

サイプレス上野(サイプレス上野とロベルト吉野)

サイプレス上野とロベルト吉野のMC担当。通称「サ上」。2000年のグループ結成以来、「HIP HOPミーツallグッド何か」を座右の銘に掲げ、ロックフェスへの出演やアイドルとの対バンなど、ジャンルレスな活動を繰り広げ、ヒップホップリスナー以外からも人気を集めている。また、サイプレス上野のDJ名義、LEGENDオブ伝説a.k.a.サイプレス上野としての活動や、テレビ朝日「フリースタイルダンジョン」、テレビ東京「流派-R」への出演のほか、テレビCMのナレーションなど幅広く活躍中。

SATUSSY(韻踏合組合)

SATUSSY(MC)、ERONE(MC)、DJ KAN(DJ / 以上CHIEF ROKKA)、HIDADDY(MC)、遊戯(MC)、DJ KITADA KEN(以上、HEAD BANGERZ)からなる韻踏合組合の組合長(リーダー)。韻踏合組合は2000年に大阪府で結成され、現在も大阪を拠点に活動。グループ名の通り押韻にこだわるラップスタイルで知られる。2026年1月には、初のベストアルバム「GOAT(Greatest Of All Time)」がリリースされた。SATUSSYはソロアーティストとしても活動を展開しており、2008年発表のアルバム「THE NOVEL」を皮切りにこれまで複数のソロ音源を発表している。

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