国内最大級のヒップホップフェスティバル「POP YOURS 2024」が5月18、19日に千葉・幕張メッセ国際展示場9~11ホールで開催された。
「POP YOURS」は「2020年代のポップカルチャーとしてのヒップホップ」をテーマとして2022年に初開催されたフェス。昨年の第2回では、このフェスのために制作されたAwichらのサイファー曲「Bad Bitch 美学」やBonbero、LANA、MFS、Watsonのコラボ曲「Makuhari」が大ヒットし、ヘッドライナーを務めたBAD HOPがこの場を解散発表の舞台とするなど、すでに日本のヒップホップシーンの中心と言えるイベントに成長している。
3回目となる今回は、LEXとTohjiというオルタナティブなスタイルの新世代ラッパーがヘッドライナーに抜擢されたことに加え、R&BシンガーのYo-SeaやSIRUPがメインアクトに名を連ねるなど、これまでよりも挑戦的なラインナップのイベントとなったが、チケットはすぐに完売。会場には2日間合計で過去最高の約3万5000人が来場し、YouTubeでの生配信は総視聴者数56万人、視聴回数160万回を記録した。
シーンを牽引する新たなスターたちの出現
注目の新鋭アーティストによるショットライブ枠も設け、若手アーティストの発掘にも貢献している「POP YOURS」。今年はSoundCloudを中心に活動する17歳のswettyや、かつて小学生ラッパー・太郎忍者としてシーンに名を馳せたtaroなど、ストリーミングサービスで配信されている楽曲がまだ数曲しかないような新人もフックアップし、幕張メッセの大舞台を経験させた。
Kohjiyaはオーディション番組「ラップスタア 2024」を勝ち進んで話題を集めている新鋭だが、ショットライブ枠に出演しつつ、BonberoやIOの客演としても活躍。昨年STUTSのステージにて鮮烈なデビューを果たしたKaneeeは今年メインアクトとして2日目のトップバッターを担い、昨年ショットライブ枠だったYvng Patraは今回20分の持ち時間を得て卓越したラップスキルを誇示した。そしてKaneee、Kohjiya、Yvng Patraは今回のフェスのために制作した楽曲「Champions」でコラボ。それぞれが今後さらに活躍していくことを観客に予感させた。
初回はショットライブ枠だったMFSは貫禄漂うアーティストに成長し、ダンサーたちと堂々としたステージングを展開。昨年に続いて2回目の出演となるLANAは、ヘッドライナーを務める兄のLEXに引けを取らないスター性を発揮し、Bonbero、MFS、Watsonとコラボしたイベントのアンセム「Makuhari」で大歓声を巻き起こす。さらにその卓越したライブ力を評価され、若手ながら2日目のトリ前のブロックを任されたralphとguca owlは、説得力のあるパフォーマンスで観客を唸らせた。
解散後も影響力を持つBAD HOP、本格始動したYENTOWNとCreativeDrugStore
初回と第2回の「POP YOURS」でヘッドライナーを務めたBAD HOPは、今年2月に東京・東京ドームで行ったワンマンライブをもって解散したが、クルーのメンバーであるBenjazzyがBonbero、JJJ、KEIJU、VingoがJP THE WAVY、G-kidがKEIJUのステージに客演として登場。いずれもとてつもない大歓声で迎えられており、彼らがシーンのレジェンドと言える存在になっていることを見せつけた。若手ラッパーRed EyeはそんなBAD HOPを超えることを宣言。2025年2月5日に国内ラッパー史上最年少となる22歳で東京・日本武道館公演を開催し、現在BAD HOPが保持している23歳の最年少記録を打ち破ることを発表した。
BAD HOPが解散する一方で、今年動き始めたのがJNKMN、PETZ、MonyHorse、kZm、Awich、DJのU-Lee、プロデューサーのChaki ZuluらのクルーYENTOWNだ。結成10周年にして初のクルー名義曲となる「不幸中の幸い」をRed Bullのサイファー企画「RASEN」にて発表し、大きな話題を集めたYENTOWNは、今回の「POP YOURS」にラインナップされていなかったものの、初日に“ゲリラ”出演。「不幸中の幸い」に加えて、各メンバーの代表曲のメドレーや新曲を披露し、爆発的な盛り上がりを生み出した。
また昨年結成10周年を迎え、本格始動したのがBIM、in-d、VaVa、JUBEE、doooo、HeiyuuのクルーCreativeDrugStore。昨年に続き「POP YOURS」に出演した彼らは、1stアルバム「Wisteria」収録曲やイベント直前に発表した新曲「FUTAKO」で勢いあふれるマイクリレーを繰り広げ、それぞれの個性を炸裂させる。そして彼らは9月7日に東京・日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)で初のワンマンライブを開催することを発表。今年もクルーとして精力的に活動していく意志を示した。
KOHHを引退した千葉雄喜が「チーム友達」と復活
日本のヒップホップシーンで今年一番の話題曲と言えば千葉雄喜の「チーム友達」だろう。2021年末にKOHHとしての活動を引退するも本名で活動を再開した千葉が今年2月にリリースし、その言葉の生みの親である大阪の盟友Jin DoggやYoung Cocoのほか、キングギドラ、SKY-HI、Watson、さらにはデューク・デュース、バン・Bなど、国内外のさまざまなラッパーとのコラボによりシーンの話題を独占している楽曲だ。
イベント開催直前の最終発表で出演が決定した千葉は、Jin Doggのパフォーマンスに続いて登場。大勢の友達をステージに上げてから「チーム友達」を歌い、2日間で一番の大合唱を巻き起こした。千葉はラジオなどで今後の展開についても示唆しており、その動きから目が離せない。
怒涛のパフォーマンスで確かな実力を証明したOZROSAURUS
ヒップホップというジャンルの特性もあり、出演者も観客も10代から20代が中心のイベントとなったが、JJJやCampanella、KANDYTOWNのKEIJUやIOといった30代のラッパーは、そのキャリアを感じさせるクールなパフォーマンスで観客を魅了。イベント初日にはこれまでオファーを断っていたという鎮座DOPENESSが満を持して登場し、変幻自在のフリーキーなパフォーマンスで観客を惹き付ける。
レジェンド的存在でありながらシーンの最前線を走り続け、新たな才能の発掘でも活躍するSEEDAは「高所恐怖症」というヒット曲をともに生み出した秋田出身のラッパーLunv Loyalや、自身が審査員を務めている「ラップスタア」の第4回王者であるralphのステージに客演として登場。バイブスみなぎるパフォーマンスを繰り広げ、どちらのステージでも客席に飛び込んだ。また初日のSTUTSのステージには、昨年開催のツーマンライブを機に彼と親交を深めたスチャダラパーが出演し、代表曲「サマージャム'95」に加えて、STUTSとのコラボ曲「Pointless 5(feat. PUNPEE)」をライブ初披露。Boseは2日目のtofubeatsのステージにも現れ、「RASEN」でBIM、Skaaiとサイファーを繰り広げた。
初日のトリ前にスペシャルアクトとして登場したのが、1990年代からシーンでリスペクトされ続けるラッパーのMACCHO擁するOZROSAURUSだ。ZORNとのコラボ曲「Rep」や確執のあったKREVAと共演を果たした楽曲「Players' Player」で近年大きな話題を集めるMACCHOだが、「POP YOURS」では客演を迎えることなく、ステージに1人で立つ。彼は日本語ラップクラシックの「Area Area」や「Rep」「Players' Player」などを怒涛の勢いで畳みかけて観客を圧倒し、スペシャルアクトにふさわしい確かな実力を証明した。
LEXとTohji、2人のカリスマ
こうしたアーティストを抑えて、初日のヘッドライナーに選ばれたのが現在22歳のラッパーLEXだ。ヘッドライナーには特別な演出が用意されているとアナウンスされていたが、LEXはなんといきなり宙吊りになって登場。LEDモニターに映し出された蝶の羽を背に、宙返りを連発しながら、どんどん上昇し、「もっと行きたい上!」と歌う。強烈な演出で観客の度肝を抜いた彼は、代表曲の1つ「なんでも言っちゃって」でコラボしたJP THE WAVYや先輩ラッパーの5lack、KEIJUをゲストに迎えつつ、エモーショナルなパフォーマンスを展開し、フロアの熱気を最高潮に高めていく。会場中からカメラを向けられ、大歓声を浴びるLEXは、電気が付かないような家で育った幼少期を振り返ると、妹のLANAと肩を組んで「POP YOURS」オリジナル曲「明るい部屋」を歌唱。感動的なムードが広がる中、最後は炎が上がるステージで「STAR」を飛び跳ねながら熱唱し、「譲らねえよ。俺がキングだから」という言葉を残して去っていった。
そして2日間の大トリを務めたのがTohji。ユースからカリスマ的人気を誇るアーティストであり、ライブ開始前から会場のあちこちで彼を愛するファンたちがその名を叫ぶ。そんな中、LEDモニターにTohjiのこれまでの歩みを振り返る映像が映し出されると、ステージには彼とLootaが登場。2人はインダストリアルなビートとセクシュアルなボーカルが混ざり合うアルバム「KUUGA」の楽曲を披露し、会場をただならぬムードに一変させる。そこからElle Teresaとの「GOKU VIBES」やkZmとの「TEENAGE VIBE」といったアッパーチューンで観客のテンションを一気に引き上げたTohjiは、相棒であるgummyboyを迎えてMall Boyzの楽曲を連発。自身の名を知らしめるきっかけとなったMall Boyzの代表曲「Higher」や近年のライブ定番曲「Super Ocean Man」でオーディエンスを熱狂的に踊らせると、最後は壮大な世界観の「Phenomeno」で宙に舞い上がり、ファンタジックなムードで会場を包み込んだ。そしてライブ後、LEDモニターには「2025 02/02 Tohji アリーナ公演 coming soon」という文字が大写しに。歓喜の声が上がり、会場が高揚感であふれる中、2日間のイベントは終演した。
なお「POP YOURS」のYouTube公式チャンネルでは2日間のアーカイブ映像が本日5月23日から公開される予定だ。こちらも楽しみにしておこう。