4月3~5日に千葉・幕張メッセ国際展示場1~6ホールでヒップホップフェスティバル「POP YOURS 2026」が開催された。
2022年に初開催され、今年で5回目となる「POP YOURS」。初の3日間開催となり、会場の規模拡大に伴ってサブステージ・Terminal 6 STAGEも新設された結果、これまで以上に幅広いラインナップの総勢120組が集結した。来場者数は前年の約3万5000人を超える約4万5000人、YouTube配信の視聴回数は合計約230万回を記録。過去最大の盛り上がりとなった。
フェスが期待するニューカマー9組
今回の大きな注目ポイントの1つは、気鋭の若手アーティストが立て続けにライブを繰り広げる「NEW COMER SHOT LIVE」。フェス開催前にこのコーナーの出演者の集合写真が公開されるなど、今回の「POP YOURS」には若手をフックアップしようという思いが強く表れていた。今年のニューカマーとして「POP YOURS」に選ばれたのはSiero、X 1ark、AOTO、Sad Kid Yaz、Rama Pantera、YELLASOMA、Kianna、11、HARKAの9人。それぞれが爪痕を残すべく、わずか5分間の持ち時間に全力を注ぎ込んでいった。
MCは控えめにして代表曲を可能な限り詰め込む出演者がほとんどだが、東京のアングラシーンを代表する20歳のラッパー・Sieroはたっぷりとトーク。場の空気を掴んでから代表曲「ニコニコ」につなげて爆発力を生み出していた。これに続いて登場した19歳のX 1arkは、対照的な2曲でハードな一面とメロウな魅力を示しつつ、初のワンマンライブ開催をここで告知。キャリアを経て昨年一気にブレイクしたAOTOは、経験値の高さを感じさせるステージングで観客を魅了した。
Sad Kid Yazは「来年のメインアクト俺以外ありえない」と宣言する「渋谷から幕張」でライブを始め、その明るくカラッとした魅力を存分に発揮。Daichi Yamamotoのレーベルに所属するRama Panteraは、幅広いビートを乗りこなすラップスキルを誇示する。福島出身のYELLASOMAは、歌詞にちなんでファンから投げ込まれた“ボロボロNIKE”に笑いつつ、成り上がりを歌ったヒット曲「BoroBoro」でシンガロングを巻き起こした。
今最も注目を浴びるラッパーの1人であるKiannaは「なんで俺がニューカマーなんだよ」と不満を漏らしつつも、セルフプロデュースの独特なビートに乗って踊りながらスピット。続く11は、おそらく今回の9人の中では知名度の低かったアーティストだが、その歌唱力で初見の観客たちにも強い印象を残した。MIKADO、ENELと昨年リリースしたアルバム「GUNSO LIFE STYLE」でシーンを席巻した和歌山のHARKAは、透き通った高音でリズミカルなフロウを聴かせ、観客の体を動かした。
また2日目にはKianna、HARKA、AOTO、Sieroがフェスオリジナル曲「STARLIGHT」でコラボ。この曲はSieroとAOTOがそろう1日目か、KiannaとHARKAがそろう3日目での披露が予想されていたが、まさかの2日目というサプライズで観客を驚かせた。
初出演でメインアクトの抜擢組
初出演の若手にもかかわらず、メインアクトに抜擢されたLitty、Worldwide Skippa、Manaka、Jellyyabashiも今回の大きなトピック。ヒット曲の連発やEMPIREとの契約で昨年大きな注目を浴びたLittyは、代表曲「Pull Up」ではダンスを披露し、「BOUNCE」では客演のC.O.S.A.のヴァースも自らラップするなどチャレンジングなステージングを展開した。バイラルヒット曲「don't stop freestyle」でいきなり自身の名前を合唱させたWorldwide Skippaは、「俺が出るライブで痴漢したら殺す」「メタナイト」「シャトレーゼやめた」など個性的な楽曲を連発し、自身がメインアクトにふさわしい存在であることを証明した。
Manakaは新人離れした歌唱力や堂々とした立ち振る舞いを見せ、新曲「Look At Me Now」などで稀有なポップセンスを披露。パフォーマンス力とトレンドを取り入れた良質な楽曲センスを兼ね備える彼女は、今後間違いなくスターダムを駆け上がって行くことだろう。横須賀を拠点にするクルーYOKOSQUADのJellyyabashiは、サブスクでまとまった作品を1作しか配信していないアンダーグラウンドな存在にもかかわらず、熱狂的な支持を得ているラッパー。彼はJuggrixhSentanaなどYOKOSQUADの仲間たちもステージに上げてUSのトレンドを取り入れた楽曲を披露し、ストリートのSWAGを示した。
最大の変化・Terminal 6 STAGE
今回最も大きな変化と言えるのが、新ステージ・Terminal 6 STAGEの出現だ。このTerminal 6 STAGEはクラブのような空間で、DJ SCRATCH NICE & GRADIS NICE、YENTOWNのU-LEE、KANDYTOWNのMASATO & MinnesotahといったDJや「AMAPINIGHT」といったパーティが登場。ステージはホールの中央に設置されており、演者の熱気をダイレクトに感じられるが、過密になりすぎることもなく、フラっと入って快適に楽しめるよう工夫が凝らされていた。
また、このステージは、メインステージには収まり切らない日本のヒップホップシーンの新たな動きを紹介する役割を担った。SEEDA、DJ ISSO、she's laughのコンピ盤「CONCRETE GREEN」のパーティには、SEEDAとともにlazydoll、jellyy、otuyyuto、Lisa lil vinci、Ludioといったアンダーグラウンドシーンのラッパーが集結し、鮮烈なパフォーマンスを披露。「Tohji Presents u-ha neo stage」ではTohjiとkegøn、Sarenのキュレーションにより、ODETRASH、AssToro、CNG Squad、igaといった強烈な個性の面々が集い、wagahai is nekoのDJパフォーマンス中にはテンションの上がったTohjiが乱入する場面もあった。
1日目の「I ♡ WAKA」ではGUNSOことMIKADOをはじめ、TOFU、7、HARKA、ENELの和歌山勢が集結。リリースされたばかりのマイクリレー曲「I ♡ WAKA」などで熱狂を生み出した。3日目にはクリエイティブチームYeYanのパーティが行われ、Saggypants Shimba、SpiderWeb、YTG、Lil Mafuyuらが登場。大きな話題を集めたクルーの楽曲「ひたすrr」などを披露し、東京の最先端のヒップホップを提示した。
「ラップスタア」の絶大な影響力
オーディション番組「RAPSTAR(ラップスタア)」出身のラッパーが毎年大きなインパクトを残している「POP YOURS」。昨年の「ラップスタア」が過去最高レベルの盛り上がりとなったこともあり、今年は例年以上に番組で知名度を高めたラッパーが出演者として選出され、番組の絶大な影響力を感じさせた。
「ラップスタア」の審査員であるSEEDAのライブ中には、突如番組のロゴが表示され、彼が選んだラッパーによるサイファーがスタート。Worldwide Skippa、jellyy、VERRY SMoL、Sieroといった「RAPSTAR 2025」参加ラッパーやそのラップ力で昨年大きな話題を集めたReichiが次々に現れ、最後には番組へのディス曲でシーンを騒がせたTee Shyneが乱入して観客を大いに驚かせる。このうちファイナリストであるVERRY SMoLはralphの新曲でも登場し、今後のさらなる活躍を期待させた。
ユーモラスなキャラクターで大きな注目を浴びたファイナリストのSonsiは、Koshyとともにメインステージに出演し、STUTS OrchestraやWatsonのライブにも参加。番組の視聴者だけでなく、アーティストにも愛される存在となっていることが伝わってきた。同じくファイナリストのMasato Hayashiは、番組で制作した楽曲「HIROYUKI」でとてつもない大合唱を巻き起こす。そして昨年の優勝者であるPxrge Trxxxperは、19歳とは思えないような風格でフロアを圧倒。その実力で彼こそが王者であると観客に知らしめた。
オルタナティブなアーティストも多数出演
日本語ラップど真ん中ではないオルタナティブなアーティストも迎え続け、ヒップホップの多様性を示してきた「POP YOURS」。今回の初日は、JeterとY ohtrixpointneverによるポップユニットPeterparker69がトップバッターを務め、エレクトロサウンドで会場を温めた。2023年にはニューカマーとして出演していたことを振り返ったJeterは、このステージに立てる喜びを伝え、「新しい音楽をやってるアーティストが少しずつスポットを浴びれるようになったら面白いし、『POP YOURS』も俺らのこと信じてくれてありがとう」と感謝した。
3日目には、これで3回目の出演となるVtuberのピーナッツくんが登場。「笑われに来たんじゃなくてカマしに来ました」という宣言からハードな楽曲を繰り出しつつ、チャンチョ、コバルト田中、オレンジ博士という着ぐるみの愉快な仲間たちと踊って観客を楽しませた。
そんなピーナッツくんのカオティックなパフォーマンスに続いて登場したのは、昨年ニューカマーだったlilbesh ramko。VJのtsuchifumazuが独特な世界観を作り出す中、ramkoは破壊的なデジコアサウンドにセンチメンタルな歌を乗せた楽曲の数々で暴れ回り、15分で観客を圧倒し尽くしてみせた。
意外なサプライズゲストも続々
ラインナップされていない客演の登場もヒップホップのライブの醍醐味であり、今回の「POP YOURS」にも前述したTee ShyneやReichiなど数多くのサプライズゲストが出演した。プロデューサーのKoshyのライブには、未来のスターとして、BABYWOODROSEが迎えられた。BABYWOODROSEは、昨年突如としてシーンに現れたラッパー。かつてない大舞台にもかかわらず、彼らしいラフなスタイルを崩さず、YouTubeチャンネル・03- Performanceで披露した「Koshy Freestyle」でその個性を見せつけた。
福岡のラッパーYvngboi Pのライブには地元の仲間であるDABやDNEに加えて、昨年クラブで最もプレイされたLunv Loyalのヒットソング「Big Step」の参加ラッパーが集結。Lunv Loyal、YTG、Deech、Yvngboi Pの全員がそろうのは、今回が初めてであり、大きな盛り上がりとなった。なおDeechは7の楽曲「峰不二子」の客演としても出演。7に「もう1人の峰不二子」と紹介されたこともあり、その意外性で話題を集めた。
STUTS Orchestra、Tohji、PUNPEEによる特別なライブ
各日の中盤にはSPECIAL LIVE / ACTとして、STUTS Orchestra、Tohji、PUNPEEの3組が30分のパフォーマンスを披露。STUTS Orchestraは、トラックメイカー / プロデューサーのSTUTSがお馴染みのバンドメンバーに加えて、ストリングスやホーンを迎えたスペシャル編成だ。前述したSonsiを含め、Kaneee、tofubeats、KMC、BIM、Kohjiya、亡き友・JJJといった仲間たちをフィーチャーした楽曲が次々に披露され、「Presence」ではオリジナルバージョンのボーカルを務める松たか子の代わりに、なんと中村佳穂が登場。自由奔放かつソウルフルな歌声で楽曲の新たな魅力を引き出した。
2024年のヘッドライナーであり、2026年をもって引退することを発表しているTohjiは2日目に登場。彼のファンは全出演アーティストの中で最も熱狂的と言ってよく、出番の20分前から広いフロアのあちこちでコールが巻き起こる。そこへ相棒のgummyboyとともに現れたTohjiは、自身の名を知らしめた「Higher」をはじめとしてMall Boyzのアッパーチューンを連発。さらに「Super Ocean Man」「GOKU VIBES」とバンガーを畳みかけ、同世代の仲間であるBIMとkZmとこれまでの軌跡を歌った「246」、Mall Boyzの新曲「MとBを」でフロアを沸かせ続けた。
初回である2022年のヘッドライナーを務めたPUNPEEのライブは、2052年を描いた映像でスタート。26年後には消費税が150%になり、生活はますます苦しくなる一方、「POP YOURS」は途切れることなく続き、30周年を迎えているという。映像後、自転車でステージに現れたPUNPEEは、「タイムマシーンにのって」「Renaissance」などの代表曲や最新曲に加えてフリースタイルを披露。「PUNPEE 40過ぎのB BOY B BOY / 歩きたいGUNSO WALKで1歩2歩 / 笑いたいSieroみたくニコニコ / Watsonみたく言いたいちんこちんこ」と若手ラッパーをネームドロップし、混迷する世界の中でも日本のヒップホップは希望に満ちたシーンであり続けてほしいという願いを言葉にした。
納得のヘッドライナーLANA、千葉雄喜、KEIJU
トリ前のセカンドヘッドライナーとしては、guca owl、Elle Teresa、Daichi Yamamoto、Kvi Baba、NENE、Kohjiyaが出演。いずれもとてつもない人気で、来年以降この中からヘッドライナーを務めるアーティストが現れることを予感させた。このうちNENEのステージでは、Daichi Yamamoto、MIKADOとコラボしたオリジナル曲「違う」も披露された。そして今回こうした名だたるアーティストを抑え、ヘッドライナーとして納得のパフォーマンスを繰り広げたのがLANA、千葉雄喜、KEIJUの3組だ。
2023年から毎年出演しているLANAは、2024年にヘッドライナーを務めたLEXの妹。兄に負けず劣らず、カリスマ的な支持を得ており、日本武道館や横浜アリーナでの単独公演を成功させている。そんな彼女は自身の22歳の誕生日でもあった4月3日に登場。ステージに設置された物々しい門から現れたLANAは、「今では立ってるココ Makuhari」とイベントオリジナル曲「Makuhari」の一節を歌ってライブを始めると、ステージを一気に華やかに染め上げる。
彼女の大きな魅力は、こぶしを効かせたパワフルな歌声とチャーミングなキャラクター。MaRI、Vingo、¥ellow Bucks、Awichと数多くのゲストを迎えつつ、LANAはその唯一無二の個性で会場を沸かせてみせる。ライブ終盤に一旦退場した彼女は、自身と同じく同性から圧倒的な支持を集めるElle Teresaとハート形の羽を付けて再登場し、オリジナル曲「こんな日は」を披露。最後に「これが私の信じるヒップホップです」と胸を張り、「L7 Blues」を歌い上げた。
2024年に「チーム友達」でシーンにカムバックし、ミーガン・ジー・スタリオンやフェイドとコラボするなど世界的に活動している千葉雄喜は2日目の最後に出演。スクリーンに宇宙のような映像が広がる中、静かに現れた彼は「心臓」を皮切りにアンビエントアルバム「永遠」の楽曲を披露していく。その静謐な空気感は「POP YOURS」3日間の中で完全に異彩を放っており、これまで大騒ぎしていた観客たちをじっと聴き入らせた。「ありがとうございます」と感謝しながらライブを進めた千葉は、ボイスエフェクトを駆使した絶叫でフロアを圧倒。すると、ここでステージに変化が現れる。
バックにスタンバイしていた数十人のオーケストラが姿を見せ、千葉は打って変わってエネルギッシュなトラップチューンを連発。ホーンやストリングスのアレンジにより、楽曲は怪獣映画の劇伴のような重厚な迫力を増しており、千葉はそんな演奏の中でもハッキリと通る声量で観客を揺さぶった。千葉がきらびやかなチェーンを身に付けて歌った「重てえ」などを経て、最後はもちろんあの曲。大量の仲間たちをステージに上げた千葉は「チーム友達」ですさまじい一体感を幕張メッセに生み出した。
そして3日間のフェスを締めくくったのがKEIJU。ヒップホップクルーKANDYTOWN終演後、ソロでますます人気を高め、アリーナ公演を何度も開催しているトップスターだ。ハードボイルドな魅力を持つ彼のライブは、高速道路を走る車の映像で始まり、車が目的地に到着すると、その中からKEIJUが。そんな映像とシームレスにつながる形で、イヤモニを付けたKEIJUがステージに現れ、バンドセットのパフォーマンスがスタートした。1曲目の「Hold You Down」からフロアは大合唱の嵐で、その後もイントロが流れてくるたびにファンは大盛り上がり。スクリーンには「I KNOW WHY POP YOURS CHOOSE ME」という言葉が表示されたが、会場にいる誰もがKEIJUをヘッドライナーにふさわしい存在だと感じただろう。
爆炎やマネーレインの演出などもライブを華やかに彩る中、スクリーンにはふたたび車の映像が流れ、KANDYTOWNのHolly QとGottzの姿が映る。その匂わせでファンが興奮する中、KANDYTOWNの楽曲「You Came Back」で2人は本当にステージに登場。さらにIO、Ryohuも現れ、会場は爆発的に沸き上がった。その後、Kvi Babaを迎えた「backseat」などを披露したのち、昨年のヘッドライナーである亡きJJJとの楽曲「Wind Rise」を歌ったKEIJUは、最後に「K2」をパフォーマンス。火花が飛び散るド派手な演出で祝祭感を生み出すと、余計な言葉を残すことなくクールにステージを去っていった。


